第167話 親の心、子知らず Aパート

文字数 8,219文字


 朱先輩には明日の昼からは会える事を連絡して、私からも朱先輩には話したい事がたくさんあると伝えてやっと納得してもらえた。
 もちろん私を心配してくれるのも嬉しいし、明日会える事も楽しみではあるけれど、朱先輩だって週末くらいはナオさんと仲良くしてくれたら嬉しいなって思う。
 ただ、お父さんがあんな状態の中で、朱先輩が私の受験を応援してくれるって言う意味でも、私専用の家庭教師をしてくれるって言うのは、本当に力になる。
 だから朱先輩に会えるって言うのは、私からしたら色々な意味で嬉しい。しかも朱先輩には優希君から貰った傘の感想も聞いてみたい。
 なんだかんだ明日は朱先輩を会える事を楽しみにしながらもう一つ。私宛てに送って来てくれた“とっても可愛い後輩”に、お父さんのせいでだいぶん遅くなってしまった夕食を挟んで、一通りの事を済ませてから電話をする。
『ちょっと。最近わたしへの扱いが雑になってるんじゃないの? わたしがお兄ちゃんに一言ゆえばどうなるか忘れてるんじゃないでしょうね。薄情女』
 呼び出し音が鳴る前に繋がったと思ったら、この失礼極まりない言い方。だけれど、コール音が鳴る前に繋がった事と言い、私宛てに嬉しい雑言を口にしているし。
『薄情ってどういう事よ? ちゃんと電話しているよね』
 だけれど、こういう一言は優希君に聞かれて変な印象だけは持たれたくないのだ。
『ふんっ! どうでしょうね。今日だってわたしから連絡を入れなければ電話なんてするつもりもなかったんじゃないの?』
 本当に、この一聞分かりにくいけれど、甘えたがりの妹さんが本当に可愛いくて仕方がない。
『ごめんね。家の事と統括会の事でバタバタしてて。やっぱりメッセージだけじゃ寂しかった?』
 御国さんとの事や、私の容態の事で簡単なやり取りはしていたけれど、電話自体はほとんどした記憶がない。
『アンタのイチイチ声に出して確認するその性格、大っ嫌い! それにわたしは心細いなんて一言もゆってないわよ。それとは別にアンタにはこの一週間、お兄ちゃんの事で聞きたい事がたくさんあるのよ』
 なのに、そのヒネた素直さの中にある本音がいじらしくて可愛い。
 だから、今までは優希君の事を色々教えてくれて私を安心させてくれていた優珠希ちゃんに、私の方から安心させてあげる事にする。
『今日の優希君の事だったら喧嘩なんてしていないよ。何だったら私の親友も一緒にいたし聞いてもらっても良いよ』
 ただ私が感じた寂しさを埋めてくれるまで、口付け自体がまたお預けになるだけで。
『喧嘩してないなら、何でお兄ちゃんが落ち込んで帰って来て、口数まで少なってるのよ』
 そんなの言える訳が無い。優珠希ちゃんにお預けにした口付けの話なんてしたら最後、何を言われるのか分かったもんじゃない。
『それは私と優希君だけの恋人としての話だから、例え優珠希ちゃん相手でも言えないけれど、優希君がとっても大切にしている妹さんなんだから、せっかくの兄妹、優しくして欲しいって言っておくね』
 でも、私にとって“とっても可愛い後輩”。その優珠希ちゃんが笑顔になれず寂しい思いをしてしまっていると言うなら、そこは私の出番だと思う。
『お兄ちゃんと恋人としての話って、本当ならお兄ちゃんに対してどうゆうハレンチな事をしたのか聞きたいのだけど、愛美先輩はわたしでは到底思いつかないくらいハレンチな女だから、これ以上は聞くの辞める。「ちょっと私がハレ――」――ただし! わたしに対するゆい方は“妹”だとか“とっても大切にしてる妹”とかそんなゆい方じゃなくて、他に何かあるんじゃないの?』
 何かって何なのか。大体私の事をハレンチだとか、優珠希ちゃんのアレコレが見えてしまいそうな程着崩した制服とか、自分の事を棚に上げて他に何があるのか。
『優珠希ちゃんってちゃんと読んだ方が良い?』
 以前、好きな人は名前で呼びたいって言ってくれた優希君の言葉を思い出すも、
『なんでアンタも変なところで鈍感になるのよ。そうじゃなくてワザワザ愛美先輩に付き添って病院に行った時、断金へと至った愛美先輩の親友にゆってたじゃない』
 どうも違うっぽい。せっかく“とっても可愛い後輩”が私に――あ。確かに病院で言った時、優珠希ちゃんは顔を真っ赤にして、髪飾りを取った頭を私の手のひらに押し付けて来たっけ。
 蒼ちゃんも驚いて目を丸くしていたし。本当に甘えるのは下手だけれど“とっても素直で可愛い”

