第1話

文字数 5,285文字

◆晴れ間


どうして、こんな事になったんだろう――。そう思わずにはいられなかった。

私は今、山道を歩いている。一人で歩いている。

村を救う為に。生贄(いけにえ)として――。



私は村(おさ)の娘に生まれついた。決して豊かな村ではなかったけれど、幸せに育ったと思う。
その代償(だいしょう)なんだろうか。
人より恵まれた人生を過ごしたから、の。

私は生贄として、村を(おびや)かす魔物の待つ(とうげ)へと向かっていた。たった一人で。

「…………」

無惨(むざん)だろう運命に目隠しをしてくれていた木々の枝が晴れ、恐ろしいほど巨大な怪物――(ドラゴン)体躯(たいく)が――爛々(らんらん)と光る眼、鋭利に岩を切り裂く爪、禍々(まがまが)しさを(かも)す牙が――はっきりと解かった。

(……きっと、食い殺されるんだわ……)

嫌な予感は、(いや)が応でも高まって来る。

一応、志願した。村長の娘という立場から出た義務感でもあった。
足がすくんでしまうのは、仕方がないことだと思う。死を予感させられているのだから――。

(とも)はいない。代わりに戦ってくれる勇敢(ゆうかん)な戦士もいない。勇者なんて、夢のまた夢だ。

それでも、行かなければ。村を(まも)る為に。
竜が(あば)れれば、山間(さんかん)の小さな村なんて一たまりもない。一瞬で、全員があの世に送られるだろう。
そんな事を許さない為に――。

「――――」

駄目(だめ)だ。怖い。
出来るなら、逃げ出したい。今からでも。でも、私が行かないと――。

板挟みになる心の逃げ場を求めて、私はお気に入りの腕輪を(さわ)った。

母が母――つまり、祖母から(おく)られた宝物がお気に入りで、相棒だった。
息を()むほど美しい、大粒の紅玉があしらわれた(はがね)の腕輪。
かつて、村を(おそ)った災厄を払ってくれた、偉大な魔法使いが身に着けていた物で、村を去る時に世話賃として、祖母に置いて行ったそうだ。何でも、魔除けの力を秘めているとか。

母がこの腕輪を贈ってくれたのは、私の身を案じてくれたから。けれど――、役に立たないかもしれない。多分。……間違いなく。

「……?」

何故だろう。宝石が輝いた気がした。大丈夫だ――そう、語り掛けられている気がした。……もしかしたら、気が触れてしまったのかもしれない。覚悟を決める為に、巨大な竜を見据えようとして。

竜と目が合った。



「――――!?

次の瞬間には、竜の目の前に立っていた。

「……嘘、どうして――?!

全力で走っても、30分はかかる距離が在ったはず――。
なのに、今、私は竜の真ん前に立っている。

竜は強大な魔力を秘め、操る生き物。そんな知識は私には無かった。

逃げられない。そうと(さと)るのはあまりにも簡単で。
そして、それでも生き延びたいと願う程、私は平凡だった。

目を閉じて、地面に(ひざまず)いて、祈る。

だから、見逃してしまった。運命が変わる――いえ、変わった瞬間を。

「……あの」

!?

絶句したのは、人間の声だと思ったから。
私の運命は竜の生贄になることだと、固く信じて疑っていなかったから。

目を開けて、さらに驚愕(きょうがく)することになった。

「……(おれ)の、妻になってくれませんか……?」

「――――」

炎のように赤い髪に、輝くような金色の目の、屈強な若者が恥じらっている。

禍々しい程の竜の巨躯(きょく)は、一体、何処(どこ)に消えたのだろう――?
お気に入りの腕輪が無くなっていたことにも気づかずに考えていた。



◆暗がりに(とも)


一体、どうしてこうなった――?

私は頭を抱えたかった。
村を護る為、村長の娘という立場の為、ただ一人、生贄になりに旅立った我が娘。
二度と会えぬと、覚悟してなお足りなかった愛しい娘。
それが今、目の前に居る。伴侶になるという若造と共に――。

そう、娘は生贄になりに行って、婿(むこ)を連れて帰って来たのだ。
そして、これが頭痛の原因だった。

素直に娘の無事と幸せを喜べないのは、ひとえに婿殿の正体のせい。
隠してくれていたなら――(だま)されていられただろうか? 生憎(あいにく)と、先方には隠すつもりがさらさら無い。押し切る気が満々だった。
なぜなら、この婚姻(こんいん)報告は最後通牒(つうちょう)だからだ。
この地を去る代わりに、娘を妻としていただいて行く。それだけの事実を一方的に告げに来た、それだけなのだ。

