十八章 今岡単独パート
文字数 1,712文字
それはわかる気がするね。
私はどっちかっていうと少食なほうだけど、
それでもこの時間はいつも待ち遠しいしね。
食べっぷりのいいレオならなおさらじゃない?
このために冒険者見習いやってるって言っても過言じゃないしな。
食っていくために冒険者目指してるんだから、
まずはその体作りのための食事もしっかり楽しまなきゃね。
私へのあてつけで言ってるわけじゃないよね?
そういえば食べっぷりでいえば、
ゴンさんも負けてないはずなんだけど、
今日はえらい静かだね。
「言われてみれば」とばかり、みんながその視線をゴンの方へと移した。
すると、その目線の先には、鼻歌交じりで、
いまだもくもくと食事を続けているゴンの姿があったではないか。
ひのふのみぃ……もう五十皿ば食いもしたな!
ちょっと待って!
積み重なっている皿がどう見ても
ゴンの体より大きい気がするんだけど、気のせい?
うん?
なんでごわしょう?
セリナにゴンって呼ばれても
怒ったりはしないのね?
セリナさァは、ゴンさんち、ちゃんと敬称つけち呼んでくれとりもす。
敬意ば払(はろ)うてくれとる相手を叱る道理はありもはん!
いけもはん!
そ、そう……。
じゃっどん、今日ぐれ許してやりもんそ。
それはそれでありがたいけど、
でも、なんで?
機嫌ばよかごわしてな。
大抵んこつ、許しもす。
機嫌がいい?
なにかあったっけ?
おう。
近かうちに、温泉回があるっち聞きもした。
こいを楽しみにせんと、
なんを楽しみにせえっち言いもすか!
なんち!
ないごてそげなこつ、言(ゆ)とな!
当たり前でしょ!
のぞいても問題ないと思う方がおかしいのよ!
叫んでも泣いてもダメだからね。
あと、レオもよ!
わかってる?
あんたももうちょっと
見られないようにしなさい!
あ、そうそう。
めんどくさいといえば、
今日恩返ししてもらえてよかったね。
うん?
ああ、触手たちのことね。
そう。
あの子たちが助けてくれなかったら
レオが重い思いをするところだったしね。
やっぱオレがかつぐのは確定だったんだね……。
じゃっどん、猟師の罠ばかかっちょったんじゃったら、
もちっとはよ、恩返しに機織(はたおり)ばしにきたらよかとに。
で、その道具があったとして、
恩返しにきたらどうするのよ?
スーさん、お風呂はともかく、
さすがにそれはのぞいたらダメなやつじゃないかな?
いや、まぁ、そうかもしれないけど、
ほら、恩返しの現場はなおさらって意味でね……。
議ば言(ゆ)な!
のぞきば男んロマンでごわす!
そいがわからんとは、ないごとな!
でも、そういうのってのぞいたら
恩返し途中リタイアで
正体現して帰るってのが定番だけど?
正体現した触手が地面はいずって
追いつかれない速度で帰るって
それはそれでかなりシュールな光景だけどね。
あんたのところにだけは
絶対こないから安心しなさいって。
かくしていつもほどは騒がしくない一日が終わろうとしていた。
しかし、これもまた彼らの日常。
やはりこれもこれとて、ありふれた光景の一つにすぎないのだった。