01:カフェインを摂りたい ※アクセス権限(1)解除
文字数 5,495文字
"本体の電源が正常にシャットダウンされました。ゴーグルを取り外した後、急性感覚過敏による目眩、頭痛、倦怠感 などの異常が見受けられた際は焦らず横になり、一時間程度の小休憩をとって下さい。それでも尚、回復が見込めない場合は、バイタルデータを医師に提出、診断をお勧めします。"
「デイヴィッド、お疲れさん! どうよ? 俺の新作ゲームは?」
造り物の世界から戻って早々、人様のペースをまるで気にも留めない人懐こい声が、ノックもせずに意識に割って入ってきた。それは整頓された自室にずぶ濡れの靴で上がり込み、チョコチップクッキーを食い散らかしながらスナック塗 れの手で握手を求められるような。間違いなくブラックリスト入り確定。国外追放待ったなしの傍若無人 っぷりだ。
ルパート・アビエスと言う男は、どうもホモ・サピエンス独自の協調性に欠ける生き物らしい。
「んーー。感覚拡張機能だったか? 痛覚レベルが高すぎないか? 突き飛ばされたとき、一瞬息が出来なくて少し驚いたぞ」
「えっ!? あっ、ああ……、それなら安心してくれ。ちゃんとプレテスト済みさ。痛覚 緩衝装置 は正常に動作してた。本当さ。信じてくれよ」
うむ、確かに。
研究室 には似つかわしくない大層なゲーミングチェアー。
曰く、人間工学の粋を集めたらしいご自慢のそれに深々と、ふてぶてしく腰掛けた彼の隣。空中 ディスプレイには、一応エラーの文字は見当たらない。痛覚緩衝装置 と書かれた脇に小さく"Min"と点滅し、エディット中となっているが、気にし過ぎだろうか? 汗ばんだ顔でへらへらと笑っている様は、どこか怪しい気もするが。
まあしかし、傷などないはずなのに、どうも無意識に胸の辺りをさすってしまうのは、流石の感覚拡張と言ったところか。
「まあ、今じゃ安楽死もすっかりポピュラーなライフイベントになっちまって、一部じゃ外部入力された楽しげな夢の中で旅立つってのも流行ってるみたいだけどよ。いくらなんでも、こんなグロテスク極まりないバッドエンドなVR-ARPGでお前さんも女神さまのお膝元に行きたかねえだろ?」
「自分で言うのか。まあ、そうだな」
この趣味の悪い自作ゲーム。研究の息抜きの産物だと聞かされているが、付き合いがてら玩具 にされて運悪くあの世いきだなんて、そんなの彼のジョーク以上に笑えない。
そもそも、研究テーマを題材にゲームを作るなら、もっとカジュアルなもので十分事足りたろうに。
僕への気遣いもそっちのけで、人の頭からゴーグルを大事そうに外しているルパートに経緯を問いただしてやりたいところだが、また無駄に話が長くなるのは目に見えている。それはそれで彼は喜んで舌を回すだろう。
だが生憎、そんな長話に付き合えるほど悠長にしてはいられない。戯れだって持ち合わせていない。自分の研究室に戻って実験の続きに割いた方がよっぽど合理的で生産的だ。よって、ここは絶対に口にはしてやらないのがベターとなる。
何より彼が口を開けば、一言も二言も返ってきてしまう。
ただの缶コーヒーで十分だと言うものに、味気ないからとミルクにガムシポップ、シュガーの後にもう一度ガムシロップを入れつつ、隠し味になどと言ってピーナッツバターをもって追い討ちをかけてくるような。胸やけ必至の高カロリーを要する口数の多さが欠点のこの男。
ただどうやら、自身の成果物に対しては客観的に分析できるようだ。なら、ぜひそのマシンガントークも改めてもらいたいものなのだが。そうすれば僕も安心して眠れるというのに。
「で? 他にはどうだった?」
「他に? Ummm……。なんだそのイタズラ か 賛美 か、とでも言いたげな顔は? さては僕がどう答えようが、無理にでも褒めないと逃がさない気だろ? まったく。余韻に浸る暇さえくれないのか?」
「だってよう……。ルームメイトにやらせても、やれキモイだの、やれゴアが足りないだの。グレネードランチャー を撃たせろ。レーザー兵器はないのか。宇宙船を出せ。どいつもこいつも表面的なことばかり騒ぐだけ騒いでそれっきりなんだぜ? SNSのマウンターじゃあるまいし。ひどいと思わないか? 思うよな? デイブ、そうだろ!?」
草臥 れた白衣をゆらゆらとはためかせながらの、おそらくルームメイトのものらしいオーバーリアクションの数々。
その煩い動きも相まって、頭に響くったらない。
一人歩きして止まないその口に手榴弾 でも突っ込んでやれば、少しは静かになるだろうか。
それにしても、ルパートの奴。今日はやけに口数が多い。いや、多いのはいつもと変わりないが。正確には、そう。いつもに増して鬱陶 しい。何故だ? 根本原因は何だ?
