第24話 新訳、幸福な王子
文字数 3,101文字
俺には断言できない。
けど、アキトは確信しているのか、いつもの澄まし顔で先導している。
こちらの会話を聞いていたのか、アキトが叫んだ。
俺はそうツッコミたいのを必死で堪える。
なんでかって?
そりゃ、始まりのブザーとアナウンスが入ったからだ。
とある街、自我を持った王子の像。
街の人々の自慢で、宝石や金を纏った体。
そこに一羽のツバメがやって来て、王子の知らない世界を語る。
貧しい人々、哀しい世界を知った王子は自らの体を与えるようツバメに頼む。
ツバメはそれを了承し、街中を飛び回る。
そこにジジはいた。
貧しい身なりで、若い劇作家を演じている。
ナレーションが入る前から、飢えているとわかった。
マイクを使わないで、よくそこまで大きな声が出るものだ。
それも飢餓で今にも死にそうな弱々しい印象を残したまま――
素直に凄いと、賞賛せざるを得ない。
舞台裏で端役と言っていただけあって、ジジの出番はすぐに終わった。
冬の訪れ。
渡り鳥であるツバメは寒さに耐えきれず、死を悟った。
それでも、最期は王子の傍でと……力尽きた。
そこで、鉛でできた王子の心臓も割れてしまった。
美しかった体は全て街にいる貧しい人々に与えられ、残ったのはみすぼらしい身体のみ。
だからだろう――街の人々は王子を柱から取り外した。
そうして、ツバメはゴミ溜め。
王子は溶鉱炉――
その台詞に会場がざわめきだす。
隣に訊く前に、パッと光が放たれた。
一筋の射線。
暗闇には無残な王子と――
おまえたちがそれを言うか?
おまえたちが王子を作ったから、街の人々に貧困が訪れた。
それを王子は救ってくれたんだ。いつまでも綺麗なままでいれたはずなのに……っ!
それを犠牲にしてまで、俺たちを救ってくれたんだ!
ジジーー劇作家は項垂れる。
膝をついて、手で顔を覆いながら悔し涙を流す。
元の流れは知らなくとも、緊張の緩和は見て取れた。
このまま元の筋書きに戻る――
そう思った矢先、また声がした。
スポットライトよりも早く姿を現したのは――
最後に出番を控えていた天使だった。
同じ言葉を繰り返し、やっと光に照らされる。
天使は王子とツバメを抱きしめた。
そうして暗転――幕は下りていった。
委員長はジジを絶賛していた。
俺自身はオリジナルを知らないのでなんとも言えないのだが……
幕間が終わり、エピローグ。
そこは筋書き通りだった。
ただ王子は時々、思い出していた。
みすぼらしい姿になった自分に手を差し伸べてくれた、一人の劇作家のことを――
劇が終わり、喝采が降り注ぐホール。
舞台には役者たちが勢ぞろいで、満面の笑みを浮かべていた。
そこにジジもいた。
本当に演劇が好きなのか、委員長は丁寧に教えてくれた。
役者に当てて書く。
それは脚本家からの恋文であり、挑戦状でもあると。
お互いに恥ずかしいだろうから、黙っておいてやろう。
俺は訝しがるアキトを放置して、次の演目を楽しみにしていた。