第171話 私の恋物語 Bパート ❝単元まとめ❞

文字数 6,570文字

 それでもなんだかんだ言いもって、私を第一に考えてくれる優希君。
 部活棟の二階、一階を通る時にはしっかり私の腕を取って、恋人繋ぎをしてくれたから往路程、恐怖心みたいなのに苛まれるような事は無かった。
 そして再び昇降口に戻って来た時、
「佳奈大丈夫? 無理してたのに気付けなくてごめん」
「優珠ちゃんが謝る事なんかなんもあらへんから、気にせんでええよ。自分の体調くらい自分で分からなあかんやろ?」
 懐かしく聞き覚えのある声がする。
「そんな訳に行かないじゃない。もし佳奈に何かあったら――」
「――どうもあらへんって。少し日陰で休んだら楽になるさかい」
 ただ、懐かしむよりも会話の内容から不穏な物を感じた私たちが二年の下駄箱に顔を出すと、
「優珠希ちゃん? 御国さん? どうしたの?」
 明らかにぐったりして、下駄箱を背もたれにして座り込んでいる制服姿の御国さんが目に入った。
「ちょっと何でアンタがこんなところに……ふんっ」
 しかも久しぶりに顔を合わせたはずなのに、優珠希ちゃんの態度がそっけないし。
「優珠ちゃん。岡本先輩とお兄さんが仲ようすんのはええ事なんやさかい、変な意地張ったらあかんで。お兄さんも今日は岡本先輩とデートやったんですよね」
 だけれど、今はそんな事を言っている場合じゃない。
「御国さん体調悪いの?」
「いえ、体調が悪いゆうより、少し頭がいとうて休んでるだけです」
 この気温で頭が痛いって……熱中症だったら大変じゃないのか。
「愛美さんごめん。どこか近くでスポーツ飲料を買って来てもらっても良いかな」
 言葉は私に。でも視線は御国さんから外さずに御国さんの額に手を当てたり、首元に手を当てたり、時には手を握ったり手首を掴んだりと、まるで触診みたいな事を始める優希君。
「彼女さん見てはる前で、ウチにベタベタしててもええんですか? 後で喧嘩とかは辞めて下さいよ」
「愛美さんなら大丈夫だから。それよりも他に気分が悪いとか、痛いとかそう言うの無い?」
 もちろん今は急を要するから、そんな気持ちなんて全く無いけれど保健室へ連れて行った方が良いんじゃ――
「痛っ!」
「ちょっとアンタ。何突っ立ってんの? さっさと買いに行くわよ」
 ――言おうとしたところで、優珠希ちゃんにごく軽くだけれど蹴りを貰う。

「アンタ学校休んでたんじゃなかったの? なのに何で学校にいるのよ」
 明らかに優珠希ちゃんの機嫌が悪い。
「何でって……優希君とデートしていたんだよ。私の顔が完治するまでは人の多い場所を避けてくれた結果、学校になったんだよ」
 こんな時は正直に言うに限る。
「……アンタねぇ。しばらく連絡寄こさないかと思ったら、お兄ちゃんは落ち込んで帰って来るし、あんたからの連絡も途絶えがちだったし、おまけに毎日のようにあのメスブタとお兄ちゃんが昼一緒にしてるってゆうじゃない。なのにアンタと来たらケロッとした顔で話しかけて来るし、わたしたちがどれだけ気を揉んだと思ってるのよ」
 声は一オクターブ下げて、でも瞳は少しだけたゆたわせて。
「ごめんなさい。両親が学校側の管理にと言うか、指導に腹を立てていて、私を女子高に転校させるとか言っていたから、本当に大変だったの。でも心配はしてくれていたんだよね。だから……ごめんね」
 こんな姿を見せられたら、ごまかす事も茶化す事も出来なかった。
「なっ! 何が心配よ! アンタがお兄ちゃんの彼女のくせに良識で連絡を寄こさないからじゃない。それを勝手に“心配”とか、話を作るのは辞めて頂戴」
 かと思ったら、このふてぶてしい態度。今の言葉と態度を見る限り、頻度が少なくてもメッセージや電話での連絡が功を奏した感じなのかな。
「まあ。でもアンタがわたしが予告した通り、しっかり自分の戦いをしてたってゆう事だから、今日までの良識の無さは全部水に流しとくわよ」
 私が落としどころとして納得しかけたところに一言。
 その一言に誘われるように横を見れば、優珠希ちゃんと視線がぶつかる。
 そう言えば前回病院の帰りにそんな事を言われた気がする。
「でも戦えたのは、優希君や優珠希ちゃんからの電話やメッセージがあったからだよ。だからありがとう」
 もちろんこの他にも、朱先輩からは言葉に出来ないほどの力と考え方を貰ったし、それ以外の人達からもたくさん励ましも貰った。
 だけれど、優珠希ちゃんの前で他の人を引き合いに出す必要は無くて。
「……アンタって、口も上手い腹黒なのね」
 なのに私への評価は変わらないまま
「ちょっと優珠希ちゃん。いつになったら――その分、優珠希ちゃんは素直だよね」
 耳を赤らめた優珠希ちゃんを見て、先に続く言葉を差し替える。腹黒らしく。