。だけれど
『それじゃあ優希君の妹さんじゃなくて、後輩の中の一人になってしまうよ?』
 他の誰でもない優珠希ちゃんから、こんなに可愛いおねだりをされたら嬉しいに決まっている。
『分かったんなら

ゆえば良いじゃない』
 だけれど混ぜてって……ああ、そう言う事か。こんなに素直でとっても可愛い妹さん……いや、“とっても可愛い優珠希ちゃん”ならいつでも妹としてなら大歓迎……って、優希君と一緒の姓になったら義妹、義姉の関係になるのか。
『……優希君が大切にしている“とっても可愛い優珠希ちゃん”なんだから、せっかくの兄妹。仲良くして欲しいって伝えておくね』
 ただその一言だけを切り取るのはさすがに恥ずかしかったから、一文丸々言い直す形をとらせてもらう。
『……愛美先輩がわたしのことをそうゆってくれるなら、お兄ちゃんの事については本当に喧嘩じゃないみたいだからハレンチの内容と合わせて、今回は何も聞かないでおいてあげる』
 自分から言えって言って来たくせに、何で私から言ったみたいに言い方になっているのか。まぁ事実今回ばかりは私にとって可愛い後輩である事にも、笑顔にしたい女の子である事にも変わりはないのだから、さっきからハレンチな内容と含めて聞かないと言っていた事には触れないでおく。
『優希君の事についてはって何? どう言う事?』
 それより本題が別にあるって取れてしまうんだけれど。
『アンタ。まさかとは思うけど、わたしからのメッセージちゃんと読んでないんじゃないでしょうね』
 優珠希ちゃんの寂しそうな声を耳にしながら、急いで記憶を手繰り寄せる。
 メッセージって昨日のあの――ああ。あのメス……雪野さんの事か。
 そう言えば教頭先生の課題の中でも、特に絶壁の二人だったか。
『読んでいるに決まっているって。大体私に優希君と別れるつもりも、雪野さんに譲るつもりなんてある訳ないから。そんな事気にしなくて大丈夫だよ』
 でもそっか。優希君と雪野さんが一緒にいる姿を何度か見て、今日落ち込んで帰って来た姿だけを切り取って見たら、そう言う勘違いも出来てしまうのか。
 だからとっても可愛い優珠希ちゃんが気を揉んだのかな。
 そもそもこうなる直前の二回しか雪野さんとはゆっくり話は出来ていないけれど、少なくとも私のドロドロの感情を少しだけとは言え雪野さんには見せたのだ。もちろんだけれど、私と雪野さんのやり取りを知らない優珠希ちゃんが不安になっても仕方が無かったのかもしれない。
『だったら何でお兄ちゃんが、毎日あんなメスブタと一緒にお弁当食べてるのよ。アンタのお兄ちゃんへの想いはその程度だったの?』
 だからなのか、前にも一度聞いた事がある優珠希ちゃんからのとっても分かりやすい挑発。
 初めの頃なら簡単に乗ってしまっていたけれど、今は違う。
『違うよ。今は優希君が雪野さんに間違っても靡くなんて事が無いって信じられるから。万一の事があっても隠さずに私に教えてくれるってやっぱり信じられるから。だから私の方から、今は学校に行けない私の分まで、雪野さんを独りにしないで欲しいってお願いしているんだよ』
 結局今週一週間は二度優希君とは会ったけれど、一度も香水の匂いはしなかった。
 それは優希君が雪野さんにベッタリではない証拠にもなるし、雪野さんの方もまた優希君が言ってくれていたように、優希君の好みに合わせる形で香水自体を辞めてくれたのかもしれない。これだけの事だったとしても、あのいつかクラスメイトと香水の件で揉めたって言う原因自体が無くなったのだから、何かが変わるきっかけにはなるとは思う。
 ただいずれにしても、以前同じ優珠希ちゃん相手に言ったけれど、優希君が消臭スプレーを使っているなんて事は、もう考える必要のない事だ。
『お兄ちゃんを信じてくれるってゆう愛美先輩の気持ちは嬉しいけど、あのメスブタが理解出来るかどうかは全くの別物なのよ。だから愛美先輩の優しだって事は分かるけど、あのメスブタをお兄ちゃんに近づけるのは辞めて頂戴』
 その中で、声をしっかりと落とした優珠希ちゃんが更に嫌そうな声で、酷い言葉を使う優珠希ちゃん。
『駄目だよ。今雪野さんは二年で孤立している。だったら統括会としても放っておく事は出来ないよ』
 本音を言えば私だって優希君には、雪野さんとの事はすべて忘れて欲しいとまで思っているくらいなのに。
 でも、雪野さんを一人の人間として見た場合、信じられないくらい頭が固いだけで根は真面目で本当に良い子なのだ。
 それにこれだけ頭が固かったら、同調圧力に流されるなんて事も考えにくい。