いつからか僕専用になっている椅子 に腰掛けて推し測ろうにも、駄目だ。カフェインが足りない。
「感想はどうあれ楽しんでくれたなら、それでいいんじゃないのか? ああ、コーヒーもらうぞ」
「ま、確かに? 第一印象は個人の自由だが? 違うんだよボーイ! 作り手として言ってほしい、感じて欲しいことは、そんなバーゲンセールされたトランクスみたいに薄っぺらい事じゃないんだよ! 思うにクリエイティブってものはだな――」
君の本分は研究者だろうに。Oh,shit!? 今の返しはまずかったか。これはいらぬフラグを立ててしまったかもしれない……。まあ、いいさ。今はまずこの眠気をなんとかしなければ。
「お前だって分かるだろ? 実験の結果も大事だが、そのプロセスにメスを入れてこそ、その成果を正しくインプット。更には次なるアプローチへのアドバンテージを獲得できる。最大効率をもって成長できるってものだろ?」
いつかまた見るだろうとデスクに適当に投げ置かれて久しい論文の山。床までそれが溢 れてるお陰で、コーヒーメーカーの場所が、定かじゃない。
確か、この辺りに――あった。
「科学技術の進歩は待っちゃくれないのだよ! 一度火が付いた推進剤 だってそう簡単には止められない。そんな果てしない頂 きを目指して高い学費を払って、こんな日の光も当らなければ――」
ああ、なんてこった。口先だけではぺらぺらとまともそうなことを言ってはいるが、関心のあること以外、結果さえ得られればプロセスどころか中身にさえこだわらない人間だったな。
ろくなインスタントしかないだろうと期待はしていなかったが、裏切らないな……。チープなカプセルにはでかでかとArabica beans と印字されている。嗜好品として楽しむのであればこれでも構わないのだろうが状況が違う。風味だのコクだのでは、この悪夢のような現実を払拭してはくれない。覚めるものも覚めやしない。これならまだケールを湯がいた、ただの煮汁を飲むよう方がましというものだ。
僕が一人悶々とパッケージを睨んでいる隣のこの男。口は変わらず回っているみたいだが、全く目を合わせようとしない。
まさか、謀 られた? そんなはずが……。
「弾けるダイナマイトレディーひとり居ない辺境の地で、人知れず論文 に埋もれてみろ! そんな恐ろしいキャンパスライフなんて、ブギーマンですら怖くてクローゼットの中から出てこなくなっちまうだろうさ! そう思うだろ? 相棒 ?」
飲み口や底に残った灰汁 を白衣で拭い、華やかなだけで役不足なコーヒーを注ぎ淹れる。温度も少しぬるいが仕方ない。
……うむ。やはり、ただただ甘いな。
「――ん? いつ僕と君が兄弟になったんだ?協力 は承諾しても、肉親に思えるほど君にご執心でもないんだが?」
僕とルパートの在籍するキャンパスは異なる。ただ、ライバル校ということで各校の講義を任意に単位に組み込める単位互換制度 なんてものがある所為で、いやそれ自体は実際ありがたいのだが。彼との場合、それがきっかけでありがた迷惑なことに共同研究をすることになったのは事実だ。
だが、ブラザー? うむ。十分に睡眠を摂り、前もったスケジュールに沿って成果物の試遊に招かれていたのであれば、満更でもない響きだ。
しかしだ。そんなの一部たりともパスできていやしない。夜通しの研究で疲れて眠っていたところを引きずり起されたのだ。極めつけに、セットもされていないごわついたダークブロンドの天然 パーマを振り上げて、ほんのり異臭振りまき熱弁されては、流石にだな。この気持ち、分かるか? 相棒君?
