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文字数 2,366文字

 遠藤直也の殺害によって、事件は振り出しに戻ってしまった。――クソッ! 僕は、部屋に戻って思わずダイナブックを殴りつけた。ノートパソコンを殴りつけた所で、事件が解決する訳じゃないけど、悔しくて仕方がなかったのだ。それからすぐ後、スマホの通知音が鳴った。沙織ちゃんからメッセージが入ってきたのだ。

 ――今ニュース見た
 ――結局、直也くんが一連の事件の犯人じゃないってことでいいのかしら?
 ――アタシ、なんだか分かんなくなってきたよ

 それは僕だって同じだ。正直、混乱している。一連の事件は、一体誰の犯行なんだ!
 とりあえず精神安定剤を服用して、ベッドに入った。こうでもしないと、やっていられない。それから、僕は夢を見た。自分が機械の躰を手に入れて、エイリアンと思しき敵を倒すという感じの夢だった。このタイミングでそういう夢を見ると、なんだかムカつく。
 翌日。令和5年7月14日。先に結論だけ言っておくと、その日は僕にとって人生で一番長い日になった。まず、スマホのアラームでいつも通り目を醒ました。リビングに向かうと、麻衣がフレンチトーストを作っていた。
「イライラしてるでしょ? とりあえず糖分摂りなさいよ」
 普段は甘いフレンチトーストはあまり食べないが、僕のストレスを察したのか、その日のフレンチトーストはいつもより少し甘い味がした。テレビのニュースには、矢張り「実業家・遠藤直也の殺人事件」を大体的に伝えていた。事件現場となった中学校の近くの竹林には、報道カメラが殺到していた。もちろん、刑事さんもそこにいたのだけれど、多分捜査で忙しいんだろうなと思った。治安が良いはずの田舎町で、これだけの凄惨な事件が起こると、矢張り近隣の住民も疑心暗鬼になってしまう。特に、直也くんの家は僕の実家の近くにあるので、余計と僕が犯人として疑われてしまった。まあ、疑われても仕方はないが。
 それから、僕は近隣の疑いの目を潜り抜けながらバイクでガストへと向かった。杉本先生が福井先生と沙織ちゃん、そして僕を呼んだのだ。多分、「一連の事件について改めて整理したい」という意向だろう。
「――さて、役者が揃ったな。今回殺害されたのは、遠藤直也だ。僕が16年前に3年1組で担任を受け持っていた生徒だ」
「知ってるわよ。アタシと同級生だったし」
「まあ、そうだな。ちなみに僕は3年5組だったから、沙織ちゃんや直也くんとは関係性がない」
「それで、遠藤直也の死因は矢張りバラバラなのか」
「そうだ。さっき刑事さんから連絡が入ってきたが、明るくなって改めて身元を調べたら、遠藤直也の遺体で間違いないとのことだった」
「なるほど。しかし、犯人は何のために直也さんをバラバラにしたのでしょうか? 私には分かりません」
「正直、その点に関しては僕も分からない」
「そうですよね。絢奈ちゃんが分からないならお手上げですよね」
「福井先生、そうは言うけど、直也くんについて少し気になる証言があったんだ」
「絢奈ちゃん、それってどういうことなの?」
「少し生々しい話になるけど、遠藤直也は小林櫻子と肉体関係を持っていた。そして、一夜の関係で櫻子ちゃんの胎内に子供を授かってしまったんだ。両親から結婚を反対された櫻子ちゃんは、そのまま勘当されて、豊岡を離れて暮らしていた。でも、直也くんは豊岡に帰省する時に電車の中でたまたま櫻子ちゃんと隣の席になってしまったことがあって、その時に子供の顔を見たって話だ」
「両親から勘当されているはずなのに、櫻子ちゃんが帰省?」
「そう。僕もそこが引っ掛かっているんだ。尼崎から豊岡までだったら、乗っていた車両は恐らくはまかぜ号ではなくこうのとり号だろう。だとしたら、どこかに行くつもりだったのだろうか? ちなみに、あの時直也くんと櫻子ちゃんは豊岡駅で下車している」
「櫻子ちゃんに、彼氏ができたとか?」
「沙織ちゃん、そんな下世話な考えは――それか!」
「えっ? アタシ、何か言った?」
「これは僕の推理だけど、櫻子ちゃんの彼氏の両親が、豊岡在住だった。それで、櫻子ちゃんは豊岡へと戻ってきた。――これだ」
「なるほどねぇ」
「ちなみに、櫻子ちゃんの子供の名前は『小林望海』だ」
「望海か。いい名前だな」
「普通に『希』とか『望』でも良いと思うんだけど、敢えて直也くんは『望海』と名付けた。直也くんはそう言っていました」
「あっ、思い出した」
「沙織ちゃん、急にどうした」
「少し前の話なんだけど、アタシ、櫻子ちゃんと望海ちゃんに会ってんのよね」
「それは本当か!」
「本当よ。確か、『彼氏の実家に行く』とか言ってた気がする」
「その彼氏、思い出せる?」
「えーっと、名前は――甲野昴(こうのすばる)とか言ってた気がするわ。この名前、どっかで聞き覚えがあるのよね」
「甲野昴か。彼も『ミステリ研究会』に入会していたな。確か、西尾維新の小説を得意分野にしていたような気がする。学年は1個下だった」
「あっ、『ミステリ研究会』のガリヒョロメガネ!」
「それだ。善く覚えていたな」
「いかにもモテなさそうなガリヒョロメガネにも、彼女いたんだ……。しかも、その彼女が櫻子ちゃんだとは思ってもいなかった」
「まあ、今は甲野昴の事は置いておくとして、櫻子ちゃんが豊岡に戻っていたのは紛れもない事実だ。そして、何らかの理由で殺害されて直也くんが開発していたロボットの材料にされた。こんなところかな?」
「改めて考えると、酷い話ですね……」
「確かに、酷い話だ。だからこそ、僕は本当の犯人を追い詰めたいんだ」
「追い詰めたいとはいうけど、アテはあるの?」
「ある。兵庫県警捜査一課の浅井仁美という女刑事だ。彼女なら今頃証拠を探しているところだろう」
「その言葉、信じていいのね」
「ああ、僕を信じろ」
 ――令和5年7月14日、午後1時30分のことだった。
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  • Phase 01「僕」という存在

  • 1
  • 2
  • 3
  • Phase 02 山奥の地方都市

  • 4
  • 5
  • 6
  • 7
  • Phase 03 見立て

  • 8
  • 9
  • 10
  • Phase 04 追憶の中学2年生

  • 11
  • 12
  • 13
  • 14
  • Phase 05 フランケンシュタインの怪物

  • 15
  • 16
  • 17
  • 18
  • Phase 06 オール・リセット

  • 19
  • 20
  • 21
  • 22
  • 23
  • Final Phase 僕の遅すぎた青春

  • ***
  • 参考資料

登場人物紹介

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