第161話 届かない想い 4 Bパート

文字数 4,193文字


 可愛くない後輩に大きなため息をついて、大幅に遅れたお昼をしてから、改めて机に向かってしばらくしたところで今度は中条さんから電話がかかって来るけれど、そんなに頻繁に電話をして来ても学校の授業とか、クラスの友達とか大丈夫なのか。
『もしもし。今授業中じゃないの?』
 だから放っておこうと思ったのだけれど、鳴り止む気配がないから、私の方が折れる形で通話を始める。
『今は休み時間です。時間がないので前置き無しで聞きますけど、彩風に何言ったんですか? 今、あーしの前でベソかいてて分かんないんですよ』
 涙していてって……まさか昼からの授業を涙しながら受けたのか。色々と言いたい事はあったけれど、短い休み時間だからとさっきの電話の内容を手短に伝える。
『愛先輩、会長とデートするって本気ですか? そんなことされたらあーしが副会長に、喧嘩する羽目になったって言ってものすごく怒られるじゃないですか』
 そう言えば、公園でのデートの時にも昨日の電話でもそれらしい事は言っていたし、私を守るのも優希君だってさっき自分で思っていたばかりだ。
『私が嫌なんだから、そんな事するわけ無いって。ただ彩風さんが私が倉本君の事を好きなんだから、倉本君とデートしたら倉本君が喜んで、統括会の為にもなってとかなんとか、勝手な事ばっかり言ったからそう返しただけだよ』
 ……まぁ、平たく言えば売り言葉に買い言葉と言うのが一番近いかもしれない。
『万一愛先輩と副会長が喧嘩したら、一番初めに副会長の矛先が向くのはあーしらなんですから、彩風にはあーしから話をして、固く口留めしとくんで、副会長にはくれぐれも言わないで下さいよ』
 そう考えると、私の冷静さを欠いていたとは思うけれど、
『彩風さんと話をするって言うけれど、彩風さんから“ワザワザ報告しないで内緒で倉本君とデートして来たら良い”って言われたらどうしたら良いと思う?』
『彩風が愛先輩と会長で本当にデートしたら良いって言ったんですか? さすがに信じられないんですけど』
『そうだよ。だから彩風さんがそう言うんだったら。じゃあ統括会の話し合いついでにデートするって言っただけだって』
『「おい彩風。愛先輩と会長の仲、応援してどうすんだ?」――「だって二人共好き合ってるんならしょうがないじゃない」』
 電話口で問答する二人。短い休み時間は良いのか、さすがに気になる。
『「好き合ってるって……愛先輩は副会長一本だったろ」――「清くんの良さに気が付いたんじゃないの? それに愛先輩も“清くん、清くん”言ってるし」』
 さっきからの私の倉本君に対する印象はどこへ消えてしまったのか。
『中条さん。さすがに先輩である私が二人の授業をすっぽかすような事はそそのかせないから、一度電話切るね』
 どう考えても、この時間だけでは解決できる問題じゃないのだからと、授業に出るように促す。
『いや。愛先輩の言ってる事も分かりますけど、今の彩風だと授業に出ても意味ないくらい酷い事になってますって』
 中条さんの実況に大きなため息が出る。
『だけれど、先輩でしかも統括会やっている人間が、授業サボらせることはさすがに出来ないよ』
『分かりました。じゃあまた放課後連絡しますんで、その時に話の続き良いですか?』
 やっぱり冷静な中条さんは、代案を出してくれるけれど、それは頂けない。
『中条さん。私と優希君との約束は?』
 今日の放課後には、優希君のお話を聞いてくれる手はずじゃなかったのか。
 それに私もこの後は、蒼ちゃんとの約束でもある長い喧嘩の仲直りをするのだから、電話に出る余裕は無いと思う。
『そう言えば! じゃあ今日の夜にまた連絡します』
『分かった。その時に出来る話はするけれど……彩風さんもちゃんと授業には出るように言ってね』
『分かりました……それで副会長への口止めの話は……』
『何で? 優希君にはちゃんと言うよ? その上で中条さんじゃなくて、彩風さんとの話だって伝えるよ』
 私が冷静さを欠いていて、優希君にお小言を貰うとしても、隠し事なんて言うのはもってのほかだし、特に男女関係の話は出来る限り伝えるようには今後もするつもりはしている。
 そもそも今日の電話だって、かかってくる可能性は高くて、もしかかって来た場合は優しく聞いて欲しいと言われてはいたんだから、私の分も合わせて動いてくれている優希君に正直に言うのは当たり前の事なのだ。
『とにかく、彩風とはあーしが話をするんで少しだけ待って下さい』 
 なのに中条さんが優希君に秘密を作れと言って来る。
『待つって何を待つの? そもそも倉本君と二人きりのお出かけをする気なんて全く無いって事も伝えるよ?』
 だからこそ、変な話が優希君の耳に入って不安にとらわれてしまう前に、言っておきたいのに。
『恋愛マスターの考えは分かりました。もう時間が無いんで切りますけど、一旦今日の夜、連絡ください』
『分かった。少し夜遅くなるかもしれないけれど、連絡入れるね』
 いよいよもってゆっくりしている余裕なんてないんじゃないのか。
『それじゃあ今晩よろしくお願いします』
 本当に時間ギリギリだったのか、そのまま通話が切れる。

