第168話 信頼の積み木 7 Bパート

文字数 8,951文字


 今日わたしがランチに入れたのは、今の愛さんでも気兼ねなく口に入れられるようにと、かなり小さめのおにぎりを中心とした小一口サイズの食べ物を中心に詰めたんだよ。
 だからなのか、だけどなのか、わたしのランチを全く痛がる素振りも無く、とってもおいしそうに食べてくれる愛さん。
 やっぱり愛さんには笑顔が一番似合うと思うんだよ。
「今週頭、愛さんが言ってた空木くんからの贈り物って、その傘なんだよね」
 愛さんのお顔が腫れてしまって、女の子が一番弱ってる時にただ愛さんだけをじっと見続けてくれた空木君が、愛さんへの気持ちを形にしてくれた傘。
「そうなんですよ。以前たった一回私を遠出のデートに連れて行ってくれた時に、私が好きな物って言うか景色を分かってくれたみたいで、この傘を選んでくれたって言ってくれました」
 立ち上がる時も粗相のない所作でこなし、室内にも関わらず広げたままにしてあった傘の所まで移動して、布の部分に、優しく、愛おしそうに手を当てる愛さん。
「愛さんの好みにぴったりだし、本当にセンス良いね」
「それも嬉しいんですけれど、たった一回のデートで、そこまで私を分かって貰えたのが嬉しくて……しかもこの傘って、日傘にもなるんですよ」
 たった一回。その一回で理解してくれたのが嬉しい。やっぱり好きな人からそこまで自分に夢中になってもらえたら、わたしも愛さんも嬉しいに決まってたんだよ。
「日傘。空木くんもいつでも愛さんと一緒にいたいって事なんだよ」
 雨の日だけでなく晴れの日でも使ってもらえるように。つまりいつでも使ってもらえるように。恥ずかしがり屋さんの愛さんが空木くんだけに見せる“大好き”。それに応えるように空木くんからも愛さんにだけ伝える“好き”。
「何かそれ以外にも、顔が腫れていても少しでも気兼ね少なく会えるようにって、言う意味もあるって言ってくれました」
 そこに愛さんに対する気遣いも入ってるから、こんなにも愛さんの表情が幸せそうになってるんだよ。
 女の子を幸せに出来る男の子。寂しい気持ちはあるけど、愛さんが幸せになれるのなら、やっぱりわたしは愛さんの応援をしたい。
「空木くんはいつでも愛さんに会いたいんだよ」
 それに愛さんは知らないであろう、空木くんから愛さんへの深い気持ち。二人の間に関しては、もうわたしの心配事は要らないかも知れないんだよ。
「そう……ですね。優希君から明日もデートしたいって言ってくれていますし」
 その辺りの抜け目も無さそうだし。
「だったら女の子としても安心なんだよ」
「そう言ってもらえたら優希君も喜んでくれると思います」
 先週までは痛々しかったそのお顔で、今週は自然な笑顔を浮かべる愛さん。
「ちなみに私と優希君の仲を取り持つために活躍してくれるこの傘には、普段私の部屋で広がって寛いでもらっているんですよ」
 一方空木くんもまた、知る事はないであろう、愛さんから空木くんへの深い“大好き”の見せ方、表し方。
 その愛さんの頬が、何かを思い出しているのかほんのりと色づくのが、ガーゼの隙間から分かるんだよ。
「また、空木くんの事を考えてる表情なんだよ」
「……この傘をくれた時、近くの公園でこの傘を目くらましにして、優希君から私の頬に口付けしてくれた時を思い出すと、どうしても嬉しくて……」
 先週からこっち、空木くんが愛さんの前で、立派に男の子してくれてるんだって分かる、伝わる。
「だからこそ優希君一人で頑張って欲しくなくて……」
 なのにその表情が再び愁いを帯びたものに変わってしまうんだよ。
 ああそっか。月曜日一日だけ顔を出したあの統括会の事なのかな。
「空木くん一人でって何かあったの?」
 ただあの時は、わたしが投げ入れた一つの考え方で話し合い自体は進んだって判断したけど。
「……最近全く可愛くない後輩は、私との約束は守ってくれないし、優希君のお願いも聞いてくれないんですよ。その上、私はもうすぐ復学出来そうとは言っても、まだこんな顔ですし、後輩が約束を守ってくれないから雪野さんには優希君に何とかついててもらって……倉本君は私の事ばっかり見てて、肝心の雪野さんの事なんて後回しですし優希君の事も槍玉にあげるので……」
 息を吐きながら、自分の身体を抱き持つようなしぐさを見せる愛さん。
「……ひょっとして会長さんに何かされたの?」
 本来自分の身体、いわゆるお腹辺りで腕を組んだり、両腕をさすったりするのは警戒ないしは自分を守るための自衛みたいなものなんだよ。
「……はい。昨日倉本君に腕を掴まれて、優希君の前で……肩から抱かれました」
 な……なんてことをするんだよ。いくら愛さんが好きだって言っても、女の子の気持ちを考えてくれない男の人なんてお断りなんだよ。
「それで喧嘩とかは大丈夫?」
 空木くんもいつも愛さんの事を第一に考えてるんだから、何かあっても不思議じゃないけど……
「それは大丈夫だったんですが、倉本君から一回だけで良いからどうしてもデートして欲しいって言われて……私、優希君以外の男の人に触れられるのがどうしても駄目みたいなんです」
「先に愛さんに言っとくと、好きな男の人以外には触れられたくないって言うのは、隙を見せたくない、粗相をしたくないって言うのと同じ事だから気にしなくて良いどころか、当たり前の事なんだよ」
 せっかく二人の仲がより親密に、信頼「関係」も積み上がってるのに、次会ったらあの会長さんもビンタ決まりなんだよ。
 しかも空木くんに対して、小指を立てて自分の彼女さんのを表現したり、ちょっと乱暴な気がするんだよ。
「やっぱりそうですよね!『?!』なのに優希君が条件付きではあったんですけれど、この週末どうしてもなら私と倉本君と彩風さんで会っても良い、倉本君に私が協力してくれるって言うんですよ」
 空木くんもあの会長さん相手になんて事を言うんだよ。
 空木くんはとっても可愛い愛さんの彼氏さんなんだから、もっと自覚を持ってもらわないと困るんだよ。
「しかも親友の蒼ちゃんまで優希君の肩を持って、優希君の話もちゃんと聞かないと駄目って言うんですよ」
 ってちょっと待つんだよ。まさかそんな重大な局面に親友さんもいたのに、全く何をしてるんだよ。
「えっと、そもそもその時なんで会長さんと会って、何人いたの?」
「えっと、昨日の話で全部で四人で、後から優希君も駆けつけてくれました」
 その愛さんのお話を要約すると、

