第20話 リコとサヤカの留学は初日から大騒動

文字数 1,935文字

 リコとサヤカは、ロスの空港に降り立った。
 2人は、リコのパパが親友だったK博士の自宅兼ラボで、暮らすことになっている。これがママの出した条件の1つなのである。

「博士の助手の人が、ここまで迎えにきてくれることに、なっているんだけど…………」

 すると2人は、「RIKO、SAYAKA WELCOME」 というプラカードを手に持った、男性を見つけた。

 2人は、男性のワンボックス車の後部座席に乗り込んだ。助手席には、もう1人男性が座る。

「俺の名前は、ビル。こいつは、トム。目的地まで、2時間ってとこだ。宜しくな」

 ビルは、ぶっきらぼうに、そう言って、車を走らせた。
 トムは陽気に、しきりに2人に話しかけてくるが、なにしろ2人はカタコト英語なので、会話が続かず、トムも諦めた。空港を出てから、30分。リコと、サヤカは、ハイウエイを走る車中で、うとうとし始めていた。その時、リコにメールが届いた。アサミからである。

「リコ、目的地と違う方向に行っている。大丈夫なの?」

 さらに、リコママからもメール。

「リコ、いまどこに居るの? 博士の助手が、空港で探したけどリコに会えないって連絡が来た」

 リコは、自分達が大ピンチに陥っていることを知った。横のサヤカは熟睡である。

「ヘイ トム! ワタシ オシッコ ネクスト ストップ OK ? 」

 最初は、きょとんとしていた、トムに、オシッコで漏れそうと、ブルブル体を震わせると、

「オシッコ! オシッコ!」 と大喜びで、ビルにも伝え、大爆笑である。

(こいつら、本当に誘拐犯なのかしら?)

 車がパーキングエリアに、止まるや否や、リコは車を飛び出し、ポリススティションに飛び込んだ。

「ヘルプミー」

 十数人の警官が、ビル達の車を包囲する。

「ホールドアップ!」

 ビルとトムは、信じられないという表情で、両手を挙げた。

「サヤカ!」 リコが後部座席のサヤカを揺り起こす。

「えっもう着いたの? よく寝たわ~」

 ◇◇◇◇◇

 ビルとトムの供述によると、日本で言う『便利屋』をやっている彼らは、数日前に、空港に到着した日本の学生を、この先にあるテーマパークへ案内する依頼を受け、費用は前払いで入金済みとのことである。結局、依頼者の正体は判らなかった。

 ◇◇◇◇◇

 誘拐騒ぎの後、リコとサヤカは、パトカーでホームステイ先である、博士宅に到着した。博士の助手が出迎える。会話は自動翻訳機を介して行われた。助手は2人と握手すると、博士について説明した。

「博士の肉体は、地下一階の冬眠カプセル内だ。ただ、精神は、このへんに遊離しているから、挨拶しなさい」

 リコは、すっかり度肝を抜かれた。本当なら、幽体離脱ではないか!

「博士、初めまして。リコです。ヨコに居るのはサヤカです。お世話になります」

 すると、地の底から声が響いた。

「挨拶は後じゃ。アサミから預かった金属の箱を出しなさい」

「その声は、アサミのおじいさん!」

「1つついているボタンを、『ぞうさん』の歌のリズムで押しなさい」

「押したら、赤で自爆するとでています」

「あと30秒で自爆する。人のいなところにもっていきなさい」

 サヤカは、あわてて箱を裏庭にもっていった。

「ドッカンーーーー!!!!」

 小さな爆発音とともに、四角い箱は、バラバラに破壊された。

「これでよし。すまんじゃったのう。今日の誘拐騒ぎで狙われたんは、お前さん達じゃのうて、その箱だったんじゃ。その箱は、サバイバル用にワシとアサミが開発した7つ道具なんじゃ。1つ目は、高性能GPSでさっき判ったじゃろう。そして7つ目は自爆装置。いまは最弱での自爆じゃったが、歌のメロディーによって、ビル1棟吹き飛ぶぐ威力になるんじゃ。この箱、米軍での採用が検討されていると聞いた。この技術が、テロリストに渡るとまずいことになると言うので、門外不出にしておったんじゃが、アサミがお前さんを心配するあまりに、渡してしもうたんじゃ。この老いぼれにめんじて許してくれ」

「リコ、サヤカ、ごめん」

 アサミの蚊の鳴くようなこえがした。

「いまの爆破シーンは、ネットにも出しておいたから、もう狙われることはない。じゃあの」

「アサミ、おじいさん、ありがとう」

「おっほん。変わったぞ。私がこの家の主だ」

「あっ、博士、よろしくお願いします」

「うむ。キミのパパとは、大学院の研究室が同じで、いいライバルだったんだぞ。この家は、好きに使ってもらっていい。ただし、地下一階の冬眠室だけは開けないように。私が死んでしまうからね。いいかい?」

「はい。ありがとうござます」

 リコとサヤカは声を合わせて返事したが、サヤカは、家の周囲をきょろきょろ見ており、最後の注意事項のことは、まったく頭の中に入らなかった。
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