松島

文字数 1,356文字

松島
 『おくのほそ道』における曾良の役割は5部構成のそれぞれによって異なる。第1部では芭蕉の同伴者に徹し、句も随伴的である。芭蕉8句に対し、曾良2句である。ところが、第2部の曾良は芭蕉に代わって句を詠むことがある。この「松島」が代表例である。芭蕉9句で、曾良3句、拳白が1句詠んでいる。第3部に入ると、曾良は芭蕉から独立して句を詠んでいる。芭蕉14句で、曾良3句、低耳が1句詠んでいる。第4部の曾良は芭蕉とユニゾンで句を詠んでいる。芭蕉13句に対し、曾良2句である。最後の第5部では芭蕉のみが6句詠んでいる。なお、自筆本においては、芭蕉は2部10句、4部14句を詠んでいる。

 芭蕉の句の数は、8・9・14・13・6で、50である。しかし、50韻連句の8・14・14・14と組み合わせが合わない。『おくのほそ道』は5部構成であるから、50韻連句をそのまま当てはめるのはどだい無理な話だ。6は36歌仙の返しの数に符合するので、5部を別にするべきである。4部までを50韻連句と捉え、芭蕉のみならず、曾良らの句も場合に応じて合算すればよい。1部と3部は芭蕉のみで8句と14句で問題はない。曾良のみの句の章があるなどの理由から2部は芭蕉と弟子を合わせて14句とする。また、4部の曾良の別れの句は芭蕉とデュオで、分けることができないので、これを入れて14句である。このように、8・14・14・14の50韻連句と6句の返しという構成だと考えられる。

抑ことふりにたれど、松嶋は扶桑第一の好風にして、凡洞庭西湖を恥ず。東南より海を入て、江の中三里、浙江の湖をたゝふ。嶋嶋の数を尽して、欹ものは天を指、ふすものは波に葡蔔。あるは二重にかさなり三重に畳みて、左にわかれ右につらなる。負るあり抱るあり、児孫愛すがごとし。松の緑こまやかに、枝葉汐風に吹たはめて、屈曲をのづからためたるがごとし。其景色□然として美人の顔を粧ふ。ちはや振神のむかし、大山ずみのなせるわざにや。造化の天工、いづれの人か筆をふるひ詞を尽さむ。
雄嶋が磯は地つゞきて海に出たる嶋也。雲居禅師の別室の跡、坐禅石など有。将松の木陰に世をいとふ人も稀稀見え侍りて、落穂松笠など打けぶりたる草の庵閑に住なし、いかなる人とはしられずながら、先なつかしく立寄ほどに、月海にうつりて昼のながめ又あらたむ。江上に帰りて宿を求れば、窓をひらき二階を作て、風雲の中に旅寝するこそ、あやしきまで妙なる心地はせらるれ。

 松嶋や鶴に身をかれほとゝぎす
曾良

予は口をとぢて眠らんとしていねられず。旧庵をわかるゝ時、素堂松嶋の詩あり。原安適松がうらしまの和哥を贈らる。袋を解てこよひの友とす。且杉風濁子が発句あり。

十一日、瑞岩寺に詣。当寺三十二世の昔、真壁の平四郎出家して、入唐帰朝の後開山す。其後に雲居禅師の徳化に依て、七堂甍改りて、金壁荘厳光を輝、仏土成就の大伽藍とはなれりける。彼見仏聖の寺はいづくにやとしたはる。

 芭蕉は「松島」において古典の引用をちりばめつつも、自ら句を詠むことをしない。これは「白河の関」と同様の姿勢である。両者共に古来より詠まれてきた歌枕であり、室の八島と違い、今も健在である。白河の関や松島は「世の人の見付けぬ」美ではない。だから、それを自ら詠む必要はない。
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