「いや、そこは冷静に応えてくれるなよ。と言うか、まずそこなのか? 確かに間違っちゃいねえけど、そうも端的に明確に俺への信頼のほどを告白されてしまうと、思いがけないボディーブローに泣いちまいそうなんですけど……」
「ルパート。ジョークは口だけにしてくれ。シャワーも浴びていないボサついた頭で泣かれると、輪をかけて気持ち悪くて処理に困るんだが」
「ここぞとばかりに追い討ちかけないでね! お願いだから!」
「まあ、君の研究している脳内イメージ投影 だけど。インタラクティブ性は認めるが、アクションを謳 うにはかなり難がある代物だな」
「Oh,come onnnnn……」
彼の趣味に付き合うのも潮時か。そろそろ滅菌 が終わった頃だろう。戻って培地を換えなければ。
不条理なパートナーシップに振り回されっぱなしでまるで納得できないが、フィードバックがない訳ではない。
さて、どこまで耐えられるのか。両手でオイリーになった頭を抱えて嘆く口やかましいモンスターに、まずはウィークポイントを一撃だ。
「世界観依存のトレースリソースの把握がまずハードルが高すぎる。君の作ったゲームに借金してまで投資したいほどのフリークでない限り、ユーザーがトレース可能なアイテムを丸暗記せざるを得ない現仕様は、使い勝手 が悪すぎる。加えて、トレースや戦闘 中の各オブジェクトとの当り判定 もろもろが雑だ。君の口を借りて例えるなら、トロールもびっくりの大穴シールド。大リーガーもバットをへし折りたくなるバックフェンス越えのストライクゾーンの広さ。そんな感じだ。挙げれば切りがない」
「ハウアッ!?」
お次は、スマッシュ&クリティカルをお見舞いだ。
大方、研究成果を勢い任せに組み込みはしたものの、肝心のゲーム部分に至っては難儀する以前に厭 きてしまって、取りあえず形になったものを見てもらいたかった。そんなところか。
不本意だが、今こうして僕が寝起きでカフェインもろくに摂れずに、彼に泣き付かれている理由がだんだんと見えてきたぞ。不本意だが。
「あと、操作キャラの各動作のレスポンスや、UIが足りてない印象だったな。五感を拡張して没入感を高めるのはいいが、あまりにリアルを踏襲しすぎると、いくらPBufが働いていたとしてもノーシーボ効果が働かないとも限らない。だとすれば最悪し――」
「ストップ! ストーーップ!!」
これでフィニッシュ。決まっただろう。
「……デイヴィッド。頼むから、そこまでにしてくれ。俺をオーバーキルしたって、レアドロップも賄賂 も出やしないよ。もしかしてあれか? こないだお前がストックしてる戦闘糧食 を、寝てる間に一つ拝借したのを怒ってるなら謝るからよう。埋め合わせは何がお望みだ? クリームパイでもおごればいいのか?」
――何だと!? 今、彼は何と言った!?
