第169話 【蒼と朱、二人の色は】 Bパート

文字数 8,361文字


「愛美。さっきは慶久の事をありがとう。それからお母さんたちを見てびっくりしたでしょう。ごめんなさいね」
「ちょっとお母さん?」
 てっきり目元に涙を浮かべたお母さんの表情をアレコレするのだと思っていたのだけれど、私を抱いてくれたお母さんにびっくりする。
「今日は本当にお父さんは悪くないどころか、お母さんのために頑張ってくれたのよ。愛美からしたら先週からこっち、ずっとお父さん、感じ悪かったと思うけど許してあげて欲しいのよ」
 つまり、お母さんの望む形では無かったけれど、お母さんのために今日のデートで、お父さんがたくさん頑張ってくれたって事なのかな。
 今日の事もお昼の間に朱先輩から、男の人であるお父さんから、女の人であるお母さんに対する“好き”。
 それに、女の人であるお母さんから男の人であるお父さんに対する“大好き”。それぞれ両方の《視点の違い》を聞いていなかったら私では気づけていなかった事だ。
「分かったよ。って言うか、お父さんが学校の先生の話を聞いてくれるなら、私の中でお父さんに腹立てる理由が半分なくなるよ」
 後は子供だとか、女だとか言った事くらいで。
 それでもお父さんの気持ちはちゃんと朱先輩から教えてもらっているのだから。
 その朱先輩に、私の気持ちをお父さんに伝えた訳じゃ無いけれど、話自体は私の望むような形になったのだから、明日くらいには朱先輩に吉報として伝えても良いのかもしれない。
「それと慶久の事もね。今まで色々あったけど、ちゃんと慶久のお姉ちゃんをしてくれて改めてありがとう」
 色々……か。お母さんの中では初学期の時に、お父さんを発端とした慶との大喧嘩の事が頭にあると思うけれど、それ以外にも、心配はかけたくないからと両親の耳に入れていないだけで、今まで色々な事があった。
「そんな事でお礼、言わないでよ。そんな言い方されたら寂しいよ」

 ただ、どうあっても慶は私の弟なのだから、放っておく訳にも行かないし、慶にも良い所も幼くても優しい気持ちも持っているんだから同じ家族、無関心でいるなんて私には出来ないだけだ。
 その証拠に、慶のお弁当はあれ以来、完全に作るのは辞めている。
「そうよね。今のはお母さんの言い方が水臭かったわね。それじゃあお父さんと慶も待ってるから行きましょうか」
「ちょっと待って! そう言えば明日先生が来るって今から学校に連絡するの?!」
 よく考えたら連絡もしないでどうするのか。場合によっては私から巻本先生の携帯に――
「大丈夫よ。今日の昼間の時点で明日の昼からって言う連絡だけはしてあるのよ」
 ――と思ったのに、何だろう。この肩透かし感。しかもそのいきさつも話してくれ無さそうだし。

 ……別に先生と連絡を取り合いたいとかそう言うんじゃないからね。ただ用も無いのに先生に電話するなんて恋人みたいだから、出来ないってだけだからね。でないと先生に私の連絡先を教えられないからっ

「昼過ぎって……じゃあさっきのお父さんの言い回しって何だったの?」
 あんなに大仰に先生の話を聞くなんて言って。
「あれでお父さんも落としどころって満足してるんだから、大目に見てあげなさいな。ああしないとお父さんも引っ込みがつかないのよ」
 引っ込みとか満足って……そう言えば、あの時お母さんも時に驚いてはいなかったっけ。
「それじゃあ早くリビングに戻るわよ」
 本当にいつまで経っても我が家の男二人は子供なんだから。それでも女側も男の人の話に耳を傾けて、理解するのは必要な事で。
「はーい」
 お父さんを射止めたお母さんは、やっぱり恋愛の達人なんだなって、内心で納得しながらお母さんと共にリビングへと戻る。


 帰って来た時の両親の表情を見た時はどうなるのかと不安もあったけれど、フタを開けてみれば家族みんなが笑顔で夕食を終えることが出来た。
 ちなみに男二人が夜ご飯の出前に選んだのは、ピザだった。
 いやまあ美味しかったから文句とかは特にないけれど、私の家の男連中は何て言うか、濃い味のものが好きなんだなって言うのは分かった。前回も確かピザだったし。

