第11話 アルペジオ
文字数 1,618文字
選択芸術の授業――音楽が終わったあと、何故か先生に呼び止められた。
勇者と呼ばれて以来、今日までずっと芳野たちは俺に付き纏っていた。
昼休みと下校の間は一緒だったので、そう勘違いされるのも無理はない。
先生の喋る速度が上がっていく。
また授業中とは違う口調に、俺は戸惑ってしまう。
学校ならではの救済処置。
実力がなくとも、そこになら個人の作品やレポートを展示できる。
先生は勝手なお願いを言いきって、去っていった。
芳野の気持ちはおろか、俺の返答すら無視して――
ドアを開けて、真っ先に出迎えてくれたのが芳野。
かけられる言葉が遅かったね。
授業態度が悪いにもかかわらず、さほど注意を受けない理由はこれである。
俺は担任や学年主任の授業には真面目に参加し、優秀な成績を収めていた。
要は、さぼる授業をうまく選んでいる。
保険医はあからさまに目を逸らした。
それどころか俺たちの注意を手放して、自分の仕事に戻っていった。
俺は慣れた手つきで緑茶を淹れて、芳野と保険医に渡す。
保険医はなにか言いたそうな顔をするも、溜息一つで諦めた。
いつもの作った表情も抑揚もなく、淡々としていた。
だから、紛れもなく芳野の本音なのだろう。
芳野からしたら、踏み込んで欲しくない問題なのは一目瞭然。
けど、こいつは俺の問題にずげずげと踏み込んできた。
だからお返しってわけじゃないが、あえて突きつけてやった。
先生の言うことを真に受けたみたいになるのは癪だったが、俺自身こいつのピアノに興味があった。
芳野はらしくもなく、俯いていた。
芳野は黙ったまま――
俺は久しぶりに、保健室のベッドで静かに眠ることができた。