眉をひそめながらコーヒーをすする音も思わず止まる。
どれも選りすぐりの一品ばかりだぞ! 集めるのにどれだけ苦労したと思ってる! ああいや、彼にそれを説いても、頭の中で濾されることなく反対の耳から抜け落ちてしまうのだろうな。つい出来心でなどと漏らそうものなら、クールだからとくれてやって以来、しばらく洗ってない白衣ごと、君をオートクレーブにかけてやりたいところだ!
「お、怒るなって。悪かったよ……。そ、それにせっかく楽しく能動的に自己研鑽 してるってのに、完成して日の目を見る前に、"お前の作っているものはただのハイセンスな拷問器具だ"なんて言われた日には、俺もいよいよ自分が恐ろしくなるだろうさ。そしたらついには闇堕ち。それでも留まることのない創作意欲に呑まれて、暗黒卿 にでもなっちまうってもんだぜ?」
その掲げた手は何だ? 宇宙船でも落すつもりか? それとも手錠をかけて送ってほしいのか?
頼むから一度でいい。闇にでも何にでも呑まれてしまってくれ。それからしばらく出てこないでもらえると助かる……。それでも彼の場合、良薬にもなりはしないだろうが。ああ、いよいよ頭が本格的に痛くなってきた。
「……そのファンキーな頭に似合うマスクが見つかればいいがな。いっそのこと、ポリ袋でも被ってセルフ失神 チャレンジでもしてみたらどうだい?」
「デイヴィッドさん。もう本当に許して下さい。詫びに今度、ランチおごりますので……」
「そうか。……うむ、それはありがたい。クリームパイ以外で頼む」
それぞれの理由で項垂 れる冴えない男二人組み。
まったく、どうしてこうなった。……Darn it! 口の中が甘いったらない。本当に最悪だ。
「ああ、あと最後にもう一つ」
「まだ、何かおありで……?」
「ラストのパーティーキャラが敵に止めを刺されるシーンだが。あそこは台詞過多じゃないのか? あんなに長く話していたら、本来、敵にやられて終りだと思うが?」
「……お前さんよう。そこはユーザーを魅了するフィクションだろうよ。これでも一応エンターテイメントのつもりなんだから、もっと気楽にドラマを楽しもうぜ……」
「そういうものか?」
ああ、早く自室に戻って寝直したい。
「デイヴィッド、お疲れさん! どうよ? 俺の新作ゲームは?」
造り物の世界から戻って早々、人様のペースをまるで気にも留めない人懐こい声が、ノックもせずに意識に割って入ってきた。それは整頓された自室にずぶ濡れの靴で上がり込み、チョコチップクッキーを食い散らかしながらスナック
ルパート・アビエスと言う男は、どうもホモ・サピエンス独自の協調性に欠ける生き物らしい。
「んーー。感覚拡張機能だったか? 痛覚レベルが高すぎないか? 突き飛ばされたとき、一瞬息が出来なくて少し驚いたぞ」
「えっ!? あっ、ああ……、それなら安心してくれ。ちゃんとプレテスト済みさ。
うむ、確かに。
曰く、人間工学の粋を集めたらしいご自慢のそれに深々と、ふてぶてしく腰掛けた彼の隣。
まあしかし、傷などないはずなのに、どうも無意識に胸の辺りをさすってしまうのは、流石の感覚拡張と言ったところか。
「まあ、今じゃ安楽死もすっかりポピュラーなライフイベントになっちまって、一部じゃ外部入力された楽しげな夢の中で旅立つってのも流行ってるみたいだけどよ。いくらなんでも、こんなグロテスク極まりないバッドエンドなVR-ARPGでお前さんも女神さまのお膝元に行きたかねえだろ?」
