紅玉編◆第3話
文字数 3,799文字
『え? 何で?? 俺様の仕込みじゃないよ? これ』
[そ、そんなー!
俺、地獄の王様(
真相は、割と
ふん縛った
間抜けなのはここから先だ。
化け物の召喚者は、兵士たちを大層嫌っていた、らしい。……正確には、兵士達だけじゃないだろうけど。まあ、日頃の行いが悪い連中だったんだろうよ。地獄の王様に
……まあ、兵士たちの側からしたら、とんでもない話、だよな。身代わりになってくれる誰かを探して――俺と宿を提供してくれる恩人の少女とが出会うきっかけを作ってくれた、ってわけだ。そして、妙な男が出てきたことを幸いに、巻き添えを食らわせてやろう、と企んでくれていたらしい。――同情の余地無し、ってことだ。
俺としては、ろくでなし共はぶちのめせたので、後は化け物もぶっちめてお
ところが、魔神もどきの化け物としちゃあ、
細かい事情は知ったこっちゃないが、ただ働きさせられた
だもんで、人間の
屑共は俺の手柄なんで、一人たりともくれてやる義理は無い。化け物にしたら、自分の為に用意された御馳走、ということで、一人でも多くお持ち帰りが出来ないと大損になるんだそうだ。
……どうも、別に理由を隠しているっぽいんだけど。
まあ、知り合いだってんなら、王様にどうにかしてもらいたいね。
ただ、王様は、愉快痛快な、暴れん坊の大暴れを無責任で居られる特等席から
……んー、今さらながら、妙に面倒臭い状況が出来上がってやがんな……。
どうすっかね、これ。
「……んー、何かねえかな、いい方策……」
[貴様が我が腹に収まれば、全て解決ではないか]
置物に出来そうな
「却下。寝言は寝てからにしろ。それから――」
俺は思い切り化け物を見下してやった。
周囲の木々から伸びた枝が、
締め上げて降参させるまで、10秒もかけなかった。
「殺されてないだけ、有難く思え。恩に着ろ。つか、恩知らずは殺す。以上!」
『……一思いに行きゃあいいのに。後難なら、俺様が排してやるよ? あいつら――俺の直属共は、超暇人の集まりだからな。
自信満々な王様は、
[げ、猊下――!! それだけは、それだけは――っ!!]
突進さながらの勢いで、王様に縋りつこうとする。
(……散々にしばいてやったのに、元気な奴……。ん? そういや、手加減しなかったよな? 言動が屑だったから、殺気籠めるのに
現状はピンシャンしていると言って、問題が無い。
(……んー……、ひょっとして、猊下の手前って奴か? 負けるが勝ち、を
喜劇同然の
(んー……厄ネタ確定、か。王様に借り――は妙な予感しかしないんだよな。それは却下の方向で。……良し、此処はいっちょ、恥知らずになるか!)
切り札の切り時、それが今だと判断した。そして、切り札――それは、何の
[……小僧か……]
予想通りのげんなりさ加減が声に籠められていた。
声だけの登場にも関わらず、嵐の直撃を受けたように、土地が草木が、空気が荒れ狂う。
『……うわあ……(汗)』
[――――、……な、な、な――!! こ、小僧っ! 貴様!! 黒の公爵様を、呼びつけるだと!!?]
「おっす! 久しぶり。元気してたか?」
[――――!!]
化け物が白目を剥いて卒倒し、毛布のように柔らかなぱたり、が聞こえた。
そして、なぜか王様は泡を吹いて気絶した化け物を盾にするように駆け寄ったのだった。
[不用意に呼ぶなと、奴からも教えさせたはずだが……?]
「覚えてるって! 用事が有るから呼んだに決まってるだろが」
[……………………あのな]
「引き取ってもらいたい荷物があるんだよ。悪さされても困るからさ」
うわ、しくじったか!? と、盾を視線で役立たずと
[ほう……。で? どんな益が在ると――?]
聞き入れてやるつもりは
好機!! とばかりに、そろり、そろりと近づいて来た所をひったくった。
「ちなみに、これが俺の用件を呑んでくれた時の報酬な」
[――――]
余程の想定外だったのか、きっかり10秒、時間が止まったように沈黙していた。
[――――猊下!! ――なるほど……なるほど、なるほど――!!]
『…………お、オッス!! そ、その――、久しぶり?』
[小僧!! 俺が着くまで猊下を逃がすなよ!?]
「……だーから、俺が道を開いてやるっつってんの! だから、呼んだんだよ」
[――――、仕方ない……応じてやろう]
声が消えると、世界中が押し殺したような沈黙に包まれる。
『――で、だ。貴様は俺様を売り飛ばした――それで、いいんだな?』
無表情で、無感情な声が、やけにはっきりと響く。
まあ、当然と言えば当然の
「……あのなあ、王様。おっさんは優秀な右腕なんだよな?」
『む』
会話を聞き咎めたように、世界が揺れた。
大地震のように酷い揺れが――絨毯爆撃を食らったような頻度で全てを
皆既日食の
黒い光の中に、巨人のような、異貌の魔神の姿が現われた。
牡牛をモチーフにしたような頭部と、人間が――国王のような人種が、身を包むような実用性と芸術性を高度に両立させた武具を纏った体躯。一切の無駄を削ぎ落したがゆえの精悍さを纏うのに、
『猊下、――――、
名乗りは肝心な部分が聞こえなかった。が、問題は無い。この名乗りは必要なものにだけ聞き取れればいい
『……お、おう。御苦労、で、ある……な……』
(折角、おっさんが臣下として格好つけたのになあ……)
ため息をつきつつ、腰が引けている報酬を先払いし――放り投げ、た。
黒く染め上げられた世界に、光る金色の粒が放物線を描く。
『よし!』
しっかり握りしめ、満足げに頷いた。これで、交渉成立である。
『おいっ!!』
本気で怒るぞ!! と臣下の掌の中で泣き言を抜かすのは結構だが……本気で王様なんだろうな、あれは。
「あのな。もう一度聞くけれど、おっさんは優秀な右腕なんだろ?」
『む』
『自負するに、やぶさかではないが……』
「だったら、有能な部下をお供に、地上見物にでも
『――――』
「……ん? 何も変なこと、言ってないだろ?」
絶句する大物悪魔
聖典において、
すっかり、失念してたんだよなあ、この時は。