第30話 痴話喧嘩をすればよかった?

文字数 750文字

 夫とは出会って早々にお互い結婚を見据えてつき合い、子どももすぐにできたので、恋愛期間は短かったように思う。

 その前に4歳下の男と4年くらいつき合っていた。けっこう入れ込んだ。
私は年上だからと我慢してしまって、今になって思う、もっと喧嘩、痴話喧嘩みたいなのをすればよかった、と。

 気に入らないことがあったとき、泣いたりなじったりすればよかった。
「勝手にすれば」
「失礼だよね」
「もういい」
 とか言えばよかった。ちゃんと怒ればよかった。

 痴話喧嘩をすれば、
「あのとき、あんなこと言っちゃった」
「あんなこともしちゃった」
「そしたら、こんなこと言われた、された」
「そのあとあんなことになった」
 と、噛みしめて味がする貴重な思い出ができたのに。加工して小説のネタにもなったのに。

 つき合っている間、わりと自己肯定感低めだった。
なんかすごく彼に寄り添っちゃって、自分で寄り添ったくせに、最後のあたりは彼のご機嫌取りにうんざりしてきて疲れちゃって。それで逃げちゃった。
逃げたことは一度も後悔していない。

 どうせ壊れる関係なら、思いっきり痴話喧嘩してもよかったなと、ふと思ったのよ。
偏見だけど、ヤンキーカップルみたいに野蛮にモノ投げ合ったりしてさ。ペットボトルとか?

 でもな……喧嘩で暴言吐かれたあとに、もし手のひら返しで優しくされたりでもしたら、緊張と緩和でゾクゾクしそう。脳から何か(ドーパミン? アドレナリン?)が分泌されそう。
そんなことが続いたら特殊な心理状態になっちゃうよ。
「ストックホルム症候群」だっけ? 特殊な状況下で、銀行強盗と人質に連帯感が生まれたりするアレ。ヤバい洗脳の結びつきが生まれちゃう。
別れてもまたよりを戻したりして、逃げるのが困難になりそうだよ。

 ……やっぱり喧嘩しないでよかったかも。





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