第5話(中編)
文字数 2,798文字
端的過ぎる要求に、村
「……お前なあ、」
過去を見て確認済みだったので、余計な事を口にしなくても通じて欲しかったが。
「あの馬鹿共が
長の顔は不機嫌に曇った。
それも当然だ。俺みたいな、異様に突出した力しか取り柄のない若造に凄まれて、三下扱いされて、面白いはずがない。いい歳した男だからな。曲りなりでも。
だが、長の面子なんぞを構いつける余裕は無かった。
依頼は果たした。ただ働きをしてやると言った覚えも無い。
払えないなら、ぶちのめす。殺して長の座を乗っ取った所で、文句は言われない。村人たちを導いてやれるかどうかは別だが。
「どうする気だ?」
「手前に告げて、何になる? 俺
「……糞餓鬼。餓鬼だと思って甘やかしてやりゃあ――!」
対等の振りをしてやったのが、最大限の譲歩だった。
そして、大人のくせに子供じみた喧嘩を裁定したのは、当の勇者の武具だった。
長の封印を勝手にぶち破って、目の前に降臨してくれたのである。
「――あああっ?! 魔王様復活の時の為に――!!」
「……余計な下心出してんじゃねーよ!」
身の程知らず、という
正直な所、こんな状況でなかったら、こんな物に関わり合いになどなりたくなかった。
勇者の武具は魔を本能的に
「ああ!? 負け犬が――」
手加減を終わらせた。もう、こいつに用は無い。
「ぎゃああああっ!!」
解放した魔力の圧だけで奴は吹っ飛ばされ、地面に叩きつけられる。
宙空で光り輝く武具を手に取った。
「…………待て、この、糞餓鬼――あいつが、あんな目に遭わされたのは、どうしてだと――」
……存外にしぶといな。地べたで
不快な言動だった。けれど、聞き捨ては出来ない。
「何が言いたい?」
威圧してやった。
そもそも、何も知らないと思い込んでいるところからして、お笑い草だ。
「――――」
何かを言いかけて口ごもり。
「……忘れてねえだろうな? 粋がるしか能が無い
何を今さらなことを。言わずにいてくれた方が、まだ、堪忍袋に猶予が残ってたんだがなあ。
「その背後に居るお前が、それを言うのか――?」
「何?」
「俺が、何も知らないと思ってるんだろう? なあ、若長様よお! 俺の親父が先代族長――手前の親父に託した言葉を踏みにじってくれた手前が、何、したり顔で俺様に説教こいてくれやがるってんだ?!」
「……そ、それは――!」
「答えろ!! 何が悲しくて、親父を失った、たった5歳の餓鬼が、300歳も年上の糞餓鬼に遠慮して、涙を呑み込まなきゃならねえんだ!? 俺はお前を殺してやりたかった! お前がいつかきっと、まともな器を備えた男に、長に
奴の顔面は蒼白だった。
「……ち、ちが、う!! それは――」
「どう違う!!??」
覚悟を決めたようなため息をつき。
「……認める。お前の親父にも、先代族長にも劣等感が在った。それは、認める。お前にも悪意をぶつけて来た。それも認める。でも! 俺は見殺しになんてしてはいない!! あいつらが不穏な事を企んでいたのを知っていたから、監視するつもりだったんだ! 必要なら、力づくででも止めるつもりで――」
「はあ!? 何の寝言だよ?!」
台詞の後半は母と義理の親父が巻き込まれた事件に関してだけ触れている。
信じられるはずがなかった。実際に人死には出てしまった後だ。
そして。
「――止めて!!」
置いて来たはずの妹が飛び出してきて、割って入った。
「悪く言わないで……あげて。この人、父さんに散々に叩きのめされたのよ。母さんの後を追って、母さんのことを監視してて――父さんに叩きのめされて、反省したの。心を入れ替えて恥ずかしくない男になると、誓ってくれたのよ!!」
「――――」
すとん、と、何かが腑に落ちた。
女が男を変える。世間じゃあ、割と有名な格言の一つだ。
これ以上ないくらい納得したのに――、どうして、泣き出したくて堪らなかったんだ?
「…………馬鹿臭。糞、下らねえ。ま、上手くやってくれ」
「おい、本当にどうするつもりなんだ?! 勇者の武具は――」
「勇者は死んだ。そして、その成れ果てを俺が殺した。だから、俺が始末する。それだけさ」
「……おいっ!!」
「――うそ。嘘よ……!! ねえ……」
……ああ、そういや、義理の父だったんだっけ。まあ、つまり、妹には実の父、だよな。
でも、俺には関係ない。部外者は、俺の方だ。
「そいつに聞け。一部始終を知ってるからよ。俺は後始末をさせられただけだ」
なのに、だから、どうして! ……どうして、俺の方を見上げて来るんだ……!!
「……母さんは……? 母さんは――?!」
聞いてくるから、教えてやった。教えるしか、無かった。
「くたばった。あの男が後を追った理由なんて、それしかないだろ」
「――――おいっ!!」
感謝しろ。手前じゃ、一週間かかっても言えない事実だろうが!
勇者の武具をかっさらって、瞬間移動で逃げた。
「……ここ、は――?」
男が目を覚ましたのは、岩屋だった。見覚えのない場所で、裸で眠っていた。
「……う……ん……!」
もう少し眠らせて、とばかりに寝返りを打つ女が
「――――!!」
慌てて飛び退き、数拍置いてからほっとしたようにため息をつく。
「……、……?!」
岩屋の奥から差し込む光源に気付いて視線を向けると――光り輝く一式の武具が鎮座していた。
まるで、男が目覚めるを待っていたように。
「どうして、これが――
「ん、……もう……」
結局、女も目覚めて――、そして、絶句した。
「どうして?! どうして、あたし――人間になっているの!?」
絶句し、うろたえ、男を見上げてくる女。
男は一部始終を察して、何とも言えないため息をついた。
「……あいつ……」
感謝しかけ、岩屋の外から吹き込む、冷たい、雪混じりの風に眉をひそめた。
念の為と確認に出て――感謝が吹き飛んだ。
なぜなら、雪深い山の、雲を突く程高い山頂部分に放り出されたと
おまけに、必死の思いで下山した二人は