3-7 ミヤギ
文字数 3,844文字
男はベッドの上で足を組み、ポケットに手を突っ込んだまま夏波を見下ろす。
「3年前。宮城県警内で人が何人か死んだんだ。けどそんな記録はどこにもない。覚えている人間もいない。さっきも言った通り、記憶が消されているからね」
嘘みたいな話だろ?と男はせせら笑った。
「でも、本当なんだなぁこれが」
「仮にそれが事実だとして……どうしてあなたは知っているんですか?」
「それは、私が“当事者”だったから、としか言いようがないね」
どういうことか、という夏波の問いを男は無視した。
「ここ最近、能力者が何人か死んでるのは知ってるよね?」
問いかける口調ではあるが、男が夏波の返事を待つ様子はない。
「彼らの死はね、救いなんだよ。彼らにとっても、この世界にとっても」
男はどこか演技がかった仕草で、何もない宙空へと手を伸ばし、そして握り込む。
「3年前、私は同じように救おうとしたはずなんだ。……でも失敗した。その原因が何なのか分からないまま、私は記憶を失ってしまってね。その間に出し抜かれて、とても困ってるんだ」
「意味が……全く分かりませんが……」
「分からなくていいよ。今はね」
男はベッドから立ち上がり、夏波の前までやってきてしゃがみ込んだ。
身なりに気を使った様子はないものの、清潔感が損なわれている人間ではないと、近づいて分かる。
夏波は背中を壁に押し付けて、男の顔から少しだけ距離を取った。
「そこで、君に助けて欲しいんだ。過去を垣間見れる君なら、3年前の失敗の原因が分かるかもしれないから」
何故夏波の“能力”の内容まで把握しているのかは謎だが、カマをかけられている可能性もある。ここで下手に肯定する事は避け、夏波はできるだけ平静を装って質問を投げた。
「先程訊いてきた名前と、3年前の事件と、何か関係があるんですか?それに、どうして美月さんにあんな脅迫を……」
「あぁ……」
男はしばし顎に手を置いて考えるそぶりを見せた。
「3年前の件と美月幸平への脅迫は完全に別件。彼は危険因子だからとっとと潰しときたいだけだよ」
「危険因子……?」
「そ。君も気をつけな?私よりも彼の方が、圧倒的に世界を害する存在なんだから」
世界、とは随分大きな物言いだが、彼は興味なさげにさっさと話題を切り替える。
「ともかく、『シロガネチカ』と『カドイシュン』は、3年前に死んだ人間の名前さ。私が知りたいのは、その内の『シロガネチカ』が
「ど、……どうして、そこで志賀さんが出てくるんですか?」
志賀と宮藤の反応からして、彼らは男の出した名前を知っている。それは分かっていたが、どうしても問わずにはいられなかった。
しかし、問われた男の表情を見て、夏波は酷く後悔する。その質問を待ってましたと言わんばかりに、ニコリと笑顔を作ったからだ。作り物であると自ら知らしめているような笑みを貼り付け、彼は答えた。
「だって『シロガネチカ』を消したの、アイツだもん」
「え……?」
男の発言に、夏波はきょとんと呆けた。男はそんな夏波を見て、腹を折って大笑いを始める。
「良い反応するねー!やっぱり何も知らされてなかった訳だ!まあそりゃそうか!」
困惑する夏波の前で、男は暫く笑い転げた。目に浮かぶ涙を指で拭いつつ、彼は続ける。
「この取引はさぁ、慈善事業的な側面もあるんだよね。君は多分志賀太陽に騙されてるから」
「騙されてる……?」
男がすっくと立ち上がって、夏波に黒々とした影を落とす。
「君が何でアレと一緒にいるのかは知らないけど、どうせ『保護』とか言われたんじゃない?それで、未だに言ってるんでしょ?『能力者を保護したい』とかって」
「それは……」
