十九章 【歴史学】星崎・今岡コラボパート
文字数 2,757文字
歴史学の講義。
冒険者といえども、勉強は必要である。
温故知新という言葉があるように、歴史から学び、それをいまに生かすというのはむしろ冒険者にこそ必要なことともいえた。
ゆえに、この講義もまた、召喚士見習い・剣士見習いなど専攻に関わらず合同で受ける授業となっている。
教室には、当然のことながら、いつもの面々の姿があった。
そして、彼らの前には、威風堂々たる剣を構えた──
我が輩が諸君らに歴史学を教えるデヴァ=ボ=ウチョウでアール。
敬意をこめてデヴァ先生と呼ぶといいのでアール。
うん?
そこのツインテールの女の子、なにか質問でアールか?
包丁……ですわよね?
刃物だけに、頭もよくキレるってやつね!
どうしてそんなに平然として受け入れられますの?
え? わたくしがおかしいんですの?
包丁は初めて見たが、こうして目の前にいるとなれば、受け入れるしかない現実であろう
一部にとまどいがあるのも無理はないのでアール!
しっかーし、我輩は2000年前、
かの有名な戦士アルーゴスの手に握られていた
紛れもなき名剣なのでアール!
え?
勇者が魔王を倒したよりもさらに昔、
この世を大魔王の魔の手から救ったという、あの?
じゃあ、大魔王を倒したときの名剣というのは!
うむ。
あれは別の名剣でアール!
我輩は戦士アルーゴスの実家の台所で
日々戦っていたのでアール!
戦士アルーゴスが実家に帰省していたときは
我輩をにぎっていたのでアール!
嘘は言ってないのでアール!
はぁ……もういいですわ
教官殿の刃――もとい、身体になにやら赤い液体のようなものがこびりついている
あ、すまないのでアール。
今朝、鶏をさばいたのでアール。
きちんと拭いたつもりでアールが、
拭ききれてなかったのでアール。
やっぱり包丁なんじゃないの!
包丁包丁とばかにするのじゃないのでアール!
我輩、なにも2000年ずっと台所にいたわけじゃないのでアール。
戦士アルーゴスの実家の台所の包丁として
重要文化財の指定を受けていたのでアール。
それはすごいですね。
ちなみに重要文化財の指定を受けたら
どうなるんです?
しばらく博物館に飾られる羽目になったのでアール。
もっとも、その博物館に居た時に、他の武具と交流したり
学芸員さんと話をしたりして、見聞を広めたのでアール。
2000年分の知識は伊達じゃないのでアール!
鍛冶屋を志す身としては、興味が尽きないぞ!
(興奮して筋肉が膨れ上がる)
魔剣や聖剣もむろんあったのでアール。
聖剣はお高くとまっているやつらが多かったのでアールが
魔剣扱いされているやつらの方が
わりと気さくだったのでアール。
しかし、この獣人、興奮して聞いていないのでアール……。
暴れたりしないの?
ふむ。
では、魔剣ネクロ●ンサーのクロちゃんから
教わったエナジードレインで
少々吸っておくのでアール。
なぁに、心配ないのでアール。
献血みたいなものなのでアール。
オレは一体何を……
これは私にふさわしい武器かも?
包丁といはいえ先生を相手に!
包丁ですけど!!
見込んでくれたのはうれしいのでアールが、
我輩の持ち主はただ一人、
その者以外の剣とはならないのでアール!
いや、見込んでないと思うなー。
むしろ「ないわ」言われたからねー。
でも、その持ち主ってのは
やはり戦士アルーゴスなんですか?
いや、戦士アルーゴスのおかん、
主婦アケミなのでアール!
バーゲンを前にしたときの速度は音に匹敵し、さらに15%オフにさせるという恐ろしいスキルまで持っているという
全員頭を下げろ!
この御方を誰と心得ている!!
いやいや、よいのでアール。
そこまでかしこまらなくとも、よいのでアール。
昔は昔、今は今。
今の我輩は一介の教師にすぎないのでアールからして、
一教師に接するように、それなりの敬意さえ払ってくれれば
それ以上はとやかく言わないのでアール。
そいなりの敬意っちゅうんは、
どいほどのもんにごわすか?
そうでアールな。
常にへりくだって、自分の名前の前には「卑しい」を付けるといいのでアール。
そして我輩への敬称には様か閣下を付けるといいのでアール。
なにか質問がある時は、
「卑しい卑しいナオミめに質問があります。
失礼ながら、デヴァ閣下に一つお聞きしても
よろしゅうございましょうか?」
とでも言ってくれれば、
それ以上の敬意は特に必要ないのでアール。
なんで私が例題なのよ!
そして、それ以上
どう敬意払えってのよ!
ふざけたこと言うと
燃すわよ!
じょ、冗談なのでアール。
ウィットに富んだソードジョークなのでアール!
なので、その魔力を込めた手を下ろすのでアール!
やはり、ただの包丁だったようだ
座学の授業など、こんなものなのでアール。
ハ●ポタでもまともな座学風景など、描写されていないのでアール。
なぜなら事件も起きない、通常の座学風景を描写しても
つまらないだけなのでアール!
ゆえに我輩の出番など、
今後もあるかどうかわからないのでアール……!
あ、あるんじゃないかなぁ……。
あると思いますよ……、たぶん……。
なんで自分のことを貶めたやつのフォローをしなきゃいけないんだろう。
そう思いながらも、デヴァ先生の寂しそうに丸まった背(?)を見ると、思わず慰めの言葉を掛けないではいられないナオミであった。