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文字数 1,578文字
世の中には普通の人間と「ズレている」人間の2種類がいるという。前者はそれなりに生きやすい人生を送っているのだろうけど、後者はとても生きづらい。それは僕が身をもって実感している。僕は、31年間「普通の人間」として生きてきたつもりなのに、どこかで何かを間違えたのだろうか? 最近では、「自分がなぜ生きているのか」が分からない。だから、こうやって自分の腕に傷を付けてしまうのか。それじゃあ、ただのメンヘラじゃないか。
腕から流れ出た血が、バスルームの白い床に落ちていく。落ちた血は、血痕としてその場に残る。当然、僕も血まみれである。僕は、裸の状態で血にまみれて、鏡に向かって虚ろな目でこちらを見つめている。それがどういう意味なのかは分からないけれども、少なくとも僕の精神状態が最悪な方向へ向かっているのは確かだ。
心臓の鼓動が、耳鳴りのように鳴り響いている。呼吸が、段々と荒くなる。視界が二重に見える。僕は、このまま死んでしまうのだろうか。まあ、死んだところで僕を弔ってくれる人なんていないのだろうけど。
ああ、天使が見える。人は死ぬと天使に導かれて天国に向かうと聞いた。しかし、僕にそんな権利なんてあるわけがない。僕が行き着く先は、地獄だ。どうせ僕は世間から捨てられた人間。生きている価値すらないんだ。地獄に行くぐらいなら、無間地獄だろうか。そんな事を考えていると、僕という存在がますます厭になってきた。そして、自分の腕にもう一つの傷を付けた時、僕は完全に意識を失った。多分、心臓の鼓動が止まったのだろう。心臓の鼓動が止まるということは、即ち死ぬことだ。生きていることを放棄して、神無月絢奈 という「僕」は死ぬことを選んだ。ただ、それだけの話だ。この先、僕は死の世界に送られるのだろうか。「死ぬのは怖い」と人は言うが、僕は「死」を恐れていない。だから、周りから「ズレている」と言われているのか。でも、「僕」という個体はたった今「死」を迎えた。僕が見ている幻覚は、走馬灯と呼ばれるものなのだろう。ここは、どこかの学校か。それも、中学校だ。それは僕が一番輝いていた時期であり、そして虐 められていた時期でもある。
2年4組の教室の中で、僕は席に着いていた。隣の席に座っている生徒は西澤沙織 という名前で、僕の唯一と言ってもいい友人でもあった。どうせ走馬灯だし、話しても目の前の先生にバレないだろう。そう思いながら、僕は沙織ちゃんに話をした。
「沙織ちゃん、最後に伝えたい事がある。僕は死んだ。だから、もう沙織ちゃんに会うこともない。けれども、僕は沙織ちゃんという友達に出会えて良かったと思う」
沙織ちゃんが、こっちを向く。しかし、何かがおかしい。沙織ちゃんって、こんな顔だったっけ? それに、顔は血まみれだ。
「う、うわあああああああああッ!」
僕は思わず悲鳴を上げた。こんな走馬灯なんて、真っ平ごめんだ。死んだはずなのに、心臓の鼓動が早鐘を打つ感覚を覚えた。
――どくん。どくん。どくん。
生きている? 僕は、生きているのか? いや、僕はさっき死んだ。だから、今見ている景色は走馬灯のはずだ! これは、どういうことなんだ!
慌てて教室の外に出たところで、廊下が歪んで見えた。まるで、子供の下手な絵のようにその景色はぐにゃりと歪んでいた。僕は、歪んだ廊下を走り抜ける。廊下から階段を降りて、靴箱へと向かう。そして、校舎の外に出た時だった。僕は、その意識を覚醒させた。
白い天井が見える。生温い感覚が、肌を包んでいる。その生温い感覚が自分の血だと気付くのに、少し時間がかかってしまった。血にまみれた両手を見て、僕はまた悲鳴を上げた。意識を失うまでやっていたことが自傷行為だと分かってはいたのだけれど、矢張り平常なメンタルを取り戻すとびっくりしてしまう。
――いつものことだ。
腕から流れ出た血が、バスルームの白い床に落ちていく。落ちた血は、血痕としてその場に残る。当然、僕も血まみれである。僕は、裸の状態で血にまみれて、鏡に向かって虚ろな目でこちらを見つめている。それがどういう意味なのかは分からないけれども、少なくとも僕の精神状態が最悪な方向へ向かっているのは確かだ。
心臓の鼓動が、耳鳴りのように鳴り響いている。呼吸が、段々と荒くなる。視界が二重に見える。僕は、このまま死んでしまうのだろうか。まあ、死んだところで僕を弔ってくれる人なんていないのだろうけど。
ああ、天使が見える。人は死ぬと天使に導かれて天国に向かうと聞いた。しかし、僕にそんな権利なんてあるわけがない。僕が行き着く先は、地獄だ。どうせ僕は世間から捨てられた人間。生きている価値すらないんだ。地獄に行くぐらいなら、無間地獄だろうか。そんな事を考えていると、僕という存在がますます厭になってきた。そして、自分の腕にもう一つの傷を付けた時、僕は完全に意識を失った。多分、心臓の鼓動が止まったのだろう。心臓の鼓動が止まるということは、即ち死ぬことだ。生きていることを放棄して、
2年4組の教室の中で、僕は席に着いていた。隣の席に座っている生徒は
「沙織ちゃん、最後に伝えたい事がある。僕は死んだ。だから、もう沙織ちゃんに会うこともない。けれども、僕は沙織ちゃんという友達に出会えて良かったと思う」
沙織ちゃんが、こっちを向く。しかし、何かがおかしい。沙織ちゃんって、こんな顔だったっけ? それに、顔は血まみれだ。
「う、うわあああああああああッ!」
僕は思わず悲鳴を上げた。こんな走馬灯なんて、真っ平ごめんだ。死んだはずなのに、心臓の鼓動が早鐘を打つ感覚を覚えた。
――どくん。どくん。どくん。
生きている? 僕は、生きているのか? いや、僕はさっき死んだ。だから、今見ている景色は走馬灯のはずだ! これは、どういうことなんだ!
慌てて教室の外に出たところで、廊下が歪んで見えた。まるで、子供の下手な絵のようにその景色はぐにゃりと歪んでいた。僕は、歪んだ廊下を走り抜ける。廊下から階段を降りて、靴箱へと向かう。そして、校舎の外に出た時だった。僕は、その意識を覚醒させた。
白い天井が見える。生温い感覚が、肌を包んでいる。その生温い感覚が自分の血だと気付くのに、少し時間がかかってしまった。血にまみれた両手を見て、僕はまた悲鳴を上げた。意識を失うまでやっていたことが自傷行為だと分かってはいたのだけれど、矢張り平常なメンタルを取り戻すとびっくりしてしまう。
――いつものことだ。