『いくら愛美先輩とは言え、ちょっとおかしいんじゃないの? あのメスブタがわたしのお兄ちゃんや愛美先輩にした事、忘れた訳じゃ無いんでしょ? 少なくともわたしは、あの週末の事は多分ずっと忘れられないわよ』
 本当にこの“とっても可愛い優珠希ちゃん”は……勝ち取った信頼の中にある、他人に対する深い想いやり。だけれど、それは思いやりとしては少しだけ不十分だ。
『私だって忘れる事なんて出来ないよ。だけど、一つが駄目だったらもうその人とは仲良く出来ない? もうその人の何もかもが駄目なの? 一回でも大きな失敗をしたら、もうその人はどうなっても良いの?』
 これは中条さんや彩風さん相手にもした質問だ。もちろん思いやり自体が、それぞれ個々による自発的なものなのだからこれも強制出来る事じゃない。例え恋情以外だったとしても、人の心はやっぱり強制できないのだ。
『そんな訳は無いけど、それでも限度ってものがあるじゃない。それこそ人の心や気持ち、セルフエリアを超えての無理矢理な接触は嫌悪感を生む。これは愛美先輩も理解してるんじゃないの?』
 だけれど、さすがは頭の回転が非常に速い“とっても可愛い優珠希ちゃん”。そう、いつだってされる方は後にまで残るのだ。逆にした方はそんな事は日常の一部として、記憶の奥底に埋もれていく。
 その理不尽さを優珠希ちゃんも同じ女の子として理解してくれている。頭の回転だけじゃなくて、他人の事を想いやれる本当に“とっても可愛い優珠希ちゃん”。
『だからだよ。今の雪野さんはいわれのない誹謗と中傷。それを盾にした同調圧力にさらされ続けている。雪野さんに私たちがされたからって言って、同じ気持ち、トラウマをそのままつけてしまっても良いの? とっても可愛い優珠希ちゃんはそんな女の子なの?』
 私の本音だったとは言え、さっきは言わされたのだからと、少しだけ突いてみる事にする。雪野さんの事も相当ひっ迫しているから、こっちも手段は選んでいられないのだ。
『……分かったわよ。愛美先輩のお人好は底なしなのね? わたしだったらあんなメスブタなんて放っておくのに』
 多少とは言え強制してしまった、優珠希ちゃんの気持ち。だからすぐに納得も答えも出せない優珠希ちゃん。でも、私に対する態度だけは軟化してくれた。今はこれで十分だ。
『ありがとう。とっても可愛い優珠希ちゃん! でももう一回言っておくけれど、優希君を雪野さんにだけは絶対譲らないから、そこだけは安心しておいてね』
『何が安心なのよ。先にゆっとくけど、お兄ちゃんとあのメスブタが同じ視界に入るだけでどうにかなりそうなわたしの気持ちも、考えて頂戴。お人好しな愛美先輩』
 十分だとは思うけれど……この状態から教頭の課題をどうにか出来る気が全くしない。
『とにかく私が復学したら、雪野さんとのお昼は私がするから』
『復学したらって、学校戻ったらお兄ちゃんと一緒にごはんするんじゃないの?』
 落ちる声のトーンから、少しずつ優珠希ちゃんの機嫌が悪くなっているのが分かる。
『優希君とは登下校でも一緒出来るけれど、雪野さんとはお昼しか一緒出来ないから。だから当分はこうなる……かな』
 優珠希ちゃんが雪野さんや御国さんと一緒にお昼してくれるのなら、優希君と二人きりの時間も増やせるんだけれど。
『……結局、愛美先輩の優しさに付け入るあのメスブタのせいで、わたしの気持ちは何をするか分からないくらい荒れたままなのね』
 言うだけ無駄だと絶望感を胸に、優珠希ちゃんの言葉に耳を傾ける。
『それと、あのショタコン教師には気を付けなさいよ』
『え? しょた? しょたって何?』
 雪野さんの話をしたくなかったのか、早々に終わらせた優珠希ちゃんからまた、聞いた事が無い言葉が出て来るけれど
『とにかく! あの保健の先生は今後信用するなって話』
『そんなの今更だよ。私は元々あの先生なんて信用していないよ』
 どの件を取っても分かるはずなのに。
『そうゆえばそうだったわね。じゃあそろそろ時間も時間だから切るけど、愛美先輩と喧嘩した後のお兄ちゃん。拗ねて大変だからお兄ちゃんと喧嘩するのはお願いだから辞めて頂戴。それからあのメスブタをわたしとお兄ちゃんの視界から早く消して。最後にありがと』
 だから喧嘩なんてしていないって言っているのに、私が何かを言う前に自分の言いたことだけを言った優珠希ちゃんが通話を終えてしまう。それにしても“ありがと”か……それは何に対してなのか。より鮮明になりつつある“とっても可愛い優珠希ちゃん”の事を考えながら、明日は朱先輩が来てくれるのだからと、そのままベッドに潜り込む。

