第6話
文字数 1,393文字
(――だから、嫌なんだ……。妙に感傷的になっちまう――そんじゃ場合じゃないだろう――)
「はーい、お待たせ。伝言、しくよろー!」
脱力を誘う呑気な声。
堪えた突っ込みが、青筋となって額に浮かんでしまった。
『……ええー……ぶっちゃけますと! 迎えに行くつもりが、”器”が見つかっちゃいまして、その事情に巻き込まれちゃったんですねー。なので、時間延長を余儀なくされちゃいました! 後、ヨ・ロ・シ・ク★』
一方的に始まって、一方的に終わった伝言。
正直な所、一人二役と言われた方が納得したくらい、違いが判らない声だった。
「以上で終了でーす。……まあ、ざっけんなよ、コラー(怒)! ですよねえ……」
「殴らせろ」
一応、殴りかかってから通告した。
「ふっふっふー。俺様を殴っちゃうと、それはもう、高くついちゃうんだぞー。知らなかったー?」
「確信犯に何の意味があるんだ? その御託は」
ふわりふわりと逃げ回る光の球を、拳と蹴りで追い回す。
第三者が居たら――羞恥心が働いただろうか。
「……わあお。俺の事振ったくせに、それー? 拗ねちゃおうかな、拗ねちゃおうかな★」
「じゃあ、もう話す必要はないな?」
「――わ、わわっ! らぢゃ!!」
手も足も無いくせに、なぜか、畏まったことが妙にはっきりと伝わって来る。
「今からします! お話します! 絶対に!!」
「さっさとしろ」
そして。
「……見た所、限界っぽいね?」
一瞬で懐に潜り込まれた。
「貴様に、何の関係がある!」
嘴を突っ込まれたくなくて、わざと感情を険悪にした。
「んー……あると言えばある。無いと言えば無い。そもそも、此処、俺の世界じゃないし。暇任せの代行君だしねえ。無気力、無関心、無感動で良かったんだけど――出会っちゃったんだよね、今。ま・さ・に・今! 君という、何か面白そう! なのに出会ってしまった……。だからねー……」
そして、一瞬で変容した。
「困る。貴様まで食まれては、私の具合が悪い。だが、我が身は代行。権限一つにも、限度が在ってな」
「――?」
口調が変わった――と言えばいいのか。それとも、本性……のような物を曝け出しただけなのか。
上手くは言えないが、とにかく違った。何もかもが、異質なほど変わった。
曲がりなりにも、喜怒哀楽に溢れていたものが――初めから感情を理解し得ないものだった、とでもいうように。
「現状、どれだけ我儘をゴネた所で、精々、迷惑賃の徴収程度にしかならん。それでは、足りない。私は興味を持ってしまった。別れて終わる逢瀬では満足が適わなくなった。この次もまた、を欲する程に。で、だ。……いや、だから、な。か? 貴様にも巻き込まれて貰おうと思う」
「――は?」
そして、若干だけ戻ってきた。
「まあ、一言にぶっちゃければ……報酬の前借、だ」
恐らくは、感情を理解し、容れる余地、と、呼ぶべきものが。
「本来は盟約を完遂してから与えられる物だが――貴様の契約相手があれである以上、貴様を巻き込んでやるのが一番あれに都合が良くて、手っ取り早い。なので、巻き込まれて貰うぞ。あれの事情と都合に。迷惑賃も兼ねて、盟約の魔に報いられる褒賞が如何なる物なのか――体験させてやろう」
そして。
「つまり、今此処で――私に殺されてくれ」
言うや否や、衝撃に呑み込まれて――意識は一瞬でブラックアウトした。
そして、意識の消え去り際。
二度と神に同情なんてしない、と、誓った。
◇盟約の魔 了◇
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