 それから少しだけ、久しぶりに家族みんなでの団欒を楽しんで、少しでも朱先輩の参考書に目を通そうと、自分の部屋へ戻ると、ちょうど携帯が鳴っていたからと
『もしもし?』
 そのまま通話を始めると、
『良かった。昨日の件で明日のデートが無くなるかと思った』
 優希君だった。
『明日のデートって、明日会えるの?』
 倉本君とのデー……お出かけに関しては、朱先輩がしっかりと理由を説明してくれたから、倉本君とのお出かけはしないで済みそうだけれど、朝の電話の時もそうだったし、今まで電話も無かったから明日は半分諦めかけていたのだ。
『違う! 僕が愛美さんに会いたいんだ。だから明日は僕とデートして欲しい』
 正面切って誘ってくれた優希君に、私の顔が自然熱を持ち始めるから、再度部屋の鍵を掛けさせてもらう。
『優希君とデートって、私はすごく嬉しいけれど倉本君から電話があったら――』
『――行って欲しくないし、行かせたくない! 明日は僕とだけデートして欲しい』
『……えっと。明日倉本君から掛かって来たら、優希君も一緒に来てくれるんだよね?』
 朱先輩からはもう会わなくて良いとは言ってもらっていたけれど、昨日の優希君からのメッセージでは同伴って言う話だったはずだけれど、何が原因なのかたった一日変わっただけで、なんだか優希君に余裕と言うか、自信が無くなっている気がする。
『僕も初めはそのつもりだったけど、明日は倉本の名前は出さないで、考えて欲しくもない』
 いやまあ、せっかくの優希君とのデートなのに他の男の人の事なんて考えるわけないんだけれど、どうもいつもの優希君らしくない気がする。
『どうしたの? 何かあったの?』
『あ。いや、何かあった訳じゃ無いんだけど……』
 アヤシイ。
『優希君。私に隠し事するんだ……ふぅん。せっかくデートに誘ってくれたのに私、寂しいな』
 もちろん彩風さんの居場所を守るっていう点でも、優希君もそこまで言ってくれるなら倉本君の誘いに乗る事は無いけれど、優希君が頑張り過ぎて疲れてしまうのは、私にとっては望まない結果なのだ。
『いや、隠し事とかじゃなくて……ただ……』
『……ただ?』
 優希君が言い淀むって事は、やっぱり何かがある訳で。
『昨日倉本に抱かれた愛美さんを思い出――「はぁ?! 愛美先輩がセクハラ男に抱かれたって、まさかお兄ちゃん、それを指くわえて――」――ちょっと優珠?!』
 優希君の話にじっと耳を傾けていただけに、突然大きな声を上げた優珠希ちゃんに驚く。
『そんな訳ない! すぐに倉本から取り返したって!』
『えっと。すぐ隣に優珠希ちゃんもいるの?』
 私をデートに誘ってくれるのに例え妹さんとは言え、他の女の子がいるのはどう言う事なのか。優珠希ちゃんをとても大切にしているのは分かるけれど、いつになったら優希君は私の女心を理解しようとしてくれるのか。
 自分は私が嫌いだって言っている倉本君の事ですら、不安になっているっぽいのに。
『ち、違うって! いるって言うか、今朝の電話からずっと気にしてくれてて「そのゆい方だと、まるでわたしがハレンチ女を気にしてるみたいじゃない」――ちょっと優珠! 邪魔するんならあっち行ってて』
 結局妹さんとばかり喋る優希君。明日の事だってよく考えるんだからっ。
『ええとそれで……そうそう。倉本に抱かれた愛美さんや、最後愛美さんを見た倉本の表情を思い出すとつい……』
 それだったらあの時、私はずっと優希君に抱かれていたかったのだから、離さなければ良かったのに。
『優希君。それが理由の全てじゃないでしょ?』
 だけれど、それが理由の全てじゃないはずなのだ。少なくとも昨日私の友達と話した時には、私たちお互いの気持ちが通じて合っているから、自信を持っていたって皮肉にすら感じる事を言ってくれてはいたのだから。
『……今日の夕方、彩風さんから電話があって……』
『彩風さん?』
 想いもよらなかった名前に私のドロドロした気持ちが、雪野さんだけじゃなく彩風さんにも向き始める。まさか二人は連絡を取り合っていたのか。
 彩風さんはこの週末倉本君としっかり話をしてもらわないといけないのに、なに人の彼氏にしれっと連絡しているんだか。
 しかもそれを隠そうとしていたっぽい優希君。場合によっては大喧嘩なんだからっ。
『そう。その彩風さん相手に今日一日倉本が愛美さんの話ばっかりしたそうなんだ。しかもその内容が、愛美さんの抱き心地とか、小さくて柔らかい体であるとか、どうあっても最終的には倉本自身のお願いを聞いてくれそうな優しさを持ってるとか』
 抱き心地とか小さな体とか……なんでそんな事を倉本君から言われないといけないのか。ハッキリ言って余計なお世話なんだからほっといて欲しいし、私の懸念していた通り、倉本君もまた私の事をそう言う目で見ている事だけは分かった。
 だけれど、私だってこのままと言う訳じゃ無い。今日も朱先輩には伝えた通り、倉本君の事は言ってあるし、更に“隙”を無くすために、色々教えてもらってもいるのだ。
 そもそも好きな人以外から、そんな感想を貰うのは不愉快だし、身体に触れられるのも嫌なのにそれをよりにもよって彩風さん相手に言うとか……雪野さんの友達にされた乱暴の事もあって、好きでもない男の人から抱かれる嫌悪感とか、恐怖心とかも一緒に思い出してしまうから本当に辞めて欲しいし……これ以上は言わなくてもほとんどの人なら分かって貰えるとは思う。
『そんな奴が愛美さんに触れるとか、一緒に過ごすとか絶対無理だから、明日は昼からでも良いから僕とデートして欲しい』
 でも幸いな事に、その後に続く言葉は優希君の私に対する独占欲だったから、
『だったらどうして昨日は、倉本君の一言で、私専用の居場所を失くしてしまったの? 今日じゃなくて良いから明日のデートの時、優希君の正直な気持ちを聞かせてくれる?』
 それ以上の嫌悪感や恐怖心などは無く、むしろ好きな人だからもう少し甘えたくなってしまう中、蒼ちゃんとの約束を思い出した私は、優希君の考えに耳を傾けようと私の気持ちを先に伝えてしまう。
『分かった。それで明日愛美さんが僕とデートしてくれるなら』
『優希君。私は優希君と何かを引き替えにデートするわけじゃないよ。私

