第170話 爪痕 Bパート

文字数 8,316文字


 優希君の提案で本校舎から、手を繋がずに部活棟へ向かう道すがら、
「そう言えば前にも言ってくれていたけれど、その連絡って雪野さんから私に話したいって言ってくれていた件?」
 その話は雪野さんにとって話し辛い事なのか、それともたまたま時間とタイミングが合わなくて先延ばしになっているだけの事なのか、落ち込んでいる……と言うより、考え込んでいる優希君に聞く。
「そうなんだけど、こればかりは僕が言う訳にはいかないんだ」
 ドロドロに煮え切ってしまっている嫉妬は確かにあるけれど、二人の仲を勘ぐる必要まではないのだ。
「じゃあ私は、このまま雪野さんからの連絡を待て――」
 ――待てば良いって事なんだね。その様子だと私が復学する方が、早いかもしれないけれど――
 先に続くはずだった言葉は、部活棟を仕切るドアを前に、その恐怖を思い出してしまった体と共に止まってしまう。
 せっかく顔の傷も治りかけて、今度こそ教頭の課題と受験だって言う時に、身体があの非日常を覚えてしまっている……
 いや、非日常を忘れられないのか、体中から嫌な汗が出ている上、足に根でも張ってしまったのか、そこからの一歩が踏み出せない。
「?!?!」
「大丈夫……大丈夫だから。今、愛美さんに触れてるのは僕だけだから。僕だったら安心してもらえる?」
 硬直した私の身体の左肩に、突然手が置かれてさらにパニックになりかけたところに、優希君の落ち着いた声。
「……うん。優希君は大丈夫だよ。ごめんびっくりしたよね」
 今日は私からの“大好き”を優希君にしっかり伝えて、安心してもらう日でもあったのに。
「……ありがとう。少し落ち着くまでここでこうしていよう。大丈夫。時間もあるし急いでもないから何も気にしなくて良いよ」
 なのに、また優希君だけに私に対する“好き”を頑張らせてしまっている。
「ありがとう……そしてごめんね」
 せっかく私の顔の事を考えてくれた、優希君のデートだったのに。私は何でも良いから少しでも優希君に気持ちを伝えたくて、自分自身をびっくりさせないように、そのまま優希君の肩に頭をゆっくりと乗せる。
「……愛美さんの気持ちに気付けなくてごめん」
 日曜日とは言え、そこそこの部活が参加している中での部活棟入り口。その前で素早く私専用の居場所を作って、いつかの役員室の時みたいに、優希君の肩に頭を乗せた私の体勢に合わせるように向きを変えて、抱きしめてくれる優希君。
「謝らないでよ。謝るくらいならもっと腕に力を入れて欲しいな」
 私は優希君の匂いを胸いっぱいに吸って、少しでも恐怖心を忘れようとする。
「……」
 私の希望を聞いてくれた優希君が、息苦しくなるほどにきつく私を抱きしめてくれる。ただ今は手を優希君の胸に添えたままだけれど。
「……私、汗かいているけれど臭くない? 汚くない?」
 だと言うのに、こう言うのが気になるから女って面倒くさいなって思う。
「汚かろうが、臭かろうが、僕は愛美さんを二度と離さないって決めたんだ」
「……酷い。そこは汚くないよ、臭くないよって言ってくれるところじゃないの?」
 本当は分かってる。実際匂いに関しても汗に関してもごまかせない。だったら私には隠さずに正直に話してくれている優希君。その上でも、綺麗事だけじゃなくても優希君から私への想いは変わらない。こっちの方が嬉しいに決まっている。
「でも僕はどんな愛美さんでも変わらず好きでいるって前言ったし……」
 そう。その公園で言ってくれた時の言葉を覚えているから、面倒臭い私を遠慮なく出せるのだ。
「ごめん今のは私のワガママだった。優希君が言ってくれた言葉、嬉しかったよ」
 時々通りかかる生徒の視線を感じるけれど、今の私には優希君が全てで。そのための今日の校内デートで。それでも私の問題で頓挫しかけてもいて……
「……優希君。このままここにいたら周りの人たちに見られるから、離してくれると嬉しいな」
 恐怖心が包む中、私の身体は優希君が回してくれた腕の熱や匂いも覚えていてくれたのか、少しずつ引いて行く恐怖心の代わりに、徐々に熱を持ち始める。
「僕としては、僕の自慢の彼女だってみんなに自慢出来る良い機会だと思うけど。それよりも今は僕の事も、周りも何も考えなくて良いし、気にする必要もないからただ僕だけを見て、僕だけを感じて欲しい」
 もう既に優希君が全てになっているのに、そんな事まで言ってもらえるのなら、私は背中から優希君の腕の熱を、優希君の胸に添えた手からはドキドキを感じながら、顔は優希君の胸にうずめて心も体も優希君一色に染めて、しばらくの間優希君に身をゆだねる。

