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文字数 2,271文字
「――コラッ! また風呂場を血で穢して!」
「ご、ごめん……」
また、やってしまった。これは麻衣に怒られても仕方がない。どうして、自分は自傷行為をしてしまうのだろうか。そんな事を考えていると、なんだか悲しくなってきた。そして、余計と自分を責めてしまう。これが悪循環だろうか。ベッドの上に横たわりながら、僕は泣いていた。泣いているうちに、なんだか眠れなくなってしまった。幸いにも、アパートからダイナブックを持ってきていたので、僕は電源を入れて杉本先生や福井先生の考えをまとめることにした。
それにしても、この事件は謎が多い。杉本先生や福井先生の考えを補完しても、謎が多すぎる。少なくとも、犯人は17年前の2年4組を知る人間だろうか? だとすれば、犯人の絞り込みは行える。もちろん、犯人の候補の中には沙織ちゃんも入っている。しかし、沙織ちゃんがそんな事をするはずがない。もしもそうなら、僕が赦さない。――そうだ、沙織ちゃんなら何か知っているかもしれない。そう思った僕は、沙織ちゃんに連絡をした。ちなみに、今の時刻は午前0時過ぎだ。多分、沙織ちゃんは寝ているだろう。
――沙織ちゃん、海に来ないか
――場所は竹野浜だ
――沙織ちゃんの都合さえ合えば来てくれ
これでいいか。明日の朝、返事が来るのを待つだけだ。そもそも、沙織ちゃんがどんな仕事をしているのかは分からない。もしかしたら、会えるのは夜になるかもしれない。
翌日、僕は少し寝坊してしまったようだ。とはいえ、スマホの時計は午前8時30分を指していた。ちなみに、沙織ちゃんへ送ったメッセージは既読が付いていたが、返事は無かった。
朝のワイドショーでは、相変わらず件の殺人事件について報道している。それにしても、ここまで報道が加熱するなんて思ってもいなかった。それは僕がテレビを持っていないからそう感じるのだろうか。
リビングルームでは、麻衣がスクランブルエッグを作っていた。
「あら、朝寝坊?」
「ああ。昨日リスカしたから余計と朝寝坊した」
テーブルの上に、美味しそうなスクランブルエッグが置いてある。僕と麻衣は朝食を食べながら話をしていた。
「まあ、昨日の事は仕方がない。でも、今度リスカしたらお尻ペンペンだから」
「お姉ちゃん、それは分かってる。でも、止められないんだ」
「アンタ、ホントにそれでいいと思ってんの?」
「思ってない。寧ろ、こんな事はあってはいけない」
「アンタがそう思ってんだったら良いけどさ、いい加減大人になりなさいよ」
そうか。麻衣から見て僕は子供なのか。まあ、そうだよな。6歳も歳が離れていたら、そう思うよな。でも、僕だって31歳だ。しかし、結婚とかは考えていないし、そもそも恋愛の仕方が分からない。ちなみに僕はレズビアンでなければバイセクシャルでもない。飽くまでも、恋愛対象は男性である事を自覚している。
家に籠 もっていてもすることがないので、僕はバイクに乗って竹野浜へと行くことにした。
竹野浜は、海開きの準備で忙しかった。今日は令和5年7月12日、水曜日だ。竹野浜の海開きはだいたい7月の第3金曜日なので、令和5年だと7月21日に当たる。浜茶屋の骨組みが立ち並ぶ殺風景な光景を見ながら、僕は駐輪場へと向かった。駐輪場にバイクを停めて、それから松林を抜けて浜へと出た。神戸には「須磨海浜公園」という海水浴場があるので、海は見慣れた光景である。しかし、都会の海岸は水質汚染が酷い。もちろん、数年前と比べると改善したが、紺碧の光景が広がる日本海には敵わないと思っている。
