第17話 練習試合での衝撃

文字数 1,890文字

 M高校ロボット部のロボットは、完成間際までこぎつけていた。

「みんな。注目!」とリコ。

「ロボコンの地区予選は来週だけど、今度の土曜日に練習試合をしないかって、お誘いがきているのよ」

「相手はどこなの?」

「それが、ロボコン本選常連校のT高校よ。どこから聞いたか知らないけど、リケジョのリコがロボコンに殴り込みだって、噂になってるそうなの。それで、うちらのことを、潰しにかかってるみたい」

「おもしれえ! やってやろうじゃねえの!」

 オサムとシンジが闘志満々である。

「…………」

 アサミは、事の成り行きをドキドキしながら聞いていた。現在、仕上げ段階ではあるものの、T高校との練習試合が試運転になってしまいそうである。

 ◇◇◇◇◇

 練習試合当日。場所はT高校体育館である。

「ようこそT高校へ。部長の花形です」

(なんて、キザな奴なんだ。もしかしたら、高校生なのにスポーツカーを乗り回しているかもしれないわ)とサヤカ

 T高校の部員達は、ブランド品に身を包んだ花形以外は、詰襟学ランを身に着けた男子ばっかりで、花形の命令に従って動く、従業員のようである。

 スタートラインに両校のロボットが並んだ。

「なんだ、ありゃー、だっせぇー」

 M高校のロボットは、まだ仕上げが間に合っておらず、表面塗装がされていない状態で、溶接による表面の焼けや、溶接しろの突起が目立っていた。一方でT高校のロボットは、表面塗装も含めて完成している。

「あんなに笑って、失礼な!」 サヤカはプリプリに怒った。

<競技内容の確認>
 ドローン操縦席が、本体に合体する。
 障害物を倒すか避けて進む。
 ロケットパンチで標的を破壊する。
 早くゴールしたほうが勝利。

「オサム!しっかり!」

「まかしとけっ!」

 操縦者2人は、ワイヤレスのコントローラーを持って、スタートの合図を待つ。

 スタートの合図はT高校の顧問の先生。

「レディーーーーーー Go」

 2機のドローンが浮かび上がる。本体頭上にホバリングして、ゆっくり下降する。

「よっしゃ。パイルダーオン成功!」

 2体のロボットは2足歩行をはじめる。ややM高ロボが先に出ている。
 障害物として、カラーコーンやゴミ箱が置かれている。T高ロボはそれらを蹴散らして進むが、M高ロボは、ステップを踏んでかわしながらすすむ。
 M高ロボのリードが広がり、ロケットパンチ狙撃エリアへ。なんとこれも1発で仕留める。
 T高ロボ遅れて狙撃エリアに到着。

 その時、花形がロボ操縦者に、なにやらサインを送る。
 リコが異変を感じ、声を出す。

「オサム、後ろ!」

「ばぉーーーーーーーんん」

 もの凄い轟音がしたと思ったら、両高ロボは転倒して起き上がれない。それぞれ片足がもぎ取られているのだ。

「ぴぴーーーーーーっ VAR判定!」

 体育館の巨大ディスプレイに、再生される。
 T高ロボがロケットパンチで狙いを定めるが、的の延長線上にM高ロボが。よって、故意ではないと判定された。
 リコの叫びに、反応したM高ロボは、すかさず迎撃のロケットパンチを発射する。ロケットパンチは、空中で接触し、向きを若干変えて、T高ロボ左足に被弾。

「あらあら、こんなになっちゃって。今日は痛み分けですな」

「花形さん。負けそうになったからといって、汚いやり方をするんですね」

「えっ、何のことかな。我が高では、こんなこともあろうと、もう1体準備しているけど、そちらは、大変だね。では、本選で会いましょう」

(それにしても、あの状況で迎撃弾を発射させ、命中させるなんてあの操縦者は只者じゃないな)

「くっそーーーー!!」

 奇跡の操縦をしながらも、オサムは悔しがった。

「オサム、ナイス。迎撃しなかったら、うちのロボ全壊だったわ」 とリコが讃える。

 ◇◇◇◇◇

 M高校の部室に帰ってきたメンバーは、痛々しくも片脚を失ったロボを前に、沈痛な表情である。

「地区予選の初日は4日後の水曜日。脚の復元の納期も、資金もない。残念だけど棄権しよう」とリコ。

「リコ、ちょっと待ってくれ。アサミが計算しながら、図面を修正している」とオサム。

 そこからは、アサミの図面をたよりにメンバー全員で修理にとりかかった。

 そして、修理が終わって生まれ変わったのが、『隻脚のMジンガーZ』である。

 試運転すると、最初のうちは転んでばっかりだったが、オサムがバランスをとるコツをつかむと、ぴょんぴょんと1本脚で進めるようになった。

「凄い!2足歩行より早いよ」 とシンジ。

「今日の主役もアンタでもうしょうがないわ」 と安堵の表情のリコ。

 アサミは、今回もさやかのワンコのペロペロ攻撃を受けることになった。
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