 どのくらいそうしていたのか、私の身体中に出ていた変な汗が引いた頃合い、
「今日は僕の配慮不足だったデート、どうする? 今日は途中で切り上げて帰る?」
 あまり聞いた事の無い声音で、今日のデートの打ち切りって言うショックな提案をしてくる優希君。
「何で?! なんでそんな寂しい事言うの? 確かに私が優希君の考えてくれたデートに水を差してしまったけれど――」
「――愛美さんが水を差しただなんて思ってないから、そんな事考える必要ないよ。ただ愛美さんが楽しめないのなら――」
 今日は優希君の不安が完全に無くなるまで私の“大好き”を優希君に見せるための大切なデートなのだ。
 だからこんなところで終わりたくないし、まだ口付けだってしていない。
「――嫌! 帰りたくない! 優希君は私とのデート、途中で終わっても良いの?」
 それに優希君の不安の解消も出来ていないし、金曜日の優希君の気持ちだってまだ聞いていないのに。それに何より、このままこの気持ちを持ち続けたくない。優希君と一緒に乗り越えたい。
「僕だって嫌に決まってる! だけど今日のデートは僕の配慮不足だから……」
 本当に悔しい。私たちの気持ちは確かに繋がっていると感じられるし、先週受けた暴力の傷も癒えかけているのに。私自身こんな形で、傷ついているなんて思ってもいなかった。
 卒業まであと半年とは言え、統括会もあるのに、部活棟に足を踏み入れようとする度に、身体に刻み込まれた恐怖心を思い出して普通の学生生活を送れるのか。
 ひょっとしてお父さんはここまで見越して、私を転校させるって言ってくれていたのか、
 ――蒼依は愛ちゃんと、もう三年間同じ学生生活を送りたい――
「だったら優希君が私の心も守ってよ。私の手を引いて、役員室まで連れて行ってよ」
 甘えかも知れないし、これは依存になるのかもしれない。
 でも蒼ちゃんも体を張って、自分の夢を後回しにしても私との時間を作ってくれたのだ。
「分かった。じゃあ僕の右手と愛美さんの

で手を繋ごう」
 私の気持ちを聞いてくれた優希君が、少しの間思案顔をした後、何と優希君が

を私の腰の後ろから回して、優希君も緊張しているのか、そのまま震える手で私の

を取ってしまう。一方右手は初めに優希君と繋いでいるから、両手とも優希君と繋いでしまっている状態だ。
 しかも同じ右手同士、左手同士で手を繋いでいるから、私と優希君の身体は常に触れ合っているし、端から見たらお互いの身体の半分以上は重なっているように見えている気がする。
 その上、私が少しでも歩く速度を落とせば優希君の腕が背中に当たって、もたれかかるような体勢になるから、正面以外の三方から優希君に包まれているような感覚になる。
「でもさすがにこれは歩きにくくない?」
「確かに歩きにくいかもしれないけれど、街中で腰に手を回して反対側の手を繋いでいるカップルもたまに見かけるから、そのうち慣れるよ。それに今日は急ぐデートじゃなくて、愛美さんとゆっくりするデートだから、ゆっくりと二人で歩んで行ければ良いよ」
 普段はカバンもあるから、中々実践は出来ないだろうけどね。
 と付け足す優希君。
 確かにそうだ。今日のデートはどこかに行って楽しむデートじゃない。優希君の気持ちを聞いて、私の“大好き”を伝えて。お互いの気持ちを再確認して優希君に安心してもらうためのデートなのだ。
「ありがとう優希君。じゃあゆっくりで良いから私を、役員室までエスコートしてね」
 三方を優希君に包まれている上、確かに私が願った考え方を優希君もしてくれていた事も分かったし、すぐ隣には大好きな人の顔もあるからか、私の身体から少しずつこわばりが抜けていく。

