第160話 理想と現実 Bパート

文字数 8,534文字


 気分を切り替えて部屋に戻って来た私は、優希君の声が聞きたくなったからと携帯を手に取ると、
「……中条さん?」 (156話→160話)
 まさか二日続けての連絡。ちょうど私の方にも中条さんに言いたい事があったからとかけ直すと、
『二日続けての連絡すみません。今時間大丈夫ですか?』
『良いけれど何かあったの?』
 私から文句を吹っかけようとしたのだけれど、中条さんに押される形で、私の話は後に回す事にする。
『それが彩風の奴、会長と大喧嘩したらしくて、その原因が雪野だって言って雪野とも喧嘩してしまって……どうしたら良いのか分からなかったんで愛先輩に連絡しました』
 こんな時に周りと喧嘩してどうするのか。みんなの気持ちが全く分かっていない彩風さんにため息が出る。
『……倉本君と彩風さんの原因は何か聞いてる?』
『彩風自身も相当取り乱していたんで、にわかには信じられないんですが、会長が彩風と一緒にいると負担に感じる事があるから、これを機に彩風は自立しようって会長から提案されたらしいです。それから、今後の統括会の交渉は会長と愛先輩で挑むって言う話までしたらしいです』
 何で話が好き勝手に飛び交うのか。そもそも学校側の交渉は会長と総務で行うのが常なんじゃないのか。なのにどうして役割の垣根を越えてまで私が参加する事になるのか。
『取り敢えず今日の雪野さんって言うか、喧嘩の影響は?』
『今までと変わらないです。多分彩風側にみんなついてるんじゃないでしょうか――ひょっとして愛先輩。会長と喋りました?』
『優希君には全て伝えてあるけれど、昨日喋ったよ。その中で倉本君はしきりに彩風さんは話を聞いてくれない、反対しかしてくれなくて息苦しいって嘆いてたよ。そんな状態だから彩風さん自身といるとしんどくなるって言ってたよ』
『それってもう駄目って事じゃないですか。彩風、会長の前では素直になってたんじゃないんですか?』
 さすがは恋愛経験豊富な中条さん。私よりもかなり早く同じ結論に達する。
『分からないけれど、倉本君の意見はずっと拒んで反対し続けていたのは確かだと思う』
 挙げ句の果てに雪野さんにまで当たっているんなら、焼く世話もない。
『それよりも私の話。まだ聞いてくれていないの?』
 ただ、彩風さんの方は優希君にお任せしたのだから、私からは余計な首は突っ込まない。
 だから私に出来るのは、少しでも優希君が動きやすくなるために二人を接触させる事だ。
『それよりもって……その言い方は、あまりにも冷たくないですか?』
 今更何が冷たいんだか。初めから私は優しくないって言っているし、こう言う所をなぁなぁで済ますのが優しさだなんて思えない。
『しかも愛先輩の話って……だからこうやってあーしから愛先輩に聞いてるんじゃないですか』
『優希君とは? それに雪野さん絡みの二年の噂は?』
『それだって、早速昨日の放課後に会って話をしようとしたら副会長は既に帰った後って言うじゃないですか。その中でどうやって、雪野の訂正と副会長の指示を仰ぐことが出来るんです?』
 昨日の優希君は、私に会うためにそこまで急いでくれたんだ……それが分かっただけで、また優希君の声が聞きたくなる。
『分かった。昨日に関しては私に会うために、優希君は急いでくれたんだと思う。だからさっきの言い方は酷かった。ごめんね』
 だったら、今後の優希君の印象の為に、理由も一緒に述べた上で私が謝っておくべきだと思い口にする。
『いや。別に愛先輩に謝って欲しい訳じゃ無いですけど……それじゃああーしは明日副会長に会えるんですか?』
『そうだよ。私からも、もう一回言っておくから、優希君に会って中条さんへのお願いを聞いて欲しいの』
『聞いて欲しいって……何をお願いするかも分からないし、あーしが副会長との話を愛先輩に隠すかもしれないじゃないですか。なのに愛先輩は勘繰ったりはしないんですか?』
 ただ優希君のお願いを聞いてもらうだけなのにどうしてそう言う話に結びついてしまうのか。
『何を勘ぐるの? 言っとくけれどこの期に及んで優希君が浮気するとか、気移りするとか言い出したら、本気で怒るよ』
 いくら中条さんが浮気されたからって、私たちの為に色々考えてくれている優希君を疑うと言うのなら、そのまま怒りをぶちまけさせてもらう。
『分かりました。あーしからも明日、副会長に接触出来るように動きます』
『それと、彩風さんの事も優希君に何か考えがあるみたいだからお任せしてね』
 その上で、優希君が彩風さんの事まで考えている事は伝えておくことにする。
『……これは副会長を疑ってるとかじゃなくて、純粋な疑問なんですが、なんで浮気する男の事を簡単に信じられるんですか?』
 いや、それを疑っているって言うんじゃないのか。
『そもそも自分の彼氏を信じないで、どうやってお付き合いをするの? そんなので本当にお付き合い出来るの?』
 それを抜きにしても、信頼「関係」無しでどうやって人付き合いをするのか。全幅の信頼を置くとは言わないけれど、中条さん程全く信用しないで、それでどうやって相手の心の窓を開いてもらうことが出来るのか。これじゃあ彩風さんと瓜二つの結果になってしまうんじゃないのか。
『だからあーしはもう、男なんてコリゴリなんですよ。あーしらの前では適当に甘い言葉を言っといて、裏では他の女と遊び倒す。むしろ愛先輩がどうやってあの副会長を信用してるのかを知りたいくらいです』
 その裏で遊んでいる役を雪野さんがしていると言いたいのかもしれないけれど、私は優希君の気持ちも知っているし、都度優希君の気持ちも聞いている。その中で私に会いたいってしきりに言ってくれているんだから、疑う訳が無い。
 それを抜きにしても、朱先輩も優珠希ちゃんからも何の連絡もないのだ。これでどうやって優希君を疑うのか。こんなにも私たちを考えて動いてくれている優希君を疑うなんて不義理はしたくない。
『その話は、また落ち着いた時にね』
 ただどっちにしても、今は優希君に協力する体制をまずは作らないといけない。
『分かりました。その時を楽しみにしてます。今日も話を聞いてもらってありがとうございました』
 最終的には私の話を少しは分かって貰えたのか、中条さんがお礼を口にしてそのまま通話を終える。