間違いないが、それの何が騙されているというのか。
夏波が怪訝そうな顔を崩さないのを見て、男は小さく息をつく。
「その調子じゃ考えたこと無さそうだね」
「何を……?」
「君、自分以外に『保護』された能力者って、見た事ある?」
問われて、ふと俯く。
そういえば話を聞いたことはない。確かに夏波は保護のために特殊対策室に引き入れられたのだと聞いた。しかし、それは夏波が警察で、その上手袋を装着していれば害が無かったから成り立つ話だ。
では、例えば伊霧芽郁を保護したとして、一体どうするつもりなのだろうか。
触れるもの全てを塩と化してしまう彼女に、どう対処するつもりだったのだろうか。
夏波が特殊対策室に入る前から、志賀は“能力者”が関わる事件を追っていたはずで。だとすれば、かつて『保護』したのだろう“能力者”は今どこにいるのだろう。
湧き出てきた疑問に不安を掻き立てられ、夏波はじっと沈黙する。
「ほらね?」
心臓が鳴る。
そんな訳がないと脳が否定を続けている。しかし心に残る不安はどうしても吐き出せず、夏波は手袋のはまった手で心臓部分の服を掴んだ。
「それに、おかしいと思わない?」
「な、に……」
「志賀太陽の能力について」
男はその名前を吐き捨てる様に呼んで、嫌悪感を露わにする。
「能力ってのはさ、発動に条件がある人間もいるんだ。君らみたいに、手袋を自分の意志でつけ外しできる能力者ってのは、その発動条件が厳しいから他よりも危険がないって訳。けどその条件だって、一度は発動してみないと分からない。そうだよね?」
「それが、一体……」
「志賀太陽は、自分の能力の事、なんて言ってた?」
男の問いかけが、記憶の奥底を叩いている。
そうだ、確か志賀は言っていた。
『自分の能力は、人を殺すためのものでしかない』と。
つまり男の話をそのまま飲み込むのなら、それは
「どう?志賀太陽の事、信用できそ?」
拳を強く握り、掌に爪が立つ。それでも力を込める事はやめられない。感覚が無くなる程に、夏波は全身を固く強張らせた。
完全に色を失った夏波を嘲笑いながら、男はまた肩を竦める。
「そうそう。世の中そんな簡単に人を信じたらいけないのよ」
疑いたくはない。しかし、理解ができない訳でもない。
心が受け入れる事を拒否し、思考は止まる寸前だ。だというのに、どことなく腑に落ちてしまうのが不快だった。
次第に呼吸が浅くなっていく夏波を見つめ、男は言う。
「ってことで、私は騙されてる君とは、できれば仲良くやりたいなと思う訳。だからこその取引。君が『シロガネチカが3年前にどうやって死んだのか』調べて教えてくれたら、私も君の知りたい事に答えてあげよう。ま、勿論私が知る範囲の事だけど」
男の表情は一貫して笑顔だった。だが、笑っているのは口元だけで、それはまるで道化師の化粧のようにも見える。
「あ、当然だけど、私の事を誰かに話した時点でこの話は無しね。契約違反の代償は……君の身の回りの人間に及ぶかもなぁ、なーんて」
「それって……!」
脅迫じみた文言に、夏波は思わず前のめりになる。しかしそれを手で制し、男は薄く笑った。
「他言しなきゃいい話だよ。それに、悪いモンでもないでしょ?君だって知りたい筈だ」
夏波は沈黙を貫いた。
男の話は、確かに納得できる部分もある。
だが、志賀にはこれまで何度も救われているし、宮藤の優しさにも触れている。
対して目の前の男は、夏波を攫い、その上死ぬ事を容認した人間なのだ。
どんなに言いくるめられようと、これまでの話を鵜呑みにはできなかった。
男はそんな夏波の心境を察したのか、肩を竦めてからくるりと踵を返す。
「まぁ、しっかり考えな。またちょっとしたら連絡するよ」