―――――――――――――――――<スピン>―――――――――――――――――――――

 私たちが普段見ないような歩き方をしていたからか、通りかかった数少ない生徒には見られたけれど、嫌な視線とか変な視線は感じなかった。一方私も時折優希君にもたれかかるように歩いていたからか、途中から頭の中は三度(みたび)優希君で一杯になって、気が付けば部活棟三階、役員室へと着いていた。
「お疲れ様愛美さん。それじゃあ飲み物は僕が用意するから、愛美さんはゆっくり座っててよ」
 役員室の鍵を開けるなり、久しぶりと感じる室内に対して感慨にふける間もなく、私をいつもの席までエスコートしてくれる優希君。
「それくらい私がするよ?」
「良いって。今日は久しぶりの学校だったんだしゆっくりしててよ」
 私と優希君二人だけの思い出もたくさん詰まったこの役員室内。もう私の中に巣食う不安や恐怖心は襲って来ないのだから、優希君に対する“大好き”を見せないといけないのに。
「ありがとう」
 なのに、優希君はエアコンを入れた後、私よりよほど手際よく飲み物の準備をしてくれるけれど……
「あれ? 誰かお客さんでも来ていたの?」
 いつも優希君と雪野さんが座る席の間に、余分に一脚折り畳みのパイプ椅子が広げて出してあるのが目に入る。
「ああ。それは船倉さんが来た時の椅子かな。多分だけど、僕と雪野さんが隣同士なのが気に入らなくて、彩風さんがその位置に置いたんだと思うよ」
 そう言えば彩風さんから“とんでもなくきれいな人でした”って感想を貰ったっけ。
「その時、どんな話をしたの」
 服装についてはいつものあの、清楚って言って良いのかの服装で来た事は聞いたけれど、話の内容には触れなかった。
 まあ朱先輩の事だから、私の話くらいはしているんだろうけれど。
「今回起こった話の全容と、加害者処分の話と、僕たち統括会に対する考え方のアドバイスかな」
 気付けば私の目の前に、紅茶の入ったマグカップ。
 それにしても朱先輩らしいなって思う。私の時に限らずいつでもそうなんだろうけれど、とにかく色々な考え方、私の心が少しでも軽くなるような考え方を提示してくれる。
「じゃあ話は進展したの?」
「したけど、愛美さんや僕が絡むとどうしてもね」
 それでも解決には中々程遠いと口にする優希君が苦笑う。
「……私、周りの誰が何て言ったって、倉本君なんて嫌いだし、他の男の人に惹かれるなんて事ないよ」
 ましてやこんな事があったんだから、知らない男の人とかだったら構えてしまうかもしれない。
 誰の姿も見えない、声も聞こえない部活棟三階、昼下がりの役員室内。
 今日最大の目的である私の“大好き”を伝えようと決める。
「もちろん分かってるし疑ってもないよ。ただ彩風さんから聞いた倉本から愛美さんへの想いとか、僕自身が直接見聞きした倉本の気持ちとかが、本当に強くて……」
 私自身も雪野さんの気持ちの強さにびっくりして、何度も怯んだのだから優希君の気持ち自体は理解できるのだ。
 だからこそ、どうして倉本君の一言で私を離してしまったのかが知りたい。
「私、倉本君に触れられて不愉快だった分、他の男の人に抱かれてびっくりして怖かった分、優希君に捕まえていて欲しかったんだよ」
 私はマグカップを持って、優希君のすぐ隣である朱先輩が座ったであろう席へと移動して、私の“秘密の窓”を開ける。
「それはあの場で蒼依さんにも注意されたけど、本当にごめん。それからやっぱりもう倉本とは仲良くはしないで欲しい」
 私が開けた“秘密の窓”に対して、優希君も同じ窓を開けてくれる。そして、ようやく根っこにある優希君の不安が白日に晒されて、そのまま濃く表情に現れる。
「私は別に怒っていないよ? それに優希君に謝って欲しい訳でも無いよ? ただ、私の嫌いな倉本君の一言で、優希君が離してしまったから、私がとっても寂しかったって分かって欲しかっただけだよ」
 だから、私の赤裸々な気持ちを、“秘密の窓”と共に開け放つ。