「良かったな、おめでとう」

素直に言えたなら、どんなに良かったか……。

現実の世界に(すべ)り出たのは――

「……婿殿。こちらの事情を承知の上で、娘を(めと)られる――ということですかな?」

可愛げも何も無い、狡猾(こうかつ)なだけの非難の言葉だった。

薄情であり、非情ですらあるけれど、私はこの山間(やまあい)の村の長。
如何(いか)なる好機も逃してはならない。見落とす、見逃すなど、もってのほかなのである。

「何……?」

案の(じょう)、婿殿の表情が(けわ)しくなった。

けれど、(ひる)むわけにはいかない。是が非でも、こちらの事情に引っ張り込まなければ――。

「娘を妻に欲しい。そう願う殿方は一人ではない。……そういうことです」

「争え、と?」

「いいえ。父母である私共(わたくしども)に、どれだけ真摯(しんし)に娘を愛しているのか、欲しているのか、を示して頂ければ、それで」

食えない奴だ。婿殿の瞳がそう語っていた。

……私だって、平凡な父親でありたかった。叶うことならば、こんな危険な橋は渡りたくない。

竜――それは、超常の生き物の一種であり、最高にして最強の魔獣。
魔王にも目されるほど傲岸(ごうがん)で強大な武力と、勇者の力強き杖たる賢者すら、時に、楽に(しの)ぐという理知の持ち主。

そんなものを相手に、駆け引きだなんて。

けれど、この村が置かれた状況は、些細(ささい)な予断を許さないほどひっ(ぱく)していた。

原因はと言えば、何のことはない、人間同士の(いさか)いだ。
ありきたりと言ってもいい、貴族同士の勢力争い。それを複雑にしたのが、この村の立地だった。
国境にほど近い、峻厳(しゅんげん)な山岳地。
この村は、貴重な足場なのだ。
より広い領土を所有し、治めている、と主張する為の。

同時に、侵略の為の足掛かりとしても高い価値を持っていた。

貴族同士の争いだけでも傍迷惑なほど頭が痛いのに、隣国が虎視眈々(たんたん)と狙いを定めていると来る。
村の成り立ちが、苛烈(かれつ)な税の収奪に愛想を尽かした隣国の民が無断で越境して築いた隠れ里に由来することも、強欲に拍車を掛けているように思われた。

いずれにしろ、傍迷惑だ。今はもう、公国のれっきとした領土の一部。(あきら)め切れないのは往生際が悪い、というだけだ。恥知らず、というだけの話なのだ。

けれども、これだけなら、まだ、健全な人間同士の勢力争いに過ぎなかった。

事態が格段に厄介になったのは、魔王を名乗る魔族とその郎党がしゃしゃり出て来たからだ。
(自称)魔王曰(いわ)く、「我が血族に粗相を働いた人間が居るはずだ。そ奴を差し出せ!」だそうで。
心当たりなどさっぱり無い! 突っ()ねてやりたいのは山々だったが――太刀打ちできる人材がいない。まして、数百年は昔の出来事だったとしても、魔族には数年前にしか過ぎない、などという魔族の常識を知悉(ちしつ)している者など、居るはずもなく。おまけに、魔王は人間の魂を奪って魔物に変える――という(いわ)れが有名過ぎた。
どう返答したものか、考えあぐねていたら――要求が上乗せされた。

「娘を差し出せ。ならば、見逃してやらないこともない」と。

とんでもない話だった。

だが――。
貴族の勢力争いに首を突っ込めるはずもなく、命からがら逃げだして来た元故郷への未練など皆無に等しい。

峠に巨大な怪物――竜、が現われた、などということになれなければ、娘は極めて高く売れるはずだった――のだ。
褒められた話ではない。けれど、そんな風に考えていかなければ、村の安穏(あんのん)は守れない、そんな状況に置かれていた。そんな状況にずっと頭を痛めていた。

そこに。そこに! である。

現われたのだ。乱麻を断つかもしれない、快刀かもしれない人物――いや、存在か、が。

持ちかけることを躊躇(ためら)う理由が無かった。
どの手を取っても、(ろく)な運命が待ち構えていないと解り切っているのだから――。

「ふむ。結納(ゆいのう)、と考えてもいいか――」

娘を妻にするという若者は、にやりと笑った。



◆交接点~因縁(いんねん)の起点


「どうして、どうしてこうなった――!?