 今度こそ優希君の声を聞きたいって思っていたのに、一度夜ご飯で一息つく事に。
 何でかは分からなかったけれど、ムスッとしていた慶は放っておいて、ロクでもない事を考えているのが丸分かりなお母さんに、半眼を向け続けながらの夕飯を終えてしまう。
 少なくとも、お父さんとの喧嘩の鬱憤をこっちに向けるのを辞めてもらえるまでは、このままの方が良いのかもしれない。
 とにかく、これ以上私と優希君の事を気にされるのも、先生をダシにからかわれるのも全く面白くない。
「愛美の青春も大変ねぇ……」
「っ?!」
 なのに、どうしてご飯を食べる時の感想が青春になってしまうのか。ただ一言でも返そうものなら何が飛んでくるのか分からない以上、下手な事は口に出来ない。私はつい反応してしまいそうになる口を意識して、締めながら再び二階へと戻る。

 そして今度こそと思った時、次は蒼ちゃんから電話がかかって来る。そう言えば私と会うための話をしてくれるって言ってくれていたっけ。
『昨日ぶりだね。愛ちゃん』
 その蒼ちゃんの声は昨日より明らかに嬉しそうだ。つまり色よい返事を貰えたって事で良いのかな。
『うん。蒼ちゃんも元気そうで嬉しいよ。ひょっとして昨日の話、うまく行ったの?』
 だったら私もすごく嬉しいんだけれど。
『それもあるんだけど、愛ちゃん夕摘さんと電話した?』
 そう言えば蒼ちゃんにも電話したら喜んでくれるって言ったけれど、早速連絡してくれたんだ。
『うんしたよ……って言うか、かかって来た。その時に近い内に会う事になったよ』 (158話)
 しかもその場所は私の家かも知れない。
『じゃあ、やっと私との約束を果たしてくれるの?』
 そう。約束……あの、蒼ちゃんの腕の話と引き換えになっていた実祝さんとの仲直り。これだけ周りからも言われ続けて、優希君にも協力してもらって。そしてお姉さんからも時々電話をもらってもいて。
『うん。そのつもりしてる。それに蒼ちゃんとの約束を私だけが反故にする訳にはいかないよ』
 だから、私の気持ちを先に蒼ちゃんに伝えてしまう。
『愛ちゃんありがとう! せっかくだから私もその場に立ち会いたいけど、場所とか時間とか約束してるの?』
『ううん。統括会の事でバタついているから、こっちの予定がどうしても先かな』
 雪野さんの孤立の事、彩風さんの倉本君との喧嘩の事、そしてここに来て倉本君の“シンドイ”発言と、学校側の雪野さん交代強行の事。
『愛ちゃん。言い訳と逃げるのは駄目だよ。何としてでも今週中に夕摘さんと仲直りする事! 良い?』
 だけれど、この蒼ちゃんとの約束もかなり前からの約束なのだ。
『分かったよ。それじゃあ優希君に、その辺りの日程の話もしてみるよ。ただ、私もまだ遠出できるような顔じゃないから、実祝さんが私の家に来ての話になるかもしれない』
『そうなんだ……私は、近くの公園で男子がいないならって言われてたんだけど……愛ちゃんの晴れの舞台になるだろうから、もう一回お母さんと話してみるね』
 それにしても私の晴れ舞台って……本当に、私と実祝さんで仲直りして欲しかったんだなって分かる、伝わる。
『それと空木君からも連絡があって、私の心配と私と愛ちゃんでお互い大切にし合って仲良くして欲しいって、後は愛ちゃんの話ばかりしてたよ』
 その上、優希君も私と蒼ちゃんを大切にしてくれた上で私の希望を口にしてくれる。
『分かった。明日実祝さんと仲直りするよ。だからその時には蒼ちゃんにもしっかりと見届けて欲しい』
 だったら、私の大好きな人と私にとって唯一無二の親友からの言葉。それ以外のたくさんの人からのお願いなのだから、ここは私が動かないといけない。
『今ちゃんと聞いたからね。女に二言は無いよ。私もお母さんともう一回大喧嘩するから、明日の場所と時間。決まったらちゃんと教えてね』
『分かった。決まった時点でメッセージ入れるね』
 本当に友達、親友って良いなって思う。
 実祝さんのお姉さんもこう言うのを伝えたかったのかもしれない。
『じゃあ、連絡待ってるから』
 お互いの意思を確認したところで、通話を終える。