「……僕だって、あの場で愛美さんを離すのは嫌だったけど、あの場で愛美さんを離さなくて前みたいに倉本と殴り合いになった時、愛美さんや蒼依さんを巻き込んで、間違ってもケガさせたくなかった。特に今の二人はけが人なんだからそこだけはどうしても譲れなかった。それにあの場面で離さなかった結果、殴り合いにまでは発展しなくても、倉本とこれ以上拗れたら、その分愛美さんの望む雪野さんの孤立解消も遠のいてしまうし、何よりせっかく愛美さんが顔を怪我してる中、無理を押して出て来てくれたのに、その意味まで無くなってしまうと思ったから」
 どうしよう。これじゃあまるっきり蒼ちゃんが言った通り、優希君の気持ちを聞かないで冷たくなんて出来るわけがなかった。
 その上、私だけじゃなくて蒼ちゃんの事まで考えての行動だったなんて……私個人だけじゃなくて、友達も大切にして欲しいって自分で言っていたのに、これじゃあワガママなんじゃなくてただの自分勝手だ。
 本当に相手の話を聞くって言うのは大切なんだなって。少し遅くなってしまったけれど、ちゃんと優希君の気持ちを聞けて良かった。相手の言う事に耳を傾けることが出来て良かった。
「ごめん優希君。私が悪かったよ。もう寂しいなんて言わないから私を抱いて欲しいな」
 だとしたら後は、少しでも取り戻すために、今からでも私の“大好き”を優希君に見せたい。今日三度目私から優希君の手を取って二人して立ち上がってもらう。
「違うんだ愛美さん。せっかくの僕とのデートでそんな顔をさせたいわけじゃないんだ。ただ僕の愛美さんに対する気持ちが少しでも伝わればって思っての話なんだ」
 そんなのはもう十二分に伝わって、お釣りまでもらっている。
 ただ優希君の溢れんばかりの想いに気付かないどころか、勝手な思い込みで受け取ろうとすらしていなかった自分自身に納得が行かないだけなのだ。
「優希……君」
 それでも、こんな自分勝手な私でも優希君は、私専用の居場所をいつでも作ってくれる。
「だからここから先は、愛美さん専用の場所で僕から愛美さんへの気持ちを伝えたい」
 言いもって私の背中に回してくれた腕に、今度こそ離さないと言わんばかりに、息苦しさを感じる程に力を入れてくれる優希君。
「――?!」
 その優希君を見上げた瞬間、視線は私の唇に置いたまま私の額に口付けを落としてくれる。
 私が今日一度も唇を湿らせても、巻入れてもいないから我慢してくれたのは分かった。
「……さっきの続きだけど、蒼依さんにだって無理を押してお願いして、倉本から愛美さんを守ってもらうって約束を取り付けたのに、僕自身が倉本の話に取り合わないで、みんなの気持ちを無駄にはしたくなかった。それに、ただですら倉本の愛美さんに対する行動に積極性が増す中、変に倉本を刺激して愛美さんに対するちょっかいをこれ以上強くしたくなかった。だからこれは僕からの愛美さんに対する独占欲なんだ。それから最後に、僕の本心を言っとくと、愛美さんの僕に対する情熱はちゃんと伝わってて、その情熱が僕に自信を持たせてくれてる。少しでも自信のついた僕を愛美さんに見て欲しかった。だから愛美さんは自分を責める必要は無いし、そんなに頑張らなくても大丈夫だから」
 そして再び私の頭を撫でてくれる優希君。
 あの短時間でそこまで私の事と、親友の事を考えてくれていたのか。その上思いがけず聞くことが出来た優希君の独占欲。
 こんな形の独占欲も男の人の中にはあるのかと、また初めて優希君の事を知ることが出来たのは今日一番の収穫だと思う。
 こうなってしまえばもう私だけが“大好き”だなんて言えないかも知れない。
「ううん。私にももっと優希君に対する“大好き”を頑張らせてよ」
 だけれど、優希君から抱え切れない程の優しさと想いを受け取って、私の“大好き”はもっと強く、深く育っているのだから、やっぱり私の方が“大好き”だって事にしておく。
 その一つとして、私は今日初めて舌を巻き入れて唇を湿らせる。優珠希ちゃんからしたら安易に“そう言う事”をするのはハレンチに当たるんだろうけれど、優希君の期待と気持ちに応えて、かつ私の“大好き”を伝えるには、これしかないと判断したのだ。
「ありがとう愛美さん――」
「私の方こそごめんね――」
 私の気持ちを理解してくれた優希君が言葉の途中で、でも優しく私の唇を奪ってくれる。