――――――――――――――――――<スピン>――――――――――――――――――――

宛元:優希君
題名:デートしたい
本文:明日愛美さんとキスがしたい。昨日はちょっと格好つけすぎた。その事も含めて愛美さん
   とじっくり話したいから明日デートしたい。僕は愛美さんだけが好きだ。

 昨日寝るギリギリまで優珠希ちゃんと電話していたからか、目覚めた目の前に着信を知らせている携帯があったから手に取ると、先の優希君からのメッセージだった。
 寝起きの電話だと、今までの経験上どんな痴言を口にするのか分からないから、出る事は出来ないけれどメッセージなら一呼吸置く事も、メッセージを送る前に一度確認も出来るからと

宛先:優希君
題名:おはよう優希君
本文:私だってデートしたいよ。でも昨日優希君が、倉本君と協力したら良いって昨日言って
   いたよね。だったら私は倉本君からの連絡を待たないといけないんだよね。でも誘って
   くれた事はとっても嬉しかったよ。それと昨日優珠希ちゃんとっても寂しそうだったよ。

 優希君にしては文脈に違和感を感じるメッセージに返信を送る。

宛元:朱先輩
題名:楽しみ
本文:今日は愛さんにランチを作って持って行くから、楽しみにしてて欲しいんだよ。もちろん
   わたしの通う学校の過去問も持って行くから、愛さん専用の家庭教師も一緒にするんだ
   よ。

 と同時に、昨日は散々私からの連絡が無かった事、朱先輩から連絡しなかったら、毎週土曜日の恒例になっている朱先輩会うつもりは無かっただの、文句を言われ続けた朱先輩からのメッセージが届く。

宛先:朱先輩
題名:分かりました
本文:じゃあ、朱先輩のお弁当を楽しみにしていますから、家で食べるのは朝だけにしておきま
   すね。それと過去問とか家庭教師とかありがとうございます。
追伸:今、お父さんと喧嘩中ですから、万一朱先輩にお父さんが失礼な事を言っても相手にしな
   いで下さいね。

