第12話 バニーハート VS 鷹守幽

文字数 1,567文字

 ディオティマの「合図」を起こりとして、二人の「怪人」の戦いは幕を開けた。

「ぎひぃっ!」

「――っ!」

 一瞬で間合いが詰められ、両者は制空権に触れる。

 鷹守幽(たかもり ゆう)はグラブのはまった拳を、バニーハートへ向け振り下ろした。

「ぎひっ!」

 だぶだぶの長袖がそれを受け止める。

 硬い、何かが仕込まれている……

「バーカ」

 バニーハートはもう片方の袖を開いた。

「っ!?」

 アイアン・クロウ――

 鋭く長い鉄の爪が袖口からにょきっと姿を現す。

 彼は爪の先を閉じ、ドリルのようにして鷹守幽の首筋を狙った。

「っ!」

 体を反らせて攻撃を回避する。

 そしてうしろへ跳躍し、ある程度の間合いを取った。

「ぎひ」

 もういっぽうの袖も開かれ、アイアン・クロウは二つあったことが明かされる。

「八つ裂きに、してやる」

「……」

 鷹守幽も答えるように、対のジャックナイフを抜く。

「行く、ぞ……!」

 両者同時にとびかかる。

「ぎひゃあっ!」

 上段から空を切り、鉄の爪がおそいかかる。

 鷹守幽はそれを大きなナイフでいなした。

「ぎひっ!」

 読んでいたかのように、今度は下段から鉄の爪が繰り出される。

 当然というか、それはもう一本のナイフで受け止められる。

 ここまでは(・・・・・)二人とも想定の範囲内だった。

「エロトマニアぁっ!」

「――っ!?」

 ウサギのぬいぐるみが大きく膨れ上がり、鷹守幽をうしろから羽交い絞めにした。

「っ……」

 プロレス技のひとつ、パロスペシャルを極められる。

 びくともしないほど強力な力、そしてどんどん重くなってくる。

「子泣きじじい?」

 様子を見守っている相方・羽柴雛多(はしば ひなた)はのんきに笑っている。

「ふふっ、早くも勝負あったようですね」

 ディオティマの顔に亀裂が入った。

「とった、死ねぇっ!」

「――っ!」

「ぎひっ……」

 鷹守幽の「影」が動き、触手のようにバニーハートを絡めとる。

「ぎひ、ぎひ……」

 包み込むように丸め、団子のようにされてしまった。

「ふふっ、これが幽くんのアルトラ、アンダー・ザ・ムーン」

 羽柴雛多がくすっと笑う。

「なるほど、影を自在に操れるということですか」

 ディオティマは興味深そうに見つめている。

「ぎひぃ……」

 ものすごい力で締上げられる。

 ぬいぐるみのパワーが落ちてくる感覚を、鷹守幽は得た。

「ふふ、どうやら勝負はこちらのようですね?」

「う~ん、ふふふ……?」

 余裕の羽柴雛多に、ディオティマはと言えば不気味にほくそえんでいる。

「ぎひっ、エロトマニア……!」

「――!」

 ぬいぐるみが一気に膨れあがり、そして――

「幽くん!」

 激しい閃光とともに、大爆発を起こした。

「ぎひっ」

 バニーハートを縛っていた影が消える。

 あたりは粉みじんに消し飛んでいた、が――

「ほう?」

 ボロボロの姿になった鷹守幽が立っている。

 仮面は吹き飛んで砕け、素顔があわわになっていた。

 笑っている。

「ふむ、影を操るアルトラで、防御壁を作ったというところですか」

 ディオティマは敵ながらと感心している。

「幽くん、どうする? 交代しようか?」

 鷹守幽は首を横に振った。

 そして体をこきこきさせる。

「ぎひ、あきらめろ……おまえ、もう、おわ――」

 何かが飛んでくる。

 バニーハートは間一髪でそれをかわした。

 大ナタ――

 鷹守幽が腰にくくりつけていたものだ。

 いつの間に放ったのか、まったく見えなかった。

 あれほどに大きな武器であるのに。

 ナタは飛行機のように旋回し、主人の手へと戻った。

「ふふ、彼のアルトラ、まだまだ秘密があるようですねえ」

 ディオティマは大破した自動車に腕を乗せ、キセルのタバコをふかしている。

「……」

 鷹守幽は手を返して「かかってこい」のしぐさをした。

「ぎひ、生意気、な……」

 プッツンしたウサギ戦闘員がたまらずとびかかる。

 人気のない街はずれが、世界で一番危険な場所と化していた――
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