鉄鉱の青
文字数 4,073文字
こんな商売をしていると、目を見ただけでそいつの器というものが測れるようになってくる。
……ちょっとカッコつけ過ぎだろうか?
それでも、所作からにじみ出るなにかをたしかに嗅ぎ分けて、こいつがどの程度の人間なのかと値踏みする癖がついていたし、その評価はあながち外れていないと思っている。
「いくら必要なんだ」
「百万くらいあればいいだろうって、みんなで話してたんだ」
目の前の男は革製らしき胸当てと籠手をつけて、余裕たっぷりに答える。背後にはまだまだ遊び盛りという年頃の男女四人が、なんの緊張感ももたずに冗談を言い合っている。銘々マントを羽織ったり腰に剣を下げたりと、とても正視できないような服装をしているが誰も指をさして笑ったりなどしない。
俺はこのような連中が当たり前に存在する世界を呪わずにはいられない。
「いままで〝赤の天領〟に入ったことは」
「ないよ。ないけど大丈夫だ。見てくれよ、ウチには一級の魔導士がいる」
男が遊び人風に顎をしゃくって背後を示すと、生真面目そうだが気も弱そうな女がぺこりと頭を下げた。輝く金髪からのぞく碧眼は涼しげで、どこか大人びた印象を与えるが、ぎこちなく微笑んだ表情には幼さが残る。夏休み中に一瞬の気の迷いで夜遊びに出て、悪い友達に流されている女子中学生でも見ているようだった。
「ずいぶん若いけど、あの子が一級なのか」
「根付け を見てくれりゃわかる。鉄鉱の青だ」
男が顔を向けると、魔導士だという女、もとい少女が羽織ったマントの隙間から腕を突き出す。少女の手首には細く長い鎖が幾重にも巻き付けられていて、少女が拳を開くと鎖につながれた根付けが垂れた。親指の先ほどの青い石が誇らしげに揺れている。
ほう。
端々に硬さと清廉さを青く光らせた石は黄金色の金属で精密に宝飾されている。綺麗に磨かれたそれは真新しい軽々しさとは違い、歴史的な重厚さを感じさせた。緘魔石 ――通称根付けと呼ばれるこの石から魔力を引き出せる者を、この世界では魔導士、もしくは魔法使いと呼ぶ。
「これは珍しいな。おい」
俺はカウンターの隅っこで居眠りを決め込んでいるミツハを呼んだ。仕事中に寝るなと小言を言うと、目をつむっていただけだと言い返してくるような奴だ。寝起きはすこぶる良い。
「おい、などと人を呼びつける奴があるか。わたしの名を忘れたのか。健忘症か」
こいつは見た目は童女の類だが、その中身は外見に反比例している。毎日毎日、ワンピース様のズボッとかぶる簡易な服ばかり着て、か細い手足と子どもならではのさらさらな髪を振り回して生きているが、その実、とてもおそろしい奴だ。
メンチを切るように面倒くさそうな顔をしたが、その根付けを見た途端に目の色を変える。
「ミツハ見てくれ。これは本物か」
俺が聞くと目の前の男は当たり前だろうという顔をして勝ち誇った。
ミツハは掌を上にして、少女の手首から垂れる根付けをふんわり乗せる。
途端――、
「わっ」
純真無垢な少年のような声が漏れたのは許して欲しい。視界が真っ白に塗りつぶされ、焼かれたのだ。莫大な閃光が根付けから放出されて。店のなかにいた誰もが目をつむるだけじゃ足らずに、腕で視界を遮った。
「やめろ、アホ」
「おまえが確認しろと言ったんだろう。アホはおまえじゃ。健忘症うえにアホか」
根付けが光を失っても、焼けた視界はすぐには戻らない。
「俺たちの目を潰すつもりか。加減をしろって言ったんだ」
「充分加減したさ。この根付けが本物だっただけ。誰が緘したものか知らんが、たしか皇国に登録されているはずだ。二桁番台だったかな。鉄鉱の青、正真正銘の特級緘魔石だ」
魔力を閉じ込めた石は、まさに文字通り玉石混交。緘された魔力によってそれぞれ独特の色を纏うが、このきれいな青は素人が見ても特級だ。