優希君とデートしたいから、優希君からの誘いに乗るんだよ。だからそこまで不安にならないでよ。昨日も言ったけれど私、倉本君の事どちらかと言えば苦手だから。だからそこまで不安にならなくても倉本君に惹かれるなんて事だけは絶対にないから。その話も明日二人でちゃんとするから、今は少しでも安心してくれたら嬉しいな』
 本当なら昨日寂しくした分、明日は私に対してたくさん“好き”を頑張ってもらわないとって思っていたのだけれど、優希君が不安になってしまっているのなら、私から優希君に対する“大好き”をたくさん見せないといけないと思う。
『じゃあ、明日は僕のワガママを聞いてもらっても良いかな』
 私の気持ちが少しは伝わったのか、いつもの穏やかな声に戻るけれど優希君からのワガママってどんな内容なんだろう。
『私に出来る事?』
『もちろん。愛美さんにしか出来ない事だけど、無理強いはしない。明日、愛美さんと二人で校舎内を歩きたい』
 なんでもこの一週間、校内で私と一緒に行動していないのがものすごく物足りないんだとか。
 それでも、私の顔の事を気遣って無理強いはしないと言ってくれる優希君。
『それに、愛美さんの制服姿も最近は見てないし……』
 ちょっと待って欲しい。最近私の制服姿を見ていないって……夏休みの二か月間はそんなこと一言も言ってなかったクセに。
『……優希君のエッチ』
 さっきまでの一言なら、すごく嬉しかったしカッコ良かったのに。
『エッチって……僕はただ愛美さんと二人で校舎内を歩いて――』
『――誰もいない校舎内で、私と口付けしたかった?』
 そんなの星々の祝福の中でした口付けの時に聞いているんだから、覚えているに決まっているのに。
『ありがとう愛美さん。でも顔とか大丈夫?』
 返事なんてしていないのに、もうその気になってお礼を口にする優希君。下心も私への気遣いも何もかも隠さずに見せてくれる優希君。好きな人相手だから、倉本君相手に抱く感情や生理的反応とは全く違う。
 それに明日は、彩風さんのせいで不安に陥ってしまっている優希君に、私からの“大好き”を見せるって決めているのだから、
『優希君とのデートは私も楽しみなんだから、私の事は気にしないでね』
 優希君の誘いを無条件で受けるに決まっている。
『ありがとう愛美さん。じゃあ明日は昼一番に例の公園のベンチで』
『ありがとう優希君』
 デートに誘ってくれて……それにしてもあのベンチかぁ。
 間違いなく私に告白してくれたあのベンチだと思うけれど、これで明日は制服デートになりそうだ。
 明日家を出る時の言い訳を、図書室で勉強するからって決めてから、隠れて連絡を取っていたくせに私の彼氏である優希君を不安に落とした、全く可愛くない後輩に電話を掛ける。