男はそう言うと、ポケットから鍵を取り出して、ぽんとベッドの上に放り投げた。
「返しとくね。もう勝手に家に入ったりはしないし、盗聴とかも特に無いから安心して……、って、そうそうできないか」
声を立てて笑いながら男は部屋の入口まで歩き、扉を引き開ける。
ゆっくりと足に力を入れて立ち上がった夏波は、「あの」と、彼の後ろ姿に声をかけた。
「結局、……貴方は何者なんですか」
首だけをこちらに向けて、男は気怠げに目を細める。
「普通のどこにでもいる一般人。名前は、……そうだな」
キョロキョロと室内を見渡し、男の視線は机の上に乗っていた新聞紙を捉えた。
「じゃ、ミヤギで」
今さっき考えついた偽名なのだという事を隠しすらしない。適当な二文字を拾ったことは透けていた。
飄々と話すミヤギを、夏波は精一杯睨みつける。それを横目で見た彼は、ひらりと手を振ると「それじゃ」と言い残し、その場を去っていった。
バタン、と玄関の扉が閉まる音を聞き届け、夏波はへなへなとその場にへたり込む。
心臓は痛い程悲鳴を上げ続けていた。
――“鯨”、だったの?
ミヤギは確かに“鯨”が使っていた音声を流していた。けれど、それならばどうして今“鯨”と名乗らなかったのか。疑念は残り、確証を得るには至らない。
だが、彼は“鯨”について何かしらの情報を持っている。それだけは間違いないのだ。
――それに、志賀さんの事
かなり一方的な取引内容ではあったが、ミヤギの言っている内容には無視できない事も多く含まれていた。
3年前に何が起こったのか。志賀と宮藤はどうして、『シロガネチカ』と『カドイシュン』について口を閉ざしているのか。
能力の事も、保護した人間の行く末も。夏波は何も知らない。
――調べよう
ふらりと立ち上がり、夏波は深呼吸を繰り返す。
――大丈夫
自分には、記憶を“読み取る”力があるのだから。
「3年前。宮城県警内で人が何人か死んだんだ。けどそんな記録はどこにもない。覚えている人間もいない。さっきも言った通り、記憶が消されているからね」
嘘みたいな話だろ?と男はせせら笑った。
「でも、本当なんだなぁこれが」
「仮にそれが事実だとして……どうしてあなたは知っているんですか?」
「それは、私が“当事者”だったから、としか言いようがないね」
どういうことか、という夏波の問いを男は無視した。
「ここ最近、能力者が何人か死んでるのは知ってるよね?」
問いかける口調ではあるが、男が夏波の返事を待つ様子はない。
「彼らの死はね、救いなんだよ。彼らにとっても、この世界にとっても」
男はどこか演技がかった仕草で、何もない宙空へと手を伸ばし、そして握り込む。
「3年前、私は同じように救おうとしたはずなんだ。……でも失敗した。その原因が何なのか分からないまま、私は記憶を失ってしまってね。その間に出し抜かれて、とても困ってるんだ」
「意味が……全く分かりませんが……」
「分からなくていいよ。今はね」
男はベッドから立ち上がり、夏波の前までやってきてしゃがみ込んだ。
身なりに気を使った様子はないものの、清潔感が損なわれている人間ではないと、近づいて分かる。
夏波は背中を壁に押し付けて、男の顔から少しだけ距離を取った。
「そこで、君に助けて欲しいんだ。過去を垣間見れる君なら、3年前の失敗の原因が分かるかもしれないから」
何故夏波の“能力”の内容まで把握しているのかは謎だが、カマをかけられている可能性もある。ここで下手に肯定する事は避け、夏波はできるだけ平静を装って質問を投げた。
「先程訊いてきた名前と、3年前の事件と、何か関係があるんですか?それに、どうして美月さんにあんな脅迫を……」
「あぁ……」