潮騒が、耳へと入る。それは、海の鼓動なのだろうか。押しては引いてを繰り返すその律動は、なんだか落ち着いて聴こえた。そして、僕は白い服を着た見覚えのある女性のシルエットを目にした。
僕は、その女性に声をかける。
「――沙織ちゃん?」
女性は、僕に対して質問に答えた。
「そうよ。アタシが西澤沙織よ。アヤナンとこうして会うのは何年ぶりかしら?」
「たぶん……17年ぶりだと思う」
「そうね。多分、こうやってリアルに会うのはそれぐらいかもね」
沙織ちゃんは、少し俯いた表情をしていた。もしかしたら、殺人鬼に怯えているのかもしれない。
「元気ないな。どうしたんだ」
「矢っ張り、次に狙われるのはアタシだと思うんだ。だって、今まで殺されたのはあの時同じクラスだった子だもん」
「大丈夫。沙織ちゃんは僕が守る」
僕は、そう言いながら沙織ちゃんの手を握った。
「そ、そこまで言われると、なんだか照れるな」
「そうか。僕は、殺人鬼をこの手で捕まえたいんだ。もちろんそれは刑事さんの仕事であって僕の仕事じゃないのは分かっているんだけど、あの時の同級生を狙う人間なんて、僕が赦さない」
「アヤナンがそんな事を言ってくれるなんて、思ってもいなかったわ」
その時だった。潮騒に紛れて誰かの悲鳴が聞こえたような気がした。
「う、うわあああああああああああああッ!」
「ちょっと、これ、行ったほうが良いんじゃない?」
「そうだな。ついでに警察も呼んだほうがいい」
「それって……」
「つまり、そういう事だ」
僕は、悲鳴が聞こえた方向へと向かった。声の主は、地元で漁をしていた漁師さんたちだった。
「こ、これは……」
青褪めた漁師さんが指をさす方向に、僕と沙織ちゃんは目を向けた。
「ああ、間違いない。例のバラバラ殺人事件と関連性があると見て良さそうだ」
――岩窟という自然の密室の中には、胴体がない状態で植村詩織だったモノが放置されていた。植村詩織は、安らかな顔で眠っていた。
「ご、ごめん……」
また、やってしまった。これは麻衣に怒られても仕方がない。どうして、自分は自傷行為をしてしまうのだろうか。そんな事を考えていると、なんだか悲しくなってきた。そして、余計と自分を責めてしまう。これが悪循環だろうか。ベッドの上に横たわりながら、僕は泣いていた。泣いているうちに、なんだか眠れなくなってしまった。幸いにも、アパートからダイナブックを持ってきていたので、僕は電源を入れて杉本先生や福井先生の考えをまとめることにした。
それにしても、この事件は謎が多い。杉本先生や福井先生の考えを補完しても、謎が多すぎる。少なくとも、犯人は17年前の2年4組を知る人間だろうか? だとすれば、犯人の絞り込みは行える。もちろん、犯人の候補の中には沙織ちゃんも入っている。しかし、沙織ちゃんがそんな事をするはずがない。もしもそうなら、僕が赦さない。――そうだ、沙織ちゃんなら何か知っているかもしれない。そう思った僕は、沙織ちゃんに連絡をした。ちなみに、今の時刻は午前0時過ぎだ。多分、沙織ちゃんは寝ているだろう。
――沙織ちゃん、海に来ないか
――場所は竹野浜だ
――沙織ちゃんの都合さえ合えば来てくれ
これでいいか。明日の朝、返事が来るのを待つだけだ。そもそも、沙織ちゃんがどんな仕事をしているのかは分からない。もしかしたら、会えるのは夜になるかもしれない。
翌日、僕は少し寝坊してしまったようだ。とはいえ、スマホの時計は午前8時30分を指していた。ちなみに、沙織ちゃんへ送ったメッセージは既読が付いていたが、返事は無かった。