「……後。人気の少ない校内デートとか、センスとしてはさすがお兄ちゃんだけど、どうせアンタの事だから先生もほとんどいないのを良い事に、またハレンチな事でもしてたんでしょ」
 近くのコンビニで頼まれたスポーツ飲料を人数分買って、二人で二本ずつ持ちながらの帰り道での会話。
 今日は左右に髪を結った優珠希ちゃんが今度は、私の首元に巻いてあるタオルを見ながら、私と優希君のデートにまでケチを付け始める。
「その代わり優珠希ちゃんとの約束通り、今の優希君は拗ねてもいないし何ならしっかりといつもの自信も取り戻してくれたよ」
「……ハレンチな事ってゆうのは訂正しないのね。アンタ、その首に巻いたタオルを取ってみなさいよ」
 私の首に巻き付けられたタオルに言及してくる優珠希ちゃん。ほぼ間違いなく私と優希君が何をしたのか見当がついているっぽい。
 だいたい優希君が私の首筋に口付けなんて言うハレンチな極まりない事をしたはずなのに、どうして私がハレンチだって事になるのか。優珠希ちゃんのお兄ちゃん好きもかなりのものだ。
「言ったじゃない。私と優希君。恋人同士の話は例え優珠希ちゃんでも言わないって。だからこの首のタオルも、優希君が使って欲しいって言ってくれた物なんだから、今は取るつもりは無いよ」
 だけれど、優希君にはバレている通り、優珠希ちゃんにも“やきもち”は焼いているのだ。そんな相手に口を割る訳も無いし、ヒントなんて以ての外だ。
「アンタほんっとに腹立つわね! この一週間のお詫びの気持ちとかは無いの?」
 何がお詫びなんだか。どうせ家に帰ったら優希君にアレコレ聞き出す癖に。
「お、お詫びの前に御国さんにこれ。届けるんだよね」
 だから、敢えて私からは教える気は無いって遠回しに伝える。
「……アンタ。ホントに腹黒すぎるんじゃないの? どうやったらそこまで腹黒になれるのよ」
 ちょっとそれはどう言う事なのか。理由を聞く前に極端に短いスカートなのに小走りでって……走り方一つでも“粗相”って無くせるんだなって今初めて知った。

