第8話 リコ、ライバル現る! 暁の決闘

文字数 1,670文字

 土曜の午後のひと時、リコはラボでパウンドケーキを食べ、のんびりしていた。

「リコ 一大事よ!」

 サヤカが息を切らせて飛び込んできた。

「またアンタかよ。アンタは水戸黄門の『うっかり八兵衛』?」

 サヤカは1枚の紙を渡す。

『果たし状 リケジョのリコへ 
 てめえ、いい気になんなよ。ボケっ 
 サヤカのワンコを預かった。
 明日の日の出の時刻に、緑北中グランドでロボット対決をするから来い。
 さもなければ、ワンコの命はないと思え』

 新聞と週刊誌の文字を切り貼りした、脅迫状である。
 これには流石のリコも驚いたが、リケジョ魂に火が付いた。

 朝もやが立ち込める暁のグランドに、リコは立会人のサヤカとともに正体がわからない決闘の相手を待っていた。

 すると砂場のあたりに突然ホログラムが映し出された。

「リケジョのリコよ、よく来たな」

「なんて卑怯なヤツめ! さっさとサヤカのワンコを解放しろ」

「まあまあ、そう興奮しないで。あのうるさいワンコはアソコにいるよ」

 さやかワンコは、ジャングルジムのてっぺんに縛り付けられている。

「きゃー、あの子高いところが苦手なのよ」

「サヤカ心配するな。ワタシが必ず助ける!」

 決闘のルールはこうだ。両者が持参した、2足歩行のロボットによる『障害物競走』であり、400mトラック一周後に拘禁されたサヤカワンコを解放したほうが勝者というものである。
 スタートラインには、2体のロボットがスタンバイしている。

「ミク~、頑張って~」

 リコ側は犬型ロボットのミクで、いつもの4足歩行をリコが徹夜で2足歩行に改造したのであった。
 対する相手方は、金属と配線がむき出しの典型的な産業ロボットタイプ。
 いきなりスターターが現れ、号砲を鳴らした。
 スタートは互角であったが、走るスピードでミクが上回り、5メートルの差を付けて、いよいよ最後の障害物であるネットくぐりへ。
 ネットに入るときに、ミクは余裕をかまし手を振ったが、これが慢心による油断であった。
 ネットにしっぽをからませてしまい、なかなか脱出できない。結局逆転を許し、敵ロボはジャングルジムを登ろうとしている。

「だめだこりゃ。リコ何するの?」

 リコは、ショットガンのようなものを空にかまえ、1発ぶっぱなした。
 するといきなり天候がくずれ、土砂降りの雨とともに雷が!

「ぴかっ、ドスン、がらがら」

 落雷はあろうことか、敵ロボに命中し、動かなくなってしまった。その隙にミクはジャングルジムをよじ登り、遂にサヤカワンコを解放した。
 すると闇の中から数人の男女が飛び出してきた。

「我らがロボを、落雷で破壊して勝つとは、卑怯だ!」

 突如グランド全体に照明があたり、アナウンサーらしき男性が実況中継をした。

「今、審議が終わりました! 競技のルールでは、直接相手のロボへの攻撃を禁止していますが、今回のような間接的な攻撃を禁止しておりません。
 よって、東大工学部チーム VS カリスマ中学生のロボット対決の勝者は、伝説の科学者の血を引くリケジョのリコに決定しました。」

 ウイナーのコールと同時に花火が上がり、緑北中のブラスバンドによるマーチングチーム、チアリーディング部がリコの勝利を祝福した。

 大団円でテレビ収録が終わり、リコとサヤカは教室にいた。

「まったく、テレビのどっきりとは酷いなぁ。勝ったからいいものの、おっちょこちょいのミクがコケてやばかった」

「その時の為に落雷装置を準備するとは、さすがリコだわ。事前に黙っていてごめんね。テレビの過剰演出だと最初断ったんだけど、このあとの吹奏楽部の卒業コンサートに、これまたどっきりでアイドルグループを飛び入りさせるということで手を打ったのよ。いいでしょ?」

「えっ本当に!きゃー」

 発明家であること以外は普通の中学3年生であるリコも、そのアイドルグループの大ファンなのだ。

 一方、泥だらけになったミクは、ラボに帰ってシャワーを浴びていた。

「頑張った僕の事も忘れないでほしいな。あっよせ!」

 サヤカワンコは助けてもらったお礼に、ミクの全身を舐めるつもりのようだ。
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