―――――――――――――――――<スピン>―――――――――――――――――――――

『彩風さん。今電話大丈夫?』
『はい。アタシは大丈夫ですけど……』
 私から彩風さんに電話するなんてほとんどないから、何となく声が固い気がする。
『さっきまで優希君と喋っていたんだけれど、私に何か言う事、ない?』
『何かって何ですか? もしかして副会長にお願いした事ですか?』
 分かっているくせに、とぼけようとするこの後輩の可愛くない事。
『何で優希君にお願いするのに、ワザワザ不安にする必要があんの?』
『なんですかそれ。じゃあ愛先輩の彼氏さんである副会長には相談もお願いも駄目って事ですか?』
 しかもワザとヒネた取り方をするし。
『何言ってんの? そんなこと一言も言ってないじゃない。そうじゃなくて何で優希君にお願いすんのに、不安を煽んの?』
 だから彩風さんがこれ以上屁理屈をこねられない様に、こっちからハッキリと言ってやる。
『不安って……アタシはただお願いしただけじゃないですか! 大体こっちだって愛先輩にはたくさん文句あるんですよ?!』
 何がただお願いしただけなのか。ただのお願いで優希君が不安になる訳が無い。人の話は聞かない、私が休んでいるとは言え雪野さんの事もどうするのか返事がない。しかも自分から倉本君とデートしたら良い、彩風さんに断りを入れる必要もないって自ら言っていたクセに。
 それで倉本君が振り向いてくれないとか、私ばっかりに夢中になっているとか言って私を恋敵として勝手に認識されてもこっちは困るだけだ。
 こうやって並べ立ててみると、いくら優希君が私の失敗の為に頑張ってくれているとは言え、好き勝手している彩風さんにだんだん腹立って来た。こんな可愛くない後輩の文句なんて聞いてあげない。
 いや、元々この電話はそのための電話だったか。
『優希君にお願いすんのに、何で私に対する倉本君の感想を伝える必要があんの? 私からしたら肩に回された手の感触とか残って、とても不快って言うか気持ち悪いんだけれど』
『不快とか、気持ち悪いとか……清くんに対するその感想。あまりにも失礼じゃないですか!』
 何が失礼なのか。好きでもない男の人から無遠慮に肩に手を回されて、抱かれるのがどれだけ怖いか、この可愛くない後輩は何も分かっていない。
 そこに男の人の力が加わるだけで、びっくりして体が動かなくなってしまう程なのに。
 もちろんこんなのは知らない方が良いのだから、間違っても経験しろだなんて言わないけれど。
『失礼? どこがよ。私の気持ちを無視して勝手に倉本君と私の話を優希君に言うのは辞めて』
『勝手にって……人にお願いするのに、何の説明もない方がよっぽど失礼じゃないですか!』
 私の気持ちなんて何にも分かっていない、この可愛くない後輩がまた屁理屈をこねて来る。
『あのさぁ。何で私に相談して来ないの? もちろん優希君にしても良いよ? でも私は統括会の事なら何でも協力するって言ったし、彩風さんも私に整理した気持ちを聞かせてくれるって言ってくれていたんじゃないの? それに倉本君との事も、私との話なのに何で優希君まで巻き込むの?』
『愛先輩に相談って……最近愛先輩怒ってばかりじゃないですか! そんな中でどうやって相談したら良いんですか?』
 怒ってばっかりって……先週も今週も優希君にもしっかり叱ってもらって、結果的には売り言葉に買い言葉みたいにもなってしまったけれど、私の所にも電話して来たんじゃないのか。
 ここに至るまでのいきさつを思い返すと、なんだか居直っているような気さえしてくる。
 どうして倉本君と彩風さんがうまく行くようにと、最後まで応援しようと心を鬼にしている事を分かって貰えないのか。
