第5話 吹奏楽コンクールのリコ、いけにえの儀式で萌える!

文字数 1,265文字

 中学生3年になったリコは、学校の科学部に席をおくものの、もっぱら博士が残したラボで犬型ロボットのミクとともに過ごし、様々な実験装置や試作機械の使い方を次々に自分のものにしていった。
 さすがにリコママには許可をもらってのことだが、ボヤを2回ほど発生させ心配させた。そこでリコは、ラボ内での火災を絶対起こさせない『未火災探査機』を開発し安全第一をリコママに誓った。

 そんなある日、ラボでロボットアームの試作をしていると、親友のサヤカよりSOSが入った。
 サヤカは吹奏楽部の部長で、明後日、地区のコンクールに出場するのだが、打楽器のパート練をしていた部員5人全員が食中毒となって病院に搬送されたというのだ。

「打楽器の譜面4人分は、管楽器奏者がかけもちでなんとかするけど、ティンパニだけは1人居ないとダメなのよ。なんとかお願い!」

 リコは吹奏楽部員ではないが、サヤカに頼まれて、打楽器のエキストラとして何度か出演したことがあるので、演奏の心得があった。

「サヤカ、いいこと思いついちゃった」

 サヤカに作戦を耳打ちする。

「リコすごい! 『あなたに忠誠を誓います』スタンプ10個!」

「へいへいオネエさん、あたしを誰だと思ってるの? 伝説の科学者の血をひく、リケジョのリコここにあり!」

 得意満面で大見えを切るリコ。
 それから2人はラボに2晩徹夜でこもり準備をした。

 地区吹奏楽コンクール中学生の部の最後はリコ達の学校で、場内アナウンスが曲目を告げた。

「小金井市立緑北中学校、ストラビンスキー作曲『春の祭典』より第2部『いけにえの儀式』」

 楽器が運び込まれ、演奏の準備ができた時、その異様な陣形に観客がどよめいた。
 打楽器奏者は、リコたった1人で、その周りにはティンパニ7台、大太鼓、シンバル、銅鑼、トライアングル、タンブリンといった楽器が置かれ、リコの手足と千手観音のようなロボットアームで結ばれている。

 原始的な激しいリズムのこの曲は打楽器が大活躍で、リコは1人5役での渾身の演奏となった。特に最後の大太鼓の一撃はすさまじく、なんと楽器の皮が破れてしまった。
 聴衆は大興奮で、曲が終わるや否やスタンディングオーベーションで拍手喝采を送った。

 コンクールの審査結果発表。

「小金井市立緑北中学校は失格です」

 そうアナウンスされると場内大ブーイング。
 ロボットアームの使用が問題視されたのだ。

「サヤカごめんね。やりすぎちゃった」

「いいのよ。金賞はとれなかったけど、この歓声は私たちのものよ」


 コンクールの動画はネット上にアップされ、リコは『千手観音の少女』と呼ばれ、一躍時の人になった。
 嵐のような一時のブームが去った後、リコはとてもうれしい1枚の葉書を受け取った。
 それは、初恋の相手で行方不明のマコトからのものである。

「リコの大活躍見たよ。さすが僕の初恋の人! いつの日か会える日が来ると信じているよ。それまで元気でね」

(私達、両想いだったのね! マコト君 あいたいわ)

 発明家から恋する乙女にモードが変わったリコは、その夜枕を涙で濡らした。
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