第67話 フェブリスのくしゃみ

文字数 1,320文字

「殺す……俺に逆らうやつらは、みんな殺す……っ!」

(そうです、ウツロさま。あなたさまの高尚なるご思想を理解できない輩など、まとめて葬り去ってしまうのがよろしいでしょう)

 ディオティマが放った寄生生物・ティレシアスの奸計により、ウツロはすっかりとわれを忘れてしまっていた。

(みやび)

「ええ、何者かがウツロに取りつき、操っているようだね」

 南柾樹(みなみ まさき)星川雅(ほしかわ みやび)は、ウツロボーグの挙動からティレシアスの存在に気がついた。

「てことは、そいつを引っぺがしてしまいさえすれば、もしかしたら……」

 真田龍子(さなだ りょうこ)の勘は果たして当たっていた。

「そうとくれば、みなさんで連携すれば……!」

 真田虎太郎(さなだ こたろう)も的確な判断を下す。

「虎太郎くんの言うとおり、全員で一度ウツロの動きを封じ、その何者かの正体を探り当てるのよ」

 星川雅がすぐに作戦の方向性を示した。

(ま、まずい。このままでは……)

 焦ったのは当のティレシアスである。

 状況として仕方がなかったとはいえ、自分の存在に感づかれてしまった。

 ささやくことしかできない自分には、他者を操るしか戦うすべがない。

 ここはひとつ……

(ウツロさま、あれをやるのです……! ウツロさまの偉大な御業を、連中に見せつけてさしあげなさい……!)

 首筋を介して彼は「命令」した。

 ウツロボーグの額に生えている「角」が赤く光る。

「フェブリスのくしゃみ……!」

 「羽」が開き、何かがうごめきだす。

「おい、ウツロのやつ、なんか出す気だぞ……!」

「まずい、何かとてつもなく、危険な予感がする……!」

 南柾樹と星川雅をはじめ、後方の一同はその予兆にみじろいだ。

「イージス!」

 機転をきかせた真田虎太郎がバリアーを張る。

 次の瞬間――

「食らえっ――!」

「なっ――!」

 ウツロボーグの体から、赤く光るシャボン玉のようなものが大量に放たれた。

 それは弾丸のように、放射状に拡散する。

 後方の4人はイージスのバリアーで難を逃れた。

 しかし――

「うっ……」

 中間にいた万城目日和(まきめ ひより)姫神壱騎(ひめがみ いっき)がひざを崩す。

 皮膚が赤紫色に変色し、火傷をしたようにただれている。

「日和! 壱騎さん!」

(くっくっく。フェブリスのくしゃみはあやゆる生物に対し、猛毒や麻痺など生命維持の手段を奪う効果をもたらす。人間の言葉で言えばそう、『バステ』だな。あれはゲームの用語だったか。ふふ、そう、これはゲームだ。楽しい楽しい、わたしのゲーム。くくっ、これだから人間をいたぶるのはやめられない。自分たちだけが生き物だとのぼせあがっている存在を踏みにじり、蹂躙するのは)

「二人とも、いまわたしが――!」

 真田龍子がアルトラの能力で治癒を試みるべく、バリアーの中から出ようとする。

「おっと、龍子さん。虎太郎くんの結界からは出ないほうが身のためですよ?」

 ウツロボーグの口が機械的に動いた。

 相貌は白目をむいたようになっている。

「てめぇ、何もんだっ!?」

 激高する南柾樹に、「腹話術師」は悠々と語り出す。

「わたしの名はティレシアス。お察しのとおりこのウツロに取りついている、寄生生物の一種です。いまはその口を借り、こうしてあなたがたにお話ししているのですよ」

 こうして彼はとくとくと、自分のことを話しはじめた。
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