「あ! 優珠ちゃんも岡本先輩もありがとうございます」
 優珠希ちゃんが手に持ったスポーツ飲料をそのまま御国さんに手渡すけれど、熱中症じゃなかったのか、さっきよりも気持ち意識はしっかりしている上、体操服に着替えて、厚着になっている気がする。
「えっと。もう大丈夫なの? 保健室へは――」
「――必要ないよ(わよ)」
 私の言葉に、綺麗に返事を重ねる兄妹。
「心配かけたウチも悪いけど、もうすぐ最終下校時刻なんで歩きながら話しましょう」
 二人の綺麗な返事を聞いた御国さんが、苦笑いを浮かべながらもう本当に平気なのか先陣を切って下校する。
「それにしても岡本先輩が元気そうで安心しましたけど、休んでるって聞いとったんですが、学校でデートしてはったんですか?」
 心配を掛けてしまった気持ちは確かにあるけれど、また何とも言えない質問をしてくる御国さん。そんなに私と優希君がみんな気になるのかな。
「……お兄ちゃんと、校内ハレンチデートをしてたそうよ」
 私が答えないからか、不機嫌そうに返事をする優珠希ちゃん。しかもその語感だけはしっくり来てしまうから嫌だ。
「あんな優珠ちゃん。お兄さんと仲ようしとって嬉しぃて安心したんは分かるけど、ええがげんにしとかんなしまいに愛想尽かされんで!」
「だって佳奈! あのハレンチ『優・珠ちゃん?』――愛美先輩の首元に、何でこの暑いのにタオルを巻いてるのか分かるでしょ?」
 ……そう言われると、今日ばかりはそう言われても仕方がないのかもしれないけれど……でもこれは私がつけたんじゃなくて、優希君が付けたはずなんだけれど。
「……」
 その優希君は、私と優珠希ちゃんがじゃれ合っているとでも思っているのか、なんか嬉しそうだし。
「あんな優珠ちゃん。お兄さんに彼女さんが出来て寂しいんも分かるけど、その分岡本先輩も優珠ちゃんと仲ようしてくれてはんのやろ? せやったらあんまり根掘り葉掘り聞き過ぎたら、そのうち小姑やゆうて嫌われんで!」
「――?!」 
 そしていつも通り優珠希ちゃんを言い含めてしまう可愛い後輩。
 まあ、私がこんなにも素直な優珠希ちゃんを嫌うなんて事は無いけれど、今はこの方が良い気がして敢えて訂正はしないでおく。
「ありがとう御国さん。ところで二人こそ休日の学校で何していたの?」
 それを置いとくとしても、大方の予想は出来るんだけれど今回は口付けの痕って言う、決定的な証拠が残ってしまっているのだから話題は逸らさないといけない。でないと恥ずかしい思いをするのは間違いなく私だけなのだ。
 優珠希ちゃんは、私の意図を分かっているのか、私の首に視線を置いたまま返事はしない。
「今日も、昼からですけど園芸部の雑草抜きと用具の整理をしてました」
 だけれど、今は私の隣を歩いてくれているこの可愛い後輩が、私の答え合わせに付き合ってくれる。
 そのついでに、御国さんの耳に私の手伝いは優希君には秘密にして欲しいとだけ耳打ちをさせてもらう。
「……ウチらの一週間は大体いつも通りでしたけど、岡本先輩はどうやったんですか?」
 私の連絡先を知らなかったから確かめる事も出来なかったと、心配していた気持ちを吐露してくれる御国さん。
「先週の頭はさすがに顔の腫れが酷くて、とても外に出られる状態じゃ無かったけれど、自分から外に出ようと思えるようになったのは、昨日今日くらいからだよ」
 実際には優希君とのデートや、統括会の用事で外を出歩きはしたけれど。
「ほなせめて優珠ちゃんには連絡してあげて下さい。先週の優珠ちゃん、すごい情緒不安定『ちょっと佳奈?!』――やったんですよ」
 それは雪野さんの話や私に対する不満も合わせて、メッセージ越しにも伝わって来てはいた。
「連絡はしていたよ? さすがに毎日では無かったけれど電話もしたはずだけれど」
 言いながら、さすがにタイトルだけだけれど、優珠希ちゃんとのメッセージのやり取りと通話履歴をとっても可愛い後輩に見せる。
「連絡って……もし聞いてもええんならですけど、どんな話してはったんですか?」
 ひょっとして御国さんには伝わっていないのかな。
「えっと、私の傷病の話とか雪野さんをお願いしている話とか?」
 本当は優希君の話もしていたけれど、本人がいる前で女の子同士の話をするのもまた恥ずかしい。
「……優珠ちゃん? なんか話が違う気がするんやけど」
 歩きながら喋るのは危ないからと、結局いつもの公園で木陰になっているベンチを探して少しの間腰を落ち着ける。
「何も違ってないわよ。実際わたしから連絡しなかったら薄情にも連絡を寄こす気が無かったのよ」
「優珠ちゃん。屁理屈はあかんで。優珠ちゃんが心配するくらいには岡本先輩のケガ、酷かったんやろ?」
 そうなのだ。もっと言ってやって欲しい。だからどうしても他の所にまで気配りが出来なかったのも事実なのに。
「わたしは心配なんてしてないわよ。いつもは何聞いても話してくれたのに、最近は何を聞いても話してくれなくなった上に、毎日当たり前のようにあのメスブタと昼してたんだから、わたしの心が荒れるのも分かって頂戴」
「ウチもあの人はあんま良く思わへんけど、そんな言い方したらあかんで」
 いやちょっと待って欲しい。優珠希ちゃんだけじゃなくて、穏やかな性格っぽい御国さんも雪野さんは駄目なのか……。
「そんなことゆったって、あのメスブタのせいでどれだけ被害を被ったと思ってるのよ」
「優珠。それでも僕たちは別れてないし、それどころか僕にとって愛美さんは前よりもっと大切な存在になってる。結果だけ見たら、雪野さんは僕たちに何もしてないどころか、僕たちの橋頭保をしてくれたって考え方も出来るよ」
 確かにそう言う考え方も出来るし、私の気持ちもある程度は理解してくれているのも伝わる。それはもう初めての口付けの時にアレもコレも全て乗り越えたのだから、今となっては感情はまだ荒れるけれど話くらいなら出来るようにはなりつつある。
「何や岡本先輩。メチャメチャ嬉しそうやね」
 ただそれ以上に、優希君の中で私が大切な存在になれているって聞けたのが何よりも嬉しい。
「……」
「うんっ! 大好きな人からそう言ってもらえたらとっても嬉しいよっ」
 だから、嫉妬やドロドロした感情は別として、雪野さんを嫌う理由はやっぱり見つからないのだ。
「優珠ちゃん。この二人の嬉しそうな顔見てみぃや。こんなん見せられたら優珠ちゃんの不安もみんなとんでってしまうんと違うか?」
 そう言えばメッセージで、私が優希君を雪野さんに譲るとか言う話もしていたっけ。
「ふんっ! それでもお兄ちゃんがあのメスブタと昼してるのには変わりないし、あの日曜を忘れつもりは無いから」
「あ! ちょっと優珠!」
 図星を突かれて恥ずかしくなったのか、今日二回目耳を真っ赤にして、一人公園の出口に向かって歩く優珠希ちゃんを追いかける優希君。
 この二人の兄妹仲はやっぱりかなりのものだと思いながら見送っていると、
「もし良かったら、岡本先輩の連絡先、教えてもらっても良いですか?」
「もちろんっ」
 御国さんからの提案で、連絡先の交換をする事に。
「それから優珠ちゃん。本気で心配して気にして情緒不安定になるくらい岡本先輩を気に入ってるんで、もう少し気にかけてやってください」
 そして、この御国さんの優珠希ちゃん好きも相当だと思う。
「分かったよ。色々アドバイスをありがとう。御国さん」
 だから余計な事は何も言わず、お礼だけを口にして御国さんを見送る。
 最後、校内デートのあと一人残った私は、朱から蒼に移ろう公園で一人

