第11話 リコの新しい友達アサミ

文字数 1,536文字

 入学式から1週間、リコはようやく高校生活に慣れてきた。リコには、1つ気になることがあった。隣の席に座る、アサミの事である。彼女は、コミュニケーション障害があり、人と話すことが出来ないのだ。入学式の時の自己紹介も、予め書いてきた文章を担任の先生が代読していた。それでアサミがコミュ障であることも、皆が知ることになった。

「おはよう。アサミちゃん」

「アサミちゃん、お昼ごはん一緒に食べよう」

「アサミちゃん、途中まで一緒に帰ろう」

 リコは、アサミに声を掛け続けたが、アサミは困惑した表情で首を横に振るだけである。

 一週間後も、リコ~アサミのやりとりは同じである。

「あんた。せっかくリコが声かけてんのに、いつまで無視すんのよ!」

 傍で見ていたサヤカが痺れを切らして、アサミに食ってかかった。
 サヤカの剣幕に、アサミは顔を両手で覆い、震える。

「サヤカ、なんてこと言うの! このボケ!」

「ゴメン」

 リコに罵倒されたサヤカはしょんぼりした。

 ◇◇◇

 その後もリコとアサミの関係は、相変わらずである。

 大嫌いな漢文の授業中、リコは内職である部品の、設計をしていた。しかし、いい陽気もあって、うとうとと眠りかけてしまう。すると、リコの机から1枚の紙が床に落ちた。どうやら、部品の設計図のようだ。それを、アサミが拾って、自分の席で凝視する。
 漢文の授業が終わって、我に返ったリコは、設計図に赤鉛筆で書き込みがされていることに、気が付いた。

(寸法の間違いとか、溶接記号の欠落とか、寸法公差の矛盾とか、赤が入ってる。よっぽど製造技術がある人じゃないとできないわ。誰だろう。あっアサミね!)

 リコが担任の先生から聞きだしたところ、アサミの家は3代続く機械加工メーカーといっても、規模は小さい町工場である。アサミは、そのコミュ症を心配した祖父が職人技を伝授したのであった。いまでは、旋盤加工、溶接、仕上げ加工等、なんでもござれの職人のスキルを身に付けていた。

「アサミちゃん、設計図見てくれてありがとう。ここんところ、教えてくれる」

 リコが設計図を手に質問すると、アサミの表情が変わり、質問に対してなんと声を出して回答している。

「いろいろありがとう。じゃあ、この部品、アサミちゃんちに注文するよ」

 リコがそういうと、アサミは笑顔で頷いた。

(あらっ 笑顔がなんて可愛い!)

 この時、アサミの笑顔を見ていたのは、リコの他に、もう1人いたのだ。それは、また別のお話で。

 ◇◇◇

「ミクおいで!」

 学校から帰り、ラボに直行したリコは、ロボット犬のミクを呼びつけた。

「お前の為に、オーダーメイドで作ってもらったんだ。付け替えてみて」

 リコが渡した部品とは、ミクのしっぽである。

「リコ ありがとう! いまのしっぽは、微妙に曲がってるんだ。つけるね。凄い、まっすぐだ!」

「ミク、お前にお客さんだよ。そのしっぽを作った人が、どうしても、収まり具合が見たいって」

 リコの後ろから、アサミが出てきて、ミクを抱き上げた。

「この子、すごい。すごい」

「いやだ、あちこち触らないでよ。くすぐったいよ」

 ミクは、そう言いながらも、作業着に作業帽の美少女の腕の中で嬉しそうである。

 ◇◇◇

「リコ、きたよー。あれっ、なんであんたがいるの?」

 土曜日に、いつものようにリコのラボに遊びに来たサヤカは、アサミが先客でいることに、びっくりした。アサミは、そんなサヤカは眼中になく、ラボの発明品を1つ1つ手に取り、写真を撮ったりメモしたりと忙しい。

「見ての通りよ。普通の会話は相変わらず出来ないけど、機械の話になると、アサミはとまらなくなるんだよ」

 リコが目を細めて言うので、サヤカは大いに嫉妬してしまう。

(あんなやつに、リコを取られるもんか!)
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