プロローグ
文字数 1,598文字
それは気の抜けた相槌を打った。
どうして、目の前のいい年をした
「それでさ、めっちゃ怖いのよ。解かるか? ニコッと笑っているのに、空気が硬い――いや、あれはそんな
もし、この場に余人が在ったなら、よく言えば光の球、悪く言えば人魂を相手に、懇々と話し込む働き盛りを目撃したことだろう。生憎と、一人と一粒(?)しか居ない。だから、突っ込みは当事者が決めるしかない。
加えて、この世界は真っ白だ。見渡す限り真っ白で、空も地面も何も無い。ただひたすらに真っ白が広がっている。
そんな場所で、平然と会話に興じている時点で、男が
「……それで?」
先程から、延々と止めどなく続く会話が愚痴と呼ばれる物だとは解る。男が本気で
しかし――
「こっちをちらとも振り返らねえくせしやがって、そーっと、そーっと抜け出そうとすると、声を掛けて来んのよ! 『どちらへ?』ってさ。もう、悟るしかないわけ! バレてる……! ってさ。逃げ出したいのがバレてるってさ!! 言い出さないくせに、話しかけられるのを待ってる!! ってさ。話題は特大の地雷ネタかつ頭痛ネタだってことがさ!!! ……そりゃね、先に頼ったのは俺の方だよ?! おふくろと男を取り合っている仲だとは承知してたよ!? でもさ、俺に当たられても困るんだよね! 親父とおふくろの仲が耳に入る
それなら諦めるべきだ、とは思ったが、言葉にはしなかった。
「…………それで?」
愚痴られるという体験自体が珍しかったせいもあるし、愚痴に含まれている情報には中々興味深いものもあった。……活用とか、悪用とかは後が怖いのでやらずにおこうと思うのだが。
「ともかくさ、俺は逃げ出したい――は言い過ぎでも、何か
随分長い前置きだったと思う。かれこれもう、30分は喋り倒したのだから、十分憂さ晴らしになったのではないか? ――とも、突っ込まずにおいた。自分もまた、
そして、願いが隠れていると予感したなら、聞くだけ聞いてみようと思う性分だからかも、しれない。
「知らない? この憂さを忘れられる方法。束の間でもいいからさ!」
「束の間?」
「……結局、帰るしかねえし。でも、今のままじゃ身がもたんのよ! 精神が正常で居られねーんだよ!! 頼む! 俺に憂さ晴らしをさせてくれ!! 全知全能なんだろ、あんた!! 頼む!!」
「…………」
自分の全知全能と男の憂さ晴らしがどう結びつくのかは知らない。
第一、自分を全知全能と
会話の隙間として不自然ではない時間を使って、記憶に検索を掛けてみる(覚えている限りの記憶を引っ張り出せば、男の生は過ぎ去ってしまうだろう)。うん、出てこない。
そして、案件の検索も始めた。
「…………」
男はただじっと待っている。
要望に応えられそうなものは存在していた。
ただ、勧めるには少しだけ
けれど、忘れることは出来るだろう。間違いなく、目の前の問題は。
「……では、異世界探訪――などはどうだろうか?」
「っしゃあああっ!! それだ!!!」
男は一も二も無く飛びついた。
その勢いにかえって不安を
神と崇め