魔法を使う人種は先祖代々この石を受け継ぎ、宝飾し、根付にしてもち歩く。魔力は常にその石から供給されるようだ。
しかし皇国の登録が二桁というなら、こんな年代物の根付けなど持ち歩いて良いものじゃない。地下の宝石庫で厳重に保管されて然るべきだ。相手を殺してでも欲しいという奴はゴマンといる……。
チッ、とつい舌打ちが漏れる。
「おまえらこれ盗んできたもんじゃないだろうな」
「はあ!? そんなことするか」
俺はもう一度、目の前のパーティを値踏みするが、とてもこんなに筋の良い根付けをもち歩ける連中には見えない。二桁番台の根付けときたら、そんじょそこらの貴族だっておいそれと所有できないだろう。
自分の目が濁るにはまだ早い――つまり、
「強盗殺人」
ミツハが俺の心を読んだように、不躾なことを言う。
「違うわ! そんならこんなところに金借りにくるかよ。売り飛ばした方が遙かに簡単で安全に金が手に入るだろうが」
それも一理ある。が、モノの価値をわからない連中であるというのは明白だ。自分で言うのもなんだが、普通はこんなあやしげな店に疑いもなく根付けをもち込んだりしない。
「百万出すのは構わない。でもこの根付けが担保だ」
「それじゃあ意味ないじゃねえか。根付けがないと魔力の供給が追っつかない。〝赤の天領〟で野たれ死ぬわ」
こいつらはこの少女に攻略の苦労を丸投げする気なのか。
「なあ、君、自分でこの根付け光らせてみてくれよ」
えっ、とつぶやいて数瞬ためらった後、少女は目を伏せて根付けを握った。その手は透き通るように白い。細くきれいな指をして、傷ひとつない。今まで苦労らしい苦労をしていないんじゃないかと思わせる艶やかさだ。小さな赤い石の指輪でもしたらこれ以上ないくらいに似合うだろう。
少女の要求に応じて根付けはゆっくりと輝き始めるが、ミツハのときとは比べ物にならないほどつつましい光量だ。夜のベッドで本を読むときにちょうどいい光が、指の隙間から漏れている。
「一応は魔法が使えるらしけど、この子が十二分に使いこなせるとは思えないな。本当に自分が世襲しているんだとしたら修行が足りなすぎる。真の持ち主じゃないウチの従業員の方がはるかに大きな共鳴を得たぞ。いてもいなくても一緒じゃないかな」
「でも、いざとなったらそこらの魔法使いよりは大きな力が発揮できるはずだよ。それに俺もそこの男も剣技には自信が、」
さりげなく腰のあたりでもち上げた剣には、いかにも由緒のありそうな家紋が彫られている。もしかしたら一応は名家のお坊ちゃんなのかもしれない。
「一応確認しておくけど」俺は男の言葉を遮った。「まさか〝ゲート〟を閉めに行くつもりじゃないよな」
「するか! そんなあぶねーこと」
「俺も商売だから金は貸す。正義の味方でもないし〝赤の天領〟で小遣い稼ぎをする奴が死のうが消えようがどうでもいい。だけど、貸した金が帰ってこないのは大問題だ。いろんなパーティを見てきたが、はっきり言っておまえらは危ない部類に入る。遊び金が欲しい程度の理由なら止めておけよ」
そう忠告すると、今まで余裕たっぷりだった男が初めて苦しそうな表情を作った。
「遊び金じゃねえよ……どうしても金が必要なんだ。俺たちみたいなのが一億以上集める方法つったら〝赤の天領〟しかないんだよ」
「一億だ?」
おとうさん方が一生懸命働いた生涯賃金の半分ほどにあたる金額だ。押し迫った事情があるのだろう。が、他人の不幸話に首を突っ込むつもりはまったくない。そもそもダンジョンに挑んでみようなんて奴は誰しもが少なくない事情を抱えている。
「その根付けを売り飛ばせば十億以上のまとまった金額が手に入るぞ。背に腹は代えられない、という至言が俺の生まれた地方にある。命は大切にしろよ」