朝のワイドショーでは、相変わらず件の殺人事件について報道している。それにしても、ここまで報道が加熱するなんて思ってもいなかった。それは僕がテレビを持っていないからそう感じるのだろうか。
リビングルームでは、麻衣がスクランブルエッグを作っていた。
「あら、朝寝坊?」
「ああ。昨日リスカしたから余計と朝寝坊した」
テーブルの上に、美味しそうなスクランブルエッグが置いてある。僕と麻衣は朝食を食べながら話をしていた。
「まあ、昨日の事は仕方がない。でも、今度リスカしたらお尻ペンペンだから」
「お姉ちゃん、それは分かってる。でも、止められないんだ」
「アンタ、ホントにそれでいいと思ってんの?」
「思ってない。寧ろ、こんな事はあってはいけない」
「アンタがそう思ってんだったら良いけどさ、いい加減大人になりなさいよ」
そうか。麻衣から見て僕は子供なのか。まあ、そうだよな。6歳も歳が離れていたら、そう思うよな。でも、僕だって31歳だ。しかし、結婚とかは考えていないし、そもそも恋愛の仕方が分からない。ちなみに僕はレズビアンでなければバイセクシャルでもない。飽くまでも、恋愛対象は男性である事を自覚している。
家に
竹野浜は、海開きの準備で忙しかった。今日は令和5年7月12日、水曜日だ。竹野浜の海開きはだいたい7月の第3金曜日なので、令和5年だと7月21日に当たる。浜茶屋の骨組みが立ち並ぶ殺風景な光景を見ながら、僕は駐輪場へと向かった。駐輪場にバイクを停めて、それから松林を抜けて浜へと出た。神戸には「須磨海浜公園」という海水浴場があるので、海は見慣れた光景である。しかし、都会の海岸は水質汚染が酷い。もちろん、数年前と比べると改善したが、紺碧の光景が広がる日本海には敵わないと思っている。
潮騒が、耳へと入る。それは、海の鼓動なのだろうか。押しては引いてを繰り返すその律動は、なんだか落ち着いて聴こえた。そして、僕は白い服を着た見覚えのある女性のシルエットを目にした。
僕は、その女性に声をかける。
「――沙織ちゃん?」
女性は、僕に対して質問に答えた。
「そうよ。アタシが西澤沙織よ。アヤナンとこうして会うのは何年ぶりかしら?」
「たぶん……17年ぶりだと思う」
「そうね。多分、こうやってリアルに会うのはそれぐらいかもね」
沙織ちゃんは、少し俯いた表情をしていた。もしかしたら、殺人鬼に怯えているのかもしれない。
「元気ないな。どうしたんだ」
「矢っ張り、次に狙われるのはアタシだと思うんだ。だって、今まで殺されたのはあの時同じクラスだった子だもん」
「大丈夫。沙織ちゃんは僕が守る」
僕は、そう言いながら沙織ちゃんの手を握った。
「そ、そこまで言われると、なんだか照れるな」
「そうか。僕は、殺人鬼をこの手で捕まえたいんだ。もちろんそれは刑事さんの仕事であって僕の仕事じゃないのは分かっているんだけど、あの時の同級生を狙う人間なんて、僕が赦さない」
「アヤナンがそんな事を言ってくれるなんて、思ってもいなかったわ」
その時だった。潮騒に紛れて誰かの悲鳴が聞こえたような気がした。
「う、うわあああああああああああああッ!」
「ちょっと、これ、行ったほうが良いんじゃない?」
「そうだな。ついでに警察も呼んだほうがいい」
「それって……」
「つまり、そういう事だ」
僕は、悲鳴が聞こえた方向へと向かった。声の主は、地元で漁をしていた漁師さんたちだった。
「こ、これは……」
青褪めた漁師さんが指をさす方向に、僕と沙織ちゃんは目を向けた。
「ああ、間違いない。例のバラバラ殺人事件と関連性があると見て良さそうだ」
――岩窟という自然の密室の中には、胴体がない状態で植村詩織だったモノが放置されていた。植村詩織は、安らかな顔で眠っていた。