男は()えた。吠えずにはいられなかった。
魔王を自称できるまでに育て上げた徒党が壊滅し、今や単騎で必死に落ち延びなければならなくなっていた。

「よもや、飼い犬に手を噛まれようとは――!」

男が噛む(ほぞ)何処(どこ)までも(にが)かった。

一度はその魂を奪い取り、配下に収めていたはずの竜。
突然それが腹から消えてなくなり、不吉な予感に駆られて現場に駆け付ければ――容赦なく牙を()かれた。
それだけなら、何ということも無かった――はずだった。
何度反抗されようとも、片手でねじ伏せられる自信が在った。

けれど。

いつの間にか、より強靭(きょうじん)な力と(うつわ)を手に入れていた。自分の手に負えない存在へと進化を済ませていた! いつの間にか、飼い犬が”元”飼い犬に成り上がっていやがった――!!

「糞っ、糞っ、糞――!! 忘れるなよ! きっといつか復讐(ふくしゅう)を遂げてくれる――!!!」

男は(のろ)うように怨念を吐き出す。

しかし。

「いいや、それは叶うことの無い夢さ」

という、台詞(せりふ)が差しこまれた。

「――何奴!!

徒党を失おうとも、魔王を名乗った矜持(きょうじ)は手放さない。それだけが、男の最後の()り所だった。

「いよう、馬鹿兄貴。随分、草臥(くたび)れた姿になったじゃねえか――!」

「?」

「……覚えてねえか。たった、数百年前のことだろうによ。ま、捨て駒にした弟だ。どんなに化け物じみていても、関係なかったよな」

「……何?」

戸惑うのは無理もない話だった。
弟を自称する男の声は、明らかに自分よりも年上の男性のもの。そして、悠然(ゆうぜん)と自分の前の姿を現した魔族は――何処をどう見ても、自分よりも雄偉な巨漢だった。

「俺は俺で、もうどうでもいいんだが――面倒臭えことに、仕事なんだよな。これ。きっちり、落とし前をつけてから帰らなきゃならねえってことなんだよな……ほんっと、面倒臭え」

「……弟、だと――?」

確かに、居た。子供の頃からずば抜けて魔力に恵まれ、死に別れた父母にも愛情を注がれていた、どう見ても化け物にしか思えなかった、弟と呼んでもいいのか解らなかった代物(しろもの)が。

だが、それは行方(ゆくえ)知れずになったはずだ。いきなり、唐突に。血族の遺産を持ち逃げして。

だから、自分は旗を上げた。死体でもいいから弟を探し出し、血族の遺産を奪還して、自分が継承者となる為に。生きていようと、死んでいようと、どうでもいい。自分の(かて)になりさえすれば――。

「薄情者め。最後に、一つだけ情けを掛けてやる。今日、これから起こることの因果の起点は何処に在るのか、を、教えてやるよ」

「――――!?

待て、と(さけ)ぶこともかなわずに、男の意識は一瞬で()り取られた。



そして、目覚めた時には終わっていた。

「あ、――なんだ? ……俺に、何が起きた?! ……まさか、この肌、耳――、まさか、まさか!!

信じたくない現実を否定する為に、わざと自分の(てのひら)を傷つけた。

しかし、流れ出した血の色は――赤。無情にも、鮮やかな赤だった。

「ば、馬鹿な――魔族を一人、丸々人間に作り換えたとでも――?!

現実を急には()み込めず、戦慄するだけの元魔王を、男は影から見守っていた。

「有難く思えよ? やり過ぎたあんたを生かしてやれる唯一の可能性が、これだったんだからな。魔王に成り上がろうという(こころざし)は良かった。けれど、手段が()められなかったな。最短距離を走ろうと(あせ)るあまり、あんたは竜に手を出した。迷宮に巣食うような、血も薄れ、知能にも陰りが出ているような出来損ないじゃない。自力で異界を産み出し、そこに居を構えられるような竜王に、だ。流石(さすが)に、竜王そのものには太刀打ちできなかった。けれど、生まれたての次代に目をつけ、(さら)い、(いつわ)りを教え込んで、魔王となる為の滋養にしやがった。簡単に言って、竜の逆鱗(げきりん)を踏みにじっちまったんだよ、あんた。怒り狂う竜王を前に、この世界の魔族が滅びない為の手を、魔族の神――と、呼んだ方がいい? 代物が打たざるを得なくなった。魔侯に媚薬(びやく)()がせてまで〈境界の門〉を開き、異界の魔王――地獄の主だとかいう存在に抹殺を依頼したのさ。……なんでか知らねえけど、その(さきがけ)だとかいうちんまいのが俺んとこに来たんだよな。『俺様がケツを持ってやれる内に、お前が何とかしろ!!』とか大威張りでさ。黒くて小せえのに、妙に強くてさ。そいつが言うには、竜の原型は混沌。それも、世界創生に(まぎ)れて、異界より流れ込んだ正真正銘の異物なんだとか。祖の直系たる竜王と正面から事を構えられる程、この世界は成熟していない……ねえ。まあ、そんな事がなくたって、竜王は敵に回せねえんだけどな。…………うっぷ、()()!! 元身内とはいえ――食えたもんじゃねえな、(にご)った魔力ってのは――」