「売って良い物ならとっくに売っちまってるわ。とにかく、俺らは〝赤の天領〟にいく。もう決めたことなんだ」
「お願いします」根付けの持ち主である少女が頭を下げた。
「皇国の北端から出てきて、頼れる人もいないんです」
こいつらどういう関係だ、と少し気になった。浮かれ上がった若者の集まりに見えるが、わざわざ遠方から攻略に来るとなるとそれなりの覚悟が必要だ。現実離れした大金を稼ぐためにという言葉を信用すれば、見た目ほどチャラついた連中ではないのかもしれない。
「よしわかった。八十万までは無担保で出そう」
「本当ですか!」
「ただし、条件は五日だ」
「五日……?」
「おまえら天領の通過申請はしてるんだよな。何日間だ」
「三十日」
短い。
三十日で一億なんて現実的に無理だな、と思う。それこそ身体を賭けて相当深く入っていかなきゃ価値のあるものは手に入れられないだろう。
「五日で一割、八万だ。つってもなかでは現金なんて手に入れられないだろうから、八万相当の物を五日おきにこっちへ転送しろ。ミツハ」
「はいよ」
俺には読めない類の文字が書かれた魔法符を六枚、カウンターの上に並べる。
「これは魔法適性のない者でも使える転送用の札だ。これを任意の物に貼って念じれば、瞬時にウチまで届くようになる。角の生えたモンスターを狩ったら角だけは切り取れ。どんなのでも八万にはなる。あとは香石の類は香りにかかわらず指先ほどあれば二万にはなる。でも生き物はどんなにかわいらしい愛玩動物に見えても絶対に送るな。検疫的な問題もあるし、基本的に死ぬ。そのほか〝この世ならざるもの〟だと思えばとりあえず送ってみろ。高価な物があったら元金から差っ引いてやる」
「よっしゃ、まかせとけ!」
これから一億稼ごうって奴らからしたら端数みたいな金額だろう。こういう連中が一番乗せやすいし、一番ぼろい。
俺はこれからこいつらを襲う不幸について、あまり考えないようにして契約書を配っていく。
騙しているわけじゃない。これも商売だからな。
……ちょっとカッコつけ過ぎだろうか?
それでも、所作からにじみ出るなにかをたしかに嗅ぎ分けて、こいつがどの程度の人間なのかと値踏みする癖がついていたし、その評価はあながち外れていないと思っている。
「いくら必要なんだ」
「百万くらいあればいいだろうって、みんなで話してたんだ」
目の前の男は革製らしき胸当てと籠手をつけて、余裕たっぷりに答える。背後にはまだまだ遊び盛りという年頃の男女四人が、なんの緊張感ももたずに冗談を言い合っている。銘々マントを羽織ったり腰に剣を下げたりと、とても正視できないような服装をしているが誰も指をさして笑ったりなどしない。
俺はこのような連中が当たり前に存在する世界を呪わずにはいられない。
「いままで〝赤の天領〟に入ったことは」
「ないよ。ないけど大丈夫だ。見てくれよ、ウチには一級の魔導士がいる」
男が遊び人風に顎をしゃくって背後を示すと、生真面目そうだが気も弱そうな女がぺこりと頭を下げた。輝く金髪からのぞく碧眼は涼しげで、どこか大人びた印象を与えるが、ぎこちなく微笑んだ表情には幼さが残る。夏休み中に一瞬の気の迷いで夜遊びに出て、悪い友達に流されている女子中学生でも見ているようだった。
「ずいぶん若いけど、あの子が一級なのか」
「
男が顔を向けると、魔導士だという女、もとい少女が羽織ったマントの隙間から腕を突き出す。少女の手首には細く長い鎖が幾重にも巻き付けられていて、少女が拳を開くと鎖につながれた根付けが垂れた。親指の先ほどの青い石が誇らしげに揺れている。
ほう。
端々に硬さと清廉さを青く光らせた石は黄金色の金属で精密に宝飾されている。綺麗に磨かれたそれは真新しい軽々しさとは違い、歴史的な重厚さを感じさせた。