「自分で言うのか。まあ、そうだな」
この趣味の悪い自作ゲーム。研究の息抜きの産物だと聞かされているが、付き合いがてら
そもそも、研究テーマを題材にゲームを作るなら、もっとカジュアルなもので十分事足りたろうに。
僕への気遣いもそっちのけで、人の頭からゴーグルを大事そうに外しているルパートに経緯を問いただしてやりたいところだが、また無駄に話が長くなるのは目に見えている。それはそれで彼は喜んで舌を回すだろう。
だが生憎、そんな長話に付き合えるほど悠長にしてはいられない。戯れだって持ち合わせていない。自分の研究室に戻って実験の続きに割いた方がよっぽど合理的で生産的だ。よって、ここは絶対に口にはしてやらないのがベターとなる。
何より彼が口を開けば、一言も二言も返ってきてしまう。
ただの缶コーヒーで十分だと言うものに、味気ないからとミルクにガムシポップ、シュガーの後にもう一度ガムシロップを入れつつ、隠し味になどと言ってピーナッツバターをもって追い討ちをかけてくるような。胸やけ必至の高カロリーを要する口数の多さが欠点のこの男。
ただどうやら、自身の成果物に対しては客観的に分析できるようだ。なら、ぜひそのマシンガントークも改めてもらいたいものなのだが。そうすれば僕も安心して眠れるというのに。
「で? 他にはどうだった?」
「他に? Ummm……。なんだその
「だってよう……。ルームメイトにやらせても、やれキモイだの、やれゴアが足りないだの。
その煩い動きも相まって、頭に響くったらない。
一人歩きして止まないその口に
それにしても、ルパートの奴。今日はやけに口数が多い。いや、多いのはいつもと変わりないが。正確には、そう。いつもに増して
いつからか僕専用になっている
「感想はどうあれ楽しんでくれたなら、それでいいんじゃないのか? ああ、コーヒーもらうぞ」
「ま、確かに? 第一印象は個人の自由だが? 違うんだよボーイ! 作り手として言ってほしい、感じて欲しいことは、そんなバーゲンセールされたトランクスみたいに薄っぺらい事じゃないんだよ! 思うにクリエイティブってものはだな――」
君の本分は研究者だろうに。Oh,shit!? 今の返しはまずかったか。これはいらぬフラグを立ててしまったかもしれない……。まあ、いいさ。今はまずこの眠気をなんとかしなければ。
「お前だって分かるだろ? 実験の結果も大事だが、そのプロセスにメスを入れてこそ、その成果を正しくインプット。更には次なるアプローチへのアドバンテージを獲得できる。最大効率をもって成長できるってものだろ?」
いつかまた見るだろうとデスクに適当に投げ置かれて久しい論文の山。床までそれが
確か、この辺りに――あった。
「科学技術の進歩は待っちゃくれないのだよ! 一度火が付いた
ああ、なんてこった。口先だけではぺらぺらとまともそうなことを言ってはいるが、関心のあること以外、結果さえ得られればプロセスどころか中身にさえこだわらない人間だったな。
ろくなインスタントしかないだろうと期待はしていなかったが、裏切らないな……。チープなカプセルにはでかでかと
僕が一人悶々とパッケージを睨んでいる隣のこの男。口は変わらず回っているみたいだが、全く目を合わせようとしない。
まさか、
「弾けるダイナマイトレディーひとり居ない辺境の地で、人知れず
飲み口や底に残った
……うむ。やはり、ただただ甘いな。
「――ん? いつ僕と君が兄弟になったんだ?
