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文字数 1,526文字
浅井刑事から連絡が入ってきたのは、午後3時前だっただろうか。そろそろランチをお開きにしようと思っていたところに、その連絡は入ってきた。
――神無月さんですか? 捜査一課の浅井仁美です
――遠藤さんの殺害現場からダイイングメッセージのようなモノが見つかりました
――写真として転送しておきます
転送されてきた写真には、石の上に血文字で「KA」と書いてあった。これだけなら、犯人の判断に困ってしまう。とりあえず、僕は「カ」で始まる短い言葉を連想していた。カニ、カミ、カン、カブ――。偏に「カ」で始まる短い単語と言っても、数が多すぎる。ならば、漢字に直すか。髪、神、紙、缶、感、蟹、株――。アレ? 「カブト」って、「甲」とも書くな。もしかして、あのダイイングメッセージは「KABUTO」なのだろうか? だとすれば、怪しいのは甲野昴だが、彼に直也くんを殺害する動機はあるのか? それとも、このダイイングメッセージ自体がミスリードなのか? ――ああ、もう分からない! とりあえず、僕は浅井刑事に甲野昴を重要参考人として取り調べるようにお願いした。
それと同時に、僕は沙織ちゃんと一緒に「ミステリ同窓会」というグループチャットを作成した。僕と沙織ちゃんの連絡帳に登録されていた連絡先を合致させてかつての「ミステリ研究会」のOBやOGを戦力として利用することにした。正直言って、藁 にも縋 る思いだったのだ。もちろん、お題は「遠藤直也を殺した犯人を見つけ出すこと」だった。連日ニュースになっていたこともあって効果は覿面であり、色々と推理が入ってくる。推理の大半は「犯人は甲野昴説」推す意見が多かったが、中には「犯人は小林望海説」を推す声もあった。そもそも、櫻子ちゃんが望海ちゃんを出産したのは大学2回生の時である。それを考えても、年齢は10歳~11歳ぐらいだろう。そんな少女が殺人を犯すなんて、あり得ない。
そろそろ、浅井刑事の取り調べが終わる頃だろうか。そう思っていると、浅井刑事から電話がかかってきた。
「もしもし、神無月さんですか?」
「そうだ。浅井刑事、何か証拠は聞き出せたのか?」
「それが……甲野さんは黙秘権を貫いているようです。本当に彼が一連の事件の真犯人なのでしょうか?」
「それは分からない。ただ、黙秘権を貫いているとなるとこれ以上の取り調べで得られるモノは少ないだろうな」
「そうですよね。甲野さんには、一度家に帰ってもらうようにお願いしました」
「まあ、それが良いだろうな。彼もメンタルが疲弊 しているだろうし」
「逆に、神無月さんは何か証拠を掴めたんですか?」
「こっちは沙織ちゃんにお願いして『ミステリ同窓会』というグループチャットを作ってもらった。矢張り、推理の大半は甲野昴が犯人であるという意見が多かったが、中には小林望海が犯人じゃないかという説もありました」
「望海ちゃんが犯人!? そんなこと、あり得ないと思います! だって、まだ10歳の少女ですよ!?」
「僕もそう思ったんだが、意見の割合は甲野昴説が8割で小林望海説が2割といったところだ」
「意外と多いですね……」
「まあ、飽くまでも素人の意見だけどな。『ミステリ同窓会』のメンバーの中には、本当にミステリ作家になった人もいるけど、そんなのは本当にごく一部だ。僕だって――ミステリ作家への道を諦めた人間の一人だし」
「その話、今度詳しく聞かせてもらえませんか?」
「僕のくだらない話に興味があるのか。とりあえず、この事件が解決してからでいいか?」
「いいですよ!」
そういう訳で、僕はこの事件が解決したら浅井刑事からミステリ談義をしてくれと言われてしまった。
――令和5年7月14日、午後3時50分のことだった。
――神無月さんですか? 捜査一課の浅井仁美です
――遠藤さんの殺害現場からダイイングメッセージのようなモノが見つかりました
――写真として転送しておきます
転送されてきた写真には、石の上に血文字で「KA」と書いてあった。これだけなら、犯人の判断に困ってしまう。とりあえず、僕は「カ」で始まる短い言葉を連想していた。カニ、カミ、カン、カブ――。偏に「カ」で始まる短い単語と言っても、数が多すぎる。ならば、漢字に直すか。髪、神、紙、缶、感、蟹、株――。アレ? 「カブト」って、「甲」とも書くな。もしかして、あのダイイングメッセージは「KABUTO」なのだろうか? だとすれば、怪しいのは甲野昴だが、彼に直也くんを殺害する動機はあるのか? それとも、このダイイングメッセージ自体がミスリードなのか? ――ああ、もう分からない! とりあえず、僕は浅井刑事に甲野昴を重要参考人として取り調べるようにお願いした。
それと同時に、僕は沙織ちゃんと一緒に「ミステリ同窓会」というグループチャットを作成した。僕と沙織ちゃんの連絡帳に登録されていた連絡先を合致させてかつての「ミステリ研究会」のOBやOGを戦力として利用することにした。正直言って、
そろそろ、浅井刑事の取り調べが終わる頃だろうか。そう思っていると、浅井刑事から電話がかかってきた。
「もしもし、神無月さんですか?」
「そうだ。浅井刑事、何か証拠は聞き出せたのか?」
「それが……甲野さんは黙秘権を貫いているようです。本当に彼が一連の事件の真犯人なのでしょうか?」
「それは分からない。ただ、黙秘権を貫いているとなるとこれ以上の取り調べで得られるモノは少ないだろうな」
「そうですよね。甲野さんには、一度家に帰ってもらうようにお願いしました」
「まあ、それが良いだろうな。彼もメンタルが
「逆に、神無月さんは何か証拠を掴めたんですか?」
「こっちは沙織ちゃんにお願いして『ミステリ同窓会』というグループチャットを作ってもらった。矢張り、推理の大半は甲野昴が犯人であるという意見が多かったが、中には小林望海が犯人じゃないかという説もありました」
「望海ちゃんが犯人!? そんなこと、あり得ないと思います! だって、まだ10歳の少女ですよ!?」
「僕もそう思ったんだが、意見の割合は甲野昴説が8割で小林望海説が2割といったところだ」
「意外と多いですね……」
「まあ、飽くまでも素人の意見だけどな。『ミステリ同窓会』のメンバーの中には、本当にミステリ作家になった人もいるけど、そんなのは本当にごく一部だ。僕だって――ミステリ作家への道を諦めた人間の一人だし」
「その話、今度詳しく聞かせてもらえませんか?」
「僕のくだらない話に興味があるのか。とりあえず、この事件が解決してからでいいか?」
「いいですよ!」
そういう訳で、僕はこの事件が解決したら浅井刑事からミステリ談義をしてくれと言われてしまった。
――令和5年7月14日、午後3時50分のことだった。