第25話 集結、勇者御一行

文字数 778文字

お疲れ

 ホールの外で待っていると、やっとジジが出てきた。

 俺は何事もなかったかのように声をかけ、買っておいた飲み物を渡す。

おっ、気がきくね~

しかし、おまえ凄かったんだな
ふっ、今更気付いたか
でも、なんでアドリブなんていれたんだ?

 やる気なかったくせして、という嫌味は呑み込んだ。

 けど、伝わったのかジジは真面目な顔で答える。

ああいう王子はな。

天使なんかじゃなく、人に救われるべきだって思ったからだよ

珍しく、気が合うな

 俺たちは互いに笑みを合わせる。


悔し涙のシーンなんて、ほんとすごかったっす!
あれって本物? 目薬?
あー、あれはな
 そう言って、ジジが取り出したのはいわゆる毛抜きだった。

これで鼻毛を思いっきり抜いたんだ。

そうすると、まじで痛くて涙でるんだぜ

 わからなくはないが、あまり聞きたくなかったネタ晴らし。
ねここ、試してみるか?
いや、遠慮するっす
 四人で馬鹿をやっていると、校舎内の出し物が終了を告げる放送。
もう、そんな時間か……

 同時に中等部の文化祭の終了。

 残りは高校の校舎外での出店とキャンプファイアー。

――これから、どうする?

 気づけば、俺は普通に訊いていた。

 自然体で、それが当然と言わんばかりに声をかけた。

とりあえず、出店を回りながら考えよう
フォークダンスは踊る相手がいないっすから
ねここだけな
えっ!? マジっすか? みんなはいるんすか!?
料理部に行ったら、余りものをもらえたりしないかな?
んな浅ましい真似できるか
それこそ、勇者の特権だと思うけどな
ちょっ! どうなんすか! みんなして、おれを無視するんじゃないっすよ!

 ねここがムキになって、問い詰めてくる。

 俺たちはそれをあしらし、茶化し――

 迷惑にも、男四人は騒ぎながら道を闊歩する。

 ――賑やかな幕間。

 きっと、ここが俺たちの始まり。

 

 四人が仲間になり――

(――俺が勇者になった日だ)

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登場人物紹介

主人公、秋葉(あきば)

諸事情により名前は黙秘。作中でさえ語られないものの推理は可能。

ちなみに母親などから「しーくん」と呼ばれている。

両親がパティシエなこともあり、お菓子作りが得意。

高校1年生だが友達はおらず、クラスで孤立している。


芳野アキト。友人たちからは何故だか「閣下」と呼ばれている。

人を食ったような性格で、何を考えているのかわからない。

ピアノの腕前は天才と称されるほどだが、とある事情から距離を置いている。

秋葉と同じ高校1年生で、彼とは別の意味で浮いた存在。

十文字マキナ。友人たちからは「ジジ」の愛称で親しまれている。

見た目はチャラいものの、発言の多くが著作権に触れかねないほどのオタク。

元天才子役だが、とある事情から舞台を去っている。

秋葉と同じ高校1年生で、アキトとは幼馴染の関係。

猫田。下の名前は誰も知らない。友人たちからは「ねここ」と呼ばれている。

アキトやマキナと共にいるのが不思議なほど、特徴のない少年。それを自覚してか、語尾で頑張ってキャラ付けをしている。

秋葉と同じ高校1年生で、アキトとは同じクラス。

四宮初菜(しのみやはつな)、小学1年生。

秋葉の母親の後輩である、和佳子の娘。

年齢に見合わない仕草や影があり、見る人が見れば歪な少女。

江本祥子、小学6年生。初菜にとって、おねーさん的存在。

アキトたちと面識がある様子だが、その関係性は不明。

年齢の割に大人びていて、手が大きい。

四宮和佳子。初菜の母親で年齢は内緒。

秋葉父の教え子であり、秋葉母の後輩。現在は秋葉両親が営むカフェの従業員。

曰く、元キャリアウーマンらしい。旦那とは離婚している。

秋葉の母。女性の菓子職人パティシエール。

夫とは年が離れているからか、年齢の割に少女の面影を強く残している。

秋葉の父。元教師、元彫刻家。現在はパティシエ。

妻との出会いは学校の教師と生徒だが、関係を持ったのは卒業後。

涼子先輩。料理部の部長で高校3年生。

中高一貫なので、中学時代から秋葉のことを知っている。

だが、高校生になってからは一度も会っていない。


 秋葉のクラスの委員長。

 孤立している秋葉を気にかけている。

保険医。サボり癖のある秋葉とアキトが一番お世話になっている先生。

なのに、2人からは名前すら憶えて貰っていない


増田先生。

数学を教えている高校教師で、生徒からは嫌われている。

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