第4話(後編)
文字数 1,942文字
それ以上に言える言葉は無かった。言うべき言葉も。
「……済まない」
疲れた視線を母に向ければ――そっぽを向かれた。
けれど、表情で
どうして、何も言わない。
母は――この女は、どうして、
ささくれ立つ感情は視線だけに留める。
そして、今日も同じように、俺から聞くべきを聞いた。
「それだけか?」
母を
「仕方がないじゃない。あたしだって、最初は――殺すつもりだったのよ。返り討ちに遭う覚悟で、殺しに行ったのよ!! なのに――」
勇者は勇者を
だったら、何でこんなことになってるんだ?!
簡単には打ち明けられない。……それは、まだ解る。
ちなみに、人間同士の争いに
正々堂々
我が母ながら、悪運に恵まれた女だ。
「俺はずっと、魔族を
それはどうこう言っても仕方がない話だ。魔族に彼を
「……それで?」
「まさか…………」
蒼白になっていく勇者の顔。
「自分達と同じように、喜怒哀楽を持つ命だとは思わなかった――か?」
「…………そうだ」
硬く拳を握り、きつく目を閉ざす。痛恨とも呼べる
「で?」
「愛してるわ。村を捨てても構わない」
相変わらずだ。
俺のことは、いつだって眼中に無い。いつだって、二の次三の次だ!
どうして、こんな薄情な女を、俺は思い切ることが出来ないのか――!!
村長のハラハラした顔が無かったら――いや、無かった方が良かったのか?
とにかく、取り乱すことは無かった。この時は。
「愛している。添い遂げることに後悔は無い」
男の返答も同じだった。
けれど、こちらは俺の感情を
だけど、殴り飛ばしてやりたい。どうせ、俺を置いて幸せになるんだろうから。
堪忍袋が破裂しなかったのは――いそいそと、呑気なくらいの
「何で、来た?」
「筋を通す必要が在ったからだ。娘のことで」
「…………」
「人里では――人の世界では、育てられない」
苦渋の籠った声。何が起きたのかは、それだけで解った気がした。
魔族に特有の
「
不機嫌に、冷やかし
「――――」
人間の常識からしたら、どれほど姿形が似通っていたとしても、化け物の
誰の差し金かは知らない。考えたくもない。
「頼まれては、
頭を下げて来る男を、
父が生きていたら、何と言うだろうか――考えても
面影の父は明るく、
「……いいぜ。問題が
「――――!!」
義理の父も、母も驚いた顔で見つめて来る。……俺の事を何だと思ってやがるんだ、義理の父はともかく。そして、何で手前がほっと胸を撫で下ろしてやがる!
「――やった! ねえ、お兄ちゃん。私、お兄ちゃんの家に遊びに行きたい!!」
年相応と言えば可愛いが、空気が読めてるのかと突っ込みたくなる脳天気さに、ため息を
「……客が来てやがるからな。あんまりお転婆な
「やったあ!!」
「……ありがとう」
ただ、大事な何かが欠けていることに気づいた顔で戸惑っていた――らしい、ことは、