第21話 浅い闇落ち、根深い溝
文字数 1,628文字
料理部をあとにした俺たちは、中等部の敷地をぶらついていた。
ちなみに妹――千代見にはメールで高等部に誘導しているので出会う心配はない。
展示物を拝見しながら、三人が中学生の良さを語っていると放送がかかった。
高等部一年六組、十文字マキナ。
至急、演劇ホールまで来るように。繰り返す――
それが理由で今まで自己紹介をしなかったと考えると、親近感が湧いた。
ジジは……怒っていた? よくわからないが、感情的になっていた。
今までの振る舞いが演技だったかのように、声すら違う。
すると、また放送が鳴り響いた。
高等部一年五組、芳野アキト。
もしくは、高等部一年一組、秋葉――
俺の雄叫びが、放送の一部をかき消した。
現状、俺たちは目立っていた。
理由は言わずもがな――今回に限っては俺が悪い。
俺は有無を言わさずに、ジジの腕を掴む。
走りながらもジジが抵抗を示すので、スタミナゼロのアキトにすら追いつかれていた。
聞き捨てならない一言があったが、今はそれどころではない。
ジジが、俺の鳩尾に拳を伸ばしてきやがった。
手首を叩き、どうにか軌道を逸らさせると左胸に衝撃――
どうやら二人には読めなかったようだ。
助かった。
図星過ぎて、言い返せない。
が、これ以上なにかを言わせる気はない。
俺はジジの首根っこを掴んでいた。
それはもう全力で――頚動脈に爪を立てていた。
脅しに屈したジジは、あっというまにアキトとねここに差をつける。
かく言う俺も、置いていかれないだけで精一杯だった。
そろそろ、スタミナの限界だ。
食べたモノが胃にのしかかってくるも、急かした俺が根を上げるわけにはいかず、意地で食らいつく。
それなのに、ジジはまだ余裕を見せている。
いったい、どんな肺活量をしているんだか……。