宛先:優希君
題名:大好き!
本文:

 もう一度今日のデートの目的である私の気持ちを、メッセージと言う形にして伝えてから、最後公園から立ち去る。

=================単元予告=================
     みんなの気持ちも知らずに少しずつ離れ始める二人の心
     みんなが気持ちを揉む中、一人の人物が大胆な行動に出る

          その一方で決定的に開いていく二人の心

   そして大胆な行動に出た人物を追いかけ、幾度となく対話を重ねようと
          繰り返し足を運ぶ行動を起こした人物の親
           それでも変わった自分を認めて欲しいと
           自分の気持ちを言葉に出来るようになった
               断金へと至った親友

 「この三日間私からもありがとう。これで蒼ちゃんと同じ学校を卒業できるよ」

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             9月13日(日)~9月15日(火)

―――――――――――――――――――次回予告――――――――――――――――――
    お互いに“好き”と“大好き”を見せあって気持ちを確認し合った二人
     そして最後に出会った今学期始めて見る御国さんと妹さん

        その二人から貰った想いと気持ちを聞いての帰宅後
          かかって来るもう一人の後輩からの電話
           そこで爆発する主人公の気持ち……

      そしてもう一つが恋は盲目、気付けなかった簡単な行動

     『岡本先輩が登校された時、ワタシに時間を頂けませんか?』

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