幕間講義 3 子どもの最善の利益 1 4つの柱(基本四権利) (前)

文字数 4,904文字

優珠:また難しそうなのを持ってきて
直実:そんな事ないぞ。せっかくだから子供としての意見を聞きたい
朱寿:(……また憎い妹さんとばかり喋ってるんだよ)
優希:優珠と仲良く出来るあの男は一体何なんだ?
佳奈:お兄さん。心の声が漏れてますよ
優珠:お兄ちゃんっ! 大丈夫よ。あんなハレンチ女に付け入る隙を与えるつもりはないから
朱寿:何が“付け入る隙”なんだよ。わたしは何があっても愛さんの味方なんだよ

雪野:あの。話を進めなくて良いんですか?
彩風:冬ちゃんってホントに副会長以外興味ないんだ
中条:そもそもあの男も彼女さんがいるのに、なんであんなチャラチャラした女と仲良くして
   んだ?
優珠:あ? 誰がチャラチャラしてるって? やっぱり喧嘩売ってんのか?
中条:喧嘩? 自分のカッコ見てから言えって。大体人の男に色目使って何考えてんだ?
朱寿:(そうなんだよ! もっと言ってやれ! なんだよ)
愛美:大丈夫ですよ朱先輩。優珠希ちゃんはものすごいお兄ちゃんっ子なので安心して下さいね
男性:(――っ?! お……お兄……ちゃん?!)
女性:(……絶対またロクでもないこと考えてる)
倉本:あの、岡本さん。いつも空木の妹さんをなんて呼んでるんだ?
愛美:なんでそれを倉本君が――
蒼依:――そんなの会長さんに関係ありませんよね
実祝:さすが蒼依。反応が早い――その隙にあたしは愛美の横を頂く
咲夜:すげぇ! 本編顔負けの二人の連携
蒼依:じゃあ私が反対側の愛ちゃんの隣を貰うね
佳奈:お兄さんってたまにどんくさいですよね
雪野:何を言ってるんですか? 空木先輩はワタシの隣が良いんですから自然じゃないですか
倉本:やっと空木もその気になったか
雪野:霧ちゃんも何をしてるんですか? 早く空木先輩の横に座って下さい
彩風:なんでアタシまで巻き添えに……
中条:……愛先輩の近くに男がいないならいいや
咲夜:おおぉっと! これは副会長の浮気ピンチ――っ?!
愛美:――咲夜さん。後で監禁ね
咲夜:か……監禁?!
慶久:それでしたら是非俺の部屋に監禁を
蒼依:慶久君。そういうのは駄目だよ――愛ちゃん。監禁じゃなくて出禁の方が良いんじゃ
   ない?
咲夜:弟君のせいで出禁?!?!
佳奈:なんやイントネーション聞いとったら“出禁”の方が嫌そうやな
慶久:でしたら是非俺の部屋へ!
蒼依:慶久君が浮気って事で良いんだね?
愛美:慶の為にお母さんに帰ってきて貰うのを考えるよ
咲夜:あたしは出禁になるくらいなら、弟君の部屋の方がまだ……
実祝:咲夜。弟はまだ15歳。いや、もう16歳か。
結芽:そう言う問題じゃないと思うけど
優珠:何でも良いけどお兄ちゃんが浮気とかゆい出すアホ女は侮辱罪で良いんじゃない?
中条:は? 男なんて浮気するだけの生きもんだろ?
優珠:分かった。アンタは一回泣かす
中条:やれるもんならやってみなよ
蒼依:喧嘩したら、愛ちゃんの友達として認めないから
二人:……(いつか決着付けてやる)
愛美:咲夜さん。監禁後出禁ね
咲夜:(――っ?!)
実祝:……咲夜。南無
慶久:と言う事は一度は俺の部屋にっ!
蒼依:慶久君の気持ちはよく分かったよ。これからは咲ちゃんと仲良くね
慶久:……
中条:それにしても愛先輩と蒼先輩って仲良いんですね。あこがれます~
愛美:ありがとう理沙さん。だったら優珠希ちゃんとも仲良くしてね
中条:もちろんですよ~ (――あっかんべー)
優珠:あっ! 何抜け駆けしてんのよ(~~絶対痛い目に合わせてやる)
佳奈:なんや幼稚な争いやなぁ
優希:でも優珠があんなに口数が多いのは久しぶりだから僕も嬉しいよ
雪野:やっぱり空木先輩ってお優しいです
優希:これも全部愛美さんが優珠の良さを理解してくれてからなんだ――だから愛美さんあり
   がとう
彩風:なんか副会長の返しが上手くなってる気が……
雪野:――そ、それでもお優しい事には変わりありません!
倉本:俺ももっと協力してやるからな