 役員室内でした初めての口付け。学校の中でなんて悪い事をした気にもなるけれど、私たちの気持ちを再確認した上、今日のデートを成功させるためには、どうしても必要だった事にしておく。
「もう正直に僕の気持ちを言ってしまうけど、今後は売り言葉に買い言葉でも、他の男とデートするなんて考えないで欲しいし、口にするのもやめて欲しい。束縛は良くないって分かってはいるけど、それでも倉本に不可抗力でも触れるのも――」
「――ないよ。そんなない事考えるの辞めよ? それに私、前にも言ったけれど、優希君からの束縛で息苦しいって感じた事もないよ。だから今の正直な優希君の気持ちを教えてくれた事、私は、すごく嬉しいよ」
 確かに束縛自体は息苦しさを感じるかもしれない。それはお付き合いを始めた頃はそう言う気持ちもあったけれど、一方で優希君からの束縛に息苦しさを感じた事が無いのも本当なのだ。そこは優希君が広い心を持っているって思って欲しかった男心なのかなって理解している。
 だけれど、倉本君とは今まで本当に色々あり過ぎて、優希君が目の前にいるにもかかわらず色々怖い思いもして来たからそう言う気持ちになって当たり前だとも思う。実際私の中で倉本君の事はもう嫌いになっているのだから……。
「それよりも優希君に教えて欲しい事があるん――」
 だったらもう、嫌いな倉本君の事なんて今日のデートにも、私の恋物語にも必要のない登場人物の名前を出す必要は無いと思うのだ。
 その代わり、金曜日に蒼ちゃんが私には知らなくても良いって言った事、なのに蒼ちゃんと優希君の間で確かに成立していた内容を聞こうとした矢先、私の携帯が着信を知らせる。
 せっかく私専用の場所で金曜日の分もまとめて優希君に甘えていたのに。
「……えっと、倉本君?」
 しかもその相手が渦中の倉本君なんて……私に連絡するよりも彩風さんとの話し合いをして欲しいのに……私に対する気持ちだけでも困り果てているのに、デートの邪魔までして来るなんて……本当に泣きたい。
 ただ、金曜日以降、話の動きを知らない倉本君からの本気のSOSかも知れないと思う気持ちと、安易に手を貸す行為が相手の――彩風さんの居場所を奪う結果につながりかねないかなと迷っていると、
「愛美さん。僕とのデートの時に、他の男の事なんて考えて欲しくない」
 私の手から携帯を取ってしまった優希君が、そのまま携帯の電源ごと切ってしまう。
「ちょっと優希く――?! ……」
 しかもそのまま唇を合わせた三回目の口付けは、先の二回とは違って唇を合わせるだけじゃなく、お互いの舌を絡ませた上、いつの間に上手くなったのか私の身体の力を抜いた上で、唾液まで飲んでしまうような激しさの入り混じった口付けだった。

 だから、倉本君の用件も分からないまま優希君との激しい口付けで再度優希君で一杯になった私たちの校内デートはもう少しだけ続く。

――――――――――――――――――――次回予告―――――――――――――――――――
     思わぬ形で自分が何に傷ついているのかを悟った主人公
       それ程にまで主人公を襲った恐怖心は強くて

        その中で聞いた金曜日の公園での彼氏の真意
     そこにはやっぱり相手を思いやる心とその友達まで考えた
               立ち居振る舞いで

     その中でついに主人公だけが知り得なかった話が動き出す
       そのきっかけを作るのはまさかの雪野さんで……

   「もし良かったら、岡本先輩の連絡先、教えてもらっても良いですか?」

             次回 171話 私の恋物語


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