元魔王は、ただ一点を見つめていた。その手には、男が残した書置きが握りしめられていた。
そして、歩き出す。

「……と。俺もさっさと帰るか……! 何でか知らねえけど、最近餓鬼共に(なつ)かれてるからなー。いつの間にやら、すっかり子守だし。あいつらが爆走すると、俺が(しぼ)られる破目になるし。――う、嫌な予感が込み上げて来やがった……!!

男が姿を消すと同時に、元魔王は歩みを止めた。



「覚えてろ! 何者かは知らないが、俺は絶対に――――!!

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登場人物紹介

お初にお目に掛かり申す!!

吾輩、ゴロリと申す猫である!

故あって、この短編集の人物紹介を担当いたす。

公開に応じて、登場人物が随時追加されていく予定であるので、よろしく付き合い願いたい!

まずは、プロローグだな。


●それ:

…………いいのか? いきなりこれで……。

ま、まあ、一応、神様で……オス、だそうだ。

名前で呼ばれることは滅多になく、通称や肩書き呼びが普通……か。

けったいなことだ。……何?

次の人物が旅立つことになる世界の神様ではないから、なおさらに名前は出てこない?


……うーむ……。

妙な仕事を請け負ってしまったか……。


次だ。


●いい年をした精悍な男:

…………いいのか? ……ん? 作者都合で秘密、出て来ても偽名だけ……?

…………。

……ま、まあ、次だ。

なになに? いい歳をしたマッチョで、魔法じみた能力を持ち、数奇な人生を歩いて来た……と。

日頃蓄積しているストレスの発散を求めて、神の御座所に押しかけて来た、黙っていれば男前……。


……うーむ……。

請け負ったことを後悔しなければいいが……。


気を取り直して。

盟約の魔、第1話だ。


●第三の眼を持つ異相の男:

名前は……また、秘密か。明かすのは別のタイミングで! とのことだが……。

何時になるのか、何時にするのか。……考えてない、ではないことを祈ろう。

魔族、男性、歴戦の勇士。神との契約――盟約に従って、世界の外側に送り込まれた。

以来、ずっと戦い続けている。


難儀な身の上のようだな。吾輩が同情したところで、何も役には立たないが……ま、よかろう。


では、次。


●割り込んだ者の正体:

……諦めた方がいいのか……? いや、請け負った以上、仕事は全うする所存だが。

……さて。


神。何? プロローグの「それ」と同一の存在!? 

……神様繋がりで仕事……頼まれ事を請け負って、世界の外側に降臨した――か。

ふむ、世界の外側とやらが気になるが……人物紹介でそこは説明できないか。残念だ。


今回は此処までのようだな。しかし……

大丈夫なんだろうな、この仕事……。


……ふう。

盟約の魔、第2話だ。


●魔族の青年:

第1話の男の若かりし日、だな。共通点は額に第三の眼が在ること。

神の呼子と出会ってしまったことからしても、難儀さは若い頃から、ということらしい。

あまりうまくいっていない親子仲を気にしている。

正式な名前が登場すれば、初めてのまともな仕事になったのになあ……。


次。


●煤けた大男:

…………またか。

プロローグに登場した偉丈夫だな。憂さ晴らしに出たはずだが、妙なことになっているようだ。

基本的な設定自体は、プロローグと変わらないらしい。おっと、種族は人間か。


さて、次。


●珍妙な生き物:

…………。これは……ん? 妙なメモが……?


”このキャラクターは、作者の別のシリーズでウェイトのあるポジションに位置している為、

原則秘密――明かせません!! 詳細に関しましては作中に出て来る情報だけでご勘弁を!

友情出演Aです”


……友情出演A……とな? 何故、出した……。



今日は……ここまでのようだな。寝よう。眩暈がする……気がする……。


……第三話(前編)か。


ん? んん? 新規の登場人物は、無し??