 こうなると次はいよいよ優希君に電話だ。私は浮き立つ心を押さえて優希君の携帯をコールする。
『電話してくれてありがとう』
『ううん。私も優希君の声が聞きたかったから』
 ここ最近毎日聞いているはずなのに、もっともっと声が聞きたくなる。
『優希君。統括会、雪野さんと彩風さんはどう?』
『うん。彩風さんの方は倉本と喧嘩したみたいだったけど、男の立場から言うべきことはちゃんと言った。かなりキツめに言ったから、もし彩風さんから連絡が来たら少し優しく話を聞いてあげて欲しい。それから雪野さんの方も相変わらずだけど、ひょっとしたら愛美さんに連絡が行くかもしれない』
 優希君が彩風さんに何を言ったのかは気になるから、それは彩風さんに確認するとして、
『雪野さんからの連絡って?』
 考えもしなかった話に、思わずおうむ返しに聞き返してしまう。
『さすがに愛美さんの話だから内容を聞いてはいないけど、何となく女子同志で喋りたいんだと思う。だからもしそっちからも連絡があったら、じっくり話を聞いて欲しい』
 それもそうかも知れない。女の子同士でしか喋れない事もあるし、男の人には言えないいわゆる女子トークなんかもある。
 しかも肝心の彩風さんも中条さんもそれどころじゃないから……状況だけを見て判断すると、蒼ちゃんとも一時期の実祝さんともかなり似通っている気がする。
『ありがとう優希君。元々私がこんな事にならなかったら、私が毎日雪野さんとお昼をしていたのだからいくらでも話は聞くよ』
“何でもします!”と口では言っても、雪野さんも立派な女の子なんだから男の人には話せない事もたくさんあるに決まっている。そう言う話だったら私は、いくらでも聞くし、優希君が私に対する“好き”をたくさん頑張ってくれている事も伝わっている今、雪野さん相手でも優希君の話も出来ると思う。伊達に星たちの祝福を受けた私たちじゃない。
『ありがとう。それで蒼依さんの方はどうだった?』
『その蒼ちゃんの事だけれど、明日会う事になると思うけれど、もし統括会絡みで手伝って欲しい事があったら――』
『――ありがとう。でも愛美さんには親友を大切にして欲しいし、一日くらいなら何とでもなるから気にしなくても大丈夫だよ』
 私の話を途中で引き継いでくれた優希君が、私と蒼ちゃんの仲を第一に考えてくれる。
『でも、優希君ばっかりに任せて良いの? 優希君も受験があるんじゃないの?』
 だけれど、人に与えられる時間は等しいはずなのだ。
『ありがとう。でも、好きな女の前ではカッコつけさせてよ』
 なのにこんな言い方されたら、また私の心臓がうるさくなるに決まっているのに。
『もう優希君は十分にカッコ良いよ。なのにこれ以上私を優希君に夢中にさせてどうしたいの?』
 もう優希君の悪い所なんてどこにも見当たらないのに。こんなにも優希君の事ばかり考えて、四六時中優希君の声が聞きたいのに。
『どうしたいって……そんなのもちろん――「ちょっとハレンチ女! ちょっとわたしが目を離した隙に、何お兄ちゃんを誑かしてるのよ!」――あ! ちょっと優珠?!』