男はしばし顎に手を置いて考えるそぶりを見せた。
「3年前の件と美月幸平への脅迫は完全に別件。彼は危険因子だからとっとと潰しときたいだけだよ」
「危険因子……?」
「そ。君も気をつけな?私よりも彼の方が、圧倒的に世界を害する存在なんだから」
世界、とは随分大きな物言いだが、彼は興味なさげにさっさと話題を切り替える。
「ともかく、『シロガネチカ』と『カドイシュン』は、3年前に死んだ人間の名前さ。私が知りたいのは、その内の『シロガネチカ』が
どうやって死んだのか
。それを志賀太陽の記憶を読むなり、話を聞くなりして探って欲しい」「ど、……どうして、そこで志賀さんが出てくるんですか?」
志賀と宮藤の反応からして、彼らは男の出した名前を知っている。それは分かっていたが、どうしても問わずにはいられなかった。
しかし、問われた男の表情を見て、夏波は酷く後悔する。その質問を待ってましたと言わんばかりに、ニコリと笑顔を作ったからだ。作り物であると自ら知らしめているような笑みを貼り付け、彼は答えた。
「だって『シロガネチカ』を消したの、アイツだもん」
「え……?」
男の発言に、夏波はきょとんと呆けた。男はそんな夏波を見て、腹を折って大笑いを始める。
「良い反応するねー!やっぱり何も知らされてなかった訳だ!まあそりゃそうか!」
困惑する夏波の前で、男は暫く笑い転げた。目に浮かぶ涙を指で拭いつつ、彼は続ける。
「この取引はさぁ、慈善事業的な側面もあるんだよね。君は多分志賀太陽に騙されてるから」
「騙されてる……?」
男がすっくと立ち上がって、夏波に黒々とした影を落とす。
「君が何でアレと一緒にいるのかは知らないけど、どうせ『保護』とか言われたんじゃない?それで、未だに言ってるんでしょ?『能力者を保護したい』とかって」
「それは……」
間違いないが、それの何が騙されているというのか。
夏波が怪訝そうな顔を崩さないのを見て、男は小さく息をつく。
「その調子じゃ考えたこと無さそうだね」
「何を……?」
「君、自分以外に『保護』された能力者って、見た事ある?」
問われて、ふと俯く。
そういえば話を聞いたことはない。確かに夏波は保護のために特殊対策室に引き入れられたのだと聞いた。しかし、それは夏波が警察で、その上手袋を装着していれば害が無かったから成り立つ話だ。
では、例えば伊霧芽郁を保護したとして、一体どうするつもりなのだろうか。
触れるもの全てを塩と化してしまう彼女に、どう対処するつもりだったのだろうか。
夏波が特殊対策室に入る前から、志賀は“能力者”が関わる事件を追っていたはずで。だとすれば、かつて『保護』したのだろう“能力者”は今どこにいるのだろう。
湧き出てきた疑問に不安を掻き立てられ、夏波はじっと沈黙する。
「ほらね?」
心臓が鳴る。
そんな訳がないと脳が否定を続けている。しかし心に残る不安はどうしても吐き出せず、夏波は手袋のはまった手で心臓部分の服を掴んだ。
「それに、おかしいと思わない?」
「な、に……」
「志賀太陽の能力について」
男はその名前を吐き捨てる様に呼んで、嫌悪感を露わにする。
「能力ってのはさ、発動に条件がある人間もいるんだ。君らみたいに、手袋を自分の意志でつけ外しできる能力者ってのは、その発動条件が厳しいから他よりも危険がないって訳。けどその条件だって、一度は発動してみないと分からない。そうだよね?」
「それが、一体……」
「志賀太陽は、自分の能力の事、なんて言ってた?」
男の問いかけが、記憶の奥底を叩いている。
そうだ、確か志賀は言っていた。
『自分の能力は、人を殺すためのものでしかない』と。
つまり男の話をそのまま飲み込むのなら、それは