……珍しいこともあるものだな……。

ま、よかろう。――む。メモが挟まれているではないか! どれどれ……


◎鋼玉(はがねだま)について。

一応、異世界の鉱物という設定ですが、名前から類推可能な通り、鋼玉(こうぎょく)……コランダムが元ネタとなっています。

中でも、宝石質(最悪でも、研磨すれば宝飾として価値がつく品質)のものには別の名称がありまして、赤色系がルビー、それ以外がサファイアです。

作中では、紅玉(こうぎょく)……ルビー 蒼玉(そうぎょく)……サファイア ですね。

紅玉には火の力が、蒼玉には氷の力が秘められている、という設定です。

尚、作中の世界においては、蒼玉を名乗れるのは青色系のものだけで、それ以外の色彩は鋼玉で一まとめにされ、原則、特別な名称は持ちません。


…………。

まあいい。明日を待つことにするか……寝る。


第三話(後編)。

……ふむ。またもや、新規の登場人物は無し、と。

ま、退屈もまた良かろうよ。……ふわーあ……。


………………


………………


……………………はて? 何かを忘れている気が……?


む!? この気配――まさか、飼い主か?! もう、戻って来た……!?

い、いかん! この副業を知られるわけには――!!


……(ドタドタ)……


昨日は危なかった……! 

今日は大丈夫。玄関にもきちんと鍵が掛かってるからな! 帰ってくれば、解る。

では、第4話(前編)だ。


●母:

……突っ込んでいいと思う。誰の母だ、と。

……魔族の青年の……、ならば、彼女も魔族だな。

ふむ。若過ぎた女……? 

彼女自身不遇な生い立ちの持ち主で、中々心を開ける大人に出会えなかった……。

母になるには若過ぎた、ということか? 息子である青年とはあまり上手くいっていない、とは。


●勇者:

……まあ、格好いい名前が出て来るが……。何? 義理の父!?

伝説の勇者で、魔王を討ち滅ぼして世界に平和をもたらしたが……。

難儀な男、というのは解ったが……義理の父……。うーむ……。


●仲の悪い仲間の一人:

村人A……しか、無いのか? つまり、モブAか。……ま、よかろ


●村長:

むらおさ。そう読んで欲しいようだな。……ふむ。

まだ、年若く、長の立場が重荷になることもある男。

出来過ぎた父、先代族長とその親友に引け目を持っていて、拗ねていた。

魔族の青年とはやや感情的な確執がある。


●年下の仲間:

青年とは比較的仲が良い、村人B。若さと実力の低さからいじめられる側になりがち。


●妹:

……この作者は……。……ん? エメル=ミディア。……あるのか、名前……。

はっ! は、初めての、まともな人物名!? そ、そんな馬鹿な……!! ――はっ、吾輩が毒されてどうする!


……こほん。


魔族の青年の妹。若さゆえの天真爛漫さの持ち主。芯も意外としっかりしている。

母の生まれ故郷に来たことと、腹違いの兄が居ることに期待を覚えている。


……(きょろきょろ)……。

よし、誰もいないな……!

第4話(後編)である。


ん?

……………………。


……新規登場人物は、無し……!?


くっ……! 飼い主の目を盗む苦労が、水泡に帰そうとは……!!

愚痴にしても仕方がないが、この悔しさはいかんともしがたい……。

――む!


…………


……行ったか……! 

いかんな。このままでは、バレる。吾輩の副業が、バレてしまう……!

悪い人物ではないのだが、表に出して良いものか、困惑してしまう部分もあるし……。


…………


……ええい! 吾輩を探しておるな!? 手慰みに可愛がるつもりだろうが……!

この部屋も危険になって来た、そういうことだな。

然らば、御免!!


……ZZZ…… ……ZZZ……


ゴロリは縁側でのんびり眠っている。


第5話(前編)も仕事なくて、暇を持て余したらしい。


ゴロリは縁側でのんびり眠っている。


……ZZZ…… ……ZZZ……



(そろり、そろりと忍び寄る、縦ロールが一人……)


第5話(中編)である。


……またか、新規登場人物なし……。

楽な仕事でいいのか、退屈な仕事で悪いのか……、やれやれだ。


今回は中編か……。流石に、3話、4話と前後編が続いたから、芸がないと思ったのか?

……ん? 吾輩か? 無いぞ、芸などというものはな。

人間が身に着けるものを、猫が身に着けてどうする。

そもそも、餌で釣らねば仕込めないものが大半なのだろう?

無理矢理覚えたところで、何の役に立つのやら……。


――む! そういえば……飼い主が一時期、やたらと吾輩に妙な事をさせたがっていたが……。

もしや、そういうこと……なのか?! 碌でもないことばかり考える飼い主め……!

まあ、だからこそ、この副業のことも秘密せねばならんのだがな。


とりあえず、明日こそは仕事が在ることを願っておこうか。


第5話(後編)だ。


…………。



…………またか。こんなに新規の登場人物無しで、大丈夫なのか?

いや、仕事が無いことを……いや、愚痴っているな。諦めよう。

吾輩は往生際の悪い飼い主ではないのだから……。


――む!