 何を考えていたのか、途中で言葉を止めた優希君のすぐ隣から、私たち恋人同士の会話を邪魔してくる優珠希ちゃん。
 いつか絶対女二人だけで話を付けないといけない。
『二人だけの会話だって、二人だけの約束だって言ったはずなのに。近くに優珠希ちゃん、また。いるんだ……ふぅん』
 優希君の前では言えないけれど、何回このお邪魔虫の妹さんのせいで私たちの甘い空気が台無しになったか。しかも優希君も二人だけだってあれだけ何回も約束したのに、やっぱり近くに優珠希ちゃんがいるし。
『いや。そうじゃなくて、たまたま優珠が部屋に入って来ただけで「何がたまたまよ。ハレンチ女から電話がかかって来たからって、部屋に籠ったのはお兄ちゃんの方じゃない。しかも中々出て来ないから部屋の中をのぞいたら、鼻の下を伸ばしてだらしのない顔――」ちょっと優珠! そう言う事愛美さんに言うのは辞めようって言ったの覚えてる?』
 結局優珠希ちゃんに筒抜けになっている優希君。やっぱりここは私がしっかりと優珠希ちゃんの、お……お義姉ちゃんとしてお灸を据えないといけない気がする。
『優希君。優珠希ちゃんに私たちの秘密を言ったら何だったっけ』
『いやでも僕はちゃんと優珠には隠れて「何が隠れてよ。わたしの目の黒い内は、ハレンチな事は認めないって何度ゆえば分かるのよ」――ハレンチって、愛美さんに限っては認める! みたいな事前言ってのは優珠だから』
 そっかそっか。なんだかんだ言いながら優珠希ちゃんは、私の事は認めてくれているんだ。本当に素直じゃないから、可愛い。
『「ハレンチな事考えてたって、愛美先輩に伝わってると思うけど、それは大丈夫なの」――ああ?!』
『……優希君のエッチ。それで、答えてくれないの? それとも私との約束、忘れちゃった?』
 だったら優珠希ちゃんを利用して、優希君に甘えさせてもらう。
『え?! それも誤解だってば! それに覚えてるけど今回は無効にして欲しい。僕はちゃんと優珠にバレない様に部屋に隠れたのに』
 それでも、私への“好き”を頑張ってくれる優希君だから、私も安心して甘えられる。
『つまり優希君は、私と“そう言う事”したいって事? それとも誤解だって言うくらいだから別にしたくないって事?』
『そう言う事……』
 電話口なのに、すごく分かりやすくたった一言に反応してくれる優希君。こういう“好き”の表し方も私は嫌いじゃない。
『「ちょっとお兄ちゃん。何その女に誑かされてるのよ。いくらなんでも鼻の下伸ばし過ぎ」』
『でも、妹さんに全部バレているみたいだから、しばらくはお預けだよ』
『――?!「ちょっとお兄ちゃん?! どうしたの――」優珠のせいで!――』
 私の一言がよっぽどショックだったのか、息を呑んだかと思ったらそのまま通話が途切れる。
 本当に、男の人って“そう言う事”については分かりやすいなって思う。でも、この分り易さにおいても、やっぱり嬉しく思うのは、優希君相手だけで、先生相手だと嫌な気がしないだけなのだ。