「これは珍しいな。おい」
俺はカウンターの隅っこで居眠りを決め込んでいるミツハを呼んだ。仕事中に寝るなと小言を言うと、目をつむっていただけだと言い返してくるような奴だ。寝起きはすこぶる良い。
「おい、などと人を呼びつける奴があるか。わたしの名を忘れたのか。健忘症か」
こいつは見た目は童女の類だが、その中身は外見に反比例している。毎日毎日、ワンピース様のズボッとかぶる簡易な服ばかり着て、か細い手足と子どもならではのさらさらな髪を振り回して生きているが、その実、とてもおそろしい奴だ。
メンチを切るように面倒くさそうな顔をしたが、その根付けを見た途端に目の色を変える。
「ミツハ見てくれ。これは本物か」
俺が聞くと目の前の男は当たり前だろうという顔をして勝ち誇った。
ミツハは掌を上にして、少女の手首から垂れる根付けをふんわり乗せる。
途端――、
「わっ」
純真無垢な少年のような声が漏れたのは許して欲しい。視界が真っ白に塗りつぶされ、焼かれたのだ。莫大な閃光が根付けから放出されて。店のなかにいた誰もが目をつむるだけじゃ足らずに、腕で視界を遮った。
「やめろ、アホ」
「おまえが確認しろと言ったんだろう。アホはおまえじゃ。健忘症うえにアホか」
根付けが光を失っても、焼けた視界はすぐには戻らない。
「俺たちの目を潰すつもりか。加減をしろって言ったんだ」
「充分加減したさ。この根付けが本物だっただけ。誰が緘したものか知らんが、たしか皇国に登録されているはずだ。二桁番台だったかな。鉄鉱の青、正真正銘の特級緘魔石だ」
魔力を閉じ込めた石は、まさに文字通り玉石混交。緘された魔力によってそれぞれ独特の色を纏うが、このきれいな青は素人が見ても特級だ。
魔法を使う人種は先祖代々この石を受け継ぎ、宝飾し、根付にしてもち歩く。魔力は常にその石から供給されるようだ。
しかし皇国の登録が二桁というなら、こんな年代物の根付けなど持ち歩いて良いものじゃない。地下の宝石庫で厳重に保管されて然るべきだ。相手を殺してでも欲しいという奴はゴマンといる……。
チッ、とつい舌打ちが漏れる。
「おまえらこれ盗んできたもんじゃないだろうな」
「はあ!? そんなことするか」
俺はもう一度、目の前のパーティを値踏みするが、とてもこんなに筋の良い根付けをもち歩ける連中には見えない。二桁番台の根付けときたら、そんじょそこらの貴族だっておいそれと所有できないだろう。
自分の目が濁るにはまだ早い――つまり、
「強盗殺人」
ミツハが俺の心を読んだように、不躾なことを言う。
「違うわ! そんならこんなところに金借りにくるかよ。売り飛ばした方が遙かに簡単で安全に金が手に入るだろうが」
それも一理ある。が、モノの価値をわからない連中であるというのは明白だ。自分で言うのもなんだが、普通はこんなあやしげな店に疑いもなく根付けをもち込んだりしない。
「百万出すのは構わない。でもこの根付けが担保だ」
「それじゃあ意味ないじゃねえか。根付けがないと魔力の供給が追っつかない。〝赤の天領〟で野たれ死ぬわ」
こいつらはこの少女に攻略の苦労を丸投げする気なのか。
「なあ、君、自分でこの根付け光らせてみてくれよ」
えっ、とつぶやいて数瞬ためらった後、少女は目を伏せて根付けを握った。その手は透き通るように白い。細くきれいな指をして、傷ひとつない。今まで苦労らしい苦労をしていないんじゃないかと思わせる艶やかさだ。小さな赤い石の指輪でもしたらこれ以上ないくらいに似合うだろう。
少女の要求に応じて根付けはゆっくりと輝き始めるが、ミツハのときとは比べ物にならないほどつつましい光量だ。夜のベッドで本を読むときにちょうどいい光が、指の隙間から漏れている。