 それにしても。と思う。
 倉本君にしても雪野さんにしても、私と優希君はお付き合いをしていると公言しているのに、どうして話が終わってくれないのか。もちろん好きな人相手、中々諦めきれない気持ちは分かるけれど、このままだと中々私も優希君も安心できない。
 そもそも彩風さんが倉本君の話に耳を傾けていれば、夏休みのような良い案ももっと出るんじゃないのか。そうすればお互いの気持ちも通じ合い易いし、ふ……二人の共同作業にもなるんじゃないのか。こう考えると、幼馴染の壁とか近しい間柄とか、何の関係もないんじゃないのかとさえ思ってしまう。
 そんなものを盾にしている間は、うまく行くものもうまく行かない気がする。
 とにかく、今の二つの話を優希君の耳には入れておきたかったのだけれど、今は授業中だからと放課後の時間までは大人しく机に向かう事にする。


 机に向かっている間は、勉強の事だけを考えておけばいいのだからと集中していた所へ、
「――!」
 お母さんが出かけたのか、突然玄関の締まる音がする。
 そこで何となく集中力を切らせた私は、

宛先:優希君
題名:連絡あったよ
本文:ちゃんと話自体は聞くようにしたけれど、彩風さんから私は倉本君の事が
   好きだって決めつけられた時に、売り言葉に買い言葉みたいになってしま
   って、私が倉本君とデートする。みたいな事を言ってしまったけれど、私に
   は本当にそんな気はないから安心してね。ただ、その後で中条さんからも
   連絡があって事情も話してあるよ。

 優希君の耳に、変な噂話が入ってしまう前にメッセージを送ってしまう。
 本当ならもっと優希君に協力しないといけないのに、優希君の事になると私も、どうしても感情的になってしまう。
 ただ、この後私も友達との仲直りが控えているのだから、気持ちを切り替えないといけない。

発元:優希君
題名:それはかまわない
本文:どう言う話になったのか、具体的に教えてもらっても良い?

 かと思っていた所に早くも優希君からの返信が届く。

宛先:優希君
題名:話した内容
本文:①私たち女側も男の人の意見に耳を傾けないといけない 
   ②私が彩風さんに変わって倉本君と交渉の場に立つことはない 
   ③彩風さん自身が倉本君に対して、言動でもって気持ちを見せないと、
    倉本君に伝わりようがない事。
   この三点を伝えた上で、私と倉本君とでデートをするって言う売り言葉に
   買い言葉になってしまったけれど、それだけは本当にないからね。それと
   中条さんの話だけれど、多分倉本君の前では素直になったかどうかの話は
   すると思う。

 念には念を押して、もう一度同じ文章を送っておく。
③の内容と、中条さんとのやり取りの事については、彩風さんにとっては大切な恋心な上に、今回悲恋にはなりそうだけれど、私との売り言葉に買い言葉の事もあって、伝えてしまう事にする。

 それからしばらくして

発元:実祝さん
題名:終わった
本文:今から愛美の家に行く。緊張する。

 いよいよ今日の主賓、実祝さんからのメッセージが届く。

宛先:蒼ちゃん
題名:メッセージ
本文:蒼ちゃん出て来れそう? 実祝さんから今から学校出るってメッセージ
   あったから(じき)に来ると思う。

 うまく行かない事も多いけれど全てがそう言う訳じゃ無い。
 先生との事、少し皮算用が入るけれど今回の実祝さんの成績の事。園芸部に対する嫌がらせには本当に腹が立ったけれど、皮肉にも御国さんと知り合うきっかけにはなった事など、うまく行っている事もあるにはあるのだ。
 だからこそ、今日の実祝さんの事も含めて今後の弾みにしたいし、何より笑顔を増やしたい。

宛元:優希君
題名:大丈夫
本文:それだけ伝えてくれたら大丈夫だけど、僕から愛美さんに言いたい事もある
   から改めて連絡する。それから僕の方は中条さんともう一度話すから。それと
   雪野さんが近い内に連絡すると思うから、今度こそ優しく聞いて、売り言葉に
   買い言葉も駄目だから。
追伸:今日は蒼依さんと楽しんで

 そしてもう一通優希君からの返信。
 やっぱりそこは言われるのか。それでも私への気遣いだけは忘れずに見せてくれる優希君の気持ち。

宛先:優希君
題名:ありがとう
本文:ひょっとしたら中条さんに夜、連絡欲しいって言われているから電話に出られ
   ないかも知れないけれど、連絡だけは待っているね

 だったら今度こそ優希君の気持ちに応えるべきだし、その分次のデートの時には、私への“好き”をたくさん頑張ってもらうのだ。

―――――――――――――――――――次回予告――――――――――――――――――――
         統括会や恋情のもつれなど問題が山積する中
     親友である蒼ちゃんや、お姉さんの我慢強い働きかけもあり、
           ついに長かった二人の隔たりが埋まる……

      そして言いたい事、想いをぶつけ切った三人が進む路は……

     「これは困った。このままだとお母さんが二人になってしまう」

            次回 162話 長い喧嘩の終わりに
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み