第7話 親子で恋バナ
文字数 1,951文字
当然のように、俺たちは戻ってきた保健室の主にこっぴどく怒られた。
ただ、小言を受けたのは芳野だけ。
俺ともう一人は、そのまま早退を言い渡された。
初耳だった。
俺が知っているのは、両親の友人や親族が笑いながら言っていたことだけ。
父は生徒だった母に手を出したと。
相手に悪意がないのは子供ながらにわかっていたけど、どうしてそんな風に言うんだって俺は納得がいかなかった。まるで父が悪く言われているみたいで、凄く嫌だったことを憶えている。
母さんは少女のようだった。
元々、性格や口調はそれに近いのだが、今は顔つきまでもが幼い。
その話は知っていた。
俺ができたのを機にあっさりと転職。
父さんの友人には、フランス人も何人かいる。毎年必ず、誰かが店にやってくる。
こんな小さな街まで、わざわざ――
俺の名前の由来は竹の異名らしい。
古臭くて個人的には嫌いなのだが、父さんが作ってくれたその名を冠するお菓子は好きだった。
飴がけのエクレール。
シュー生地の上部にかかった飴を噛み砕く、パリっとした歯ごたえが堪らなく美味しいのだ。
的を射た指摘に息を呑む。
家族には話していないのに……偶然か、それとも確信があってのことか。
恐る恐る、母さんと目を合わせてみると満面の笑み――
中学生の妹に知られると面倒だったので、そこだけは頼んでおく。
もっとも、その心配は杞憂に終わった。
千代も父さんも心配こそしてくれたが、いつも通り。
ただ、母さんのテンションが割り増しになっていて、早退したにもかかわらずあまり休めなかった。