第9話 卒業

文字数 919文字

「リコ どうしよう」

 いつものようにサヤカがリコのラボを訪れた。

「またアンタか。今度は何?」

「うちらのクラス担任のシンジ先生が、吹奏楽部のアヤ先生のこと、好きらしいのよ」

「それはビックニュース!」

「シンジ先生、意気地なしで告白できないみたい。うちらが卒業する前に、なんとかくっつけたいなあ」

「そういうことならいい考えがあるよ」

 サヤカとリコは、放課後に体育館の裏にシンジとアヤを呼び出した。

「アヤ先生。あなたもあの2人に呼び出されたんすか?」

 シンジは頬を染めて言った。

「なんでしょうね?」

 いつもは熱血指導のアヤも、シンジの前ではしおらしい。

「両先生、おまたせ。うちらで作った金平糖の試作品を食べてください」

 リコとサヤカは、それぞれのお皿に入った金平糖を2人の先生に勧めた。

「シンジ先生、お味はどうですか?」

 金平糖を食べたシンジの表情は急にこわばった。

「アヤ先生! ぼっ僕は、ずっとあなたの胸が、なんて豊かなんだろうと思っていました!」

「いやん! ピシっ」

 急に言われたアヤは、シンジの頬をおもいっきり平手打ちし、顔を真っ赤にして駆けだした。

 シンジに自白剤入りの金平糖を食べさせ、告白させようとした作戦はいい線までいったが大失敗。

 そのことを知ったシンジは、怒るどころか頭を抱えて落ち込んでしまった。

「どうせ僕のことなんか眼中にないんだ……」

「シンジ先生、このドロップをあげます。このドロップで発した吐息には惚れ薬がまざり、アヤ先生もいちころですよ」

「そうか、リケジョのリコの惚れ薬なら効果絶大だろう。信じて告白してみるよ」

 翌日の卒業式、シンジとアヤは時折顔を見合わせ微笑ながら、肩を並べて登校していた。

「ありがとう。君たちのおかげだよ」

 職員室に向かった2人をリコとサヤカが見送る。

「それにしてもリコ、いつのまに惚れ薬入りのドロップ作ったの?」

「作ってないよ。これは単なるドロップ。うまくいったのは、プラセボ(偽薬)効果ってやつだね」

「このペテン師め」


 その頃ラボでは、サヤカワンコがドロップを舐めて、それをミクに舐めてくっつけるという作業を繰り返していた。

「もうやめて!くすぐったいし、べとべとだし。リコ、早く帰ってきて!」
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