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文字数 1,305文字

「あのね、望海ちゃん。今から話すことはとても辛い話かもしれないけど、善く聞いてほしいの」
「もう、みんななんなのよ!」
「アタシ、あの時望海ちゃんが――なんて言えば良いんだろう? とにかく、直也さんを石で撲殺(ぼくさつ)したところを目の当たりにしたんだ。確か、望海ちゃんにスタンガンを当てられて気絶して――アタシと浅井刑事は体育館のステージ裏に放置されていたの。アタシたちの躰を縛らなかった望海ちゃんは、詰めが甘かったんでしょうね。鈍い音がして目を醒ましたアタシは、直也さんが殺されているところを目の当たりにしたのよ。もちろん、浅井刑事を起こそうとしたんだけど、残念ながらぐっすり眠っていたって訳。結局、浅井刑事が目を醒ましたのは、翌日のパトカーのサイレンだったんだっけ?」
「西澤さん、その通りです。私が目を醒ましたのは、直也さんが殺害された翌日にパトカーのサイレンが鳴り響いたからでした。なんというか――私は刑事失格ですね」
「まあ、それはさておき。望海ちゃんは石で直也さんを撲殺して、それからチェンソーで肢体をバラバラにした。でも、望海ちゃん、矢っ張りアンタは子供よ。今までのバラバラ遺体は血溜まりのない状態で放置されていたけど、今回はどす黒い血溜まりができていたそうじゃない。――まあ、直也さんも同罪だけどさ」
 望海ちゃんは、俯いた顔をしている。――泣いているのだ。確かに、僕を含めた3人の大人にとやかく責められるのは酷だが、彼女がしたことは「立派な犯罪」である。そして、沙織ちゃんは僕にある話をした。
「それでさ、望海ちゃんに撲殺された直也さんは、ダイイングメッセージを残していたのよね。確か、『KA』という2文字。最初は意味が分かんなかったけど、アヤナンから送られてきたメッセージで意味が分かったのよ。アヤナン、アンタって矢っ張りパソコンに強いのね」
「まあ、たまたまダイナブックのキーボードにかな文字が刻印されていたからな」
「『K』の下に刻印されていた平仮名は『の』、そして『A』の下に刻印されていた平仮名は『ち』。これだけだと、意味が分からんのよね。でも、直也さんは小文字の『z』をダイイングメッセージとして遺したのよ。『KzA』――これって、直也さんが開発していたロボットのオペレーティングシステムの名前なのよね。でも、これをかな文字入力に直すと『のっち』。望海ちゃん、アンタ、学校でのあだ名ってあんの?」
「――西澤さんだっけ? あなたの言う通り、わたしのあだ名は『のっち』よ。だから、西澤さんの赤い車が停まっているのを見た時に、降りてきたところを狙ってスタンガンで気絶させたの」
「まあ、アンタのお陰でこっちは2時間程ぐっすり眠らせてもらったけど」
「逆に良かったんじゃないのかな」
「善くないわよ。剣幕(けんまく)で意識が覚醒しちゃったし」
「なんか――ごめん」
「望海ちゃん、いくらあなたが少女と雖も、矢っ張り殺人はダメなのよ。殺人と死体遺棄の疑いで、遠藤望海容疑者を逮捕するわ」
 こうして、小林望海――もとい、遠藤望海(えんどうのぞみ)は逮捕された。望海ちゃんは、とても悲しそうな顔をしていた。
 ――令和5年7月14日、午後8時30分のことだった。
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  • Phase 01「僕」という存在

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  • Phase 04 追憶の中学2年生

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  • Phase 05 フランケンシュタインの怪物

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  • Phase 06 オール・リセット

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  • 23
  • Final Phase 僕の遅すぎた青春

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