「どう?志賀太陽の事、信用できそ?」
拳を強く握り、掌に爪が立つ。それでも力を込める事はやめられない。感覚が無くなる程に、夏波は全身を固く強張らせた。
完全に色を失った夏波を嘲笑いながら、男はまた肩を竦める。
「そうそう。世の中そんな簡単に人を信じたらいけないのよ」
疑いたくはない。しかし、理解ができない訳でもない。
心が受け入れる事を拒否し、思考は止まる寸前だ。だというのに、どことなく腑に落ちてしまうのが不快だった。
次第に呼吸が浅くなっていく夏波を見つめ、男は言う。
「ってことで、私は騙されてる君とは、できれば仲良くやりたいなと思う訳。だからこその取引。君が『シロガネチカが3年前にどうやって死んだのか』調べて教えてくれたら、私も君の知りたい事に答えてあげよう。ま、勿論私が知る範囲の事だけど」
男の表情は一貫して笑顔だった。だが、笑っているのは口元だけで、それはまるで道化師の化粧のようにも見える。
「あ、当然だけど、私の事を誰かに話した時点でこの話は無しね。契約違反の代償は……君の身の回りの人間に及ぶかもなぁ、なーんて」
「それって……!」
脅迫じみた文言に、夏波は思わず前のめりになる。しかしそれを手で制し、男は薄く笑った。
「他言しなきゃいい話だよ。それに、悪いモンでもないでしょ?君だって知りたい筈だ」
夏波は沈黙を貫いた。
男の話は、確かに納得できる部分もある。
だが、志賀にはこれまで何度も救われているし、宮藤の優しさにも触れている。
対して目の前の男は、夏波を攫い、その上死ぬ事を容認した人間なのだ。
どんなに言いくるめられようと、これまでの話を鵜呑みにはできなかった。
男はそんな夏波の心境を察したのか、肩を竦めてからくるりと踵を返す。
「まぁ、しっかり考えな。またちょっとしたら連絡するよ」
男はそう言うと、ポケットから鍵を取り出して、ぽんとベッドの上に放り投げた。
「返しとくね。もう勝手に家に入ったりはしないし、盗聴とかも特に無いから安心して……、って、そうそうできないか」
声を立てて笑いながら男は部屋の入口まで歩き、扉を引き開ける。
ゆっくりと足に力を入れて立ち上がった夏波は、「あの」と、彼の後ろ姿に声をかけた。
「結局、……貴方は何者なんですか」
首だけをこちらに向けて、男は気怠げに目を細める。
「普通のどこにでもいる一般人。名前は、……そうだな」
キョロキョロと室内を見渡し、男の視線は机の上に乗っていた新聞紙を捉えた。
「じゃ、ミヤギで」
今さっき考えついた偽名なのだという事を隠しすらしない。適当な二文字を拾ったことは透けていた。
飄々と話すミヤギを、夏波は精一杯睨みつける。それを横目で見た彼は、ひらりと手を振ると「それじゃ」と言い残し、その場を去っていった。
バタン、と玄関の扉が閉まる音を聞き届け、夏波はへなへなとその場にへたり込む。
心臓は痛い程悲鳴を上げ続けていた。
――“鯨”、だったの?
ミヤギは確かに“鯨”が使っていた音声を流していた。けれど、それならばどうして今“鯨”と名乗らなかったのか。疑念は残り、確証を得るには至らない。
だが、彼は“鯨”について何かしらの情報を持っている。それだけは間違いないのだ。
――それに、志賀さんの事
かなり一方的な取引内容ではあったが、ミヤギの言っている内容には無視できない事も多く含まれていた。
3年前に何が起こったのか。志賀と宮藤はどうして、『シロガネチカ』と『カドイシュン』について口を閉ざしているのか。
能力の事も、保護した人間の行く末も。夏波は何も知らない。
――調べよう
ふらりと立ち上がり、夏波は深呼吸を繰り返す。
――大丈夫
自分には、記憶を“読み取る”力があるのだから。