頼まれていたモノを早々に買い終え、俺とつなは寄り道をしていた。
公園に入るなり、走り出したつなに注意をする。
そして追いつくなり、その頭に手を置く。
つなは小さな手を差し出してくる。
俺はそれを暫く凝視し……ってなに、意識してんだか。
キャラじゃないけど、仕方ない。
ってか、これくらいは妹相手によくやっていたんだ。
その笑顔に妹を思い出そうとするも、上手くいかなかった。
手の感触も違う。俺が大きくなったのもあるが……小さすぎる。
きっと簡単に握り潰せてしまいそうなほど――この手は脆い。
不穏な空気を機微を察して、つなが心配そうに見上げてくる。
その〝歪さ〟が目に余るから、俺は下らない妄想を掻き立ててしまう。
慎重に力を加え、大丈夫だと伝える。
たぶんきっと、優しく笑えているよな?
つなが指をさした先には、移動式のクレープ屋があった。
こういうところは素直な子供である。
俺はつなのペースに合わせてゆっくりと歩き――
(マジかよ? あの制服、ウチの生徒じゃねぇか……)
このまま回れ右をしたくなるも、つなの喜びようを見る限りそうもいかない。
俺は気配を消して並び、そいつらに背中を向ける。
オレ様バナナチョコバナナ。
オレ様のチョコっとバナナ?
ってオレのバナナはちょこっとじゃねぇ!
ジジのバナナは食べたくないなぁ。
けど、色々あるんだね。
ねここはお好み焼き?
えっ? あっ?
いや、なんでこの暑い日に惣菜系に走るっすか?
(……なんだ、このくそ迷惑な奴らは? つか、ジジにねここに閣下って誰だよ?)
意外にメニューが多かったので、俺はつなを持ち上げて看板を見せてやる。
甲高い子供の声に引かれてか、前に並んでいた三人が一斉に振り返る。
ふっ……。幼女に食われるのなら、オレ様のバナナも本望だぜ
捕まりたいの? 初対面の幼女にそんなこと言うなんてさ。
バカなのは知ってたけど、ここまでとは。
そういうのは保護者のいない隙に言わないと
閣下、それフォローになってないっす。
むしろ、犯罪臭が増してるっすよ
運よく、つなを抱えていたので俺の顔は隠せていた。
が、いつまでもこうしているわけにもいかず、俺は恐る恐るつなを下ろす。
誤解しているようだから言っておくが、オレのは巧妙なひっかけだぜ?
この二人が健全な関係性かどうかを確かめたんだ
なるほど。
昨今のニュースを聞く限り、男子高校生と幼女の組み合わせは危ないという訳だね
危ないと思う、その思考が危ないと思うんすけどぉ?
普通に兄妹じゃないっすか?
つまり、兄弟じゃなかったらアウト、犯罪だな!
……おい、どう見ても似てないと思うんだが?
ジジ、失礼だよ。
でも、本当に似てないね。
まさか、本当に犯罪だったりする?
あまりの勢いと展開に呑まれてしまったが、ここまで言われて黙っていられるほど俺は優しくない。
でもよぉ。
このくっそ暑い日に長袖を着せるなんて可哀そうだろ?
アキバ君。
自分たちのことを全力で棚に上げて言うけど、そーいう態度は子供の前では止めたほうがいいと思うよ
気づけば、つなは俺の脚を掴んでいた。
その上、自分が悪いと思い込んでか目が合うなり謝った。
で、そのコはアキバ君の妹? 義妹? 近所の妹分?
それとも、お菓子か何かで釣り上げた子?
(こいつも大概だな)
……つか、なんで俺の名前を知ってんだ?
正論だった。
同じ理由で、俺もこいつが芳野だと知っている。
これで数秒は持つ……いや、持たせてどうする?
さっさと終わらせないと――
俺が悩んでいると、新たな客がやって来てつなと親し気に話し出す。
つなに姉はいないから、集団登校か何かで一緒の上級生だろう。
小学生にしては発育が良いようで、背も胸も中学生の妹より大きい。また、長い髪に涼しげなワンピースと、女性らしい要素に満ちている。
無配慮に見ていると、警戒心を露わに訊かれてしまった。
いや、違う……
(くっそ、芳野たちの所為で言い辛いじゃねぇか)
言葉を探していると、つなが説明になっていない供述をしてくれた。
それでも、親しい間柄なのはわかってくれたのか祥子とやらは笑顔を浮かべる。
微笑ましい空気をぶち壊す発言。
威嚇も兼ねて俺が前を睨むと、
一人しか、目が合わなかった。
芳野ともう一人は無視して、クレープを受け取っている。
ちょっ! なんでおれが言う時だけ無視するんすか?
せっかく、勇気を出して先陣を切ったのに酷いじゃないっすかぁーって、閣下、ジジ!?
先に行かないでくださいよ。おれまだクレープ……
高学年の女子に対してはシャレにならないと判断したのか、芳野たちは去って行った。
取り残された一人もそれを追いかけ、平穏な空気。
さっきの人たち……しーくんさんのお知り合いですか?
真面目だが、融通の効かないタイプか。
やけに長い指を絡ませながら、祥子は言い分を述べた。
別に構わないさ。
それと、さっきの三人は知り合いじゃない。
名前も芳野しか知らないし
やけに残念そうだが、マセている女の子なら興味を持っても不思議はない。
見た目だけなら、芳野は文句なしのイケメンである。
この子のおかげで助かったのだから、これくらいのお礼は当然であろう。
口にしてから、俺は後悔する。
小学生とはいえ、高学年の女子をガキ扱いするのはマズかったかもしれないと。
とはいえ、所詮は小学生。
注文したクレープを食べる頃には無邪気に笑っていた。