01*若き神と老いき神

文字数 409文字

 見わたす限りの雲海。雲海の中に立つ山々。最も高く聳え立つ山の頂に、雲海に浮かぶような懸造りの神殿。その広縁に2柱。若き神が凭れてた高欄に身を乗りだす。雲海の上に居ても、陽は更に高い。背にあたる陽で、若き神の顔は陰り、表情はわからない。老いき神は神殿の千木に越して見える陽に、目を細める。
『下は曇ってるのかな?』
 若き神が、雲海を眺めながら独り言つ。
『どう思いますか、父神』
 父神と言われた老いき神は応えない。
『行ってみれば、わかるか』
 若き神は振り返える。老いき神の視線を追い、先の陽を見る。

 どのくらい刻が経っただろうか。陽は神殿に隠れ、雲海が朱色に染まる。
『父神。天ツ神は、なぜ、国ツ神の国を奪うのですか?』
 老いき神の口元が震える。
『命じられたならば、しかたがないですね』
 若き神は高欄を降り、踵を返す。
『すまない、ワカヒコ』
 去りゆく若き神の背を見ながら、老いき神は、頭を下げる。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み