 ①今の統括会と私の大っ嫌いな雪野さんが孤立から脱却するための話し合いだった
 ②ただし、会長さんと二人きりにするのが嫌だった空木くんが、一番の親友さんに頼んで、
  その親友さんも友達を呼んだ
 ③愛さんのお顔が治りきってない中、外に出たにもかかわらず、愛さんへの恋情の話ばかり
  だった
 ④その上、愛さんを連れまわしたり二人きりになったり触れようとしたり……会長さんに困り
  果てた時に空木くんが来てくれた事

 だったんだよ。
 結局、ポッと出の後輩やわたしの大嫌いな雪野さんが愛さんへの協力をしないから、会長さんがしつこくお邪魔虫さんになってるんだよ。
「愛さん。会長さんから連絡があっても会う必要は無いんだよ」
「そんな事したら倉本君が一人ぼっちになってしまいますし、優希君への協力もしないといけないって思ってもいるんですよ」
 さっきはわたしが驚くくらい勢い込んでたのに、今はまた愛さんの声から勢いがなくなってしまってるんだよ。
 愛さんが大好きな空木くん以外に触れられたくない気持ち、でも何とかして空木くん一人だけが頑張るんじゃなくて、全員で協力して統括会の難局を乗り越えたい愛さん。そのせめぎ合う気持ちが分かってしまうんだよ。
 だからわたしが、愛さんの事を分かり切れてない親友さんや、空木くんの代わりに笑顔にするんだよ。
「愛さんの空木くんへの協力。好きな人のお話を聞いた上での会長さんへの協力を迷うのは分かるけど、今回愛さんは、自分の気持ちに正直に断ったら良いんだよ。そうする事で守れる人がいるんだよ」
 愛さんが統括会の参加する直前に、わたしから伝えた居場所のお話。だったら五人全員の名前を出さないと駄目なんだよ。
 そうじゃ無いと、聡い愛さんは納得しないし他人を徹底してしまう愛さんは首を縦に振らないんだよ。
「でも、全く倉本君の話を聞かない彩風さん相手だと、増々倉本君の一人相撲になってしまいますし、優希君の意図って言うか考えた流れとも変わって行ってしまうと思うんです」
「違うんだよ愛さん。これが、自分が出来るからって、安易に自分が代わりをするって事なんだよ。例えば愛さんに、最近よく懐いてくれてるあの男子児童の事を思い出して欲しいんだけど、あの男子児童が落ち込んだ時、お願いした時、わたしは、何も言わなかったと思うんだけど、もしもあの時わたしが愛さんの代わりにあの男子児童に答えを言ってても愛さんとあの男子児童は仲良くなれたと思う? 今と同じくらい仲良くなれたと思う?」
 お互いが明けにくい窓――あの男子児童の愛さんへの初恋――、お互いの窓の形や大きさが違う――年齢や環境の違い――為、その窓の開示を代わりにわたしが開けた時の事を思い浮かべてもらうんだよ。
「……」
 少し難しかったのか、愛さんが考え込むんだよ。
 だけど、これは後々大切になる事。だからわたしは【蒼】を中心とした部屋の中で、答えが出るのを待つんだよ。
「……朱、先輩に懐いていたかもしれません」
 たっぷり時間をかけて出た答えに少し寂しそうな表情を浮かべる愛さん。
 だけど、わたしはあの男子児童の愛さんへの恋慕を知ってるから、愛さんの答えが間違ってる事を知ってる。
 でも今回必要なのは必ずしも合ってる答えじゃないんだよ。
「それって愛さんも、あの男子児童もお互いを知らない状態だからなんだよ」
