幕間講義 3 子どもの最善の利益 1 4つの柱(基本四権利) (中)

文字数 6,187文字

直実:それでもう一つ“守られる権利”の命題があるんだけど、何か分かる人はいる
   かな
巻本:(これはこいつらには難しいかもな)
穂高:ヒントは学校の校則よ。この物語の序盤でも1回だけ匂わせてるわよ
結芽:(……なんか岡本さんの家に集まってるかと思えば、結構難しい話をしてるのね――
   それにしても校則か……)
直実:優珠希ちゃんでも分からないかな?
優珠:……優珠……でも良いです
優希:?!?!
愛美:(?!?! な……なんで?!?!)
佳奈:ウチも驚いたけど、岡本先輩が驚いた顔始めてみました
雪野:結局、岡本先輩だって妹さんとはそこまでの関係だったんですね
優珠:ゆっとくけど、愛美先輩とは今後しっかりとやり合うつもりだから、今から隙は見せない
   だけ。それに比べてこの矢山さんはすごく紳士だから愛称呼びを許可しただけよ
佳奈:岡本先輩が絡むとホンマに隙あらへんなぁ
愛美:ありがとうねっ優珠希ちゃん。そのやり合いに絶対勝って愛称呼びさせて貰うからね
優珠:……ふんっ。わたしに勝てるなんて気が早すぎるんじゃない?
優希:愛美さんと優珠がこんなに仲良くなってくれて僕は嬉しいよ
倉本:出たな。空木のシスコン
結芽:……あの。さっきの矢山さんの問題ですけど、うちらの労働……バイトじゃないですか?
直実:! 正解! 驚いた。さすがに学生時分で分かる人はいないと思ったんだけどな
女性:(な?! なんて伏兵なんですか?!)
巻本:さすが俺のクラスの生徒だな。この守られる権利の中に、不当な労働、有害労働
   (法律に違反するような労働)から守られる権利があるんだ
結芽:でもうちの場合はバイトしようとして校則に書いてあったので諦めたんです。
   こう言うのって労働する

からの搾取とかにはならないんですか?
直実:それは少し違うかな。もちろん言わんとしてる事は分かるけど、今みんなが通ってる学校
   がどんな性格をした学校で、それを理解した上でこの学校を“選んで”入学したんじゃ
   ないかな
穂高:それにみんなの学ぶ意欲を尊重する為の学校だから、私たちは最大限それに応える義務
   が“教育を受けさせる義務”に内包されてるのよ。それにこれは次の“育つ権利”にも関わる
   のよ
結芽:じゃあこの学校のバイト禁止に対する措置は問題にならないと言う事なんですね
朱寿:流石は愛さんのお友達なんだよ。この学校は教育を受けさせた上で、進学させるのを約束
   する代わりに、バイトや遊ぶ時間も出来るだけ勉強に充てるようにって始めに宣言してる
   んだよ。そして義務教育でもなくなってるから、個人それぞれに学校に対する選択権が
   あるから、賛同出来なければ違う学校を選べば良いんだよ
倉本:でも俺や岡本さんは家でも働いてるよな。俺であれば会社の手伝い、ちょっとした会議
   の参加や顔合わせなんかを。岡本さんだったら家の手伝い、たとえば家事や炊事なんかも
   立派な労働だと思うんですが
巻本:それは俺たち学校側としては、親の手伝いだと解釈してる。
穂高:家族の一員としてコミュニケーションを取る、親のありがたみ、親に感謝するというのは
   教育の基本なのよ
優希:……
優珠:(……それをこの女がゆうのね)
朱寿:愛さん。愛さんは家のお手伝いや、慶久くんの面倒見るのはいや?
愛美:そんなわけないじゃないですか。私たちの為に働いてくれているんですから、協力できる
   ことはしたいですよ
実祝:ま。愛美ならそう言う
慶久:俺も、ねーちゃんがいてくれて助かってる
愛美:はいはい。思ってもない事言わなくても良いから
慶久:俺は嘘言ってねーのに、んだよ
朱寿:慶久くん? お姉――
蒼依:――愛ちゃん? 慶久君が素直に言ってくれてるのに、ちょっとひどいんじゃないかな?
愛美:……ごめん慶。お姉ちゃんが悪かったよ。ありがとね
慶久:……おぅ
朱寿:(また良い所を持ってかれたんだよ~)
咲夜:家での愛美さんがなんか違う
蒼依:家での愛ちゃんはなんて言うかもっと、接しやすいよ
直実:さっきの愛美ちゃんの回答は実はものすごく難しい問題を内包してるけど、これは最終
   テーマだから今はおいとくとして、家族の一員としてのお手伝いの範疇なら強制労働には
   当たらないし、有害労働にも当てはまらない
慶久:それにねーちゃんがしんどかったら、いつでもおかんは帰ってくるとか抜かしてるもんな
雪野:だから岡本先輩はお料理が上手なんですね
彩風:(アタシはいつもお母さんに作って貰ってるから……やっぱり自分で作らないと上達しな
   いのかな)
巻本:つまり岡本や倉本に関しては、バイト・労働じゃなくてあくまで家の手伝いとしてみてる
   から、俺たちからは何も言う気は無いし、人様のご家庭に口も出せないというわけだ
穂高:もう一つ付け加えるなら、労働については

