紅玉編◆第5話
文字数 2,160文字
「――お、おい!!
荷物として部屋の
無事、戻って来た。最初に世話になっていた家の、
腕輪を厄介払いした途端、これだ。
神隠しの谷を下って、
最後の客として一泊したら、
つまり、俺を神隠ししたのは、あの腕輪の力、ということになる。……とんでもねえもん持たせやがって、あの糞親父……!!
そして、狭い部屋を駆け回って、泡を食っている糞餓鬼様には、此処で人生をやり直してもらう予定だ。
「何処って、魔族の村だよ。お前が人生をやり直すにはもってこいだろ?」
「…………だからか。だから、俺を荷物同然に
なぜなら、俺は此処にも居られなくなる。「世界」が、どうぞ、元の世界にお戻りください、と追い出しにかかるだろうから。
元々、異物。なのに、
そして、もう一つの条件も
「当たり」
頭悪いなと、
「……この、野っ郎――」
「大変! 大変、大変なんです!! 兄さんが、兄さんの気配が――」
妹ちゃんが真っ青な顔で転がり込んできたから。
「――――」
糞餓鬼様は、生意気にも妹ちゃんに
「どうした? 何があった?」
答えはとっくに解っていた。
子供でも大人でも居られない少年を
「兄さんが、何処にも居ないんです! 気配を探っても、反応が無くて――、……あら?」
気づかれた途端、糞餓鬼様は、さっと、俺を盾にしやがった。……色気づいたな?
「そんなに
遅れて登場してきたのは、村
だから、というわけではないが、割と包み隠さずに、教えられる範囲で、教えてやった。
「神の
「――――!!」
妹ちゃんは
糞餓鬼様はご存知のようだな。
神様に見込まれる魔族。それが、どんなに常識を逸した、化け物じみた存在なのか――を。
おまけに、目の前の少女が、そんな者を兄と呼んだことにもビビったようだった。
「ああ。あいつはそれに
「…………帰って、来ますか?」
予感が、してるんだな。返せるのは、型通りの答えだけれど。
「役目を果せば。ただし、いつになるのかは解らない。此処に戻って来るかも判らない」
「会えないんですね――二度と」
……やっぱり。
「そういうことだ」
「――――!!」
俺の足を蹴って来た糞餓鬼様には、
もっと言い方が在るだろう! と言いたいんだろうが、こういう時は、
「……それで、足元のは何なんだ?」
解ってるくせに(嫌がらせが好き、というわけではないが)。色男は不機嫌そのものだった。
「そういえば……、そうですね。どうしたんですか? この子――」
にこり、と微笑みかけられた途端、ぱっと、身の置き所が無いかのように隠れる。
まとわりついてくるのを無理矢理引き
案の
「行き倒れてるのを
「……そう、なんですか?」
妹ちゃんが糞餓鬼様を
お。いっちょ前に照れやがって――あ、こら。
一瞬で姿を消して、俺の手から逃げたと思ったら、俺の真後ろに現れやがった。
……何なんだよ、もう……。
「ふふ」
照れているのが解かるからだろう。妹ちゃんの笑みは優しい。
だが、俺は。
こら、俺を
いつまでもまとわりつかれては困るので、適当に捕まえて、強引に妹ちゃんに押し付けた。
俺の手を嫌がっていた餓鬼は、一瞬でうっとりする顔になる。
男の武骨な手より、女の
「解りました」
「――え?」
色男は泡を喰ったが、妹ちゃんに視線を向けられた途端、デレた。
「……ま、まあ、君がいいなら――」
「はい! きちんと面倒見ますから!!」
『…………』
早速、男同士の戦いが始まったか……。ま、どうでもいいな。決着は当人同士でつければいいものだし、俺の休暇は、もう、終わる。
(最後に、村を散策しておこうか――)
窓から差し込む陽射しを浴びながら、俺は
◇鋼玉(はがねだま)の腕輪 了 ◇