僕とルパートの在籍するキャンパスは異なる。ただ、ライバル校ということで各校の講義を任意に単位に組み込める
だが、ブラザー? うむ。十分に睡眠を摂り、前もったスケジュールに沿って成果物の試遊に招かれていたのであれば、満更でもない響きだ。
しかしだ。そんなの一部たりともパスできていやしない。夜通しの研究で疲れて眠っていたところを引きずり起されたのだ。極めつけに、セットもされていないごわついたダークブロンドの
「いや、そこは冷静に応えてくれるなよ。と言うか、まずそこなのか? 確かに間違っちゃいねえけど、そうも端的に明確に俺への信頼のほどを告白されてしまうと、思いがけないボディーブローに泣いちまいそうなんですけど……」
「ルパート。ジョークは口だけにしてくれ。シャワーも浴びていないボサついた頭で泣かれると、輪をかけて気持ち悪くて処理に困るんだが」
「ここぞとばかりに追い討ちかけないでね! お願いだから!」
「まあ、君の研究している脳内イメージ
「Oh,come onnnnn……」
彼の趣味に付き合うのも潮時か。そろそろ
不条理なパートナーシップに振り回されっぱなしでまるで納得できないが、フィードバックがない訳ではない。
さて、どこまで耐えられるのか。両手でオイリーになった頭を抱えて嘆く口やかましいモンスターに、まずはウィークポイントを一撃だ。
「世界観依存のトレースリソースの把握がまずハードルが高すぎる。君の作ったゲームに借金してまで投資したいほどのフリークでない限り、ユーザーがトレース可能なアイテムを丸暗記せざるを得ない現仕様は、
「ハウアッ!?」
お次は、スマッシュ&クリティカルをお見舞いだ。
大方、研究成果を勢い任せに組み込みはしたものの、肝心のゲーム部分に至っては難儀する以前に
不本意だが、今こうして僕が寝起きでカフェインもろくに摂れずに、彼に泣き付かれている理由がだんだんと見えてきたぞ。不本意だが。
「あと、操作キャラの各動作のレスポンスや、UIが足りてない印象だったな。五感を拡張して没入感を高めるのはいいが、あまりにリアルを踏襲しすぎると、いくらPBufが働いていたとしてもノーシーボ効果が働かないとも限らない。だとすれば最悪し――」
「ストップ! ストーーップ!!」
これでフィニッシュ。決まっただろう。
「……デイヴィッド。頼むから、そこまでにしてくれ。俺をオーバーキルしたって、レアドロップも
――何だと!? 今、彼は何と言った!?
眉をひそめながらコーヒーをすする音も思わず止まる。
どれも選りすぐりの一品ばかりだぞ! 集めるのにどれだけ苦労したと思ってる! ああいや、彼にそれを説いても、頭の中で濾されることなく反対の耳から抜け落ちてしまうのだろうな。つい出来心でなどと漏らそうものなら、クールだからとくれてやって以来、しばらく洗ってない白衣ごと、君をオートクレーブにかけてやりたいところだ!
「お、怒るなって。悪かったよ……。そ、それにせっかく楽しく能動的に自己
その掲げた手は何だ? 宇宙船でも落すつもりか? それとも手錠をかけて送ってほしいのか?
頼むから一度でいい。闇にでも何にでも呑まれてしまってくれ。それからしばらく出てこないでもらえると助かる……。それでも彼の場合、良薬にもなりはしないだろうが。ああ、いよいよ頭が本格的に痛くなってきた。
「……そのファンキーな頭に似合うマスクが見つかればいいがな。いっそのこと、ポリ袋でも被ってセルフ
「デイヴィッドさん。もう本当に許して下さい。詫びに今度、ランチおごりますので……」
「そうか。……うむ、それはありがたい。クリームパイ以外で頼む」
それぞれの理由で
まったく、どうしてこうなった。……Darn it! 口の中が甘いったらない。本当に最悪だ。
「ああ、あと最後にもう一つ」
「まだ、何かおありで……?」
「ラストのパーティーキャラが敵に止めを刺されるシーンだが。あそこは台詞過多じゃないのか? あんなに長く話していたら、本来、敵にやられて終りだと思うが?」
「……お前さんよう。そこはユーザーを魅了するフィクションだろうよ。これでも一応エンターテイメントのつもりなんだから、もっと気楽にドラマを楽しもうぜ……」
「そういうものか?」
ああ、早く自室に戻って寝直したい。