から念のために勘違いしない
   ようにね

咲夜:あたしも自分でお弁当作ってみようかな
愛美:だったらみんなでお弁当の交換出来るね
倉本:……
実祝:会長は駄目。愛美にしっかりと断られてる
中条:会長はもう女性に近づくの禁止でどうでしょうか

直実:話がそれそうだからまとめると“守られる権利”というのは――
結芽:うちらが強制労働や有害労働……多分風俗とかそう言うのだと思うけど……などの不当な
   労働から守られる権利
咲夜:それから暴力や不当な搾取……金品や今回この作中で起こったような性的な……から
   あたしたち子供は守られる権利が認められてるんですよね
巻本:ここもついでに補足しておくと日本国憲法の第11条『基本的人権』として意識されてる
   と覚えてもらえると十分だ

直実:それじゃ次は、今回の後半に実施する“ディスカッション”に直接影響する“育つ権利”に
   ついて
朱寿:これは多分説明文を入れた方が良いと思うんだよ
直実:そうだな。それじゃ朱寿、お願いしても良い?

『育つ権利』 
子供たちは産まれながらにしてその国籍、身分に関係なく教育を受ける権利がある。
子供が等しく教育を受けられるように、初等教育を義務とし、無償とする中等教育を推奨し、
全ての児童に対しこの教育を受けられるようにする

国内外の多様な情報源を取捨選択・習得出来るようにする

優珠:つまりしっかりと教育を受けて、様々な情報源を制限される事なく習得出来、それらを
   習得出来る状態に国はしっかりと準備をする。
巻本:……俺ら教師なんて本当に必要ないな
倉本:しかも話し合いも何もなく完結出来てるし
愛美:つまり私や蒼ちゃんが親と喧嘩してモメた内容を話し合うって事ですか?
蒼依:私は絶対学校に通う。お父さんとお母さんが反対しても通いたい!
咲夜:蒼依さん……あたしも出来る協力があったら何でもしたいから言って欲しい
実祝:咲夜はもう十分反省してる。あたしには十分すぎるくらい伝わってる
直実:その話は後編でな。それに今回は生徒の話じゃなくて、親(親権者)と子供(主役)の
   関係性だからここで誰が悪いとか言う話にはならない
朱寿:そうなんだよ。ディスカッションの時に説明するけど、結論を出す為の話し合いじゃない
   んだよ
佳奈:なんや面白そうやな
優珠:本気でやったらものすごく頭疲れるわよ
雪野:なんかすごく貴重な経験をさせて頂けそうです
彩風:アタシは緊張してきた

