第3話 変わった関係

文字数 933文字

 チャイムが鳴り響く。

……はぁ

 俺は目を覚まして、帰り支度をする。

 もちろん、ここは保健室ではなく教室。午後の授業は出て、こうして眠っていた次第だ。

 ホームルームは残っているが、ここ最近はお決まりの内容なので帰って構わないだろう。

ちょっと、秋葉君。まだホームルームが――

 目敏く、委員長が注意をしてきたが俺は結果的に無視を選ぶ。

 何を言っていいかがわからず、黙って鞄を背負って教室を出た。

……あぁ。さよならぐらい、言っとけばよかったか

 昇降口で今更なことを呟き、俺は帰路に付いた。

 自分の部屋に荷物を置いて、制服のまま店に向かう。

いらっしゃいって、しーくんか

 店に入るなり、和佳子さんが出迎えてくれた。

 白のカッターにエプロン。以前はバリバリのキャリアウーマンだったらしいが、その面影を見ることはかなわない。

しかし、早いわね
特にやることもないんで

高校生でしょ? 

楽しいこと、たくさんあるでしょうに

 普通はそうかもしれないが、一人でやれることはそんなにない。

 なので、店の手伝いをしているのが一番有意義だと思う。

ここんとこ先輩や先生がいないから、助かるっていえば助かるんだけどね
 和佳子さんが入って時間にゆとりができたのか、父さんと母さんは最近、カフェのほうには顔を出さなくなくなった。
 大きなコンテストに出るらしく、ケーキを作ったあとも隣の工房に篭っている。
あ、しーくんだ
よっ、元気か
元気だよ
 話し声に釣られてか、店の奥にいたつなが俺に駆け寄ってきた。
こうしてみると兄妹みたいね
そうですか?

 俺はつなを見下ろし、浮かんでくる感情は妹に対するモノとは微塵も一致しない。

 惹かれているのは確かだけど、それは決して――微笑ましい感情なんかじゃなかった。
 

う?
 頭を撫でてやると、無邪気に見上げてくる。
 俺は学校で吐き出す機会のない笑みを零し、暗い感情に蓋をする。
ぁ、そうだしーくん
あん?

その乱暴な口調は止めなさいって。

つなが怖がるでしょう?

すいません。で、なんでしょうか?

つなを連れてお使いにいってきてくれる? 

お店とは関係ない、個人的なものなんだけど

別に構わないですけど

ありがとう。

なら、これをお願い

 手渡された紙を見る限り、小学校で使うモノのようだ。

行くか、つな
うん!
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登場人物紹介

主人公、秋葉(あきば)

諸事情により名前は黙秘。作中でさえ語られないものの推理は可能。

ちなみに母親などから「しーくん」と呼ばれている。

両親がパティシエなこともあり、お菓子作りが得意。

高校1年生だが友達はおらず、クラスで孤立している。


芳野アキト。友人たちからは何故だか「閣下」と呼ばれている。

人を食ったような性格で、何を考えているのかわからない。

ピアノの腕前は天才と称されるほどだが、とある事情から距離を置いている。

秋葉と同じ高校1年生で、彼とは別の意味で浮いた存在。

十文字マキナ。友人たちからは「ジジ」の愛称で親しまれている。

見た目はチャラいものの、発言の多くが著作権に触れかねないほどのオタク。

元天才子役だが、とある事情から舞台を去っている。

秋葉と同じ高校1年生で、アキトとは幼馴染の関係。

猫田。下の名前は誰も知らない。友人たちからは「ねここ」と呼ばれている。

アキトやマキナと共にいるのが不思議なほど、特徴のない少年。それを自覚してか、語尾で頑張ってキャラ付けをしている。

秋葉と同じ高校1年生で、アキトとは同じクラス。

四宮初菜(しのみやはつな)、小学1年生。

秋葉の母親の後輩である、和佳子の娘。

年齢に見合わない仕草や影があり、見る人が見れば歪な少女。

江本祥子、小学6年生。初菜にとって、おねーさん的存在。

アキトたちと面識がある様子だが、その関係性は不明。

年齢の割に大人びていて、手が大きい。

四宮和佳子。初菜の母親で年齢は内緒。

秋葉父の教え子であり、秋葉母の後輩。現在は秋葉両親が営むカフェの従業員。

曰く、元キャリアウーマンらしい。旦那とは離婚している。

秋葉の母。女性の菓子職人パティシエール。

夫とは年が離れているからか、年齢の割に少女の面影を強く残している。

秋葉の父。元教師、元彫刻家。現在はパティシエ。

妻との出会いは学校の教師と生徒だが、関係を持ったのは卒業後。

涼子先輩。料理部の部長で高校3年生。

中高一貫なので、中学時代から秋葉のことを知っている。

だが、高校生になってからは一度も会っていない。


 秋葉のクラスの委員長。

 孤立している秋葉を気にかけている。

保険医。サボり癖のある秋葉とアキトが一番お世話になっている先生。

なのに、2人からは名前すら憶えて貰っていない


増田先生。

数学を教えている高校教師で、生徒からは嫌われている。

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