 そう。“ジョハリの窓”にある四つの窓を愛さんの代わりに、わたしが開けてしまってたら、愛さんとあの男子児童の“開放の窓”は開かない、大きくならないままなんだよ。
「でも、今の統括会も、雪野さんの事も、もう待ったなしの状態なんですよ?! なのにそんな悠長な事を言ってても大丈夫なんですか?」
 色々な事をまとめて心配し過ぎて、焦ってしまってるのも伝わるんだよ。
「だからこそなんだよ。だからこそ、周りは辛抱強く見続けないといけないし、最後までサポートに回らないといけない。もちろん言うのは簡単だけどものすごく難しいんだよ」
 最悪の事を考えたらどうしても手を出したくなってしまうし、愛さんみたいに他人の傷つく姿や孤立する姿なんて見たい訳がないんだから、尚気持ちもしんどいと思うんだよ。
「それだったら、次の機会の時に二人にはじっくりと時間をかけて話し合ってもらって、今回だけは私が我慢して倉本君――」
「――愛さん。もう今の時点では、愛さん

がって事はないんだよね?」
 他人を徹底して優先する愛さん。もちろんすごく聞こえは良いけど、あの日、教頭先生と話した通り愛さんの考え方は立派で、誰からも称賛されるかもしれないけど、こういう時に脆さが出てしまうんだよ。だから空木くんには愛さんのこう言った性格や特性まで理解して、絶対の味方になって欲しいんだよ。
「……?!」
 初めは意味が分からなさそうにしてた聡い愛さんが、わたしの言いたかった事を理解してくれたのか驚いた表情に変わるんだよ。
 そしてここで、愛さんといつものやり取りでもありあの約束の取り決めなんだよ。
「わたしはどんな事があっても愛さんの味方だから。だから愛さんはもっともぉっとワガママになっても良いし、他の人に任せても良いんだよ。だから愛さんは空木くんに対する気持ちにもっと正直になっても良いんだよ」
 わたしは何があっても愛さんの味方だから。愛さんが少しでも自分を優先してくれるように、自分自身も大切にしてくれるように。
「……じゃあ私は明日、倉本君に会わなくても良い……倉本君に会わないようにして、優希君と心置きなくデートを楽しんでも良いって事……なんでしょうか」
「もちろんなんだよ。明日のデートは空木くんが愛さんと一日一緒にいたい、会長さんなんかと会って欲しくないって空木くんからの気持ちなんだよ」
 これで空木くんが、愛さんを会長さんに会わせるなら、空木くんに愛さんを任せるのは辞めにするんだよ。
 それと、愛さんの親友さんを語るのに、あまりにもお粗末なんだから、その親友さんにも物申したいんだよ。
「……」
「愛さんが考えてる事、何でも良いから教えて欲しいんだよ」
「……そう言えば、蒼ちゃんが男の人の意見、優希君の話もちゃんと聞かないと駄目だって言ってたなって思い出して……」
 ……どうも、空木くんの気持ちを分かってるっぽい親友さん。なんだかあんまり面白くないんだよ。
「そうなんだよ。空木くんの“秘密の窓”を愛さんの方からノックして開けてもらうのも良いと思うんだよ。そう言うデートもあるんだよ?」
 愛さんと空木くんくらいの信頼「関係」になれば、見えていても開けてもらえない“秘密の窓”。こっちから開示を求めても、その信頼「関係」から、びっくりされたり警戒心を持たれる事も