直実:そしたら最後に“参加する権利”だな
朱寿:これは分かりやすいのかな
優珠:そうね。言葉の通りなら、色々な集まりに参加する、社会活動に参加するって所かしら
倉本:その認識で間違いない。ただ折角だからもう少し突っ込んで話をしておくと、
直実:この“参加する権利”は子供の権利条約12条から16条に謳われていて、子供たちの意見の
   自由、表現の自由を保障したものだけど、何でも自由と言う訳では無く、一定の決まり
   や秩序に則った配慮は必要だからと校則を定めると言う概要なんだ
結芽:さっきの話じゃありませんが、労働からの搾取やうちらの教室で起こった事件を未然に
   防ぐための校則だって理解で良いんでしょうか
巻本:それで十分だ。権利があるからと言って何でも無制限と言う訳にも行かないし、逆に
   何でもかんでも制限してこの“参加する権利”が保証されなくなっても本末転倒だからな。
朱寿:だからこう言う条約や法律は解釈の余地を残してあいまいな部分を作ってる
   んだよ
優珠:……大人のズルい所ね
雪野:そんな甘い事仰ってるから、今回みたいな事件が起こったんじゃないですか
直実:それは少し違うかな。あまりカチカチにしすぎると、同条約13条~15条。
   特に14条の育成・醸成が進みにくくなるんだ。

児童の権利条約 14条
① 締約国は、思想、良心及び宗教の“自由についての児童の

”を尊重する。
② 締約国は、児童が①の権利を行使するに当たり、“父母及び場合により法定保護者”が児童に
  対しその発達しつつある能力に適合する方法で指示を与える権利及び義務(※)を尊重す
  る。
③ 宗教又は信念を表明する自由については、法律で定める制限であって公共の安全、公の秩
  序、公衆の健康若しくは道徳又は他の者の基本的な権利及び自由を“保護する

”に
  必要なもののみを課することができる。

(※)この義務は児童・こどもに対してではなく、あくまで親権者(親)に課せられる義務です

直実:この14条の全③項を見てもらっても分かる通り、可能な限り児童の“自由”に関する


   “自由”に関する

が認められてるんだ
倉本:だから俺たちの自由な発想や表現方法を制限するのは、本当の意味で最小限にしないと
   いけないって話だ
中条:だったら愛先輩や蒼先輩が受けた非道な仕打ちも認められるって事ですか?
優珠:それは違うわよ。あんた前回の講義何も聞いてないのね。何のために『いじめ防止対策
   推進法』があると思ってるのよ
佳奈:相変わらず敵を作るような辛辣な物の言い方やなぁ
朱寿:それに同条約19条の①項にもあるように、どう言った暴力も認めてないんだから、愛さん
   達が受けた暴力が許される訳ないんだよ(この憎い妹さんだけに良い顔させないんだよ!
   わたしだってその為に勉強したんだよ!)
中条:(……ムカつくけど確かにその通りだな。でも……)ありがとうございます。お姉さんの
   説明、ものすごく分かり易かったです
愛美:理沙さんありがとう
直実:良かったな朱寿(すず)
朱寿:愛さんありがとうなんだよ
優珠:(何で口を挟んで来るのよ)
蒼依:じゃあ私が学校に行けない、親に反対されてるって言うのはこの12条や18条に違反してる
   って事ですよね
彩風:アタシだって蒼先輩ともっと仲良くしたいのに最近蒼先輩の顔を見てません
咲夜:あたしは……蒼依さんにどう思われてもやっぱり早く復学して欲しい
巻本:みんな……ありがとうな。俺も早く(つつみ)が早く復学してくれたら嬉しい
九重:それは先生だけじゃなくてこのクラス全員の気持ちですよ
穂高:それで(つつみ)さんの質問だけど、それもまた違うって――
愛美:――なんですかそれ。じゃあ腹ぐ――先生は、蒼ちゃんに復学して欲しくないんです
   か?!
実祝:愛美……
直実:本当に愛美ちゃんは友達想いなんだな。違う。この先生はそう言いたいんじゃないんだ。