 このまま二人が駄目になっても本当に良いのか。彩風さんはそれで後悔はないのか。
 朱先輩からも助言をもらって、最後までって思った矢先にこれだと、私の気持ちの持ちようもどうしても変わってしまう。
『怒ってばっかりって……ちゃんと理由も言っているし、その都度彩風さんも納得してくれているんじゃなかったの?』
 それなのに、同じように叱っているはずの人の彼氏とばっかり仲良くして。
『納得した側から、清くんと仲良くするとか言うから、副会長にお願いしたんじゃないですか』
 この可愛くない後輩はまた何て事を言うのか。それじゃあ、私が嫌いな倉本君と仲良くするから、優希君にお願いをして、私と倉本君を会わせないようにしたって取れてしまうんだけれど。
 何で唐変木と仲良くしないといけないのか。彩風さんが好きな人の悪口を聞きたくないって言うから、こっちは出来るだけ言わないようにしているだけなのに。
『私が倉本君なんかと、二人きりで会うなんて事ある訳ないから。次、優希君を不安にさせたら直接彩風さんの所に話しに行くからね』
 男の人の事は、優希君が何とかしてくれているのだから、女の子の事は私が何とかするって約束もした。
 だからここは、私が頑張らないといけない所だ。
『清くんなんかって……最近分かりましたけど、愛先輩って結構口悪いですよね。清くんも早く目を覚ませば良いのに』
『彩風さんこそ、先輩に対する喋り方じゃないよね』
 自分の態度を棚に上げて何を好き勝手言うのか。それに私の態度をはっきりさせた方が、彩風さんとしても余計な心配事が減って良いんじゃないのか。
『とにかくこの週末は、倉本君としっかり話をしてみんなで協力出来るようにしてよ』
 だけれど、昨日汗をかいてまで困り果てていた私の所に、駆けて来てくれた優希君の想いや、さっき話していた朱先輩とのやり取りを思い出して、同じ轍を踏まない様にと意識する。
 でないと結局は倉本君の気持ちをぶつけられて困るのは私だし、何より何でも良いから倉本君に彩風さん自身を見てもらうきっかけにして欲しいのだ。
『そんな事愛先輩に言われなくても分かってます!』
 もうほんっとに可愛くない。何で激励しているはずなのにここまで言われないといけないのか。
 優希君の言う通り、二人とも周りが見えていなさすぎるんじゃないのか。
 そう考えると、二人ともお似合いなんだろうけれど、もう少しお互いに目を向けても良いんじゃないのか……ただ、倉本君の気持ち的にほとんど猶予は無さそうだけれど。
『今、彩風さんが自分で分かってますって言ったんだから、ちゃんと結果出してよ』
 そうなればおのずと彩風さんの望む形になるはずだから。
『……』
 なのに、さっきまでの勢いとふてぶてしい態度は何だったのか、最後は無言で通話が切れてしまった事に一抹の不安を残して私は私で、明日優希君に“大好き”をたくさん見せるために布団に潜り込む。

――――――――――――――――――――次回予告―――――――――――――――――――
      朱先輩からの説得を受けて週末恒例のデートを行う事に
       もちろんこの判断に彼氏が喜ぶのは当たり前で……

    その中で金曜日の公園での行動の説明を主人公にする彼氏……
      そして二人で絆を深めるためのデートう進めて行く中で
   朱先輩に続き主人公を現在進行形で蝕んでいる症状に気付く彼氏……

         その中でかかって来る倉本君からの電話

   「愛美さん。僕とのデートの時に、他の男の事なんて考えて欲しくない」

              次回 170話 爪痕
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