第6話 リコ、恋のキューピットになる

文字数 1,209文字

 吹奏楽コンクールから1ケ月過ぎ、中学3年生のリコは受験勉強に集中、のはずが相変わらずラボにこもっていた。そこへ、またしてもサヤカからの依頼が舞い込んだ。
 研究の邪魔をされご機嫌斜めなリコは、変な関西弁でそっけなく言う。

「たいがいにしとき。今度は、なんなん?」

「リコのパパが発明したという『Loveレコ』を貸してほしいのよ。うちのワンちゃん、ちょっと顔がブサイクで友達がいないの。あの子の事、『ステキ』と思ってくれるワンちゃんを見つけてあげたいの」

「まあ。なんて過保護なことで」

「そういわないで。リコの好物のパウンドケーキ3回作ってあげる、でどう?」

「よっしゃ!」

 Loveレコとは
 帽子に仕込まれたカメラにより、接近した異性が自分を見たときの表情を解析し「素敵!」「普通」「眼中ナシ」「きもい」の4つに分類し映像とともに記録するというものである。
 当然人間用に開発されたものだが、偶然犬にも有効であることが実証されていた。

 翌朝、リコとサヤカ、そしてLoveレコを装着したワンコは、いつもの散歩コースを歩いていった。サヤカのいう通り、犬の世界ではブサイク判定されるらしく、犬のお散歩同志ですれ違ったときに、相手方からは決して近寄ってこなかった。
 その時、向こうから同年代の男の子が、ワンコを連れて近づいてきた。

(あれっ、なんか見たことがある人だわ)

「おはようございます!」

 サヤカが明るく挨拶すると、男の子は曖昧な会釈をして擦れ違おうとする。

 その時、サヤカワンコが急に走り出し、驚いたサヤカは、リードを放してしまう。そして男の子のワンコにじゃれはじめた。男の子はリードを拾った。

「すみません」

 サヤカは、男の子からリードを受け取る。事の成り行きから、3人は自己紹介をすることになった。男の子は、リコ達の中学の卒業生で今は高校1年生。共通の知人が多く話はそこそこ盛り上がり別れた。

 散歩から帰ったリコは、さっそくラボで今日の動画を検証した。

「サヤカのワンコは可哀そうだわ。今日接近した20匹全部『キモイ』判定とわね」

 予想された結果に納得したが、動画は先輩登場のシーンでストップされた。

「あれっこれは! そういうことだったのね。サヤカのヤツ、絞めたる!」


 その後サヤカと先輩は、散歩で出会うと立ち話をする関係になった。
 そしてバレンタインデーの日、サヤカは先輩に手作りチョコレートを渡した。

「リコ! うまくいったよ! 映画に一緒に行こうと誘われた~」

「それは、ようござんした」

 Loveレコで彼がさやかの事を『ステキ』判定していたことを承知の上でのチョコ渡しだった。

「最初からターゲットは彼だっていえばいいのに」

「まあまあ、完全に片思いだったら、かっこ悪いし……成功報酬でケーキ追加するから許して」

「それにしてもこの子が不憫よね。あれっいないわ」

 そのころサヤカワンコはラボで、ロボット犬ミクを追いかけまわしていた。
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