んだよ。 (※⇒200話)
「……つまり、ギリギリまで居場所を奪う事なく彩風さんと会長さんに話をしてもらって、私たちは協力する。一方で、私は明日優希君とデートして、優希君の本音と言うか気持ちをちゃんと聞いて、もっと仲良くなれば良いって言う事ですか?」
 さすが愛さん。満点の回答なんだよ。わたしは一つ首を縦に振ってから、話をまとめにかかるんだよ。
「相手がどう言う人であれ、どう言う感情を持っていても、自分に対して敵意を持たれてる訳じゃ無かったら、身の危険を感じるような事が無ければ、相手の話に辛抱強く耳を傾ける事は大切だし、相手に伝えようとする姿勢はとっても大切なんだよ。ましてや会長さんと総務さんはその他の役員さん以上に、しっかりと意志疎通をしないといけないんだよ」
 交渉する二人の事なんだから、聡い愛さんならこれ以上のお話は不要だと思うけど。
「……朱先輩の仰っている事は分かりますけれど、倉本君が孤独を感じても、助けたらダメなんですか?」
 ああ……そっか。だから空木くんも三人以上なら、愛さんも協力してくれるって言っちゃったのか。
 この広がってる傘と言い、やっぱり空木くんは愛さんを良く分かってるんだよ。だったらさっきのわたしの中の評価は少しだけ改善しておくんだよ。
「そう。駄目なんだよ。会長さんのような立場なら、どうしたって意見の合わない人と意見のすり合わせをしないといけない。つまりジョハリの窓で言う

“秘密の窓”の

、相手に合わせて開ける必要も多々出て来るんだよ。だから意見が合わない――形が合わない――、意見を聞いてくれない――大きさが合わない――からって、愛さんを逃げに使うのは駄目なんだよ」
 それこそ本当に誰の為にもならないんだよ。
「?! じゃあ私が明日優希君とデートするだけで、優希君やみんなの為になるのかな」
 月曜日の空木くんの頑張りを知らない愛さんが見せる迷い。恋は盲目。空木くんの事を信頼しきってただけに分からなくなってしまったのかな。でも、好きな人とのデートは義務感じゃなくて、心から楽しんで欲しいんだよ。
「答えはそんなに難しい事じゃないんだよ。愛さんは空木くんと一緒に大嫌いな雪野さんのお話を聞けば良いだけなんだよ。それだけで空木くんの為にもなるし、会長さんや彩風さんの為にもなるんだよ」
 だから何の気兼ねも無く、愛さんには月曜日に大嫌いな雪野さんを、ハッキリと断った空木くんとの時間を楽しんで欲しい。
“自分は愛さんのものだ”って統括会のみんなにハッキリと言った空木くん。だったら空木くんにとっても近くに愛さんがいた方が嬉しいに決まってるんだよ。
「……じゃあ本当にこの週末、私は倉本君とデートしなくても良いんですね」
 理由を付けて空木くんの男の子としての傷をつけてしまわない様に気を付けながら、愛さんと空木くんの気持ち、感情を紐解いて、そこに統括会としてのお話。上に立つと言う事、意見をまとめると言う考え方の説明をして、ようやく愛さんの表情に笑顔が覗くんだよ。

 ……ホントにやれやれなんだけど、これは愛さんが聡いからなだけであって、愛さんが世話の焼ける女の子だとかそう言う意味じゃないんだよ? まあ、わたしとしてはもっともぉっと、愛さんの世話は焼きたいけど。

