第7話 リコ、ワンコと会話する

文字数 1,167文字

「リコ、助けてくれ」

 ロボット犬のミクは、サヤカのワンコに愛され、いや付きまとわれて辟易していた。
 今日も、サヤカの家から抜け出してわざわざミクのもとへやってきて、さかんに吠えている。

「あの子、なにかウチらに言いたいことがあるのかしら?」

 リコはラボの物置から、ホコリまみれのある装置を取り出してきた。

「ワンコ語翻訳機がこれね。ワンコは個体によって差が激しいから、チューニングが大変とパパのメモに書いてあった。仕方ないからやるか~」

 サヤカワンコの鳴き声の録音を翻訳機にかけ、試行錯誤でようやく意味が分かるようになった。その内容は驚くべきものである。

「サヤカのボーイフレンドはひどい奴。動物虐待をしている。食べさせず、ずっと走らされ、毛をむしられ、熱風をかける。あのかわい子ちゃんを助けて!」

 驚いたリコは、このことをサヤカに告げた。

「あの優しい先輩に限って、そんなこと絶対ないわ」

 といいながらも一抹の不安がぬぐえないサヤカは、リコに泣きついた。

「じゃあこれを先輩のワンコの首輪につけて、決定的な現場を押さえよう」

 ピンクのリボンには、超小型のGPSと音声発信装置が仕込まれている。

 次の土曜日、音声を監視していると、先輩ワンコの悲鳴が聞こえる。駅前の方角だ。

「やっやめて! 毛が抜ける! 熱い! 助けて!」

 リコとサヤカは、各々の愛犬をかごに乗せた自転車で現場に急行した。
 現場のビルに到着すると、ちょうど先輩がワンコを連れて出てきたところだ。

「君たち、どうしたんだ?」

 すると翻訳機を通してサヤカワンコが叫んだ。

「おまえ、かわいこちゃんをいじめる悪い奴!」

「ばかっ、あんたの勘違いだよ。」

 サヤカの鉄拳がワンコに。

「ぎゃおん」

 先輩が出てきたのは、犬専用の美容室なのだった。事の顛末を聞いた先輩は、笑い転げた。

「おかしくて死にそうだ。この子は親戚の老夫婦から預かって、毎日の散歩と週1回の美容室通いをバイトで引き受けているんだ。ブラッシングとドライヤーがそんなに嫌ならやめてもらうよ。ちょっと太ってるから食事制限しているけど、これからは増やそう。それにしてもワンコと話せるなんて、すごい発明だ。」

 疑っていたのに、褒められてリコは先輩の笑顔に一瞬ときめいたが、それを打ち消した。

「親友のカレシ。ワタシにはマコト君がいるし」

 ◇◇◇◇

 それから数日後、サヤカは例のワンコ語翻訳機を返しにきた。

「もう限界! この子がみんなに避けられていたのは、ブサイクだからじゃなく、うるさいからよ。散歩に行ったら、あっちの道いけ、もっとゆっくり歩け、うんちするからあともう一周りしろ。とか、ドックフードのグレード上げろとか、言いたい放題なのよ」

「そっかぁ、ワンコとは適度な距離が必要なのね」

 サヤカワンコは、相変わらずミクの後を追いまわしていた。
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