第9話 放課後RPG
文字数 2,473文字
授業が終わって、昇降口。
まだホームルームの時間帯なのに、どうしてこいつらはここにいるのだろうか?
しかし、聞き捨てなら無い一言があったので俺は緩む頬を噛み殺す。
奇しくも、同じ思考回路でサボっていたようだ。
微塵も記憶にないので、おそらく外部進学組。
さすがに、こいつらを三年間も見逃すことはないだろう。
そんな関係すら、俺は羨ましく思う。
もし、このまま店にいけば会う可能性はある。
かといってそれは絶対ではないので、俺の答えは間違いではない。
だから、勘繰っている二人には悪いがそう簡単に顔に出やしない。
俺は引き攣った声で確認を取る。
二人は申し合わせたようにお互いの顔を見て、にやりとした。
溜息一つ。
俺は諦めたふりして相手の油断を誘い――
走りだした俺を追いかけてくる二人。
部活にこそ入っていないものの、持久力と筋力を除けば俺の運動能力は決して低くない。
やけに芝居のかかった口調で芳野が叫ぶ。
そう、叫ぶ。
つまり、注目を浴びる。
そう、ツッコミたいのを必死で抑え込む。
同じベクトルで騒いで、これ以上奇異の視線を向けられるのはまずい。
ジジが叫ぶ。
そう、叫ぶ。
大声で勇者と口走る。
つまり注目を浴びる。
勇者ってなにかしら。あの子のこと?
高校生にもなって恥ずかしくないのかしら
道行くオバサンたちの声が耳に届いて、俺は軽く落ち込む。
が、ジジの脚が予想以上に早いので、いつまでも気にしているわけにはいかなかった。
ジジは金魚の糞のように付いてくる。
無駄にでかい声をあげて――いったい、どういう肺活量をしているのか訳がわからないほど喧しくも早い。
噛み合わない会話に俺はキレた。
無視すればいいのに、俺はできなかった。
ついつい喧嘩を買ってしまい、同じベクトルで言い返す。
住宅街には時折り、行き止まりがある。
他にも私有地となっている道路や袋小路などなど。
ジジの言う通り、行く先には店の外壁があった。
だが、俺は気にせず駆け走り――壁を蹴り、跳び上がる。
パルクールにおける、ウォールランからのクライムアップ。
三メートル程度とはいえ、垂直の壁をよじ登るには技術が必要である。
披露する機会に恵まれない特技も見せつけることができて、俺は優越感に浸る。
俺はそう言い残して、ジジとは反対側に飛び降りた。
ジジの絶叫が聞こえた。
最後の最後まで、うるさい奴である。
現にここは他人様の敷地ではなく、ウチの店だった。
つまり、不法侵入ではなくショートカット。
もっとも、両親にバレたら怒られるので俺は隠密に表口へと向かう。
つまり、ジジはゴールまであと一歩のところに来ていたのだった。