 優希君との電話で、心が温かくなった私は、明日の事を伝えるために最後に実祝さんに電話をする。
『愛美待ってた。どうだった?』
 言葉通り待っていてくれたのか、すぐにつながる。
『うん大丈夫だったよ。明日一日学校の事、統括会の事は優希君が何とかしてくれるって言ってくれた』
『さすが愛美の彼氏、副会長』
 なんだかんだ言っても、明日会えるのを喜んでくれているのは、その実祝さんの声から十分に分かる、伝わる。
『ただ、明日は蒼ちゃんも一緒かも知れないけれど、良い?』
 だからって訳でも無いけれど、このタイミングで本来予定になかった蒼ちゃんの立ち合いついても話してしまう。
『蒼ちゃんは、私と実祝さんの仲直りを見届けたいって言ってくれているの。なんか、昨日か今日の実祝さんからの電話がよっぽど嬉しかったみたいだよ』
 でも、今までの二人の確執みたいなものもあるだろうから、少しでもお互いが歩み寄り易くなるように私も言葉を重ねる。
『分かった。大丈夫。元々防さんにも謝りたかったから、二人共と仲直りしたかったあたしからしたら嬉しい』
『ありがとう、実祝さん』
 本当に仲直りが出来るんだなって思ったら、私の気持ちも少し高ぶってしまう。
 本当は私自身も実祝さんと仲直りがしたかったのかもしれない。
『それで明日、愛美の家に行ける』
『うん。じゃあ私の家の住所と目印なんかをメッセージで送るから、明日学校終わったら連絡ちょうだいね。もし分からなかったら、改めて連絡くれれば案内するからね。それとその時間に合わせて、蒼ちゃんにもメッセージを送るから連絡だけはお願いね』
 朱先輩に続いて実祝さんも。顔を怪我してから色々な人が、外を出歩けない私に代わって家に来てくれる。
 元々は蒼ちゃんくらいしか、来たり泊ったりはした事が無い私の部屋。そこに思う事、哀愁が無いかと言えば嘘になるけれど……。
『分かった。じゃあ明日愛美の部屋。楽しみにしてる――お母さんうるさい』
 話を聞いて締めくくろうとしたところで、まさかのお姉さんも耳をそばだてていたみたいだ。
『「良いじゃない! お母さんだって愛美ちゃんにはお礼を言いたいんだから」――もう分ったから、愛美に変な事言おうとするのは辞めて』
 しかも実祝さんのお姉さんの雰囲気は全く変わらないみたいで、それがまた安心できる材料へと私の中で消化されて行く。
『――お姉さんにもよろしくね』
『ちょっとお母――私の事、まだお姉さんって呼んでくれていてとっても嬉しいわ。祝ちゃんの家に遊びに来てくれた日

だから、覚えてもらってるなんて思ってなかったのよ』
 どの口でそんな事言うのか。本当に“母は強し”を体現したお姉さんに、自然苦笑いが浮かぶ。
『それから改めて愛美ちゃんにはお礼を言いたいから、祝ちゃんから愛美ちゃんの携帯番号を教えて

ね――ちょっとお母さん! もう恥ずかしいから辞めてってば』
 言いながらこっちも途中で通話自体が途切れてしまう。
 どの家族もよく似たものなのかもしれない。私が電話口に一つ微笑んでから、実祝さん宛てに私の家の場所と目印を送る。

宛先:蒼ちゃん
題名:私の家
本文:明日実祝さんの学校が終わったら、連絡くれる事になった。そこから私の家
   に来てくれるって事になったから、明日また時間、連絡するね。ありがとう!

宛先:優希君
題名:明日連絡するね
本文:明日蒼ちゃんと友達の三人で会う事になったよ。またどんな話になったのか
   連絡するから待っててね。

 待ってくれている蒼ちゃんと、いつも私や親友の事ばかりを考えてくれる優希君に、それぞれメッセージを送った後、なんだかんだ言って優珠希ちゃんからの、文句のメッセージが届かないのを確認した私は、明日の事を考えて、もう少しだけ机に向かう。

―――――――――――――――――次回予告―――――――――――――――――
   色々ありはしたけれど、ようやく長い喧嘩の終わりにめどが立った二人。
     その中で主人公をからかい続けるお母さんの意図とは……
      その中でも一つの結論が出ようとしている一組の幼馴染

          それが辛くて、答えが出るのが怖くて……
            二人の説得が中々本人に届かない

          『恋愛マスターの考えは分かりました』

            次回 161話 届かない想い 4
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