「もちろんなんだよ。望んでない人と学外で会う必要もないし、ましてや好きでもない人とデートなんてこれっぽっちもする必要なんてないんだよ」
 わたしが愛さんの一番の理解者なんだから、多少のお手付きは仕方ないにしても、愛さんの笑顔を失くしてしまうのは減点なんだよ。
「ありがとうございますっ! これでこの週末、本当に気が楽になりました」
 言葉と共にようやく愛さんが肩の力も抜くんだよ。
 もちろん愛さんには空木くんって言う愛さんをとっても大切にしてくれる彼氏さんがいるわけだから、倉本君と二人きりが嫌なのは分かるけど、何となくそれだけじゃない気がするんだよ。
「でもそんなにあの会長さんとは一緒にいたくないの?」
 もちろん好きでもない人と二人で歩くのは嫌だし、何かある度に愛さんに触れようとしてくるのはお断りなんだけど、人を疑う事を知らなくて、何でも好意的に捉える愛さんにしては珍しい態度だとわたしは、思うんだよ。
「一緒にいたくないって言うか……本当は駄目だと思うんですけれど私、倉本君はどちらかと言えば嫌いなんですよ」
 愛さんから聞いた“嫌い”の感情にびっくりするんだよ。
 喧嘩してるおじさまとは違って、ハッキリとした意志で負の感情を愛さんの口から聞くのは初めてなんだよ。
「駄目って事は無いけど、愛さんから“嫌い”って初めて聞いたんだよ」
 徹底して他人を優先する愛さんの気持ちの変化を知りたくて、続きを促してしまう。
「まあ、そうかも知れません。でも私の友達に対して“そこの女”とか、蒼ちゃんを邪魔者扱いする倉本君はどうしても好きになれなくて。それに倉本君って機嫌が悪くなると、すごく言葉遣いも悪くなるんです」
 その理由は愛さんらしくて、やっぱり他人やお友達を優先するもので。
「だったら尚の事、デートなんてしなくて良いんだよ」
 男の人の中には、他の女の子には目移りしないって言う下心で、高圧的な態度を取る人もいるって聞いた事もあるけど、人にもよるんだろうけど、男子がそう思ってるだけで、実際女子からしたらいつその矛先が自分に向くかって考えたら、何とも言えない気持ちになるし、愛さんみたいな徹底して他人を優先する性格だと、その友達ですら近づけたくないって思ってても不思議じゃないんだよ。
「私と優希君はもうお付き合いしているんだって言っても、中々私への想いを諦めてくれなくて、気持ちもしんどくて……」
 この場合、わたしと愛さんに限っては、色々な男の人に好かれたってこれっぽっちも嬉しくないんだよ。
「そう言う相手には、前に一度話した事があると思うんだけど、愛さん自身が本人に直接お断りだって、ハッキリ言葉にしないと駄目なんだよ」
 そう。脳とスイッチのお話。
 愛さんからしんどいと思うけど、脳とスイッチの話……なんだよ。
「……」
 よっぽど気持ち的に堪えてるのか、言葉を無くす愛さん。
「だったら今週末、今日、明日の話を今の愛さんの気持ちも含めてしっかりと空木くんに伝えて、二人でどうするのか話し合えば良いんだよ。今の二人の“開放の窓”の大きさなら、築き上げた信頼「関係」の中で出来ると思うんだよ」
 その上、お互いが想い合えているんだから。
「分かりました。優希君の話、気持ちもちゃんと聞いた上でしっかりと話し合って決めて行きます。それで、更に朱先輩にお願いがあるんですけれど……」
 そうやってお互い好きな人同士。まだまだ頼りないけど、わたし以外でもう一人、愛さんにとって絶対の味方になりつつある空木くん。
 積み上げた信頼「関係」の先に歩んで行ってくれたらなって思ってたところに、愛さんからのお願い。
「愛さんからのお願いなら、いつだって何だって聞くんだよ」
 とっても嬉しいに決まってるんだよ。
「……自意識過剰かもしれないんですが、なんだか最近倉本君からも私に“そう言う視線”を時々向けられていて……もっともっと隙を無くしたいんです。優希君に嫌な思いをして欲しくないんです」
 ……本当に愛さんって子は……いつも空木くんを中心に据えて増々立派なレディになって行く愛さん。空木くんにはもっともっと愛さんを大切にしてもらわないと、本当にもう一つ学府上がった時に、大変な事になるのは目に見えてるんだよ。
「もちろんなんだよ! 

なんかに見せる隙なんてゴミ箱にポイなんだよ」
 男性としての気持ち、特性、性としては理解するけど、女性側からしたらそんな“粗相”はするものじゃないし、第一嫌いな会長にする“粗相”なんて増々持ち合わせてないんだよ。
 ホントに、好きな女の子に向ける視線としては、落第点も良い所なんだよ。
「ありがとうございます! 朱先輩っ」
 笑顔の愛さんに、今回は襟元と胸元、そして胸部のボタンの隙間。そう言った“粗相・隙”の話をした後、わたしは愛さん専用の家庭教師に変身したんだよ。

――――――――――――――――――――次回予告―――――――――――――――――――
          朱先輩に自分の想いを話した主人公
   その結果嫌いな倉本君とはデートをしなくても良い事に納得出来た

    その上で増々他の男性からの色々な視線を気にする主人公と
         それに応える朱先輩二人の秘密の講義

         そしてそのいずれにもチラつく影……親友
 
         ただ周りの状況は止まってくれることは無く

  『さっきまで優希君と喋っていたんだけれど、私に何か言う事、ない?』

           次回 169話【蒼と朱、二人の色は】
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