同条約 12条
① 締約国は、自己の意見を形成する能力のある児童がその児童に影響を及ぼすすべての事項に
  ついて自由に自己の意見を表明する権利を“

”する。この場合において、児童の
  意見は、その児童の年齢及び成熟度に従って相応に考慮されるものとする。

巻本:今(つつみ)が言ってくれたこの条文をもう一度よく見て欲しいんだが、“

”するだけで、
   全て聞く、実現するとは書いていないんだ。だから(つつみ)の親が、この条約に違反してる
   と言う考え方はちょっと無理があるんだ
結芽:じゃあ防さんが学校に来れなくてもそれは仕方が無いって事なんですか?
朱寿:そんな事は無いんだよ。これも一度見て欲しいんだけど

同条約 18条
① 締約国は、児童の養育及び発達について父母が共同の責任を有するという原則についての
  認識を確保するために最善の努力を払う。父母又は場合により法定保護者は、児童の養育
  及び発達についての第一義的な責任を有する。児童の最善の利益は、これらの者の基本的
  な関心事項となるものとする。
② 締約国は、この条約に定める権利を保障し及び促進するため、父母及び法定保護者が児童の
  養育についての責任を遂行するに当たりこれらの者に対して適当な援助を与えるものとし、
  また、児童の養護のための施設、設備及び役務の提供の発展を確保する。
③ 締約国は、父母が働いている児童が利用する資格を有する児童の養護のための役務の提供
  及び設備からその児童が便益を受ける権利を有することを確保するためのすべての適当な
  措置をとる。

朱寿:それぞれの項に形・文言を変えて書いてある通り、蒼さんの教育に関する責任はご両親
   がお持ちだから、子供の最善の利益を考えた場合、教育を受けさせるのが必ずしも妥当
   だとは言えないんだよ
巻本:そう……だな。親が子供の教育の責任者になる訳だが、一番初めの講義で取り扱った、
   改正児童福祉法 第二条 全項そして当講義で取り扱ってる 子どもの権利条約 
   第三条③項 にある通り子供の安全も考えないといけない
穂高:もちろんこの安全は、第一義的責任を負う親(親権者)だけじゃなくて、私たち大人
   みんなの責任なのよ
直実:そう。だから教育を受けさせる、学校に行かせると言うのが必ずしも正解にはならない
   んだ
優珠:またそんなゆい方をして。愛美先輩が来て欲しいって言ってるんだから、子供の利益を
   考えたら行かせるのが普通なんじゃないの?
佳奈:ホンマに岡本先輩に関係する話には鋭いなぁ
優希:でも僕も愛美さんが喜ぶなら、優珠と同じ気持ちなんだけどね
中条:兄妹から好かれる愛先輩……か。男がいるのが気に食わんけど、愛先輩が喜ぶなら……
咲夜:(なんて基準?!)
雪野:このままだと大変厳しい戦いになりそうです
彩風:もう、心の声隠す気ないよね

愛美:つまりどっちの言い分も間違いじゃないから白黒はっきりしないって事ですか?
朱寿:さすが愛さん! そうなんだよ。だから各々の裁判で判決も違うし、その時代や個人の
   背景によって量刑も変わって来るんだよ
実祝:ん。法律はややこしい
優珠:そのための裁判員制度だったり、弁護士だったりするのよ
結芽:でもうちらは防さんが戻って来るの楽しみにはしてるから
蒼依:みんなありがとう
愛美:九重さんもありがとうねっ!
直実:そしたらそれぞれ解説が終わったから、ディスカッションに入ろうか
巻本:そうだな。お前らがどんな話をするのか、楽しみにしてるからな
彩風:楽しみにも何ももう、蒼先輩の話はご両親さんの裁量ってまとまったんじゃ……
雪野:岡本先輩がいる以上ただではすみませんので、油断はしない方が良いですよ
咲夜:(……すげぇ。これ以上何の話をするのか分かんないし、何が油断なのかも分かんない)

――――――――――――――――――後編へ―――――――――――――――――
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