「一応は魔法が使えるらしけど、この子が十二分に使いこなせるとは思えないな。本当に自分が世襲しているんだとしたら修行が足りなすぎる。真の持ち主じゃないウチの従業員の方がはるかに大きな共鳴を得たぞ。いてもいなくても一緒じゃないかな」
「でも、いざとなったらそこらの魔法使いよりは大きな力が発揮できるはずだよ。それに俺もそこの男も剣技には自信が、」
さりげなく腰のあたりでもち上げた剣には、いかにも由緒のありそうな家紋が彫られている。もしかしたら一応は名家のお坊ちゃんなのかもしれない。
「一応確認しておくけど」俺は男の言葉を遮った。「まさか〝ゲート〟を閉めに行くつもりじゃないよな」
「するか! そんなあぶねーこと」
「俺も商売だから金は貸す。正義の味方でもないし〝赤の天領〟で小遣い稼ぎをする奴が死のうが消えようがどうでもいい。だけど、貸した金が帰ってこないのは大問題だ。いろんなパーティを見てきたが、はっきり言っておまえらは危ない部類に入る。遊び金が欲しい程度の理由なら止めておけよ」
そう忠告すると、今まで余裕たっぷりだった男が初めて苦しそうな表情を作った。
「遊び金じゃねえよ……どうしても金が必要なんだ。俺たちみたいなのが一億以上集める方法つったら〝赤の天領〟しかないんだよ」
「一億だ?」
おとうさん方が一生懸命働いた生涯賃金の半分ほどにあたる金額だ。押し迫った事情があるのだろう。が、他人の不幸話に首を突っ込むつもりはまったくない。そもそもダンジョンに挑んでみようなんて奴は誰しもが少なくない事情を抱えている。
「その根付けを売り飛ばせば十億以上のまとまった金額が手に入るぞ。背に腹は代えられない、という至言が俺の生まれた地方にある。命は大切にしろよ」
「売って良い物ならとっくに売っちまってるわ。とにかく、俺らは〝赤の天領〟にいく。もう決めたことなんだ」
「お願いします」根付けの持ち主である少女が頭を下げた。
「皇国の北端から出てきて、頼れる人もいないんです」
こいつらどういう関係だ、と少し気になった。浮かれ上がった若者の集まりに見えるが、わざわざ遠方から攻略に来るとなるとそれなりの覚悟が必要だ。現実離れした大金を稼ぐためにという言葉を信用すれば、見た目ほどチャラついた連中ではないのかもしれない。
「よしわかった。八十万までは無担保で出そう」
「本当ですか!」
「ただし、条件は五日だ」
「五日……?」
「おまえら天領の通過申請はしてるんだよな。何日間だ」
「三十日」
短い。
三十日で一億なんて現実的に無理だな、と思う。それこそ身体を賭けて相当深く入っていかなきゃ価値のあるものは手に入れられないだろう。
「五日で一割、八万だ。つってもなかでは現金なんて手に入れられないだろうから、八万相当の物を五日おきにこっちへ転送しろ。ミツハ」
「はいよ」
俺には読めない類の文字が書かれた魔法符を六枚、カウンターの上に並べる。
「これは魔法適性のない者でも使える転送用の札だ。これを任意の物に貼って念じれば、瞬時にウチまで届くようになる。角の生えたモンスターを狩ったら角だけは切り取れ。どんなのでも八万にはなる。あとは香石の類は香りにかかわらず指先ほどあれば二万にはなる。でも生き物はどんなにかわいらしい愛玩動物に見えても絶対に送るな。検疫的な問題もあるし、基本的に死ぬ。そのほか〝この世ならざるもの〟だと思えばとりあえず送ってみろ。高価な物があったら元金から差っ引いてやる」
「よっしゃ、まかせとけ!」
これから一億稼ごうって奴らからしたら端数みたいな金額だろう。こういう連中が一番乗せやすいし、一番ぼろい。
俺はこれからこいつらを襲う不幸について、あまり考えないようにして契約書を配っていく。
騙しているわけじゃない。これも商売だからな。