朱寿:そろそろ始めても良いかな
   (愛さんが相変わらずこっちを見てくれないんだよ)
直実:そうだな。そろそろ始めるか。まず始めに今回の議題には番号を振ってるけどなんでか
   分かるかな?
咲夜:前回みたいに最後の方で息切れを起こさない為……ですか?
優珠:……息切れって……
直実:気持ちは分かるけど、今回はそうじゃないよ
朱寿:前半部分は主に講義とテーマで、後半部分は話し合いにしてみたんだよ
直実:朱寿の言いたい事は分かるけど、少し急ぎすぎだな
優珠:それを考えさせるのがテーマなんじゃないの?
巻本:前回からさすがだな
朱寿:(~~またナオくんがわたしを見てくれないんだよ)

蒼依:ホントにあの人って愛ちゃんにとって頼りになるの?
愛美:なるよ。だっていっつも助けて貰ってるもん。それにものすごく優しいし、あり得ない
   くらい私の気持ちも分かってくれるんだよ
蒼依:……私は愛ちゃんにとって頼りになってる?
愛美:もちろん頼りにはなっているけれど、朱先輩とは比べられないよ
蒼依:じゃあ今はそれでも良いよ。でも私は誰よりも愛ちゃんを大切な親友だって思ってるから
   ね。それだけは絶対忘れないでね
咲夜:こう言う三角関係はなんて言うのかな
実祝:咲夜。悪い事は言わない。余計な事は言わない方が良い
中条:女同士なら勝ち負けもないから、みんな愛先輩の為に頑張れ~
結芽:この後輩のぶれなさ

雪野:それにしても子どもの最善の利益って、あまりにも漠然としすぎていませんか?
彩風:それをさらっと言える冬ちゃんもずれてるよ?
倉本:でもこの“子どもの最善の利益”は簡単に答えが出るような話じゃないんだ
巻本:そう言う事。だから何回かに分けて、テーマを絞ろうって話だな
直実:それで今回一番初めの前半部分のテーマがこれ


1:生きる権利 (根拠条文24条・27条・37条・38条)
2:守られる権利 (根拠条文19条・32条・36条)
3:育つ権利  (根拠条文17条・23条・28条)
4:参加する権利 (根拠条文12条~16条・31条)

 ※この根拠条文は全て 『子どもの権利条約』における条文です
  (詳しくは幕間講義 1 にて掲載済みです)

直実:この四つなんだ

優珠:生きる権利って……わたしたち今も普通に生きてるじゃない。これが利益って、これは
   当たり前じゃないの?
倉本:それがそうでもないんだ。俺たちはこの日本に住んでるからどうしても想像しにくい
   だろうけど、日々生きて行くだけで精一杯な国や地域もあるんだ
優珠:……そうゆう事ね
慶久:(さすがに全然着いてけない)
巻本:さすがだな。ついでに補足しておくと、この生きる権利がある以上戦地で命を落とす危険
   が極めて大きい事から、

児童については入隊(戦争参加)はさせないという文言も
   入ってる。その根拠条文がこれだ

『子どもの権利条約 第38条 ③項』

③ 締約国は、15歳未満の者を自国の軍隊に採用することを差し控えるものとし、また、15歳
  以上18歳未満の者の中から採用するに当たっては、最年長者を優先させるよう努める。

