第１８話　ロボットコンテスト

　Ｍ高校ロボット研究部は、ロボットコンテストの西東京予選に出場した。心配された１本脚になったことによる、レギュレーション違反については、シンジがすっかり仲直りした弁護士の母親に相談したところ、さっそく主催者の事務所に乗り込んで、認めさせて念書まで書かせた。彼女は、法曹界では有名な『絶対負けないシングルマザー弁護士』として一目置かれる存在なのであった。

　出場２０校で争われ、初出場のＭ高校は対戦校を圧倒し、全国大会の切符を手にした。この時の動画が拡散し、『隻脚のＺはんぱねー』がネットで話題となる。練習試合で破損し、お金がなく2足歩行を諦めた逸話が伝わると、全国から寄付が集まり、全国大会までに修理することが出来た。また、操縦者のオサムが、ネット対戦ゲームのチャンピオンであることがリークされると、オサムのファンがＭ高校に大勢押しかけて騒動になったが、オサムがライブ配信でファンに冷静な行動を呼びかけ、なんとか鎮静化した。これらの一連の騒動を対応したのが、広報担当のサヤカで、ちょっとした人気者になった。この時、リコがサヤカに注意したのが、アサミの存在をマスコミ、ネット民に知られないようにすることである。

「サヤカですら、ちょっとした人気者になるんだから、超絶美少女メカニックのアサミのことが知れたら、どんな騒動になるか、全国大会に出れなくなるかもしれないワ」

　サヤカは、自分の言われ方にカチンときたものの、もっともな事なので、アサミを目立たないままにすることに、腐心した。

　◇◇◇◇

　遂に全国大会の日がやってきた。全国５０校によるトーナメントで、リコ率いるＭ高校は、順当に決勝まで勝ち上がった。決勝の対戦校は、因縁の花形率いる神奈川県代表のＴ高校なのだ。

「準決勝までのタイムからすると、楽勝だけど、気を抜かないように」

「合点承知の助！　あれっ　変なメールが……」

　メールに添付されたリンクからの映像を見て、オサムの顔色が変わった。オサムの中学生の妹が、山道を１人で歩いているライブ映像で、テロップの文字が流れる。

「オオカミサン　デルカモ　オニイチャン　タスケテ　ロボットデ　アソンデナイデ」

「これは、操縦者からオサムを外せという強迫よ」　とリコ。

　花形は、こっちを見てニヤニヤしている。

「もう試合開始よ。妹さんの安全を優先して、棄権しましょう」

　その時、アサミが無言でオサムからコントローラーを奪った。

「アサミ、できるの？」

　リコの問いかけに、頷くアサミ。

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　決勝戦のスタート時刻となる。

「レディーーーーー　Ｇｏ－－－－－っ」

　アサミは健闘したが、オサムの神操縦とは比較にならず、Ｔ高校ロボとの差は開く一方だ。Ｍ高校ロボは、ようやくロケットパンチ発射エリアに到達した。

「妹の安全が確認できた！　アサミ、コントローラーをよこせ！」

　オサムの言葉を聞いたアサミは、ロケットパンチの照準を花形に合わせる。レーザーが照射され、自分が標的にされていると気が付いた花形は、驚愕の表情。

「卑怯者にロックオン！」　アサミの声は冷静である。


「撃つな、アサミ！」　みんなが叫ぶ。


「パワー全開！　ショット！」


　次の瞬間、ものすごい爆音とともにＴ高校の選手のエリアは、黒煙に包まれた。

　◇◇◇◇◇

　消防車、救急車、警察車両が出動する事態となった、ロボットコンテスト全国大会は大混乱のうちに閉会した。優勝は、花形率いるＴ高校。リコ率いるＭ高校は失格となり、このコンテストから永久追放処分を受けた。

　アサミが放ったロケットパンチは、花形の長い前髪をかすめて、背後に掲示していた、Ｔ高校の校旗ごと壁を破壊したが、幸い失禁してその場で泣き出した花形を含め、怪我人は１人も出さなかった。しかし、アサミは花形モータースの通報で駆け付けた警察官に、殺人未遂の容疑で緊急逮捕された。アサミには直ちに、シンジの母親が弁護人となり、Ｔ高校の脅迫行為を交渉材料に、花形モータースと粘り強い交渉をして示談が成立した。今回の顛末を一切公表しないというのが条件で、破壊された建屋の復旧費用は、全額花形モータース持ちとなった。そして、アサミは厳重注意で不起訴となった。

　一晩、留置場で過ごしたアサミは、翌朝釈放された。身元引受人の両親と祖父の姿を見て、アサミは号泣した。警察署の前には、仲間達が待ち構えている。リコ、サヤカ、オサム、シンジ、ミク、サヤカのワンコである。
　アサミは、その１人１人と無言でハグをかわす。最期は、お約束のサヤカのワンコのペロペロ攻撃を受けた。

「あはは、くすぐったい、もうやめてよ」

　笑顔でじゃれ合うアサミの瞳からは、昇る朝日を受けて光る真珠のような涙が、いくつもいくつも零れ落ちた。