噂をすれば影が差す、とはな。此処で飼い主に掴まるわけにはいかぬ。

大人しく、退散するとしよう。


……おかしいわね。此処にもゴロリが居ないわ……。


(縦ロールがこれだけ&作者に絵心無しにつき、このアイコンを採用しました(汗))


最近、妙に私を避けている気がするのだけれど……、可愛がり過ぎたのかしら?

元々野良猫で、芸を仕込もうと試している内に家猫になってしまった子ですから、

中々懐いては貰えないのですけれど。……気になりますわね。


爺(じい)は何か知っているようですけれど、はぐらかすばかりですし……。


……あら? 私のノートPC……電源は切っておいたはず……。


……はあ、はあ……、く、苦労したぞ……。

飼い主め、今日に限っては妙にしつこい……!


さて、仕事だ……!


……………………またか。ま・た・か!!



くううっ、吾輩が、どれだけ苦労して――、む!! この気配の近さ……逃げねば!!


……ま、またもや逃げられましたわ……!

ゴロリ、我が家の飼い猫ながら、やりますわね……!!


…………また、ですわね。…………第6話……?


まさか、ゴロリに読書などという趣味が……?

いえ、芸というべきかしら? 仕込んだ覚えなどありませんが……。


まあ、爺に聞いてみるとしましょう。

猫の読書は芸と呼ぶべきなのかどうか、を。


あけまして、おめでとうござりまする!

新年の初仕事は……鋼玉(はがねだま)の腕輪 第1話だな。

さて、あまり期待せずに行くとしようか。


●糞親父:

……やはりな。この作者は……。一応、最速の登場タイミングから抜粋しているようだが……。

まあいい。”友情出演A”だそうだ。初登場時と変わらない、ということだな。


さて、次だ。


●俺:

…………。

(負けだ……気にしたら、負けだ……! そうに違いない……!!)

はっ……、うむ、盟約の魔から引き続き登場している偉丈夫のようだな。

妙な状況に陥っているようだが……。憂さ晴らしが出来るといいな。



●花嫁さん:

…………これか。純然たる新規の登場人物だろうに……。

名前が出てくることを願おう。

我が飼い主も、何時か、こう呼べる日が来るといいのだがなあ……。



――む。性懲りもなく吾輩を探し回っているようだな……。

可笑しなことになる前に、去るとしよう。


……また、逃げられましたか……。

折角、鰹節ご飯を用意しましたのに。薄情な猫ですわね……。


――と。いけない。伝言を頼まれてましたっけ。

代読させて頂きますわね。


”第二編、鋼玉の腕輪より先は、新規の登場人物が無い場合、基本、当コーナーは割愛となります。”


ですって。


……ネタ切れを体よく言い換えたような文章、のような感もしますけれど……。

ま、よろしいでしょう。



……あら? もしかして、ですけれど。この伝言……ゴロリの隠し事と何か関係が……?




――んもう! 私には大声を出すなと叱りますのに、

どうして、私を呼びつける時は大きな声を出すのかしらね、ばあやは。

え? お誘いの電話……!? 誰――ええっ?! あいつからって――!!

今日は雨? 雪?? 槍――いや、隕石の直撃が在るのかしら!? こ、こうしてはいられません――!!


……(ドタドタドタドタ)……

蒼玉編 第2話だ。


……飼い主がやけにそわついて家を出たようだが……、まあ、吾輩には関係ないことだ。

仕事、仕事。と。


●私:

第1話の花嫁さん。エリアルド=リングルード。跡取り娘。

戦争に出征し、音信が乏しくなった婚約者と、親が周囲に押し切られて用意してきた許嫁の間で悩んでいる。

心は婚約者に在るが、家や領地の事情まで考えると……、という板挟み。

或る日、気分転換に出て、行き倒れに遭遇した。


……何故だ……。何故、此処までまともな設定が一番最初に出てこないんだ……。

……ふう。次!


●大柄な男:

第1話の俺。…………。

……ふむ。視点が異なるから、ということか? 追加情報も無いようだし……。


次。


●料理番:

館に住み込む料理担当の家人。職人気質で、筋肉質な体つき。


●ばあや:

エリアルド嬢の面倒を見て来た老婦人。家族よりも近しい部分がある。モブ。


●両親:

エリアルド嬢の両親。領主と領主婦人。人の上に立つ立場だからこそ、板挟みになる。モブ。


●いけ好かないちょび髭:

エリアルド嬢の両親が周囲に押し付けられた許嫁。当人も縁談にはあまり乗り気ではないが、断る理由もない。

見た目はナイスミドル。資産家。モブ


……妙に、モブが多いな。次!