直実:それに生きる権利と一口に言っても、ただ寝て起きての生活をするだけなら、そんなのは
   生きてるとは言えないんだ
朱寿:そうなんだよ。病気になればしっかりと治してもらえるような、ちゃんとお喋り出来て
   お話を聞いてもらったり聞いたり、そう言う人らしい心を持てるような生活も生きる権利
   の中に入ってるんだよ
穂高:そうね。だから児童や生徒がたくさん集まる学校や施設に関しては、必ず簡易的な医療、
   応急的な医療が受けられるように私たちが配置されたりしてるのよ
優希:でもそれらから未然に防ぐのも学校、大人側の責任ですよね
巻本:それに関しては難しい話だが、この法律というか条約で規定・想定してるのは、虐待や
   その他理不尽な暴力で今回空木が気にしてる、いじめは想定されてない。
直実:ただし、このいじめに関しては前回の講義で行った『いじめ防止対策推進法』にてしっか
   りと網羅されてるからおざなりになってる、何をしても良いというわけではないんだ
優珠:お兄ちゃんの優しい気持ちは分かるけど、守られるってそれだけじゃないのよ……特に
   女にとってはね
中条:……ひょっとしてあーしが何度か蒼先輩から注意を受けてる?
雪野:ちょっと中条さん。条約にまで引っかかる行動って、何をしてるんですか
彩風:そうじゃなくて愛先輩にポロポロ零してる危険な言葉じゃないかな?
咲夜:危険な言葉……
実祝:そこだけは反応する咲夜……
蒼依:……咲ちゃんをいつになったら出禁にしようかな
愛美:……ひょっとして私って、何か知らない間に色々な人から守られてる?
蒼依:そんなの当たり前じゃ――
朱寿:――そんなの当たり前なんだよ! 愛さんを守るのは、一番の理解者であるわたし
   なんだよ
愛美:ありがとうございます朱先輩っ!
蒼依:(……いっつも私の邪魔ばかりして)
直実:愛美ちゃんがとても大切なのは分かったから、朱寿も落ち着いて
優珠:落ち着きのない女ね
佳奈:優珠ちゃん、あのキレイな人に対してホンマにきついなぁ
蒼依:愛ちゃんを一番理解してるのは私なのに、勝手な事ばかり言うからだよ
朱寿:……
直実:それじゃ続き行くな――その前に愛美ちゃん悪いけどちょっとこっち来てくれるかな
愛美:あ。はい
優希:――
蒼依:……
優珠:(……お兄ちゃんの彼女になんて呼び方するのよ)
佳奈:みんな分かりやすいなぁ
直実:この講義に入ってから全然朱寿の隣に座ってないだろ? だから特等席で一緒に講義を
   聴いてくれると嬉しい
愛美:もちろんですよっ! 朱先輩はずっと先生側だったので半分諦めてたんですよ
朱寿:ナオくんっ! 愛さんもありがとうなんだよ~
中条:うむむ……女にちょっかいをかけたかと思えば、彼女を喜ばせる為か……
雪野:中条さんが……ぶれてます??
彩風:いやでもまだ迷ってるよ?
実祝:でもこの男性はかっこいい
咲夜:好感度も高いよね
直実:それで“生きる権利”話をまとめると、
雪野:ただ寝て起きるだけじゃなくて、しっかりと笑って喋って会話して健康に生活する
実祝:そして病気やけがをした際にはその傷や病気の度合いによって“到達可能な最高水準の
   健康を享受する” “権利が奪われないことを確保する”が認められてる 
   (同条約24条)
優珠:そしてこれらは日本国憲法の第25条に『生存権として、文化的な最低限度の生活』の文言
   で明記されてるのよ
朱寿:……

直実:次によく似た定義で中身が違う“守られる権利”だが、さっきから出てるいじめの話は
   どちらかというとこっちの話だな
咲夜:そう……なんですね。前回のいじめ防止対策推進法に加えて“守られる権利”……
実祝:咲夜は猛反省した。これ以上は落ち込まなくても良い
愛美:そうだよ咲夜さん。これからは教室の空気を少しでもよくする為に笑お?
巻本:そうなんだ。この“守られる権利”の中にあらゆる暴力・搾取から守られると言う文言が
   あって、前回の話はこっちをメインに捉えた話だと考えても良いくらいだ
雪野:くらいって言うのは? これが主な話じゃないって事ですか?
倉本:その通りだ。さすが雪野は頭が良いだけあってしっかりと細かいところまで聞いてるな
朱寿:大丈夫なんだよ。愛さんはもっともぉっと頭が良いんだから気にしなくても良いんだよ
穂高:そうじゃなくて、この権利が主に想定してるのは前回同様、サブテーマだからだいぶ後の
   法の単元でしっかりと説明する予定よ
佳奈:あの先生。そこまで言ってしもうて大丈夫なんですか
優珠:良いんじゃない? メインテーマとサブテーマはかなり重いから、今からしっかり考えて
   貰うのも一つだと思うわよ
雪野:分かりました
   (多分、岡本さんやそのご友人。それにワタシの友達まで考慮してくれたんでしょう)
彩風:冬ちゃんの物わかりが珍しい
中条:(どう言う事だ? この二人の仲は最悪じゃないのか?)

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