第12話 リコの新しい友達オサム

文字数 1,303文字

 相変わらず、挨拶もしないアサミであるが、リコは彼女のことを友達として、いや同士として認めていた。

(あと、もう2人だわ)

 リコが見つめた先は、窓際の一番後ろのオサムの席である。オサムは、入学式以来、まだ1回も登校したことがなかった。ミクに調べさせたところ、「適応障害」という診断書が学校に提出され、自宅療養となっている。オサムは、コントローラー端末を使用した対戦ゲームには、めっぽう強く、国内の大会で何度もカテゴリーで優勝していた。学校に登校していないのは、ゲーム大会のワールドツアーに参戦しているからなのだ。
 リコは、オサムにメールを送った。

「私は、M高校であなたと同級生のリケジョのリコです。学校に出席しませんか。仲間が待ってます」

「リケジョのリコのことは聞いたことがある。でも、俺は学校なんて行ってる暇はない。あばよ」

 これには流石のリコも、くじけそうになったが、すぐ返信した。

「うちのクラスにも、ゲームの達人がいます。この人と対戦して、あなたが負けたら登校することで、どうですか?」

「それで、俺が勝ったらどうすんの?」

 リコは迷いつつも、きっぱり宣言した。

「M高校の校庭のグランドを全裸で一周するわ」

「ふふふ、そう来たか。しょうがねえなぁ。明日、18時に実験室準備室で」

「リコ、平気なの?」 

 サヤカが不安そうにリコに聞いた。

「どうだろう。サイコロの目、次第ってやつさー」

 サヤカは、リコの楽天癖に呆れた。

 ◇◇◇◇

 オサムは、約束の時間に現れた。

「さっさとケリを付けようぜ」

 リコとオサムは、対戦型ゲームで激突した。5番勝負で3本先取である。
 対戦成績2対2で、最終戦にすべてが決まる。

「リコがこれほどやるとはな」

 オサムの表情に最初の余裕はない。

「勝負だ!」

 第5戦目が始まった。オサムが優勢である。その時、実験準備室に2人の女子が入ってきた。

「リコ、しっかり!」 とは、サヤカ。

「…………」と、アサミ。

 応援の2人の出現で、オサムの集中力に一瞬隙ができた。それを見逃さなかったリコは、大逆転で勝利を得た。リコ、サヤカ、アサミの3人はハイタッチで勝利を祝った。

「オサム君、明日から出席してね」

「判ったよ。男に二言はない」

 ◇◇◇◇

 オサムが出て行ったのを確認して、サヤカは疑問をぶつけた。

「リコ、このゲームいつの間にこんなに上手になったの? 私より下手だったのに」

 リコはニヤリとして、コントローラーのコードを引っ張ると、なんと本体と接続されていない。

「僕が勝ったのさ」

 満を持してロボット犬ミクの登場である。
 すると、サヤカのワンコまで現れ、ミクの顔、体を舐めまわす。

「わかった。わかったから、もうやめて」

「それにしても、危なかったわ。ミクは直接データを送信していたのに、それと互角とは」 

「負けたら、本当に全裸で一周するつもりだったの?」 

「ワタシがやるとはいっていないわ。さやかのワンコは、最初から全裸だからちょうどいいでしょ」

「あんたって、やっぱりペテン師ね!」

 夕闇が迫った実験準備室に、なま温かい風が流れた。

「さあ、みんな、帰ろー」

 3人と1ロボ、1犬の集団は、急いで家路についた。
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