●あの人:

エリアルド嬢の婚約者。戦争に出征し、個人的な音信が掴めなくなったはずの人物。

グルンガルドは姓。

精悍な青年で、物腰は穏やかだが、誰も喧嘩を売りにいかない。


蒼玉編 第3話だ。


……ん? 


●オライオン=グルンガルド:

第2話のあの人。


……ただの補足か。待たせるようなネタだったのか……? ま、よかろう。

短くとも、仕事は仕事。


さて、今日はどのあたりでひなたぼっこと行こうかな……?


蒼玉編 第5話である!


どれ……。


●執事長:

エリアルド嬢の両親に仕えている初老の男性。モブ。


ふむ。我が飼い主の爺や殿のような立場の人物かな……? 苦労が多そうな気がするな。

さて、次。


●年下の叔父御:

……好きだな、この手の言い方が。作者の趣味なのか??

さてさて。


……友情出演Bにつき、詳細は秘密、とな!?

まあ、叔父というからには、身内ではあるのだろうがな……。

ま、よかろ。


……ふう。

なんでだろうな。大した仕事をしているわけではないのだが……、どうも、ため息をつきたくなるというか。


さて、今日は屋根の上でひなたぼっこと行くかな。

飼い主に邪魔されない、貴重な場所だしな。


一日間をおいて、紅玉編とな。

緩急をつけてみようという腹か? どんな意味があるかは解からないが……。

さて、第1話だ。


●俺:

一応、主人公か……? 蒼玉編から続投している、と。

新しい設定も無いようだな。


次。


●珍妙な生き物:

…………。

…………はて? 何処ぞで見た気がするが……、…………”友情出演C”!?

ということは、別人(?)、ということだな。

ここで述べられる情報は無し、と。…………。


……次!


●宿の親父:

善良な人柄の持ち主。モブ。


以上だな。……ふう。やれやれだ。何をしたわけでもないが、やれやれだ。

そうだな……今日は、台所に行こう。何か美味しいおすそ分けでも期待したい気分だ……。


さて、紅玉編 第2話。


●私(村娘):

村の若い者組の一人。初恋が突然やって来た少女。


……きちんとした名前を用意すればいいのだろうに……。次。


●家主の親父:

村娘の父親。モブ。


今日はこんな所か。さて、往生際の悪い飼い主が来る前に逃げるとしよう。


紅玉編 第3話である!


●化け物:

……うん、まあ、名称に関しては諦めるとしよう。

なになに?

契約によってこき使われてはいるが、花も実も兼ね備えた大物。

けれど、上には上がいた……。

詳細は、読め、ということだな。……吾輩が人間の読み物を読んでどうする!!


次。


●ろくでなし共:

モブ。


次!


●超大物:

……解ってはいても、なあ……。ふう。

…………友情出演D、とな?

見た感じ、中々の苦労人にも思えるが……。

まあ、同情しても仕方あるまいな。


ふむ。此処までだな。

では、じいや殿のおやつを相伴しに行くとするか。


紅玉編 第4話だ!

順調な仕事で何よりだな。

さて。


●長らしい人間:

村長。モブ。


●後ろの子:

……だから、この作者は……。ふう。

魔族の少年。外見年齢は十代前半だが……。

どう足掻いても、自分を縛り上げた人間の男に勝てなかった。


●村人A:

モブ。


今日はこれで終わりだな。では……たまには昼寝でもしていくか。

証拠隠滅、完了! と。さて、何処がいいかな? ベッドの下などは定番だが……。


紅玉編 第5話だな。


●妹ちゃん:

ふむ。『盟約の魔』で登場した女の子だな。

追加事項も無し、と。


次だ。


●村長である色男:

これも、『盟約の魔』で登場済み、と。

……名前ぐらい考えてやればいいだろうに……。


む! 何気に初の皆勤か?! 今の所、休暇が無かったとは! めでたい。

……これで、もう少しまともな仕事だったら、飯も美味かろうになあ……。


華燭の因縁 第一話、だな。

ふむ。この話が最後のエピソードになるのか……。

では、紹介といこう。


●私:

…………。

呆れるよりも前に仕事だ。

10代の少女。生贄になることを志願した。


……なんだ? 妙に重い設定だな。吾輩の飼い主とは違い過ぎる……。


次。


●竜:

…………。

……いや、まあ、何と言うかだな。紹介してよかったのか? 人物ではないのだが。

全長10mを超える体躯、赤黒く輝く鱗、濁った金色の瞳……本編でやるべき描写では……?

ん……?