 本来なら私の家に来てもらうのに、どう考えてもお昼を作って持って来てもらうのは違和感が出ると思うのだけれど、昨日の様子だと、私が断ったら下手したら涙されそうだったからと、何も言わずに快諾した。
 ただ、そう言う感情を抜きにしても、久しぶりの朱先輩のお弁当自体楽しみだったし、何よりお父さんの顔を少しでも見たくない今の私の気持ちからしたらありがたい話でもあるのだ。
 それにしても家庭教師かぁ……三年前の夏休み以降を思い出す。ただし、今は耽るのは後回しにしてかかって来ている優珠希ちゃんからの電話を応対する事にする。
『おはよう優珠希ちゃん』
 結局、今日朱先輩と会える事を楽しみにしながら、昨夜に続いての電話を取ると、
『ちょっとアンタ! 昨日のわたしの話なんて何も聞いてないじゃない! せっかくの週末だってゆうのにお兄ちゃんが完全に拗ね――「ちょっと優珠! 愛美さんに変な事言うの辞めてってば」――変な事って、ただこの腹黒に文句ゆってるだけじゃない』
 毎回思うんだけれど、優希君の前で腹黒って言うの辞めて欲しいんだけれど。
『ちょっと待って。何で私が優珠希ちゃんに文句を言われないといけないの? 私、優希君と喧嘩なんてしてないって言ったよね』
 昨日あれだけ可愛かった優珠希ちゃんは何処へ行ってしまったのか。昨日の呼び方は一度封印しないといけない。
『じゃあ何でお兄ちゃんが拗ね「だから優珠!」――部屋で携帯見ながら頭を抱えてるのよ。アンタ! お兄ちゃんと仲良くってゆうわたしとの約束はどうしたのよ』
 どうしたもこうしたも、優希君が倉本君と私の約束を取り付けてしまったクセに。
『約束って、私は優希君と仲良くしているって』
 ただ、今週末は大変不本意な事に倉本君を優先するだけで。
『ちょっとお兄ちゃん! 愛美先輩と何があったのよ』
『「特に何もないよ。ただ僕が格好つけすぎただけ――」』
『――何でお兄ちゃんが格好良くて頭を抱える事になるのよ』
『ごめんね。私たちの事を応援してくれている優珠希ちゃんからしたら気になるよね』
 ただ少しずつでも私たちの仲を、認め始めてくれているは伝わっているからと、先回りして謝ったつもりではあったけれど、
『ちょっと勘違いしないで頂戴。何でわたしが愛美先輩とお兄ちゃんの仲を応援しないといけないのよ。そうじゃなくて、昨日からお兄ちゃんの態度がそっけないんだけど、昨日あんたがゆっといてくれるってゆった話はどうしたのよ』
 あぁ……優珠希ちゃんは大切な兄妹なんだから優しくねって話か。
 そっちなら昨日の時点で、分り易く追伸って形でメッセージに入れたはずだけれど。
『今は優希君に余裕がないだけだと思うから、明日の夜まで時間頂戴ね』
『余裕が無いってどうゆう事なのよ。本当は喧嘩中って事?』
『違うよ。統括会絡みでちょっとね』
 そこまで気になって落ち込むなら、倉本君なんかの一言で離さないで欲しかったのに。
 こんな形で優希君の気持ちを知ってしまったら、もう一回メッセージを送り直さないといけない。
『統括会って、結局はあのメスブタ?』
 そう言う言い方をするから、頭痛の種が大きくなるんだけれど。
『確かに雪野さんも絡んではいるけれど、優珠希ちゃんの考えている事とは全く別だからね。だから少しだけ待って欲しいなっ』
 実際は倉本君の独り相撲、彩風さんの自分勝手な思い込みが原因なんだから。
『――っ。分かったわよ。あのメスブタが原因じゃないのなら、今日一日だけ待つからいつも通りアンタの腹黒さで、お兄ちゃんを元気にしなさいよ!』
『ちょっと優珠――』
 また自分の言いたい事だけを言って通話を終えた優珠希ちゃん。いつになったら私へのその呼び方を改めてくれるのか。

宛先:優希君
題名:楽しみにしてる
本文:私も優希君と話したいし、明日待ってるね。その代わり倉本君から途中で連絡があった
   ら、優希君も一緒に来てね。それから、優希君の腕の中は私専用の場所なんだから、
   今度は倉本君に言われて離したりしたら嫌だよ。優希君が男の人から私を守ってくれる
   んだよね。それから、私にとっても、とっても可愛い後輩である事には変わりないん
   だから優珠希ちゃんには優しくしてあげてね。

 改めて私の“大好き”を存分に込めたメッセージを送ってから、朝ご飯の為にリビングへと顔を出す。

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