第19話 勇者の務め

文字数 1,450文字

今更だが、離れて良かったのか?

うん。

好きな時に弾けばいいって約束だし

自由だな
自力で手に入れた自由だけどな
どっちにしろ、休憩は必要だよ
じゃ、料理部のカフェにでも行くか
は? ちょっと待て――
待てと言われて待つ奴がいるか!
ちょ、ジジ。疲れてるんだけどー
けど、走るんすね
……あー、もうっ!
 慣れたもので、俺は三人を追いかける。
うへー、結構並んでんな
部活主体のとこは、中等部の人気が高いね
女子ばっかっすね
けど、どのぐらい待つんだ?

 ジジが背伸びをして覗き込もうとする。

 この列では頭一つ分は飛び出ているので目立ち、

すいません。あと、三十分は待つかと……
 すぐに接客係がやってきて、具体的な時間を提示した。もしかしなくとも、面倒な客と認識されたのだろう。
三十分だってよ? 他、行かないか?
 俺は諦めの方向へ誘導しようとするも、失敗。
あ! さっきの
さすが勇者。顔パスか?
あー、ちょっと待ってね
いや、いい――
 俺の言葉を聞かないで接客係はスカートをひるがえす。
 咄嗟に手を伸ばすも、虚しく空を切り――呼び止めようにも、名前がわからなかった。

からぶったとはいえ、躊躇いもなく手を掴もうとするとは!

さすが勇者

そんなことよりも、今のスカートのひるがえり方! 

かなり、良くなかった?

絶対領域!
おまえらな……!

 自分たちが目立っているって気付いていないのか? 

 それとも、人の視線なんてどうでもいいと思っているのか、いつものノリで好き勝手に喋りやがる。

 はっきり言って、俺は恥ずかしくて居た堪れない気分だ。

あ、秋葉君

涼子先輩。わざわざ、すいません。

けど、俺たちは別に――

ごめん! 

せっかく来てくれたところ悪いんだけど、ヘルプ頼める?

……はい?

秋君が考案したメニューが大人気なの。

あれって結構手間がかかるから、人手をとられちゃって

 オーダーを受けてから、卵液にくぐらせてフライパンでソテー。バナナも同様。
 添えるアイスも女子の腕力では容易くはいかず、普通に出すだけのケーキより手間が多いのは明らか。                       


勇者よ。

オレたちが早く座れるように頑張ってくれたまえ

 ジジが力強く、俺の背中を押す。
ありがとう
一歩踏み出したのを承諾と勘違いしてか、涼子先輩は前のめりになりかけていた俺の腕を取った。

結構、重要なイベントだと思うよ? 

フラグがたつくらいのね

そうっすよ。

トラブル&ヘルプのコンボは決まったも同然っす

 アキトとねここは意味不明な言葉を浴びせ、俺を見捨てた。
あれ? 秋葉君?

 涼子先輩に引っ張られるまま教室内に入ると、うちのクラスの委員長であろう人が、じぃ~と恨みがましい視線を送ってきた。


あ、どうも
 それでも、相手に確信が持てなかったので適当な挨拶で誤魔化す。
どうして秋葉君がここに? というか朝礼の時、居なかったよね?
ちょっとばかしヘルプにな
へー……、そうなんだ
 声のトーンが下がる。彼女の目線は繋がれた手に向けられていた。
っと……で、今から注文か?

 掴まれている以上、振りほどけはしない。

 言葉で煙に巻くしかないと、俺は口を開く。


あ、うん
ちなみにこれが俺の考案メニューで、今から俺が作る奴だ
えっ?
良かったら頼んでくれ

 俺はそう告げて、足早に調理室へと歩き出す。


ひゃぁっ、と、秋葉君

 手を放せばいいものの、涼子先輩はそうしなかったので俺に引っ張られる感じとなった。


お疲れ
 俺は部員たちに軽い労いの言葉をかける。
で、エプロン借りていい?
 そして、そう頼むとみんなが期待の声で迎えてくれた。
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登場人物紹介

主人公、秋葉(あきば)

諸事情により名前は黙秘。作中でさえ語られないものの推理は可能。

ちなみに母親などから「しーくん」と呼ばれている。

両親がパティシエなこともあり、お菓子作りが得意。

高校1年生だが友達はおらず、クラスで孤立している。


芳野アキト。友人たちからは何故だか「閣下」と呼ばれている。

人を食ったような性格で、何を考えているのかわからない。

ピアノの腕前は天才と称されるほどだが、とある事情から距離を置いている。

秋葉と同じ高校1年生で、彼とは別の意味で浮いた存在。

十文字マキナ。友人たちからは「ジジ」の愛称で親しまれている。

見た目はチャラいものの、発言の多くが著作権に触れかねないほどのオタク。

元天才子役だが、とある事情から舞台を去っている。

秋葉と同じ高校1年生で、アキトとは幼馴染の関係。

猫田。下の名前は誰も知らない。友人たちからは「ねここ」と呼ばれている。

アキトやマキナと共にいるのが不思議なほど、特徴のない少年。それを自覚してか、語尾で頑張ってキャラ付けをしている。

秋葉と同じ高校1年生で、アキトとは同じクラス。

四宮初菜(しのみやはつな)、小学1年生。

秋葉の母親の後輩である、和佳子の娘。

年齢に見合わない仕草や影があり、見る人が見れば歪な少女。

江本祥子、小学6年生。初菜にとって、おねーさん的存在。

アキトたちと面識がある様子だが、その関係性は不明。

年齢の割に大人びていて、手が大きい。

四宮和佳子。初菜の母親で年齢は内緒。

秋葉父の教え子であり、秋葉母の後輩。現在は秋葉両親が営むカフェの従業員。

曰く、元キャリアウーマンらしい。旦那とは離婚している。

秋葉の母。女性の菓子職人パティシエール。

夫とは年が離れているからか、年齢の割に少女の面影を強く残している。

秋葉の父。元教師、元彫刻家。現在はパティシエ。

妻との出会いは学校の教師と生徒だが、関係を持ったのは卒業後。

涼子先輩。料理部の部長で高校3年生。

中高一貫なので、中学時代から秋葉のことを知っている。

だが、高校生になってからは一度も会っていない。


 秋葉のクラスの委員長。

 孤立している秋葉を気にかけている。

保険医。サボり癖のある秋葉とアキトが一番お世話になっている先生。

なのに、2人からは名前すら憶えて貰っていない


増田先生。

数学を教えている高校教師で、生徒からは嫌われている。

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