●屈強な若者:

……なるほど? 何がしかの因果がある、と。話を読み進めれば解るということか??


次。


●村長:

ふむ。少女の父親か。村の過去や立地から苦しい立場に居る人物。

……ん? この設定はひょっとして……?

此処で語るのはよそう。読めば察せる類のものだからな。


●婿:

…………。

まあいい。此処はバラしてしまおう。屈強な若者のことだな。

まあ、立場を変えれば見方も変わるか……。


次!


●男:

…………だから。――いや、我慢だ! 吾輩!! あと少し。あと少し――!


こほん。


やや不遇な生い立ちの魔族の青年。愛されなかったわけではないが、一目を置かれたかった。

子供時代の背伸びを拗らせて、力を奉じ、力に酔うろくでなしになってしまった。


……割と具体的な設定があるのに……名前は……?


……次。


●弟を自称する男:

魔族。異様な能力の持ち主。ピンとくる人はピンとくるかも――知れない。


……それだけか? 他に、読み上げられる設定は無いのか……?


…………はあ。数はこなせたようだが……。

始まるまでは、もう少しまともな仕事だとばかり思っていたがなあ……。

それでも、マシか。飼い主に構われるよりは……はあ。


今日は……interlude……幕間とな?

ほうほう。殊勝そうな響きだが……さて。


●メリア:

女性。元魔術師の賢者。無鉄砲な所がある幼馴染に思いを寄せていた。


…………。

…………な、何があった?! 作者はついに、悪い物でも食したのか!?

――あ。……いや、まあ……こほん!


次、次だ!


●ライド:

男性。力尽きた勇者。勇敢ではあるが、情の強い部分が在り、視野が狭くなりがちだった。

恋愛感情には鈍い方。


……じーん……。まともだ……。なんて、まともな仕事なんだ……!!

しかし。……妙に沈んだ雰囲気を感じさせる設定だな……。


次!


●ラセル:

男性。神官。上記二人の幼馴染。メリアに淡い想いを抱いている。


…………。

これが……幕間……。こんなにまともな仕事が……脇道、なのか……。


……次。


●俺:

来たか。ついに……。まあ、よかろ。今日は気分がいいしな。うん。


男性。剣士。パーティリーダー。暴走する気配を見せていた勇者を討った人物。


重い話、のようだな。

ふむ、次で最後か。


●竜:

巨大な体躯を誇る赤竜。雄。勇者一行に力を貸したが、快く思ってはいない。


……はあ。次回もこんな風にいってもらいたいものだな……。

期待するべきか……いや、諦めの予防線を張っておくか。

ん? 付箋付き……?

”勇者様御一行は、この幕間だけの登場人物です。悪しからず”

……何が悪しからずなんだ??


華燭の因縁 第二話だな。


●父様:

……誰のだ。

ん? 少年の呟きから取ったか……。関係性はすぐに解ったがな……。

まあいい。人間ではない存在、だそうだ。


次。


●少年:

……慣れて来たなあ、吾輩も。それでも、突っ込みたい衝動が消えないがな。

人と人ならざるものとの混血。片親の正体が何なのか――は、読んでくれ、ということだろうな。

健やかに育って欲しいものだが……間違っても、吾輩の飼い主のようにはならないでくれよ。


次。


●彼女:

…………。

……ええと、だな。彼氏と同年代の少女。彼氏の秘密を知って、受け入れたが……。

ふむ。何やら、因果な物がありそうな感じだが。


……はあ。良い仕事が出来たと思えたのは一日しか続かなかったなあ……。

ま、期待とは違っても仕事は仕事。そして、終わりは何時かは来るものだ。

それまで、気長に待つのも一興だろうよ……。昼寝に行くか。


エピローグ……そうか、これで最後なのだな。

名残惜しい……という気分にはならんか。まあいい。仕事だ。


●俺様:

…………、……ん? ”友情出演A”?

ならば、これ以上紹介できる情報はないな。


次。


●神様:

プロローグにも登場した神様。


次。


●主君:

『俺様』の上役。友情出演E。


以上。


年末から始まった付き合いも此処まで。

なんともけったいな仕事になってしまったが……無事、完遂できたことを喜んでおこう。

吾輩にまたがあるかどうかは判らないが――折が在れば、になるのだろうな。

此処まで付き合ってくださって、本当にありがとう!

作者に代わって――、――む!? この気配は……まさか、飼い主か?!

いかん! この副業を知られるわけには――!!


ええい、名残ぐらい感傷的に味わわせればいいものを……!

吾輩はこれにて去る! さらばだ、皆の衆! 是非、この作品を楽しんでくれ!!

それでいい。それだけで十分だ。では――!


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